祖谷渓挽歌(いやだに・ばんか)~藍 友紀(あい・みゆき)著

「2007年自費出版文化賞」大賞受賞作品の紹介およびその周辺事情など。

8-3/消費税 これも一つの 見方かな

2012-08-03 14:47:22 | Weblog
自民党の乱?
2012年8月3日 The JOURNAL
 小泉進次郎衆議院議員ら自民党の中堅・若手11人が「3党合意を破棄せよ」という緊急声明を谷垣総裁に提出した。谷垣総裁は「重く受け止める」と答えたという。「政策は丸投げ」だったが「政局大好き人間」であった小泉元総理の子息らしく、政局に対する感覚は「並」でないようだ。これが「乱」に繋がるかいささかの興味を引く。
 
 「並」の政局勘とは、3党合意によって消費増税賛成派が国会議員の圧倒的多数となり、それが政権与党民主党を分裂させ、離党した小沢氏らのグループは力のない弱小勢力に成り下がったという見方である。「並」は消費増税派が勝ちを制したと見ている。これに財界、官界、メディア、日本の富を狙う外国勢力などがエールを送っている。
 
 私はそうした見方とは真逆の事を言い続けてきた。消費税に賛成する気もなかった自民党が野田、小沢、輿石氏らの策略によって3党合意に引きずり込まれ、「増税政党」というレッテルを貼られた上、解散の確約もとれず、次第に追い込まれていくのではないかという見方である。
 
 3党合意によって永田町には「大政翼賛会的状況」が現出した。確かに消費増税法案が成立する事は必至である。しかし消費増税が実現するまでには2度の選挙を経なければならない。いずれの選挙も消費増税の是非が選挙争点になる。
 
 来年夏の参議院選挙より前に衆議院選挙が行なわれ、民主、自民、公明の3党が合計で過半数を上回れば3党合意は信任され、消費増税は実現に近づく。しかし実現に近づけば近づくほどそれを意識した国民は次の参議院選挙で反消費税派を勝利させる可能性が高まる。反消費増税派が勝利すれば「ねじれ」が生まれて消費増税は実現しない。
 
 衆議院選挙と参議院選挙を別々に行なえば、国民の支持がスウィングして「ねじれ」が起き易いのが昨今の傾向である。3党合意で今は圧倒的多数を占める民主、自民、公明だが、2度の選挙で勢力を減らす事は確実である。とりわけ重要なのが来年夏の参議院選挙で、その結果が日本政治の行方を決める。
 
 原発問題もあって既成政党に対する国民の不信は増すばかりである。戦後政治の中心にあった自民党が存続の危機に見舞われることだってありえない話ではない。そう思わせるのが選挙制度改革の行方である。民主党は「0増5減」の小選挙区に加え、比例代表連用制によって40議席削減を提案している。一方の自民党は「0増5減」のみを提案した。
 
 消費税法案は今月まもなく成立するが、そうなれば国民の関心は「身を切る改革がどこまで行なわれるか」に移る。国民が負担を負うのに官僚や政治家が身を切らないのは許されないからである。果たして自民党の言う5議席減だけで国民は納得するだろうか。
 
 一方、民主党が提案している連用制で議席を減らすのは民主党と自民党だが、公明党や共産党などの中小政党には有利な結果が生まれる。この連用制に自民党は反対を貫けるか。貫けば「増税政党」の上に「身を切らない政党」の烙印を押される。さらに連用制は自民党に決定的なダメージを与える。これまでの自公選挙協力が解消される可能性があるのである。
 
 自民党候補者はこれまで各小選挙区でそれぞれ3万票程度の公明党票に乗って当選してきた。だから公明党の選挙協力がなくなると選挙結果は一変する。公明党はこれまで比例代表票を自民党に依存してきたため選挙協力に応じてきたが、連用制が採用されればその必要もなくなる。消費税法案の成立はその連用制導入を後押しするのである。
 
 当初自民党は野田総理が「政治生命を賭ける」と言った消費税法案を否決して解散総選挙に追い込む戦略だった。来年の衆参ダブル選挙を避けたい公明党も同様であった。しかし自民党は3党合意が民主党分裂を誘えると見て応じる事にした。なぜか小沢氏が声高に消費税反対を叫んだからである。公明党は民自連携が知らないところで行なわれるのを恐れて3党合意に踏み切った。
 
 それが昨今の国会審議を見ていると両党の政治家からぼやきが聞えてくる。消費税反対派が地元で増税反対を訴えているのを横目で見ながら消費税の必要性を言わなければならないつらさをぼやいているのである。「本当は私も増税より経済成長が先だと思っているが、党が決めた事だから賛成した。それなのに民主党が賛成で固まっていないのはどういうことか」と野田総理に食ってかかる自民党議員もいた。
 
 「3党合意は罠ではないか」とうすうす感じる議員が出てきたのではないか。「話し合い解散」の確約があると思っていたらそうでない事が分かってきた。自民党も公明党も増税を主張して選挙をやるしかなくなった。そうなると経済成長も言わなければ選挙で国民の支持は得られない。
 
 そこで語られているのが「コンクリートから人へ」を「人からコンクリートへ」と転換させる話である。自民党は「国土強靭国家」、公明党は「防災・減災ニューディール」とネーミングは異なるが、両方とも借金で公共事業をやる話である。
 
 東日本大震災の後だけに「防災」と言えば国民の支持を得られると判断しているのだろうが、その主張は高度成長期の自民党政治を髣髴とさせる。それが無駄な鉄道を作り、無駄な道路を作り、無駄な空港を作り、無駄なダムを作り、膨大な財政赤字を作って消費税の負担を国民に負わせる事になった。
 
国民に対して増税に賛成して貰う見返りに借金で公共事業をやるという話は、そのように捉えられるのではないかと他人事ながら心配になる。自民党はそうした主張で本当に政権に復帰できると思っているのだろうか。
 
 冷戦後の世界はどの国も政治は不安定である。安定した秩序が崩れ、次の秩序がまだ出来上がっていないからである。既存の組織や既存の団体に頼る政治は続かない事が至る所で照明されている。日本で言えばもはや経団連や連合に頼るだけで選挙をやれる時代ではないのである。
 
そうした中で自民党の中に小さな「乱」の目が生まれた。私にはこちらの方が先にある選挙を見据えた動きに見える。それが「並」ではないと感じさせる由縁である。
(田中良紹)
 

※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。



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