旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

北京五輪の内と外 その弐百五拾参

2008-07-01 07:27:03 | チベットもの
■貴州では大規模な暴動が発生しているそうです。エライ人の馬鹿息子が15歳の娘さんを強姦した上、殺害したとの噂が広まったのが原因だとか……。報道によりますと、ネット上の書き込みが大々的に削除されているとのことですが、元々、識字率が低いお国柄で「口コミ」による情報収集が主流という伝統がありますから、集会や暴動の「打ち合わせ」を邪魔するくらいは出来そうですが、真相を隠し通すのは無理でしょうなあ。

■北京五輪大会に向けて、情報公開を大胆に進めようと決まった矢先に、待ってましたとばかりに起こった大規模な暴動騒ぎですから、公開すべき情報と「宣伝」との区別をすることが出来るかどうか?それが問題となるでしょう。でも、恥を晒すような報道を野放図に見過ごすような事にはならないでしょうから、北京政府が大きく変わったなどと糠喜びはしない方が良いでしょう。

■6月29日の日曜日、皆様のNHKでは夕方6時台に放送している『海外ネット』という番組で、チベットからヒマラヤを越えて亡命する子供たちの姿を紹介するという、なかなか思い切った内容を放送しましたなあ。因みに讀賣新聞を購読しいてる人達は、テレビ欄に「ミャンマーで命を救え医療チーム」としか書かれて居なかったので、見逃してしまったかも知れませんが……。朝日新聞のテレビ欄では、番組の大半を占めたミャンマーでの救援活動を横に置いて、しっかり「ヒマラヤを越える子供たち」と予告されていたようです。

■飽きもせずに放送され続けているミステリー・ドラマの予告には、アラスジが分かってしまうようなバカ長い副題が付いている新聞のテレビ欄ですが、複数の貴重なドキュメンタリーを集めた番組の紹介は、もっと丁寧にして欲しいものであります。何でも「詳しくはホームページで御覧下さい」と言って済ましていると、ますます新聞を購読する人が減ってしまいますぞ!それはそうと、肝腎の内容自体は、残念ながら皆様のNHKが独自に命懸けの逃避行を取材したわけではなく、ドキュメンタリー映画の『ヒマラヤを越える子供たち』からの抜粋映像を中心にしただけの、ちょっと安易な作りが目立つものでした。とは言っても、北京五輪開催が近づいている時期に、チャイナの裏側で起こっている悲しい「家族離散」の実態を放送するのは意義深いものがあります。

■チベット人の親が子供だけでもインドに逃がそうとするのは、飢えと悪政が原因で北朝鮮から命懸けで逃げ出す「脱北者」たちとはちょっと事情が違うのですが、多くの国民・人民・公民が命懸けで逃げ出すような国が平和の祭典と称する五輪大会を開催する資格が有るのかどうか?土壇場まで考えるべき問題でしょう。


チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の代理人が30日、中国チベット自治区での暴動・鎮圧の事後対策を話し合う2度目の協議のため訪中。インド北部のチベット亡命政府幹部によると、5月の前回協議で求めた服役囚の釈放など計4項目の中国側の回答を得るのと、8月の北京五輪前のダライ・ラマのチベット自治区訪問を打診するのが目的という。

■唖然とするような急展開を見せる北朝鮮問題の裏には、五輪大会を盛り上げたい一心の北京政府の思惑が透けて見えるような気がしますが、この件は米国(ブッシュ家)の苦境が絡んでいるようなので別項で考えてみましょう。ただ、北京五輪の開会式で、米国のブッシュ大統領と北朝鮮の金正日将軍様とが、偶然にばったり出会ってしまうなどという茶番劇を本気で考えいてる困った人達がいるとか、いないとか……。たとえ茶番であろうとも、ダライ・ラマ14世の悲願である「里帰り」が実現すれば、痺れを切らして過激な行動を始めている各団体にも良い影響を及ぼすことになりそうですから、この機を逃さず代理人は粘り強く交渉をしているのでしょう。


同幹部の説明では、協議は北京で7月1、2日に開かれる予定で、前回の非公式協議から格上げして公式協議の位置付け。ダライ・ラマの自治区訪問が実現すれば、1959年のインド亡命後、約半世紀ぶりの帰郷となり、双方の関係改善に大きな前進となる。亡命政府幹部によると、訪問を「五輪前」とするのは、国際社会のチベット問題への関心が薄れる前に自治区の現状を確認するためという。一方、中国側は前回協議でダライ・ラマ側に対し、北京五輪の妨害につながる活動の停止などを求めている。
7月1日 毎日新聞

■早い段階から「北京五輪を支持」しているダイラ・ラマ法王ですから、「妨害工作」の濡れ衣を押し付け続けるのは北京政府にとって百害あって一利なし、という状況になるかも知れませんなあ。でも、その法王がチベット地域に一時的に戻った場合、五輪大会を祝う歓声が湧き上がると思ったら大間違いでしょう。日本のテレビでは、ほとんど報道されなかったウイグルやチベットでの聖火リレーは厳戒体制の下で強行されたのですから、法王が短期間とは言え、半世紀ぶりに帰郷するとなれば、白けた聖火リレーとは比較にならないお祭騒ぎになるのは必定です。

■謎の死を遂げた先代のパンチェン・ラマ猊下が北京での長い長い軟禁生活を強いられた後で、1990年代に生まれ故郷の青海省を訪れた時の「思い出話」は今でも生々しく語り伝えられているくらいですから、万万が一、ダライ・ラマ法王の一時「帰国」が許可された場合、誰も目を向けない邪魔なだけの五輪関連の横断幕よりも巨大な歓迎メッセージが各地に出現するのは間違いなく、場所によっては邪魔な横断幕を引き摺り下ろして掛けかえる騒ぎが起こるでしょうなあ。訪問地を極端に狭く限定などしたら、民族大移動が起こるでしょうから、誰も歓迎しなかった「聖火リレー」とは好対照の現象が各地で見られることでしょう。そんな熱狂を海外メディアに公開するとは考えられませんなあ。

■どこまで北京政府が「変わった」のか、虚しい金メダルの皮算用などしていないで、しっかり凝視していたいものであります。
-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------

最新の画像もっと見る