MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯615 LGBTへの意識

2016年10月02日 | 社会・経済


 8月21日に閉幕したリオデジャネイロ・オリンピックでは、自らを性的少数者(=セクシャル・マイノリティ)と表明している選手の出場が、オリンピック史上最も多かったという報道がありました。

 米CNNテレビの集計によれば、2012年のロンドン大会の23人、2008年の北京大会の10人を上回り、今回は少なくとも50人以上がオリンピックに出場していて、多様性をテーマの一つに掲げたリオ大会を象徴する出来事として評価されています。

 日本においても、宝塚市や那覇市をはじめとして、また都内でも渋谷区や世田谷区など「同性パートナーシップ条例」を導入する自治体の動きが広がっており、LGBTに代表されるセクシュアル・マイノリティに関する「社会的認知」自体は急速に高まりつつあると言えそうです。

 しかしその一方で、様々な場面における人々の日常的な「意識」という観点から言えば、日本人のLGBTへの理解は必ずしも進んでいるとは言えないのが実態かもしれません。

 2015年には、一橋大学法科大学院生の男性が、同級生に同性愛者であることを友人に公表された後、心身に不調を来たし自殺するという痛ましい事件が起きています。また、最近でも、政治家や芸能人など社会的影響力の大きい人たちによる(彼ら、彼女らへの無理解から来る)差別的発言は後を絶ちません。

 さて、そうした中、研究機関「LGBTマーケティングラボ」(東京)が行った子供を持つ30~59歳の親、560人に対するインターネット調査によれば、もしも自分の子供からLGBTだと打ち明けられたら、約9割が(様々な葛藤はあったとしても最終的には)「受け入れる」と回答したとされています。

 8月23日の日本経済新聞によれば、回答者のうち(子供のカミングアウトを)「好意的に受け入れる」としたのは4.9%、「驚くがすぐに受け入れる」は18.4%、「時間をかければ受け入れられる」が27.0%を占める一方で、「受け入れたくないが、しょうがないので受け入れる」が38.9%、「断固として受け入れられない」は0.8%だったということです。

 受け入れる理由については、「親の意思で変わるわけではない」「ニュースなどでいろいろなセクシュアリティーがあると知っている」などの回答が目立ったと記事はしており、LGBTに対する認識が(一定程度)深まっていることが見て取れます。一方、「受け入れられない」とした人の間では、「この先苦労しそう」など、子供が将来傷つくことを心配する(親ならではの)回答が多かったということです。

 こうして、日本の社会の中に(ある種の「戸惑い」を背負いながらも)その存在感を増しつつあるLGBTに関し、8月26日のThe Huffington Postでは、労働組合の中央組織「連合」が初めて行った(職場におけるLGBTの実態に関する)調査結果の概要を紹介しています。

 連合が、全国で仕事をしている20~59歳の男女1000人に対して行ったインターネット調査によれば、回答者の8.0%が(自分は)LGBTの当事者だと回答しているということです。

 また「LGBTという言葉を知っていたか」という質問に対しては、「知っていた」と回答したのは全体の47.1%、「知らなかった」は52.9%でほぼ拮抗しており、世代別の認知率は20代で54.8%、30代で47.6%、40代で46.8%、50代で39.2%と、若い世代ほど認知率が高い傾向が見られたということです。

 次に、LGBTに対する「イメージ」を聞いたところ、「他の人と変わらない存在」が最も多く47.1%、次いで、「差別や偏見を受け、大変な境遇にある人びと」が41.8%、「テレビに出たりする等、芸術やファッション、芸能等の分野で秀でている人びと」が20.0%、「一部の職業に偏っていて、普通の職場にはいない人びと」が16.5%などとなったとしています。

 また、(LGBTを)「他の人と変わらない存在」と答えた割合は、女性で52.4%、男性では41.8%と女性のほうが有意に高く、「普通の職場にはいない人びと」と回答したのは、20代が10.8%、30代が14.4%、40代19.2%、50代21.6%と、世代が上がるほど(LGBTは)職場にいないと思っていることがわかったということです。

 調査では、「職場の上司や同僚、部下などがLGBTであった場合、どのように感じるか」についても聞いています。

 回答は、「嫌だ」(「どちらかといえば」を含む)が35.0%、「嫌でない」(同)が65.0%となり、3人に1人の割合で、職場に同性愛者やバイセクシュアルがいることに抵抗を感じる人がいることが判ったと記事はしています。

 男女別にみると、抵抗を感じ人の割合は、女性が23.2%、男性が46.8%と女性の2倍となり、世代別では、20代で28.4%、30代で、34.4%、40代で38.0%、50代で39.2%と、世代が上がるほど高かったということです。

 さらに、「職場においてLGBTに対するハラスメントを経験・見聞きしたことはあるか」との質問に対しては、「自分が受けたことがある」が1.3%、「直接見聞きしたことがある」が7.6%、「間接的に聞いたことがある」が15.3%で、職場においてLGBT関連のハラスメントを受けたり見聞きしたりした人の割合は合計で22.9%と、5人に1人以上の割合となったとしています。

 また、これをLGBT当事者が身近にいる人といない人に分けると、身近にいる人では、57.4%と半数を超える結果となっており、LGBTへのハラスメントは職場における身近な問題として認識する必要があると記事はしています。

 さて、今回は調査の主体が労働組合の「連合」ということもあって、(大企業の正規職員を中心としたそれなりに意識の高い階層の状況であることを差し引いても)その結果からは、職場におけるLGBTへの理解はまだまだ進んでいないことが分かります。特に、男性、また高齢になればなるほど、身近なLGBTへの抵抗感が強いことも見て取れます。

 ハラスメント対策にとどまらず、トイレや着替え、人事・服務上の取り扱いなど、LGBTの当事者サイドからの指摘や発信が増えている昨今では、職場管理の上からも、(管理部門ばかりでなく)従業員相互の理解と協力が不可欠であることは言うまでもありません。

 もしも8%がLGBTの当事者であるとすれば、従業員1000人の企業では、そのうちの80人もがセクシャル・マイノリティとして実際にハラスメントのストレスにさらされ、何らかの形で仕事のしづらさを感じているということにもなります。

 リオ・オリンピックではありませんが、個人の能力を(それぞれ)いかんなく発揮してもらうためには、多様性を重視しひとりひとりの個性を尊重できる労働環境づくりを職場ぐるみで考えていく必要があると、今回の調査結果を見て私も改めて感じた次第です。




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