トーキング・マイノリティ

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神は妄想である その四

2015-03-08 21:40:18 | 読書/ノンフィクション

その一その二その三の続き
 C(全面的な不同意)グループの生徒でも、エリコ住民の虐殺を不問にしている程だし、A(全面的な是認)グループ生徒の回答には慄然とさせられた。こちらも典型的な答えが3件載っている。

私の意見では、イスラエルの人々は正しく振る舞いました。理由はこうです。神は彼らにこの土地を約束し、征服する許可を与えました。もし彼らがこういうやり方で振る舞わず、誰も殺さなかったとしたら、イスラエルの人々は異教徒に同化してしまう危険があったでしょう
私の意見では、これをした時ヨシュアは正しかったと思います。何故というと、イスラエルの民が同化して、そこにいた人々の悪い生き方を憶えることが出来ないようにするために、神が彼らを根絶やしにするようヨシュアに命じたからです
この土地に住んでいた人々は異なった宗教を持っていて、ヨシュアが彼らを殺した時、この宗教を地上から抹殺したのだから、ヨシュアは正しいことをしました」(373頁)

 タマリンは一方で、対照実験も行っている。168人の別のイスラエルの子供の集団にヨシュア記からとった同じテキストが与えられたが、ヨシュアの名を「リン将軍」に、イスラエルが「3千年昔の中国の王朝」に書き換えられていた。すると結果は正反対になり、僅か7%だけがリン将軍の振舞いを是認し、75%が不同意だった。
 私が『神は妄想である』の中で、最も恐ろしいと感じたのはこの箇所だった。米国のキリスト教原理主義者の狂信性には多くの頁が割かれているが、彼らは全て成人である。イスラエルではまだ十代前半でも子供たちが、これほどまでアラブ人憎悪と蔑視にもとづく感情を抱いており、虐殺を当然視している。こんな子供たちがナチスの迫害を糾弾し続けているのだ。

 タマリンの研究結果を見て、ドーキンスはこう述べる。
おそらく、彼らが表明したこの野蛮な意見は両親のものか、或いは彼らが育てられた文化集団のものであろう。おそらく戦争で疲弊した国で育てられたパレスチナの子供達が、方向は逆だが、同じような意見を表明するというのはありえないことではないと、私は推測する。

 このことを思うにつけ、私の心は絶望でいっぱいになる。それは人間を分裂させ、歴史的な敵意と受け継がれていく恨みを育む宗教、とりわけ子供の宗教的なしつけの限りない力を示すものであるように思える…
 ヨシュアのしたことは、野蛮な大量虐殺の所業である。しかし、宗教的な視点からは全く違ったものに見える。そして、この区別は人生の早い時期に植え付けられる。大量虐殺を非難する子供と容認する子供の間の違いを作るのは、宗教だったのだ。

 建国以来、常に周辺諸国と臨戦状態にあるイスラエルと違い、米国のユダヤ人はもっと異教徒と交流していると思いきや、同宗婚(同じ宗教の者との結婚)と異宗婚(異教の者との結婚)に関する調査の結果から、そうではなかったことが浮かび上がる。テキサス大学の社会学者ノーヴァル・D・グレンは、1978年に多数のそうした研究を集め、まとめて分析した。グレンはキリスト教徒に同宗婚を好む有意の傾向があるが(カトリックはカトリックと、プロテスタントはプロテスタント同士で)、ユダヤ教徒においてはとりわけ顕著だと結論づけた。

 質問に回答した総計6,021人の既婚者のサンプルのうち、自らがユダヤ教徒であると名乗ったのは140人で、そのうち85.7%が同教徒と結婚していた。この数字は、ランダムにサンプルを取って調べた場合、予想される同宗婚のパーセントに比べ、とてつもなく大きいという。正統ユダヤ教の遵守者なら、「異教徒との結婚」をしないよう強く勧められており、3人の米国人ラビの典型的発言が紹介されている。
私は異教徒相手の結婚式の司式を拒否します
私はカップルが子供をユダヤ教徒として育てる意向を表明した時には、結婚式の司式を務めます
私はカップルが婚前カウンセリングに同意すれば、結婚式の司式を務めます

 キリスト教の聖職者と一緒に結婚式の司式を務めることに同意するラビは稀で、引っ張りだこという。たとえ宗教がそれ自体として害はなくとも、その理不尽で、慎重に育まれた差別意識――「内集団を好み、外集団は避ける」という人間の自然の傾向に、意図的かつ洗練された形で付け込むやり方――は、宗教を世界の悪を利する枢要な勢力とするのに十分なものであろう、と著者は述べる。
その五に続く

◆関連記事:「イスラエル・ロビー
 「イスラエルの過激派
 「イスラエルを擁護する人々

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2 コメント

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Unknown (牛蒡剣)
2020-06-11 20:49:12
前回のMUGIさんの返事を見て読ませてもらいました
>の意見では、イスラエルの人々は正しく振る舞いました。理由はこうです
>ヨシュアの名を「リン将軍」に、イスラエルが「3千年昔の中国の王朝」に書き換えられていた。すると結果は正反対になり、僅か7%だけがリン将軍の振舞いを是認し、75%が不同意だった。

このくだり酷くてびっくりですよ。ほんとローマ帝国で忌み嫌われたのは納得できます。ほんと客観性のかけらもないことにびっくりです。最近思います。是非はあるし、問題もあるでしょうが戦前
日本帝国が皇国臣民としてのアイデンティティを
叩き込んだのはある意味当然だと思いました。
世界は客観や理屈でもなく寛容も必ずしもない。
強烈な自己がなくては立ち向かえないですよ。

でも戦前の小学校の教科書には日本人が日本を大事にするように他国も自国を大切にするからくれぐれも粗略にあつかってはならないとか、他国の国旗を失礼なく取り扱う方法とか書いてもあるんですよね。
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牛蒡剣さんへ (mugi)
2020-06-12 22:03:49
 塩野七生さんはユダヤ人について、「あらゆることに優秀でも他民族との協調だけは苦手」と言っていましたが、まさにその通りですね。
 オスマン帝国はスペインからのユダヤ難民を受け入れたのに、あらゆる面で差別されたとラビ・トケイヤー氏は井沢元彦氏との対談で話していました。忘恩の民とは彼らですよ。

 イスラエルでも出自や肌の色によって階級が定められていて、アパルトヘイトとカーストの国でもあります。イスラエルに移住してきたエチオピア人が主人公の映画がありましたが、かつてのアメリカ南部のような人種差別が行われているのです。
https://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/c92371376629d4900ffea8ef27bcd97f

>>戦前の小学校の教科書には日本人が日本を大事にするように他国も自国を大切にするからくれぐれも粗略にあつかってはならないとか、他国の国旗を失礼なく取り扱う方法とか書いてもあるんですよね。

 恥ずかしながら、このお話は初めて知りました。アラビアのロレンスは学校で「外国人は寄生虫、有色人種は野蛮人」と教わったそうです。
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