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コートジボワール、グランバッサン襲撃テロを振り返る

2016-03-15 07:30:02 | アフリカ情勢
やはりこの話題に触れないわけにはいかないだろう。

3月13日(日)12時半頃、コートジボワールの保養地で、ビーチ及び三つのホテルを舞台に、イスラム武装勢力による襲撃テロ事件が発生。18名が死亡(うち15名が一般人)、33名が負傷した。この事件を振り返ってみたい。


(事件の経緯)
事件現場はコートジボワールの経済首都、アビジャンから東方約40キロに位置する海岸の保養地、グランバッサン。外国人もよく出入りする。事件当時も観光客で賑わっていたが、8割がアフリカ人であったと報じられる。実際、犠牲者の国籍はコートジボワール、ベナン、ブルキナファソ、マリ、レバノン(5名)、フランス(4名)、ドイツなどとなっている。

犯行は6人(4~5名とする目撃情報もあり)の実行犯がホテル・エトワール・ドゥ・シュッドから隣接するビーチに展開し、無差別掃射を開始。しかし事件発生から45分後の13:45には、コートジボワール治安当局が介入を開始。当初、この「6名」は治安当局により程なく「無力化」(neutralisés、通常は殺害を意味)されたと発表されたが、殺害されたのは3名だった模様。治安当局はその他の実行犯の捜査、掃討を継続している。

この事件について、同日夕刻、サヘル地域を拠点とするイスラム武装勢力、マグレブ諸国のアルカイダ(AQMI)及び同系のアル・ムラビトゥーン(※)が犯行声明を発出、「3名」の英雄の作戦敢行を讃えた。

(※)2015年末までにAQMI隷下の部隊となった、とも報じられる。アル・ムラビトゥーン、首謀者モクタール・ベルモクタールについては例えばこちらの記事をご参照。奇しくも同じ日、トルコでもテロが発生した。こちらの犯行声明は出されていない模様だが、トルコ当局は今回もPKKなどのクルド系勢力による犯行を示唆している。

西アフリカ経済の中心、コートジボワール。長くフランスの影響下に置かれていたこともあり、約15,000人の在留仏人が存在する。事件を受け、仏オランド 大統領は事件を非難。今後の捜査に対する協力をコミットするとともに、エロー外相、カゼヌブ内相を15日、アビジャンに派遣する。アメリカも捜査への協力を約束した。


(事件の背景)
コートジボワールにおいてはこの手の襲撃テロ事件は初めてである。他方、このブログでもこれまで触れてきたが、マリ北部における仏軍の武装勢力掃討作戦が行われた2013年以降、コートジボワール治安当局は武装勢力南下の兆候、アビジャンへの脅威の可能性を警戒していた。

特に2015年にはサヘル地域でテロ事件が連続した。20年11月にマリ、今年1月にブルキナファソで首都のホテル襲撃事件が発生した。いずれもAQMIないしはアル・ムラビドゥーンが犯行声明を発出した。

それら事件に先立ち、さらに直接的な因果を持つ事件が発生している。同年7月、コートジボワール国境に近いマリ領内で、イスラム武装勢力による襲撃事件が発生。犯人はコートジボワール領内で捕捉され、身柄がマリ側に引き渡される事件があった。 この事件にはイスラム武装勢力アンサール・デイーンと、フルベ人系武装勢力「マシーナ解放戦線」(Front de Libération de Macina: FLM)が関与しているとされた。

コートジボワール治安当局は北部国境の警備を強化し、また同国に展開する国連コートジボワールミッション(ONUCI)もこの警戒を支援してきた。

同国には、コートジボワール危機の時代を通じ、仏軍作戦部隊、通称'Licorne'(リコルヌ)が展開してきた。今日はサヘル地域で進行する対テロ作戦、バルカン作戦(Barkhan)を支える後方基地で600名規模の仏軍が駐留する。


(事件に関する一考察)
今回の作戦の手口は、マリ・バマコのラジソンホテル襲撃事件、ブルキナファソ・ワガドゥグのスプレンディッドホテル襲撃事件と酷似している。もっといえば昨年11月のパリ同時多発テロ事件、6月のチュニジア・ホテル襲撃事件などとも通じるものがある。

共通点は、西欧人を中心とした外国人が多く集まるスポットをターゲットに、最小限の武装攻撃分子により瞬時に爆破と無差別掃射を行い、現場を最大限のパニック状態陥れ、一気に制圧するというものだ。またこの背景には武器の供給や密入国など、地域に闇のネットワークが広がっていることも意味している。

仏軍関係筋は、この手口であれば、どんなに入念なチェックを行っても、完全に防ぐことは事実上困難であろうと指摘する。少人数の実行犯はどこへでも行き、もっとも人が予期していない時と場所で、テロ行為を繰り返すだろう、としている(France Info)。なにもリスクはパリやアフリカに限られない。


他方、これまでのサヘル地域での銃撃テロと異なっている点として、地理的なターゲットの広がりが目を引く。ムスリム圏において活動を活発化させてきたAQMIであるが、今回はその「圏外」での犯行だ。今年に入りAQMIは、「同盟国」に対する攻撃を示唆してきた。

今回の襲撃事件は、ことさらフランスとのつながりが強いコートジボワールが狙われた、との整理になるのだろうが、次のターゲットとして国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)参加国にも脅威が及ぶ可能性も想定される。ソマリアでもアフリカ連合ソマリアミッション(AMISOM)への派遣国、ケニア、ウガンダ、ブルンジなどがアル・シャバブの爆弾テロの対象となってきた。


もう一つの特徴的ファクトは、今回の事態では比較的短時間に当事国の治安当局が、独自にこれに対処し、現場を制圧したことである。同国では10有余年にわたり続いた危機を抜け出したところで、治安組織の再編、再統合が課題となってきた。しかし基礎的作戦遂行能力という点で、過去の2件の襲撃事件と対比される。


(最後に)
十年以上にわたる政治危機から抜け出したコートジボワール。年率10パーセントを超えるV字回復の経済は好調で、さらなる飛躍が期待された矢先のテロ事件。関係者に与えたショックは少なくない。政権にとって治安確保を再強化し、経済界への影響を極限することが急務である。

地域に目を転じると、AQMI、アル・ムラビトゥーンによる犯行は、ほぼ2ヶ月おきに繰り返されている。このような事件は、時と場所を選ばず、また意表を付く形でこれからも繰り返されるものと覚悟しなければならないのだろう。

ある人道関係者が以前口にした言葉が頭をよぎる。
「以前は、紛争というものはいつか和平に帰結すると信じていた。でもテロの時代になって、考え方が変わった。テロ勢力の完全な掃討は難しく、このような存在と常に対峙していかなければならない世界になったのではないかと絶望する。」


(おわり)

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1 コメント

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テロ (堀本隆保)
2016-03-16 08:38:54
参考になりました。テロを完全になくせないのであれば、難しい問題ですね。貴地でもお気をつけてください。
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