消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

福井日記 No.210 モノライン

2008-01-14 21:25:02 | 格付け会社

 サブプライムローン関連の保有証券の評価損を計上した金融機関が、相次いで資本不足に陥り、資本増強を急いでいる。

 メリルリンチは、二〇〇七年一二月二四日にシンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングス(TEM)と米資産運用会社デービス・セレクテッド・アドバイザーズから最大六二億ドルの出資を受け入れると発表した。シティグループ、モルガン・スタンレー、UBSなども、湾岸地域やアジアの国家投資ファンドから資本注入を受けている。

  しかし、投資銀行のベアー・スターンズ(BS)は深刻である。ベアーは、二〇〇七年九~一一月期決算で一九億ドルの評価損を計上、損益で八億五四〇〇万ドルの赤字となった。シンガポールのテマセク・ホールディングスからの資本を受け入れようとしたが合意には至らなかった。近い将来、同社は訴訟に見舞われる可能性があり、大幅なディスカウント価格で株式を売却しなければならない情況にまで追い込まれている。 

 そして、資本不足は、金融保証関連の会社を直撃している。金融保証関連の会社とは、住宅ローン保証会社と金融保証会社である。住宅ローン保証会社は、文字通り、住宅ローンが焦げ付いたときに、元本を保証する会社である。顧客は、ローンを供与する銀行である。

 金融保証会社は、後述するが、金融機関が保有するCDOの元本を保証する会社である。金融保証関連の会社は、デフォルト(債務不履行)の増加に伴い、保証能力を小さくしてしまう。

 住宅ローン保証会社のシークリフ・キャピタルは、二〇〇七年末に、同社株の市場価格が簿価を下回って資本不足に陥った。増資を含む資本増強策の採用に踏み切らなければならなくなっている。

 二〇〇七年七~九月期に一〇億ドルの赤字を計上した金融保証会社のACAキャピタル・ホールディングス(ACAH)も、二〇〇七年末、保証能力の低下を理由にS&Pによって、格付けを投機的等級に格下げされたhttp://jp.reuters.com/article/companyNews/idPnJS80744520071228)。

 金融保証会社(Financial Guarantor)は、「モノライン」(monoline)と呼ばれている。

 
正しくは、「モノライン保険会社」(monoline insurer)である。これは、金融保証会社が地方債や資産担保証券(Asset-Backed Securities=ABS)などの金融債という単一の分野しか対象にしていないことからくる用語である。

 自動車保険、火災保険、傷害保険、生命保険等、複数の保険業務を扱う生命保険会社と損害保険会社は、モノライン保険会社との対比で「マルチライン保険会社」(multiline insurer)と呼ばれている。

 米モノライン業界団体には、一二社が加盟している。保証額は、二〇〇七年末時点で二兆二〇〇〇億ドル(約二四二兆円)という巨額のものである。保証額の二六%が、証券化商品である(http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/zaimu/index.cfm?i=2007121700318b5)。

  サブプライム・ローンを組み込んだ住宅ローン担保証券(RMBS)や債務担保証券(CDO)を複雑に組み込んだ金融商品の元本保証を行うことによって、ここ数年間は業績を大きく野伸ばしていた金融保険会社も、金融市場の混乱で支払い義務が急増して、一転して巨額の損失を出している。

 建前としては、金融保証会社は、格付け会社から高い格付けを得た金融債のみを扱っていたことになっている。しかし、金融保証会社が元本を保証しているという事実が、金融債の格付けを高くしたという面もある。金融保証会社も格付け会社による格付けの対象になっている。金融保証会社の格付けが下げられてしまうと、対象証券の価値急落は避けれないことになる。すでに、金融保証会社大手のMBIAは、ムーディーーズによって格下げ対象にされてしまった(http://www.business-s/kinyu-page/news/200712070017a.nwc)。

  危機に瀕している金融保証会社は、米国だけのものに限らない。日本の損保会社も被害を受ける可能性が否定できないのである。二〇〇七年一一月二〇日、損保ジャパンは、保証しているサブプライム・ローン関連証券が二四〇〇億円であり、これら証券価格が値下がりすれば将来三〇〇億円程度の保険金支払いがでる可能性があると発表した。ただし、同社は、「格付けの高い証券化商品だけを引き受けており、保険金支払いが発生するリスクはそれほど大きくはない」としている。

 同社によれば、特定目的会社(SIV)と同社は契約していて、金融商品の価格が下落したときには、同社が投資家に元本を保証することになっている(http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/071120/fnc0711202349021-nl.htm)。

 二〇〇七年一一月二〇日、損保ジャパンも含めて日本の大手損保六社が二〇〇七年九月中間連結決算を発表したが、サブプライム・ローン関係の損失を計上したのは、二五二億円の損失を出した「あいおい損保」と一四億円のミレアホールディングスの二社だけであった。あいおい損保は一一五四億円のサブプライム関連証券を保有している。損失を計上していないが、東京海上日動火災二六九億円のサブプライム関連証券を保有していることが分かった。

 さらにミレアホールディングスは、一六二億円の保険引受残高があることを発表した。

  損保ジャパン
は、サブプライム関連の証券を保有してはいないものの、保険引受額が損保ジャパンは、サブプライム関連の証券を保有していないが、保険引受額が、二四〇〇億円と突出して大きいことがこの発表で明らかになった。さらに、最大限三〇〇億円の保険支払いがある可能性を発表したのもこの決算においてであった(http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20071121mh02.htm)。

 三〇〇万円の保険支払いということがマスコミにクローズアップされたことから、損保ジャパンは、二〇〇七年一一月二七日付けで、「米国サブプライムローンに関する当社への影響について」を同社ホームページに掲載して、同社はサブプライム関連証券を一切保有していないと明言し、保険支払いもこれまで事故は発生していず、支払いの可能性があっても、三〇〇億円程度であると弁明した。

 しかし、同社が保証しているCDOは、直近でトリプルAが二八・八%、ダブルAが四二・七%、シングルAが一七・七%、トリプルBが一〇・八%であるという。支払いの可能性がこのトリプルBであるとしたのであろうが、現実にはトリプルAが一挙にトリプルCに格下げされた例もあり、実際には予断を許さないものである。

  例えば、二〇〇七年八月二二日、S&Pは、スイスのヘッジファンド、アベンディス・グループが運用するファンド、ゴールデン・キーの発行する証券を最上級のトリプルAからトリプルCへと一気に一七ノッチ(段階)も引き下げたのであるhttp://gl-.sakura.ne.jp/katsu-investor/stock/0204/000181.html)。 

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