トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

日本人とブランド その③

2008-04-19 20:24:20 | 読書/ノンフィクション
その①その②の続き
 三田村氏はブランドや関連企業に取材する毎に、「日本人のブランド志向をどう思うか」と質問したそうだ。その中で最も心に響いたのは、イタリアのある有名ブランド日本法人社長の解釈であり、日本での生活が長いこの社長は、持論をこう述べている。
日本人は魔法が好きなんだと思います。それも大勢で見る魔法が。ディズニーランドへの熱狂ぶりを見ると、本当にそう感じる。欧州の人間はある意味老成していて醒めていますが、日本人は良い意味で幼稚若い国民です。おそらく、後千年は成熟しないでしょうね。

 何とも癪に障る解釈だが、老成して醒めているはずのイタリア人も、黒シャツ隊を率いるベニートなる男の掲げる魔法に熱狂したのは、そう遠い時代でもない。魔法から醒めた後、ドゥーチェ(元首)の称号を剥奪、広場に哀れな愛人と共に逆さづりにしたのも、古代ローマ以来の伝統を発揮する成熟した国民性らしいが。ブランドに疎い田舎者ブロガーの解釈はともかく、三田村氏は著書でこう書いている。

-「魔法が好き」とは言いえて妙だ。ヴィトン製品を大量に消費する日本人は、まさに大勢で見る魔法にかかっているかのようだ。全体主義的な性質を表しているともいえるが、ブランドの魔法に完璧に思考が停止し、魔法の魔法たる由縁を知ろうとはしない。どんな魔法なのかを立ち止まって考えることなく、魔法の前に素直に身を投げ出している。しかも集団で。バラバラで自分なりの選択肢を選び取る楽しさを満喫する消費者も増えているように思うが、数の上では圧倒的な少数派だ。だから目立たない…

 ブランドビジネスとは「消費者に夢を見せる」、つまり魔法をかけるビジネスだ。他の何者にも換えられない圧倒的な存在感で独自の世界に浸らせてくれるビジネスだ。物語性のある大小さまざまなブランド、色々な魔法を見せてくれるブランドが混在するマーケットの方が消費はずっと楽しくなる。物語性は何も海外のステイタスの高いブランドの専売特許ではない。新興のブランド、日本発のブランドにもチャンスはある…多種多様なブランドが混在するマーケットこそ健全だ…

 取材を通しブランドを前にした日本人の資質も見抜いた著書は、「はじめに」でも厳しい論評をしている。
-「良いブランド」「高級なブランド」「売れているブランド」と評価が固まったブランドに日本人がどれだけ弱いか。既に出来上がっている権威や、売れている、流行っているという分りやすい事実を素直に、無邪気に思考停止の状態で何ら抵抗なく受け入れる日本人の資質もまた強烈に浮彫りにしてくれる…
 できれば権威や既成事実を一旦自分の頭でフィルターにかけ、自らの判断や好み、志向のもとにブランドを選び取る消費者が増え、小さくてもオリジナリティの高いブランド、ユニークなブランドが増える健全な状態を期待したいが、どうやら現状は変わりそうもない

「あとがき」で、三田村氏はこう力説する。
出来上がった権威、既にそうなってしまったこと無頓着に無邪気に無条件に受け入れる傾向は不気味で怖い。自分の頭で考え吟味した上で納得できるか、魅力があるか、価値があるか、夢中になれるか。本来はこうしたプロセスを経て生まれる個々のファンにブランドは支えられるものだと思う。だからこそ、ブランドビジネスとはやりがいのある商いなのだと私は考える。大勢に安易に乗るよりも、もう一度立ち止まって、時間をかけて、本当に自分にとっての価値あるブランドを見つけてみようではないか…

 この本には日本人がいかに権威に弱いのか、大勢で夢を見たがる傾向を持つのか、その従順な性質が描かれている。これは何もブランド品ばかりではない。取るに足りぬ外国人学者のコラムを載せたり、お伺いを立てたり、技能も低い外国人タレントでも持ち上げる。これもまた、海外=本物という魔法をかけられ、「無頓着に無邪気に無条件に受け入れる傾向」がある故だ。

