ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【STAP騒動のまとめ】難波先生より

2014-03-28 09:55:19 | 難波紘二先生
【STAP騒動のまとめ】
 3/25(火)19:00のNHKテレビニュース(細胞株のすり替わり)は「STAP細胞」のトリックについて、多くの人を納得させたようだ。夜、自宅に食事に帰ったら家内がこういった。
 「小保方さんの件は私も最初からちょっと変だと思っていた…」
 「まあ、世の中の多くの人は、事件が決着したらそういうよ。
 実は自分もおかしいと思っていた…、とね。
 その<おかしい>と思ったところを突き詰めて考えて、最初に声を上げるかどうかが大事なところさ」
 「……」
 とまあ、こんな具合だった。

 今回はメディが翼賛記事を書いて暴走した後、ネットの有志が果敢な異論を唱えた結果、論文の「盗用・画像使い回し、捏造」が明るみに出て、落着の方向に向かった。
 これをストップさせた経済的効果はどうだろうか?
 理研への国費投入約1000億円の中止、
 「STAP細胞開発・応用」がらみのバイオ企業への民間投資・投機1000億円の抑止
 経済は素人だが、約2000億円の資金がむだ遣いされるのを防いだのではないか。
 メディア関係者などのインサイダー取引がなかったかどうかなど、その他の派生的な問題は今後追い追いに明らかになるだろう。

 過去何回かの論争では「掲示板」を利用して発言したので、ストーカー的な匿名発言者の執拗な書き込みには悩まされた。悪質なのは私の大学の学長に脅迫メールを送ったのがいる。捉まえたらある県の職員で考古学の関係者だった。大学数学科のサーバを使って自分のブログで執拗に攻撃した人もいた。このたび調べたら「御用学者リスト」というのがネット上にあり、そこに名前が載っていた。彼が御用学者かどうか知らない。
 今回は、武田さんのブログに転載されたメルマガが間接的に他のブログに転載されたので、直接の被害はなかった。時々、書き込みを読ませてもらったが、「匿名」での書き込みに変わりはなかった。今日あたり、私の名前で検索した順位を見ると、「武田ブログ」と「買いたい新書・書評」が上位5位のうち、2つを占めるようになっており、STAP細胞がらみのブログは落ちてきている。そろそろ元の生活に戻れるかも知れない。

 私は文章を書くときにできるだけ平明に書くこと、文意を明白にすることを心がけているので、形容詞、副詞を使ってぼかして書くことをしない。動詞の二重否定などもできるだけさけている。それで「辛辣なブログ」とされたのであろうが、私は思ったことを率直に飾らずに述べただけである。「王様は裸だ」と発言して、それが「辛辣」と受けとめられるのなら、そういうパラダイムに依拠している社会の常識の方がおかしいと思う。

 Nスペの「超常現象」へのコメントについても、「科学がすべてではない」、「仮説はゆるされるのでは?」といった書き込みがあった。
 自然科学の基盤の上に、他の学問があり、そこには科学からは直接演繹できないものがある、という意味では「科学はすべてではない」というのはその通り。が、科学オンチで重力や万有引力の法則や熱力学を知らないでも、泳ぎを知らなければ水に落ちて溺れるし、高い崖から飛び降りたら墜落して大けがをするか死んでしまうし、永久機関ができないのは事実。つまり科学に知識があろうがなかろうが、科学の法則は貫徹される。物事がなぜそうなるかを説明するのが科学で、「科学の技術応用」とはまったく別の話だ。
 「科学がすべてではない」という言い方は部分否定であり、科学でない「部分」とはなにかが常にあいまいに提起される。この命題は、「科学」を政治、文学、お金、若さなど別の主語に置き換えても常に成立する、呪文のようなものだ。

 「ヴァカンティの仮説」と報じられたことから、「STAP細胞も仮説にすぎない」と擁護する意見があるが、これは「科学的仮説」というものを誤解していると思う。
 ある小さなアイデアを証明するために実験を行うが、これは正確には「作業仮説 (Working Hypothesis)」という。多くの場合、科学者の実験というのはこれである。仮説が予測したとおりの実験結果が何度やっても得られれば、仮説は一応正しいと考えて前に進む。

