この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

# 237 ボードレール著 詩集「悪の華」(堀口大学訳)

2006年01月24日 | フランス文学
この本は堀口大学訳のボードレール著 詩集「悪の華」である。1957年11月30日購入と巻末に記入してある。ということは、フランス語の原書の「悪の華」を購入してから8ヶ月あとにこの訳本を購入したということになる。ということは訳本なしに8ヶ月ほどもフランス語だけでこの詩集を読んでいたということだろうか。我ながら面白いことだと思っている。いや原書の方は読んでいたのではなくツンドクだけだったのかもしれない。

この文庫本も50年近く私の本棚に住みついている。引越しの度に私と一緒に付いて来てくれたというわけだ。

しかし、ボードレールの「悪の華」は、惹かれることはあるが、好きでたまらないという詩集というわけではない。

私は二十数年前から葉山に住むようになったが、堀口大学氏は葉山に長く住んでおられ、同氏の住んでおられた家は今でもそのまま残っている。いつかこの家の前を通った時に、美しい若いご婦人がこの家に入って行かれたのを見たことがある。堀口大学氏のお孫さんでもあろうかと勝手に想像した。

折角の機会だ。「信天翁」の全文を一つ引用しておこう。


「信天翁」(ボードレール作 堀口大学訳)

しばしばよ、なぐさめに、船人等、
信天翁(あほうどり)生け捕るよ、
潮路の船に追いする
のどけき旅の道づれの海の巨鳥

青空の王者の鳥も
いま甲板に据えられて、
恥さらす姿も哀れ、両脇に、
白妙の両の翼の、邪魔げなる、櫂と似たりな。

天翔けるこの旅人の、ああ、さても、さま変れるよ!
麗しかりしこの鳥の、ああ、なんと、醜くも、おかしきことよ。
一にんは、パイプもて、嘴こづき
他は真似つ、足なへの片輪の鳥を!

「詩人(うたびと)」も、哀れ似たりな、この空の王者の鳥と、
時を得て嵐とあそび、猟夫(さつを)が矢弾あざけるも
罵詈満つる俗世の地に下り立てば
仇(あだ)しやな、巨人の翼、人の世の行路の邪魔よ。


L’ALABATROS

Souvent, pour s'amuser, les hommes d'equipage
Prennent des albatros, vastes oiseaux des mers,
Qui suivent, indolents compagnons de voyage,
Le navire glissant sur les gouffres amers.

A peine les ont-ils deposes sur les planches,
Que ces rois de 1'azur, maladroits et honteux,
Laissent piteusement leurs grandes ailes blanches
Comme des avirons trainer ~ cot6 d'eux.

Ce voyageur aile, comme il est gauche et veule !
Lui, naguere si beau, qu'il est comique et laid !
L'un agace son bec avec un brfile-gueule,
L'autre mime, en boitant, l'infirme qui volait !

Le Poete est semblable au prince des nuees
Qui hante la tempete et se rit de 1'archer;
Exile sur le sol au milieu des huees,
Ses ailes de geant l'empechent de marcher.


信天翁(あほうどり)はどんな鳥か、私はただ想像だけでイメージを作っていた。しかし3年前に、私の所属している会のリーダーが、帆船「海王丸」に乗船してハワイまで行かれた。その時に撮影した多くのビデオの中で、ハワイの近くで船を追って船にとまっている信天翁を大きな影像で見ることができた。その時、ボードレールのこの詩を思い出した。そしてこの大きな鳥がこの詩のように甲板に無残に横たわっている姿を想像して見た。ボードレールのこの詩が少しはよくわかったような気がしたものである。



画像:ボードレール「悪の華」全訳 堀口大学訳 新潮文庫 昭和28年10月発行  昭和32年6月10日6刷 定価130円

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