トーキング・マイノリティ

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アンネの日記と日本人 その一

2014-12-05 21:11:18 | 世相(日本)

 師走で衆議院選も近いためか、すっかり忘れ去られた勘のある今年初めの出来事に「アンネの日記破損事件」がある。事件が発覚したのは今年2月。首都圏を中心に実に3百冊以上の図書が被害にあった。3月、「36歳の都内在住の無職の男」が容疑者として逮捕されたが、未だに男の氏名は公表されていない。wikiではその背景をこう解説している。
「男は精神病院への通院歴があり、逮捕時から意味不明な供述を繰り返している。刑事責任能力に問題があったため、本件の器物損壊罪での逮捕以降も男に対する匿名報道が続いた…」

 この事件はネットでも盛んに取り上げられたし、メディアがこぞって国籍や氏名を伏せたため、韓国人犯行説が流布した。容疑者逮捕後の経緯を再びwikiから引用したい。
3月19日の衆議院内閣委員会において、古屋圭司国家公安委員長は「(逮捕された男は日本国籍である」と答弁している。4月16日から6月16日まで専門家による精神鑑定が実施されていた。同年6月20日、東京地検は被疑者が犯行当時心神喪失の状態にあったとして不起訴とした。東京地検は「人種差別的な思想に基づくとは認められなかった」としている…

 だが犯行当時心神喪失の状態にあった男が単独で、これだけ大量の図書を破損できたのか?結局不起訴、どのメディアも名前を公表しなかったこともあり、陰謀論者ならずとも「実行犯は隣国工作員」と疑った日本人も少なくなかったはず。たとえ国籍が日本であれ帰化すれば、出自とは無関係に“日本人”となろう。ともかくも後味の悪い事件となった。

 この事件が発覚する前、私は「なぜ日本人はアンネ・フランクに魅せられる?」というブログ記事(2014年1月22日付)を見ていた。このブログは拙ブログと同じく「歴史ブログランキング」に登録されており、タイトルに興味を引かれたからだ。件の記事はイスラエルのハアレツ紙から引用するかたちとなっており、ハアレツ紙のコラムも同日1月22日付である。まずハアレツ紙コラムから邦訳した一文はこうだった。
「欧州でのアンネ・フランクは、ユダヤ人迫害と差別主義による脅威の強力なシンボルだ。しかし日本人は、根本的に異なる理由から彼女の物語に接する傾向がある…」

 そしてブログ管理人はハアレツ紙の原文の一部を抜粋しており、以下はその個所。
“The Anne Frank-Japan connection is based on a kinship of victims,” Lewkowicz said. “The Japanese perceive themselves as such because of the atomic bombs dropped on Hiroshima and Nagasaki.
They don’t think of the countless Anne Franks their troops created in Korea and China during the same years,”

In Korea, Japanese troops organized the rape of thousands of enslaved Korean women who were known as “comfort women.” They also perpetrated mass killings of Chinese civilians.

「ネオジャップ」論なども書いているこのブロガーは明らかにリベラル派気取りの中韓系ネトウヨで、原文を引用した後、当然こう結んでいる。

「広島や長崎で戦争の究極的災禍をこうむった自分たちの立場をユダヤ人とおなじにとらえ、大戦の被害者としてアンネに共感している。その反面、同時期に日本が中国などでおこなった暴虐、日本軍によって無数の「アンネ・フランク」が造りだされた事実には目を向けなかったと「ハーレツ」紙は指摘します。卓見です

 wikiによれば、「ハアレツ」とはヘブライ語で「その土地」を意味し、世界に流浪していたユダヤ人の間で故国イスラエルのことを指す言葉として使われていたそうだ。論調は左翼的、リベラルな論陣が特徴で、一部の記事はパレスチナ側に立ったポスト・シオニストの観点もみられる。全体的にはシオニズムに属している姿勢というが、シオニズムに属さないイスラエル紙があろうか。ハアレツはイスラエル国内での高級紙としての地位を保っているそうで、イスラエル版朝日新聞というところか。

 私がハアレツのコラムを見たのはこれが初めて。だが第二次世界大戦直後から現代に至るまで、イスラエルがパレスチナで続けている虐殺や暴虐、イスラエル軍により無数の「アンネ・フランク」が造りだされ、今なお造られている事実にユダヤ人が目を向けているとは到底思えない。イスラエル側はパレスチナの反撃を“テロ”と呼ぶが、そもそもの原因がイスラエルの侵略と劫掠なのは否定できない。
 トップ画像はハアレツに載ったものからの借用。アンネの絵柄はいかにも日本の少女漫画風だが、鉤十字と日の丸を重ね合わせているのは実に意味深いではないか。
その二に続く

◆関連記事:「ユダヤ人テロ組織
 「核兵器とモサド
 「アラブの売国奴

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