夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

外国語は正しく翻訳されているのか

2010年03月18日 | 言葉
 朝青龍のモンゴルでの記者会見には誤訳があった、と東京新聞が伝えている。
 伝えられた発言の内容は
 「悪口は言いたくないが、気に入らない要求もたくさんあった」
 これに対して、正しくは次のようだと言う。
 「正直に言うと、しきたりは厳しかった。束縛する部分も多かった。ある程度それを守らなければならない。横綱だからね。一方では、それに束縛されすぎることがいやな場合もあった」
 この発言の内容は矛盾も無いし、おかしな部分も全く無い。その通りだと思う。相撲ファンではない私が見ても、納得が行く。やれ「品格」だの何だのとよく訳の分からない事を言い出す輩が圧倒的に多かった。いまだにそうだ。それじゃあ聞くが、今の政治家に品格のある人が一体どれほど居ると言うのか。

 私はこうした外国語での会見で、日本語が果たしてどれほど正確な翻訳になっているのかと、以前から疑問に思っていた。それに日本語としての曖昧さも重なって、本当に大きな疑問になっていた。原語が聞こえていたりする場合、その原語を理解出来る人なら、その原語と日本語訳とのずれなどすぐに分かるだろうが、日本語に吹き替えていたりする場合も少なくない。これなど、私は大いに疑っている。
 朝青龍の発言に問題を提起しているのは、モンゴル出身で東京外国語大学非常勤講師をしている46歳の男性。マスコミの報道とどちらを取るかと言われれば、私は間違い無くこの人の発言を取る。

 話はがらっと変わるが、きのう、映画「追想」を見た。ずいぶん昔の映画だが、殺されたと言われている皇女アナスタシアが生存していると言う話で、莫大な遺産がからんでいる。彼女を認めさせようと目論んだ三人が、当時の宮廷関係の人々を呼び集める。その中で、一人の式武官が彼女をあからさまに侮蔑する口調で否定した。会見の段取りをした三人の一人が煙草に火を付けようとした時、彼女の怒りが爆発した。「無礼な。許しも無く私の前で」
 それは皇族だからこそ発せられる言葉だった。皇族の前で許可無く煙草は吸えない。そんな慣習を誰もが知らない。式武官は当然に驚く。その発言が「Who are you?」である。しかし字幕は「アナスタシアか?」だった。
 これはおおいに違うと思う。彼は「一体、あんたは誰なんだ」と思わず口走ったのだ。半信半疑なのだ。だが、それは多分に信用せざるを得ない情況に驚愕しての事だ。しかし「アナスタシアか?」にはそんな気持は微塵も感じられない。もしも「アナスタシアか?」が正しいのなら、この有名な脚本家がそのようなセリフを書いているに決まっている。
 言葉の数としてはどちらもほぼ同じ。だからこの字幕の訳者を私は信用しない。感性がまるでなっていない。この訳者は脚本家を舐めていると同時に、我々映画ファンをも舐めている。この調子ですべてを訳しているのかと思うと、私は映画とは違う物語を見させられているのかと心配になってしまう。こんな事は多分、日常茶飯事なのだろうと思う。翻訳者もいい加減だが、こんな字幕で放送する局も問題だ。
 大体、日本語その物が怪しい日本人が多過ぎる。

1 コメント

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同感です (洋画ファン)
2010-03-21 10:18:54
 私も同感です。「Who are you?」と「 Are you Anastasia?」とは全く違うセリフです。はっきり言えば、これは著作権侵害にも当たるのではないか、とさえ思います。おっしゃるように、まず日本語がだめなんですね。そんなお粗末な言語感覚でよくも日本語字幕を作ろうと思いますねえ。あきれます。図々しいです。
 昔、映画雑誌で、原語の直訳と字幕とを並べて示して、どこをどのように工夫して短い日本語の字幕にしているのかの秘訣を公開したことあります。私が見たのは、オードリー・ヘップバーンの「暗くなるまで待って」でした。それはほんとうに見事な結果になっていました。なるほどなあ、ああやって苦労して日本語の字幕を作るのか、と感心した覚えがあります。それは英語と日本語の両方がとてもよく分かっていて、はじめてできることだろうと思いました。そんな良心的な仕事をしているのは、たぶん、ほんの一握りの人だけなんでしょうねえ。
 洋画ファンはもっと声を挙げてしかるべきだと私は思います。だめな字幕はだめなんだと。