MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯808 日本に専業主婦が多いワケ

2017年06月10日 | 社会・経済


 日本は、女性が無職である割合がOECD加盟国(36か国)の中で34番目というデータがあるそうです。

 勿論、OECDに加盟する(先進)国とはいっても女性が働かなくては食べていけない国も(それなりに)あり、そういう意味では日本が(それだけ)豊かだからと言うことはできるでしょう。しかしそれにしても、日本が(世界的に見て)専業主婦の多い特殊な国であることは、どうやら間違いのない事実のようです。

 さて、それではなぜ、日本には専業主婦が多いのか?

 少し前の記事になりますが、2016年6月30日のPRESIDENT Onlineに、ライフネット生命保険会長兼CEOの出口治明氏が「なぜ、こんなに多いのか?専業主婦世帯数720万!」と題する興味深い論評を寄せています。

 出口氏は日本に専業主婦が多い理由として、政府が専業主婦に対し、政策的に大きな「特典」を与えてきたことを挙げています。

 例えば日本では、勤労者の妻は「第3号被保険者」として自分で厚生年金や基礎年金の保険料を払わなくても老後に厚生年金を受け取ることができます。

 さらに妻が家計を助けるためにパートで働いても、収入が一定の基準をオーバーしなければその特典は維持されるため、専業主婦やパートの主婦が相対的に多くなるのは当然だということです。

 出口氏は、戦後日本にこうした政策が定着した理由を、それが「国」としての大方針(グランドデザイン)の一環だったからだと説明しています。

 氏は、高度経済成長による所得倍増を目指した日本政府は、「アメリカに追いつけ、追い越せと」いうキャッチアップモデルのもと、製造業分野を復興し第2次産業分野を育て、日本経済に拡大の循環リズムをつくることを急いできたとしています。

 その目的を達成するためには、何よりもまず長時間労働を厭わない労働力が必要であり、 さらにそうした労働力が日々再生産される環境が求められた。そこで、妻は自宅に待機し、馬車馬のように働く夫を後方で支援するというモデルが生まれ、女性が家事や育児・介護、そして教育までを全面的に担当して男性は外で働くという、(いわゆる)「性分業」の仕組みが定着したということです。

 この仕組みにインセンティブを与えようと考え出されたのが、「配偶者控除」(税金軽減)や前出の「第3号被保険者」といった専業主婦優遇策だと出口氏はこの論評で指摘しています。

 こうした状況の中、女性たちが「年金保険料を払わなくても年金がもらえるなら、家で子供を育てているほうがトクかもしれない」と考えるのは、確かに極めて合理的な選択でしょう。実際、当時の誰もが(不公平だとかいった)疑問も持たずにこのモデルを受け入れたということです。

 しかし、出口氏によれば、この仕組みがうまくワークしていくためには(その時には気付かなかった)いくつかの条件があったということです。

 戦後40年間の経済成長率は実質で約7%。10年の区切りで経済規模が2倍になった計算です。この論評で氏は、こうした夢のような高度成長が実現したのは
(1)冷戦構造のもと日本がアメリカの庇護のもとに置かれたこと、
(2)アメリカというキャッチアップモデルがあったこと、
(3)人口が増加していたこと、
の3つの前提条件が整っていたからだとしています。

 翻って現状はどうかと言えば、この3つの条件は全て失われ、1980年代後半にアメリカに一旦追いついてしまった日本は、今や少子高齢化や財政再建など課題先進国となってしまった。アベノミクスの成果を政府は主張しますが、この3年間の経済成長率はたったわずかの0.5%程度にすぎず、景気が良くなったという実感も持ちづらいのではないかと出口氏は指摘しています。

 OECDの調査によれば、国民1人あたりの賃金ランキングで1991年に9位(3万6152ドル)だった日本は、2014年には19位(3万5672ドル)にまで落ち込んでおり、さらに問題なのは、1991年の上位20カ国の中25年後に賃金が下がったのは「日本だけ」だという事実だと氏は指摘しています。

 出口氏は、こうした数字を見る限り、日本はもはや「豊かな先進国」から脱落しつつあると見ています。以前は、妻が働かなくても、収入が増えたからそれでよかったが、今や「専業主婦世帯」という制度が成り立たなくなってきている。なので、今では「共働き世帯」が主流となっているという説明です。

 氏によれば、こうした状況に政府も、もっと女性に働いてもらおうとこれまでの専業主婦に対する「特典」をなくしはじめる動きに出ているということです。その背景にあるのは、少子高齢化による人口の減少という大問題であり、女性に働いてもらわなければもはや労働力が確保できない時代がやって来たということでしょう。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、実際、35年前の1980年に614万世帯と全体の3割程度に過ぎなかった共働き世帯は、2014年には1077万世帯へと大きく増加し、その割合も全体の6割に達しているということです。

 一方、1980年に1114万世帯あった専業主婦世帯(←妻が103万円以下の収入の場合も含む)は2014年には72万世帯にまで減少していて、1990年代半ばを境に両者の数は入れ替わったとされています。

 少子化や核家族化によって世帯当たりの人数が減っているため厳密な比較はできませんが、この先、専業主婦から共働きへという傾向が本格化していくのが(ある意味)「必然」であるとすれば、流れに掉さすのは意味のない行為と言えるでしょう。

 で、あればこそ、それぞれ仕事を持ったカップルが助け合いながら安心して社会の基盤を作っていけるよう、様々な制度の再構築を急ぐ必要があると、出口氏の論評から改めて感じたところです。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