トーキング・マイノリティ

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クロッシング・ザ・ブリッジ/サウンド・オブ・イスタンブール

2007-07-22 20:27:09 | 映画
 映画の冒頭、こんなナレーションがある。「72もの民族が行き交った、町そのものが橋となっているのがイスタンブール」。アジアと欧州の接点である古都イスタンブールは多彩な音楽が溢れており、その音楽シーンを映したドキュメンタリー。監督は「愛より強く」で、'04年ベルリン映画祭金熊賞を受賞したファティ・アキン。

 この映画を見て初めて、イスタンブールはロックの中心地でもあるのを知った。この町には無数のロックバンドがあり、西欧のロックをコピーするバンドも多いが、そこはやはり伝統のトルコの民俗音楽と組み合わせた曲を編み出す。トルコの若者にもロックは人気があり、ラップやヒップホップをやるロック少年もいるのは面白い。トルコ人のラップもあったが、すごい早口で攻撃的だ。「この町は煙草と酒で生きている」の歌詞もニクイ。
 トルコのロッカーも身体に刺青やピアスを施し、麻薬をやる者もいるのは欧米と変わりない。なかなかのイケメンもいて、「ルックスや歌声だけで評価される」とボヤいている。トルコの歌は陽気であってもどこか哀愁が漂う。

 一見絵に描いた頑固親父風の人物へのインタビューも驚いた。息子が小学生の頃ラップをしていたのを知りショックを受けた、それまで私はエリック・クラプトンこそ真の音楽だと思っていたのに…何とロック通のおとーさんだった!私の両親などビートルズさえそっぽを向いていたほど。私の子供の頃はまだロックは不良の音楽だった。もちろんトルコにもラップをアメリカかぶれと批判する者もいる。この町では様々な西欧のロック音楽を自由に受け入れており、ロックを締め出しがちな他のイスラム諸国とかなり異なるようだ。

 トルコの伝統音楽といえば、日本のCMやドラマのメイン・テーマにも使用された「ジェッディン・デデン」(祖先も祖父も、の意)くらいしか知らなかったが、古都だけあって伝統音楽も健在らしい。一時期急速な近代化でトルコ音楽が衰退気味だったらしいが、昔からの音楽を重んじる人々はアラブのラジオを聞いていたそうだ。これも日本のCMになったメブラナ旋回舞踏も、出てきたのはよかった。踊るのは全員男なのに、これ程静的で美しい舞踏は他にないのかもしれない。

 様々な民族が行き交ったトルコらしく、ギリシア国境近くの町ケシャンは住民の3分の2がジプシーという。音楽で才能を発揮するジプシーゆえ彼らも独自の音楽を持っている。トルコの伝統音楽は座って聴くものらしいが、ジプシーの音楽は踊り出さずにはいられないメロディとなっている。ジプシーの祖先は北インドから来たと言われるが、もしかするとその背景もあるのだろうか。インディアン・ポップスはとかく元気で踊らずにいられない曲がほとんどなのだ。

 トルコの少数民族で最大の問題になっているのはクルド人だろう。1980年代になり、教育や公共の場でのクルド語の使用は禁止された。英語、独語、仏語は公然と認められるが、クルド語に対してはトルコ政府は厳格な姿勢を取る。やっと90年代になりクルド語が公認され、最近はTVでも放送されるようになったが、これは全て欧米諸国からの外圧による。ただし、ジプシーと異なりクルドは過激なテロも行う。
 クルド人の女性歌手によるクルド語の歌は、胸を締め付けられるような物悲しい響きだった。女性歌手によればクルドの歌は挽歌が大半で、民族の苦難の歴史が込められていると言う。それにしては苦難と決して無縁でないジプシーの音楽と何故これほど違うのか。

 東西の様々な音楽が溢れるのはさすがイスタンブール。先進国でもこれほど多彩な音楽が混在している町は滅多にないかもしれない。最近トルコでイスラム復古主義が台頭していると聞くが、いささか気がかりだ。

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