 ふつう科学の大きな理論を「仮説」という。これは「オッカムの法則」により、すべての科学理論はより単純明快な理論が出て来るまでの「仮説」として取り扱うことになっているためだ。
 仮説といってもどんな理論でも提唱できるというものではない。「科学的仮説」には以下の3条件が必要である。科学哲学のカール・ポパー(「科学的発見の論理(上・下)」, 恒星社厚生閣)はそれをこう要約している。
1. 無矛盾性:基本理論から演繹できる「系」をいくら多くしても、論理矛盾が発生しないこと。
2. 検証可能性:その理論が第三者により検証可能であること。「追試」とか「再現性」とも呼ばれる。
3. 反証可能性:まっとうな科学理論は、「もしこういう現象が起これば、この理論は成り立たない」という条項を含んでいなければならない。どういう事態が起こってもつねに「真」であるような理論は、科学の理論としては認められない。

 NHKが好きな「超常現象」はこの三つの条件を満足せず、オウムの空中浮揚を肯定するのと変わらないものになっている。超常現象はすべて「脳内現象」として説明可能である。たとえば「空中浮揚」は「錯覚」として…。幻覚は普通人にも起こる。大抵は「空耳」とか「見間違い」で、本人がそれと気づいているから問題にならないが、幻覚=実体験と錯覚する人がいて、それが超常現象とされる。(S.L.マクニック他「脳はすすんでだまされたがる」, 角川書店, 2012)

 「ヴァカンティ=小保方のSTAP細胞理論」は、「すべての体細胞がストレスにより初期化できる」という理論で、これは「分化した体細胞は(外から遺伝子導入をしないかぎり)多能性幹細胞には戻らない」という細胞生物学の定説を覆す(パラダイム・チェンジ的な)理論である。
 だが、「すべての体細胞」の中に「免疫細胞」が含まれるから、遺伝子再構成を終わった体細胞が、胚型遺伝子をもつ胚細胞に戻ることになる。DNA自己複製が遺伝のメカニズムであることを認めるかぎり、再構成遺伝子が初期化された胚細胞に認められなければならない。
 このような細胞を用いて、クローンマウスを作製した場合には、もう新たに遺伝子再構成をするだけの「胚型免疫遺伝子」が残されていないので、免疫不全の子マウスが生まれるはずである。つまり健康なクローンはできない。
 つまり「細胞の起原」を証明する「遺伝子再構成」の話と「遺伝子再構成のある細胞がクローンマウスを作る」という話は、「矛」と「楯」の関係になっている。

 免疫細胞以外の体細胞については、STAP細胞が体細胞に由来することを確実に証明する指標がなく、用いられた方法では骨髄由来の「多潜能幹細胞」が、実験操作により「選択」されて、関与した可能性を否定できない。
 従って提唱された「ヴァカンティ=小保方理論」は内部矛盾があり、真の科学的理論とはいえない。
 そのことを彼らは意識していたから、「図1-i」に切り貼りでT細胞受容体遺伝子DNAの電気泳動写真を掲げ、脾臓から採取したリンパ球に再構成があり、培養後のSTAP細胞にこれが認められることを、わざわざ写真で示した。だが、これは別の写真の切り貼りによる捏造だった。

 つまりこの理論は科学理論に必要な3条件のうち、すでに第一の「無矛盾性」で失格しており、おまけにこの部分に証拠の捏造があった。
 ふたつ目の、第三者による追試はすべて不成功で、検証可能性もない。
 三つめの「反証可能性」は、そもそも理論に含まれていない。
 私の思いつくかぎり、人体でもっともストレスに曝されるのは皮膚、ことに低温火傷の場合である。チベットには「カンツェリ」という小型のアンカがあり、これによる火傷を繰り返していると皮膚がんが発生してくることが知られている。STAP細胞理論が正しければ、同時に「奇形腫」も多発するはずだ。しかし皮膚原発の奇形腫というのは聞いたことがない。

