後宮物語<18>

2017-09-01 | ss(後宮物語)
※原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。苦手な方は閲覧ご注意ください。





「あ、ありがと・・」

差し出された懐紙を受け取ると、あたしはそっと頬に当てた。

その瞬間、懐紙から高彬の少将の匂いが香り立ち、慌てて懐紙を頬から離した。

使わずに取っておけばよかった・・・

そんなことを思った自分に、自分でびっくりしてしまう。

あたしってこんなに乙女チックな性格だったかしら?

懐紙を手に、いつまでも涙を拭おうとしないあたしの様子に、高彬の少将が心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうしたの?懐紙が何か・・」

いったん頬に当てた懐紙を慌てて離したりしたから、懐紙が何かおかしいのか、とでも思ったのかも知れない。

「ううん」

慌てて首を横に振る。

「懐紙だと、その・・・お化粧が・・はげちゃうかと思って。だから・・」

手の平で涙を拭い、不自然じゃないように、懐紙を袂に入れる。

思い出にもらって帰ろう。

「あぁ、そうか。ごめん、気が付かなくて」

高彬の少将は済まなそうに言い

「そ、そんなつもりじゃないのよ」

あたしはまたしても慌てて首を振った。

あー、何だか空回りしてる気がする。

あたし、普段はもっと当意即妙な受け答えが出来るはずなんだけどな・・・

手で涙を拭い、ちょっと鼻をすすり

「怪我って足首なのね。痛むの?」

「そうでもないよ、ちゃんと手当てしてもらったから」

「・・・そう、良かった」

「うん」

「・・・」

「・・・」

沈黙が流れる。

それだけ話してしまったら、話すことなんか何もなかった。

もう、帰らないと・・

「じゃあ、あたしはこれで・・」

ノロノロと立ち上がりかけると

「・・・瑠璃さん」

高彬の少将が言い、目が合った。

「ちょっと、待ってもらえないか」

「え、えぇ・・」

座り直すと、反対に高彬の少将が立ち上がり、少し脚を引きずるようにして部屋の奥に向かう。

二階厨子から何かを取り出すと、それを手にあたしの前に座った。

「これ・・」

差し出されたのは、螺鈿細工も見事な小箱で、じっと見ていると

「受け取って」

「・・・」

おずおずと手を伸ばし小箱を両手で受け取る。

「開けてみて」

言われるままに蓋を開けると、中には赤く色づいた紅葉の葉が数枚入っていた。

「これは・・」

「小倉山の紅葉があまりに見事でね。瑠璃さんに見せてあげたいと思ったんだ。それで・・」

「高彬の少将・・」

あたしは高彬の少将を見た。

少し照れくさそうに、あたしの反応を気にしてるような顔───

これをあたしに・・・。

あたしがずっと高彬の少将を思っていた時、高彬の少将もあたしのことを思い出してくれていたと言う事が嬉しかった。

紅葉の葉は、どれも綺麗なままで───

(あっ)

あたしは心の中で息を飲んだ。

高彬の少将は、もしかしたら、この葉っぱを取る時に怪我をしてしまったのではないかしら?

だって、こんな綺麗なままなんだもの・・・

「高彬の少将、もしかしたら怪我って・・・」

思わず聞いてしまうと、高彬の少将は驚いた様に少し目を見開いて

「いや、別に・・」

しどろもどろに言い、それでもあたしが何も言わずにじっと見ていると、やがて観念したように

「うん、実は・・・。誰にも踏まれてない綺麗な紅葉が欲しくて、少し急な坂を登ったら、そこで滑ってしまってさ。ほんと、面目ないよ」

恥ずかしそうに言った。








<続>

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