 かく言う私も、社会人になったばかりの頃、当時流行っていたマリオ・ヴァレンチノのセカンドバックを買ったことがある。何もこのブランド好みだった訳ではなく、仙台駅隣の某デパートに行った時、たまたま“お買い得品”コーナーに置いてあるのを見かけ、つい手頃な価格に釣られ購入した。取っ手も内ポケットもないため、使い勝手が悪く、しばらくして持ち歩かなくなった。全く無駄な買い物であり、ブランドだけで飛びついたための失敗だ。当時の情報は雑誌やTVくらいだったが、今はネットもある。情報過多の時代、若い人が識別眼を養うのは容易ではない。

◆関連記事:「舶来崇拝」「ハイカラ趣味

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ


最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大衆の豊かさの分析を (madi)
2008-04-20 04:18:50
単に大衆が豊かな国として日本が突出しているだけではないでしょうか。
台湾・大陸中国等が日本におくれて日本にでてきているだけです。イタリアは隠れた労働時間がおおい国で、消費レベルという点では大衆レベルが豊かな国ではありません。
返信する
ブランドの魔力 (Mars)
2008-04-20 08:48:01
こんにちは、mugiさん。

ま、キ○スト教というブランドに、過去、千年以上も熱狂している欧州人は、これから千年以上も熱狂するのでしょうね。
そして、キ○スト教的価値観で、人種のランク付け(白人>白人が認める動物>有色人)も、これから千年以上も続けていくのでしょうか?
F1のフェ○ーリやサッカーの試合に熱狂するイタリア人も、日本人の凡人からしてみれば、奇妙にも見えるのですが、、、(日本のプロ野球にも、熱狂的な応援もありますが、欧州人程は暴れませんから)。

日本人には確かに、熱しやすい部分もありますが、反対に、冷めやすい部分もあります。
そんな中で、開園から25年経つディズニーランドが日本で一番の遊園地なのは、初めてのお客だけでなく、リピーターが多くできるように、(確かに、キレイ事だけでない部分もあるかもしれませんが、)企業努力というものを続けてきた事によるものと思うのですが。

日本人にとってブランドとは、「高級」や「売れている」事は認めても、必ずしも「高性能」や「万能」だとは思っていないようにも思えます。
車のフェ○ーリにしても、高速走行では、自慢の能力を発揮するものの、低速走行では燃費を食うし、かならずしもエコとは言い難いものがあります。
それでも、日本人がブランドとして認めるのは、短所があっても、長所があるからだと思うのですが、、、。
ブランドという魔法から、日本人が醒めたら、困る欧州人は、少なからずいるでしょうね。
(但し、日本人がフェ○ーリを購入するのが、その「高性能」さというよりも、成金趣味的な「ステータス」にようになっている者も、少なくないようで)

>バラバラで自分なりの選択肢を選び取る楽しさを満喫する消費者も増えているように思うが、数の上では圧倒的な少数派だ。
>物語性のある大小さまざまなブランド、色々な魔法を見せてくれるブランドが混在するマーケットの方が消費はずっと楽しくなる。
>大勢に安易に乗るよりも、もう一度立ち止まって、時間をかけて、本当に自分にとっての価値あるブランドを見つけてみようではないか…
仰る通りなのですが、現実の人間は、選択肢が多すぎると、選択する事を放棄するようです(とあるCMの受け売りですが(汗))。
そして、これは、何も日本人だけでなく、欧州人も同じように思えるのですが、、、。
だからこそ、画一的なブランドを作り、大量消費を画策するのでしょうね(振り出しにもどる)。
返信する
日下公人「独走する日本」を (madi)
2008-04-20 10:20:00
日下公人「独走する日本」PHPが日本のすぐれたところとして分析しています。着道楽のための絹輸入が江戸時代初期国家予算の半額程度になっていたとか、道楽のための消費の特徴の分析がされています。

 そういや、うちにもヴィトンはありますが、ひとめでわからないものです。インテリはブランド指向はあまりないでしょうが、それは5パーセントいかないでしょう。
返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2008-04-20 21:39:21
>madiさん