 今度の事件でもわかったことだが、世の中の多くの(いや、ほとんどの)人は原理原則から理解して、「信じる、信じない」という立場を決めているのではない。やはり新聞やテレビや身近な人の動向が意見を左右するようだ。
 そこで「人気」とか、「風潮」とか、「支持率」というような現象が生じるのだろう。
 1920年に成立した「ワイマール憲法体制」のドイツが、わずか14年後に「全権委任法」によりヒトラーの独裁を認め、6年後にチェコを併合し、ポーランド侵入を始めるとは誰も予想できなかった。
 ロシアのクリミア併合を支持する、熱狂的なロシア国民とロシア系クリミア住民をテレビで見ていると、1930年代にタイムスリップしたような錯覚にとらわれる。つくづく「風潮」というのは怖いと思う。

 1990~2000年にかけて「生命倫理」がもてはやされ、多くの著書が出版された。「臨床倫理学会」というのもできたと記憶する。また2000年以後に、科学者の論文不正に関する日本人研究者の著書もいろいろ出た。今回はバイオサイエンスにおける研究不正ということで、二つの領域がオーバーラップするところでの事件だった。
 が、「科学者の不正行為:捏造・偽造・盗用」(丸善, 2002)を書いて、米国ORIのシステムを日本に紹介していた愛知淑徳大学・図書館情報学者の山崎茂明氏の他に、倫理学者、生命倫理学者、科学史家からの積極的な発言がなかったのはどうしてだろう。原則論はいえても、応用問題が解けないような学者では困るのだが。

 2006年秋に起こった「病腎移植(修復腎移植)」事件では、その直前に「腎臓売買事件」が摘発され、主治医が疑惑の渦中にあると報道されていたので、メディアが初めから「悪い医療」という先入観に立って報道した。おかげで私のような「がんになった腎臓から病変部を切り取って移植に用いるのは、<第三の移植>として有力な腎臓ドナー供給源になりえる」という少数意見は、ほとんど取り上げてもらえなかった。
 だから8年経ってもまだ解決するどころか、あの頃27万人だった日本の慢性透析患者は31万人に達し、透析医療費はすべて公的負担、患者の10%は生活保護という悲惨な状況になっている。「移植用臓器は各国調達」という国際ルールがあるのに、海外渡航移植者も増えている。
 何とかこの話題がブログ検索で上位になるように、これから頑張りたい。
コメント (10)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【縮む世界】難波先生より | トップ | 【家畜人ヤプー】難波先生より »
最新の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
T細胞の問題 (Nekogu)
2014-03-28 20:34:02

 以前、難波先生の記述の中に、免疫学をよくご存じないのではないかと思われるところがあるので、「米本昌平氏」のところで、意見をさせて頂きましたが、また以前と変わらない記述をされていますので、再度コメントさせていただきます。前回の私のコメントをお読みいただいていないかもしれませんが。

 前回の私のコメントでは「すべてのT細胞」と述べたところを、Akさんに、1-10%を除くT細胞、すなわち「90%以上のT細胞」あるいは「大部分のT細胞」とすべきとの指摘を受けました。
 そのことを踏まえた上でのコメントです。以下、Akさんにもお読みいただければ幸いです。

 私が異論を申し上げたいのは以下の記述です。
>このような(初期化されたT)細胞を用いて、クローンマウスを作製した場合には、もう新たに遺伝子再構成をするだけの「胚型免疫遺伝子」が残されていないので、免疫不全の子マウスが生まれるはずである。・・・
ここで、
・新たに遺伝子再構成をするだけの「胚型免疫遺伝子」が残されていない
・免疫不全の子マウスが生まれるはずである
の記述には、問題があるのではないかと申し上げたいのです。

 前回コメントしたように、大部分のT細胞は、TCR遺伝子再構成を受けていますが、対立遺伝子排除の機構によって、片方の対立遺伝子は「胚型遺伝子」のままです。もしこのT細胞が初期化され、クローンマウスになったとすると、そのマウスのT細胞では、遺伝子再編成が2つの対立遺伝子で非選択的起こるとすると、半分は「まともな」TCR遺伝子再編を受けたものになるのではないかと考えられます。一方のTCR遺伝子が既に遺伝子再編成していることで、対立遺伝子排除や遺伝子再編の機構に予測できないこと起きるかもしれませんが、半分が「まともな」T細胞のマウスが生まれたとすれば、「免役不全」になるとは限らないのではないかと思われるのです。半分が「まともな」T細胞になったとすると、T細胞のレパートリーは半減しますが、免疫機能にそれほど重大な問題は生じないのではないでしょうか。
 実際どうなるかは、T細胞の核移植やT細胞のiPSからクローンマウスを作るなどして試してみないと分からないと思います。免役学系あるいは、発生。再生医学系のどなたかに試して欲しいものだと思います。

