ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【修復腎移植:小説とドラマ化】難波先生より

2015-06-02 11:19:05 | 修復腎移植
【修復腎移植:小説とドラマ化】
 1)「日経」連載小説「禁断のスカルペル」が5/31(日)の第315回で終わった。さっそくネットに大分の司法書士が感想を書いている。
http://www.hori-office.com/blog/%E7%97%85%E6%B0%97%E8%85%8E%E7%A7%BB%E6%A4%8D/
 <今日まで日経新聞に掲載されていた小説「禁断のスカルペル」。最終回は涙モノでした。
 腎臓の移植は親族の提供が難しい場合、一般のドナーを待つわけですが、その順番はなかなか回ってきません。
 そこであるブラックジャックのような医師が、癌になった腎臓は摘出後処分されるので、その癌の部分を取り除いて、使える腎臓にして移植するというお話です。>

 全体の筋は、東京に住む女医柿沼東子が不倫をして離婚になり、「娘には絶対に近づかない」という一札を取られて追い出され、東北のある医療法人の病院に勤め、そこで泌尿器科医となり病腎移植をする医師陸奥の下でその指導を受ける。が、内通者があり「病気腎移植」が移植学会と厚労省により「悪い医療」として指弾される。その筆頭が、別れた夫がその後再婚した妻の父(娘の義理の祖父)で学会のボス大倉教授という流れで、いささか無理な設定。

 かつての不倫相手である厚労省医系技官の男は、後に病腎移植に対して強圧的監査を行うが、東日本大震災の津浪で死んでしまう。学会ボスの大倉には腎臓がんが見つかり、腎不全になって透析を受けていた孫娘(女医の実の娘)にその腎臓をやりたいと思う。しかし孫は一度母(義母を実の母と思いこんでいる)から腎臓をもらったが、拒絶されたという経験から、臓器移植に倫理的な罪悪感を抱くようになり、移植を拒否する。それに、病腎移植ができるのは、柿沼東子が所属する「陸奥グループ」しかない。
 困り果てた元夫と大倉教授は、東子に手術の依頼だけでなく、娘を翻意させてくれるように頼みこんでくる。しかも実の母子だということは伏せたままで…。

 このクライマックスをどう処理して、大団円に持ち込むか、作者久間十義(ひさま・じゅうぎ)の力量が問われるところで、切り抜きを台紙に貼り付けて、とっくりと読んだ。最終章「翻身」(「翻心」でない)は、第309回から10回にわたり続いた。

 これを作者は「ドナーが死んでも移植された臓器は生き続ける」という、娘から腎臓を提供された高校の校長の話と、東子の実の娘絵里香に、大津波の塩害で絶滅したはずのエリカ(ヒース)の花がロシア正教の教会の建物の陰にひっそりと咲いているのを見せるという、象徴とメタファーを登場させることで、美事な心理ドラマに仕立てた。
 臓器移植のスピリチュアルな問題について、高校生がここまで確固とした意見が述べられるとは思わないが、物語の迫力でその違和感は消されてしまう。

 ことに「翻身」第4回と第5回の、娘の腎臓をもらった水産高校の校長内海康雄が、「娘が津浪で死んだ後で、娘に対して抱いていた罪の意識が初めて消えた。娘は死んだが、彼女の腎臓は私を生かしてくれている。それを意識する時、私の記憶の中で娘は今も生きている」と腎移植を拒む絵里香に話して聞かせる場面はよくできていた。

 仙台社会保険病院外科はかつて盛んに腎移植を行った病院で、2006年までの私の集計で2例の病腎移植が行われているし、アメリカの余剰腎である「US腎」の輸入移植も行われている。2万余人が亡くなった東日本大震災による津浪では、小説のように腎臓ドナーが死んで、レシピエントの体内で腎臓だけが生き続けるというケースもあるだろう。
 それを思うと、この小説の大団円は、絵里香が病腎移植を受けることに「翻身」し、その手術をする実の母の東子が、臓器移植のドナーと患者の心理について初めてその深い意味を悟り、大倉教授が、自分がかつて糾弾した医療を、自らがドナーとなることで理解・支持する側にまわる、という素晴らしいエンディングになっていると思った。

 やがて単行本として出るだろうし、この内容なら映画化もたぶん行われるだろう。
 妻からの腎臓が拒絶された後、ネフローゼ腎を移植して15年以上、元気に暮らしている野村正良さんの取材はしたようだが、ドナーと被移植者の心理をより迫真性のあるものにするためにも、香川県多度津郡まんのう町に住む小学校長石川裕之さん(小径腎がんドナー)、東京に住む「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」執行役員田中弘道さん(妹の小径腎がん腎臓を移植)をぜひ追加取材してほしいと思う。
 作者に対して感謝の意を表するとともに、ねぎらいの言葉を贈りたい。

 2)Biglobe-Newsが7/12(日)からWOWOWで放映開始の連続ドラマ(5回)の「死の臓器」を詳しく予告報道している。病腎(修復腎)移植が主題のドラマだ。
http://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0519/man_150519_7068686899.html