労組が強い国のイメージがあるイタリアが、隠れた労働時間が多い国だったとは知りませんでした。イタリア特集番組だけ見れば、大衆レベルで生活を思い切り楽しんでいるシーンばかり映されますからね。

三田村氏も日本の大衆消費が高度経済成長に繋がったと書いています。そして所得格差が広がり、5万円程度のブランド品も買えない層が増えてしまうより、皆で無邪気にブランド品に群がり、限定品を求めて列を作る社会の方がまだましだと。

ブランド志向が薄いのはインテリ層くらいですか。ならば、欧米さえ日本と同じ事情となりますね。


>こんばんは、Marsさん。

>>キ○スト教というブランドに、過去、千年以上も熱狂している欧州人は、これから千年以上も熱狂するのでしょうね。
お見事なです よくぞ言ってくれました。素晴らしいいっ。 宗教のブランドくらい、害悪を及ぼすものもない。

イタリアに限らず欧州のサッカーのフーリガンの粗野と粗暴さといったら、十字軍時代と同じレベルではないでしょうか。
日本ではあまり注目されませんが、イスラム圏も暴れっぷりはすごいし、フェアプレー精神は欠くわ、“中東の笛”を吹きっぱなし。儒教圏の惨さは書くまでもありませんが、少なくともスポーツ観戦では一神教や儒教圏は幼稚で千年以上も成熟しないでしょう。

仰るとおり、ディズニーランドも名称に胡坐をかいた殿様商売では、25年間も続きませんよね。
いくらマスコミが悪い情報を一切載せなくとも、悪評ならすぐに広まる。いかに外資系でも企業努力をしないなら、日本から撤退を余儀なくされます。カルフールなど、4年程で撤退しましたね。

著者は少なくともファッションで、海外ブランドにヤラレっぱなしとなっている日本市場を快く思っていないのは確かです。
地方都市でも海外ブランドの出店が相次いでいますが、儲かるのはブランドばかりで店舗が入っているデパートはそうではない。売れているため、かなり強気な条件をデパートに要求、デパートも人集めのため、命令に従う他ないようです。
限定品に弱い日本人の心理を突き、シーズン毎に限定品やらバージョンを変え、若い消費者をターゲットにし、あこぎに儲ける…要するにカモにされているのですね。

以前、生活保護を貰っている未婚の母が、シングルマザーがブランド品を買えないのはおかしい、不公平だと噛み付いたニュースを見たことがあります。ブランド品などなくとも生活に困る訳でもないのに、開いた口がふさがりません。 ブランド品より、男を見る目を養うべきなのに。
返信する
イタリア経済の病根 (madi)
2008-04-21 01:17:19
イタリアの場合、副業部分の経済がおおきいわけです。これはテレビにはでてきません。
政治家がマフィアとふかいつながりがあるような国ですから。日本はさすがに政治家と暴力団のつながりはここ20年できれいになってきています。
返信する
マフィア (mugi)
2008-04-21 22:08:21
>madiさん

副業部分の経済が大なら、とてもTVで見せられませんね。
塩野七生氏が以前、エッセイ「イタリアだより」でイタリア政界の裏事情に触れてました。日伊に限らず、政治家とマフィアの繋がりはどの国にもあるでしょうが、イタリアはまた際立った印象を受けます。
返信する
本屋さんにて (やすこちゃん)
2008-04-25 21:14:40
ご無沙汰いたしております。この本を読もうとして「○善書店」へ行ったところ売り切れでした。面白い事に、同タイトルの本があり(中公新書ラクレ)これは在庫がありましたが、これは購入しませんでした。読んでから感想を書き込みたいと思います
返信する
図書館 (mugi)
2008-04-25 22:49:39
>こんばんは、やすこさん

私がこの本を読んだきっかけは、行きつけの図書館の新刊入荷コーナーに展示されていたからでした。
ふと、手に取ってめくったら、面白かったので借りましたね。ブランド業界のあこぎさも描かれています。
返信する