以上、コメントします。
返信する
Re: T細胞の問題 (Ak)
2014-03-29 01:46:49
Nekogu 様

一方のアレルが再構成型であったとしてもマウス個体の免疫機能にそれほど重大な問題が生じないのではないか、というNekogu様のご意見には賛成です。

ただ、T細胞の半分が胚型アレルから生じるという仮説には反対です。再構成TCRと胚型TCRのヘテロ接合体のT細胞が分化する際には、再構成TCRが発現されて胚型アレルに対してallelic exclusionを起こす事が想定されます。実際、ovalbuminをClass II MHC依存的に認識するTCRαβのトランスジェニックマウスでは、ほとんどのT細胞がCD4+になるという報告があります。(Murphy KM et al., Science, 1990他)すなわち、胚型アレルの存在の有無にかかわらず、再構成されたTCR遺伝子座が存在していれば、そのアレルが優先的に発現されます。

前述のように、TCRのallelic exclusionは完全ではないので、数%程度、例外的に胚型アレル由来のTCRを持つT細胞ができるようです。

TCRαβトランスジェニックマウスがSCIDを発症したという記載は見つからないので、この数%のT細胞が、レパトアは少ないながら、免疫機能を担う事ができるのだと想定されます。従って、STAP由来マウスがSCIDを発症するだろうという難波先生の予測は違うように思います。
返信する
お礼 (Nekogu)
2014-03-29 09:57:16

Ak 様

今回も、早速貴重なご意見を賜わりありがとうございます。
たいへん勉強になります。


返信する
「STAP騒動」のまとめ:私の場合(1) (Nekogu)
2014-03-31 23:43:14

 難波先生の「STAP騒動」関連のブログを張られている Izumi 氏によると、「ここまで詳細かつストレートに STAP 細胞の信憑性と小保方晴子博士の資質、独創性、誠実さへの疑念を実名で表明している日本語論説は、今のところ見当たらない。」とあります。確かに私もそう思うのですが、その中には、誤りと思われる記述や問題のある記述がいくつか見受けられます。一部は指摘させて頂いたのですが、再三「誤りと思われる記述」を繰り返しておられます。そこで、私の「STAP騒動」の考えを表明することで、難波先生への批判(critique)もさせて頂くことにしたいと思います。そのことで「STAP騒動」の理解が、より正しくなることを期待するものです。私の扱う論点は以下の3つです。1.「STAP論文」の私の読み方、2. 「小保方氏」の私の評価、3. 「STAP」細胞の私の考察。
 
1.「STAP論文」の私の読み方
 Nature Article のSTAP 論文を初めて読んだとき、まず気になったのは、Fig. 1iのレーン3 (CD45+ 細胞)と付属データのFig. 7gの最後のレーン(T cell STAP #2)のDNA泳動パターンに、胚性染色体由来のいわゆいるGL(germ line)バンドがないことと、Cag-GFP STAP のキメラマウスの遺伝子解析のデータがないことでした。前者は、PCR実験が失敗したことを示しており、いかなる場合でも論文に載せるべきデータではありません。後者は、通常の人為的マウスの作製では、生まれたマウスの尾などからDNAを抽出して解析し、仔マウスの由来の「裏付け証拠」を示すことになっていることからすると、異例です。マウスがGFPの蛍光を発しているから、キメラの由来細胞は明白だをいうことかもしれません。当初は、Nature は所詮、商業週刊誌なので、こんなものかな、という感想でした。

 その後「色んなこと」が発覚し、今では「幻のSTAP」になってしまった感がありますが、ここでは「色んなこと」には触れず、論文の内容に限ってさらに論じてみたいと思います。