 原作は麻野涼(本名=高橋幸春)『死の臓器』(文芸社文庫, 2013/2:書き下ろし)である。
 これについては前に、AMAZONのレビューに実名で書いたので以下に再掲する。

<久しぶりに良質の社会派ミステリーに接した。
 テレビ局の下請け会社でディレクターをしている沼崎恭太は、出版社で週刊誌の記者として働いていたときに、ある事件で手記を無理やり載せた若い女性が、その直後に自殺し、その責任をとる形で退社したという過去をもつ。
 沼崎の取材チームが自殺の名所、富士山麓の青木ヶ原樹海を訪れ、偶然に若い女性の死体を発見するところから、全体のストーリーが始まる。死体には左腎臓を摘出された跡があり、大量のハルシオンを服用し、凍死したものだった。腎臓摘出は2年ほど前のものと鑑識された。

 日本初の腎臓売買事件が発覚。それをきっかけに「修復腎移植例」の存在が公表される。場所は熊本県A市にある「聖徳会日野病院」。対立する「慈愛会病院」の院長大田有には、分院を建設して聖徳会病院から透析患者をうばい、資金を豊かにして代議士になるという野望がある。

 ある日、慈愛会病院に躁うつ病の女性患者柳沢裕子が来る。「聖徳会病院で、騙されて腎臓を取られた」と担当医に訴える。この話を若い医師から聞いた大田は「私が処理するから、口外するな」と指示する。間もなく、聖徳病院の泌尿器科医日野誠一郎は警察から事情聴取を受けることになる。その間にも大田の新病院建設計画はすすむ。

 やがて慢性腎不全患者の奥村剛とその内妻が、柳沢裕子から腎臓を買ったとして逮捕される。場所は違うが、この事件とその後の展開はほぼ実際に起こったとおりである。狭い町に押しかけるマスコミ、日野医師を犯罪者呼ばわりする日本移植学会理事長、日本透析医学会の理事として調査委員会にもぐり込む大田有。修復腎移植を声高に糾弾する地元選出の代議士上原宗助。

 上原の資金的バックには共健製薬が付いている。上原の右腕といわれた営業部の船橋甫が急に退社した。連絡も取れなくなった。上原はかつて身内の腎不全患者について、日野に医の道に反する要望をして、にべもなく断られたことがあった。
 一方、修復腎移植についてのマスコミの一方的な報道に憤った沼崎は、青木ヶ原遺体について独自調査を開始する。摘出された腎臓は生体腎移植のためではなかろうか?沼崎には小学校長だった父親が、いじめ問題に対するマスコミの一方的報道により、勤務中に脳梗塞で倒れたという「メディア災害」の経験があった。それが彼を報道の世界に向かわせたのだった。

 厚労省の調査で過去2年間に聖徳会日野病院で実施された生体腎移植のうち、1例だけドナーのカルテが不明なものがあった。沼崎は樹海の凍死体とこの不明のドナーを結びつけて推量し、「第二の臓器売買疑惑」というスクープを流してしまう。自分も加害者になったのだ。そこにかつて同じ出版社にいて恋人だった由香里が現れる。由香里は渦中の日野医師の娘だった。その手には行方不明のドナーカルテがあった。父親に頼まれ由香里が厳重に保管していたのだ。由香里は沼崎の誤報をはげしくなじる。

 ドナーは暴力団の抗争事件で殺人の罪を犯して服役し出所した男で、離婚した妻とともに、旧姓に戻っていた実の娘に腎臓を提供したものだった。それを知られたくない父が、極秘にしてくれるように日野医師に頼んだものだった。
 由香里は沼崎に、上原代議士の後援会長が大田医師であること、上原の娘は慢性腎不全のため透析を受けていると告げる。
 上原の娘を取材した沼崎は、彼女が腎移植を上海で受けたことを知る。2年前だ。適切な謝礼はしたが、脳死体からの腎臓移植だと口ごもるように弁解する。会社に連絡し、急きょ上海虹橋空港に飛んだ沼崎には、思いもよらぬ局面が待ち構えていた。…

 国内における圧倒的な臓器不足、それを食い物にする透析業界、移植ツーリズム。慢性腎不全患者をとりまく社会的問題を背景に、国際的広がりをもつ舞台に主要人物を配して、物語を最後まで引っぱって行く作者の力量は確かである。よく取材もしてある。>

 ドラマでは沼崎恭太を小泉孝太郎が演じる。
 日経の小説「禁断のスカルペル」の舞台が東日本に移されていたように、「聖徳会病院」は熊本県A市に移されている。そこでひたすら腎移植を行う、金銭欲・物質欲のない、変わり者の医師日野誠一郎を武田鉄矢が演じる。
 私は滅多にテレビを見ないが、初回は無料だそうなので、小泉孝太郎と武田鉄也の演技を見ようと思う。
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