あい・みゆき作「ふみ子抄」ぢ26回
「青セーターから映画に誘われた)ふみ子の眉間に、わずかながら縦皺が寄った。しかしセーターの声は
聞こえなかったかのように、マダムの所へ行って何か話し始めた。そして間もなく、店の奥に入って行き、
それきり出て来ない。時間は、どんどん過ぎて行く。青セーターが苛立たしそうに左右の靴を鳴らし始めた。
当時、外語は府中ではなく、滝野川区の豊島区境、西ヶ原にあった。青セーターの学生も、そこの学生
だったのかどうか。たしかに白水社の仏和辞典とフランス語の教科書らしい本2冊を、このころはやり始めた
布バンドで十文字に結わえ、これ見よがしにテーブルの真ん中に置いている。彼が、彼女のでてくるのを
待っているのは、見え見えだ。
その間、精一は、幾分、青ざめた表情で、青セーターの方を見ていた。その視線に青セーターは
気付いたらしい。ちょっと顔を向けたが、すぐにまた回転するレコードや彼女の消えたカウンターの方に
視線を戻した。しかし彼女は戻って来ない。やがてレコードは終わり、オート・ストップでピック・アップが元に
戻って、停止した。しかし彼女の姿は、なお見えない。やがて20分くらいも経っただろうか。とうとう
彼は怒ったように乱暴に立ち上がり、マダムに代金を払って出て行った。
その数分後、マダムが、
「もう帰られたわよ。大丈夫」
と彼女を呼ぶ声を、精一は聞いた。すると彼女が奥から出てきた。しかし、すぐには、いつものドアの近くには
行かず、カウンターの前に立っている。あるいは、外語の学生が戻ってくるのを怖がっているのかも知れない。
やがて精一は立ち上がった。思いなしか表情が硬い。それでも代金70円をふみ子が受け取ると、いくぶん心が
和らいだ様子で、店を出た。
青セーターの不良学生を見た時から、精一の心は激しく動揺していた。「そこの外語の学生だ」などと
名乗っていたが、それとてわかったものではない。旧制時代には、一高の制服制帽を着用して自治寮に
住み込むニセの一高生がしばしば現れ、”ニセ一”と呼ばれていた。女性を騙すのが、主な目的だった
と聞いている。だが青セーターにしたところが、”ニセ外”でないという保証はどこにもない。本物であれ、
偽物であれ、あの強引さを考えると、彼女が如何に真面目な女性だとしても、一押し,二押し、三押しで
最期には根負けして騙されないとも限らない。
そんなことを考えると、精一は気が気でない。その夜の家庭教師の仕事も、十分に果たせたかどうか、今一つ
自身が持てなかった。
その夜も、精一が戸田兄弟を教えて帰宅したのは、日付が変わる頃である。帰途の電車の中で、彼は
今こそ蛮勇を振るわなければいけない時だと考えた。憎っくき青セーターに先んじて、彼女を映画に誘おう、
と彼は決意した。とはいえ、精一が若い女性と、何ら化の愛情を意識して話をした記憶は皆無に近い。小学校の終わりごろ、
隣の男女組の級長をしていた山崎晶子さんと、号令を掛ける順番など全く事務的なことについて、数秒間、
打ち合わせの言葉を交わしたのが唯一の経験である。それほど彼は女性に対して近付きがたいものを感じて
いた。其のくらいだから、今,ビアンの彼女に対して、結婚したいと言う切羽詰まった打ち明けるのには、
蛮勇とも言うべき格段の勇気が必要だった。しかし今は、ひるんではならない時なのだ。そのことは、精一も
骨の髄まで感じていた。
当時の彼には、将来、映画の監督になりたいという夢があった。だから、その時、どんな映画がロードショーに
かかっているかを知っていた。「キネマ旬報」なども、よく読んでいる。そこで彼が選んだのは、当時、
スカラ座にかかっていたイタリア映画の「道」だった。(つづく)
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<厚生年金>「現役世代の50%」受給開始直後のみ
毎日新聞 6月27日(金)22時30分配信
<厚生年金>「現役世代の50%」受給開始直後のみ
モデル世帯の厚生年金月額と給付水準の推移
厚生労働省は27日の社会保障審議会年金部会(厚労相の諮問機関)に、モデル世帯の厚生年金の給付水準(現役世代の平均的手取り額に対する年金額の割合)が、受給開始から年を取るにつれてどう変わるかの試算結果を年齢層別に説明した。ともに1979年度生まれで現在35歳の夫婦の給付水準は、受給を始める65歳(2044年度)時点では50.6%あるものの、受給期間が長くなるほど低下し、85歳以降は40.4%まで下がる。どの世代をとっても受給開始時は50~60%台の水準ながら、90歳付近になると41.8~40.4%まで低下する。
【厚生年金給付水準 「成長頼み」の側面否めず】
政府はモデル世帯(平均手取り月額34万8000円の会社員の夫と専業主婦の妻、夫婦は同じ年齢)の夫婦2人分の年金給付水準について、「50%を維持する」と法律に明記。3日に公表した、5年に1度の公的年金の検証結果でも、15年度から43年度まで労働人口の減少などに応じて毎年、年金を1%程度カットする仕組み(マクロ経済スライド)を導入し、14年度の給付水準(62.7%)をじわじわ下げていけば、43年度以降は50.6%を維持できるとしていた。
しかし、今回の追加試算で、「50%」は受給開始時の話に過ぎないことが明確になった。試算はいずれも、将来の実質賃金上昇率が1.3%で推移することなどを前提としている。
年金の給付水準は、もらい始めは現役の賃金水準に応じて決まり、受給開始後は毎年、物価の動きに合わせて増減されるのが基本。通常、物価(年金)の伸びは賃金の伸びを下回るため、年金は賃金の伸びに追いつけず、現役の賃金に対する年金額の割合を示す給付水準は、年々低下する。
とりわけ、15年度から43年度までは、マクロ経済スライドの適用を前提としている。この間の年金の伸びは物価上昇率よりも低く抑えられ、現役の賃金との開きはさらに大きくなる。その結果、14年度に65歳で受給を始める49年度生まれの夫婦は、最初の給付水準こそ62.7%だが、19年度(70歳)は58.1%、24年度(75歳)は51.6%と年々下がり、39年度(90歳)には41.8%に低下する。
若い世代はさらに厳しい。84年度生まれの30歳の夫婦の場合、49年度(65歳)の受給開始時に既に50.6%。5年後には47.4%と5割を切り、69年度(85歳)には40.4%となる。【佐藤丈一、中島和哉】
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第1原発1号機の建屋カバー解体へ がれき撤去に向け
福島民友新聞 6月28日(土)13時12分配信
東京電力は27日、核燃料の取り出しに向け、放射性物質の放出を抑えるために福島第1原発1号機の原子炉建屋に設置している建屋カバーを7月上旬から解体すると発表した。
東電によると、1号機からの現在の放射性物質の放出量は、2011(平成23)年10月にカバーを設置した効果や、原子炉の安定冷却の継続による放射性物質の発生量の減少などにより、設置前と比べ100分の1以下まで低下している。東電は、カバー解体に伴う敷地境界の放射線量について「現状と比べほぼ変動はない」と影響の少なさを強調するが、県民への丁寧な説明が求められる。
解体作業は本年度中に終える予定。その後は水素爆発に伴い現在も原子炉建屋上部に散乱しているがれきの撤去作業に入る。燃料取り出しは、2017(平成29)年度の開始を目指す。
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福島民友新聞
最終更新:6月28日(土)13時12分