 それから論文のデータの意味付けを検討してみると、Fig. 1の実験は、T細胞の同定の解析には、全く不十分であることが分かりました。Fig. 1は、サンプル中に、T細胞由来のDNAを含むことを示しているだけで、他の細胞の混入を排除していません。さらには、TCR遺伝子再編のDNA領域であれば、死細胞由来のDNAを含んでいるだけでもよいわけす。つまり、Fig. 1の実験は、サンプル中にTCR遺伝子再編のDNA領域を含むDNAを解析したことを示したに過ぎません。後に、STAP幹細胞がT細胞由来でなかった(TCR遺伝子再編がなかった)として、論文の信頼性を一層失わせる証拠とされたようですが、それは全くの誤解で、STAP細胞がT細胞由来であることを示すデータがない以上、STAP幹細胞がT細胞由来でなくてもいいのです。
(PCRの威力は、実際上も理論通りで、解析領域を含むDNAが反応チューブに数分子あれば確実に検出可能で、数分子以下だと検出できたり、できなかったりすることを確かめた経験があります。)

 このように、実験のデザインそのものが論文の論理構成にそぐわないことからいっても、論文の欠陥はあきらかで、私のNature 論文に対する態度は、若山先生を支持するものです。その点を指摘する声が聞こえて来ないのは不思議です。専門家の間ではよく認識されているのかもしれませんが。   
 普通の学術雑誌に投稿したら、この論文は受理されなかったのではないでしょうか。つまり、Nature 側の査読者に問題があったということになりますが、その点には触れないでおきます。

 その他、気になった点を挙げれば、付属データのFig. 1a の Oct4-GFP発色のpH依存性。HBSSに塩酸を加えただけで、pH 4 - pH 6の範囲で、あんなに細かくpHを制御できるものでしょうか。
 もう一つは、Fig. 1f の、培養中の細胞がGFPを発色する経過を示した図です。あの光る「しわがれた」細胞は、Trypan blue に染まりそうに見えてしまうのです。
 挙げれば、まだまだあるのですが、重大な点には既に触れたので、この論点はここまでにします。
返信する
「STAP騒動」のまとめ:私の場合(2) (Nekogu)
2014-04-01 23:17:46

 前回、少し説明不足のところがあったので若干補足します。
Fig. 1で解析した細胞は脾臓リンパ球から、CD45+, CD45+CD90+でFACSで集めていますが、必ずしも完璧ではありません。STAP細胞、STAP幹細胞は、いわば「生き残り」細胞であり、T細胞以外の混在細胞が生き残ってくる可能性が排除できないということです。STAP幹細胞がT細胞でなかったということは、「T細胞はSTAP幹細胞になり難いらしい」ことを示しているに過ぎません。
 
2. 「小保方氏」の私の評価
 私は人を評価できる程の人間ではないので、報道などから得られた情報をもとに、小保方氏に対する個人的な印象を述べてみたいと思います。
 小保方氏は、Nature 論文の問題だけでなく、博士論文でも問題が指摘され、批判にさらされています。指摘された事実からすれば、やむを得ないように思われます。しかし、こういう問題を招いたのは小保方氏だけの問題ではなく、小保方氏が科学者・研究者として育って行く過程で関わった者達の責任も極めて大きいように思います。見方によっては、問題の博士論文は、W大の大学院生指導のデタラメさへの告発とも受け取ることが出来るとさえ思えるのです。

 若くして、ほとんど実績のないまま、再生医療の「打ち込めるテーマ」に出会い、ハーバードに留学し、理研のグループリーダーに起用され、Nature に論文を発表する、というのは異例と言える程に恵まれた経歴でしょう。しかし、同時に、研究者としての「研鑽の時期」がほとんど見当たらないのです。にもかかわらず、一見「華麗な」経歴を歩めたのは、恐らく小保方氏の「前向きな」行動力のせいではなかったかと思います。氏の研究への情熱が失っていないのであれば、どこかで「研鑽(修行)」を受けて再出発し、その行動力を発揮してほしいものだと思います。

 初期の報道によると、小保方氏が「STAP」に気付いたのは、ヴァカンティ教授のテーマを引き継いで、生体組織幹細胞を「濃縮」あるいは「分別」すべく、極細のパスツール・ピペットで小さい「幹細胞」を通過させていたときで、通過させることで「幹細胞」が増加するように思われ、パスツールを通過させるという「機械的刺激」が「幹細胞」を誘発したとは考えられないか、と思ったというのです。妥当性・真実性・重要性はともかく、他の人の気付かない点に気付くというのは、研究者にとって大切な「資質」ではないか、と私は思うのです。
 また「弱酸性処理」という着想はどうして得たのか、小保方氏に語ってもらいたいものです。

 したがって私は、"「天才科学者」としての小保方のひらめきのようなものがどこにもうかがえない"とか、"・・・独創的なところはどこにもなく、ただひたすら彼女はヴァカンティ教授の説を証明しようと努力しただけのように思える"、とは考えません。

3. 「STAP」細胞の私の考察
 "pH5.7の弱酸性で体細胞の初期化が起こる"とする「STAP細胞」の論文が発表されたときは、ほとんどの人が"じぇ、じえ、じぇ"と驚いたのではないでしょうか。でもちょっと考えると、盲点をつかれたように私には思えるのです。私たちの体の細胞は、通常、弱酸性にさらされることはありません。体表は皮膚上皮に、胃は胃壁に、腸管は絨毛上皮細胞で被われているからです。弱酸性といえども、細胞にとっては致命的なストレスになります。われわれの血液、体液のpHは驚くべき恒常性維持機構でpH7.4±0.5に維持されており、これからずれると病状をきたします。生理的にも弱酸性は生命維持に深刻なことです。しかし、この「弱酸性」に対する細胞応答は、ほとんど研究されていません。現時点では、この細胞の「弱酸性ストレス応答」の基礎研究が必要なのではないかと考えます。

 Nature論文が修正されるにしろ撤回されるにしろ、「STAP」という概念は、なかなか卓越した概念であると私は思っています。この概念によって、これまで独立に提示されてきた体細胞から、ある刺激/ストレスによって得られた多能性(幹)細胞を整理して理解することができるようになるのではないかと思われるからです。

 生物学という科学の論理は、はなはだ帰納的です。理論が現象に追いついていません。そんな中で、K. ポパーの「反証可能性」を持ち出してもあまり役に立たないように思います。生物理論の真偽は、実験による検証による他はありません。

補記:本日、4月1日、理研の調査委員会のSTAP論文に関する報告がありました。私のコメントはそれを全く考慮せずにまとめました。論文の内容には言及しない報告を聞いた後も、コメントに変更はありません。
返信する
難波様、NEGOKU様 (野田晶三)
2014-04-05 23:22:16
御二方のこれからの議論が今後の日本にとっての参考になりますよう、一素人庶民として拝読し私のフェイスブック上にシェアさせて頂きます。
ご無礼ですがよろしくお願い申し上げます。

返信する
あれれ? (ソーランアレマ)
2014-04-07 18:41:40
健康な人の尿はpH6.4ぐらい、痛風や糖尿病の人の尿はpH5.5ぐらいだけど移行上皮もRES系細胞も接してるし血球成分もたくさん混入してるけどな… 射精した後なら精子だって。ひょっとして尿にはSTAP現象を抑える成分でも入ってるのかしら?
返信する
NEGOKU氏さん (BRTATSU)
2014-04-11 00:10:28
STAP細胞の難波先生のプログ早くから拝読させていました。NEGOKUさんのご明察に感心して思わずコメントさせてもらいました。若山先生がやられたキメラマウスのCD45+細胞由来のSTAP細胞であって発生の段階で胎盤作成まで及んでいるが、STAP幹細胞の場合、TCR再構成は認められなかった、胎盤への寄与もないと論文にあります。分裂によってES様細胞ができたのではないかとまで言及しています。この隠れたメカニズムを探索するのが次のステップだと考えます。
返信する
Unknown (凄く頑張って長々と)
2014-06-06 00:37:06
あら、ここでも一人相撲。笑えるわ。おまけに、お間抜けな小保方さん擁護。仕方ないわね、難波先生に難癖つけるためには何か見つけなきゃならないものね。
処方箋、なし!
返信する
皆様、お一人様? (Unknown)
2014-06-14 20:22:04
今でも同んなじ考えなのかしら?
返信する

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事