高彬ボーイ<18>

2017-06-17 | ss(現代・高等科編)
※本館「現代編」設定の2人です※





瑠璃さんをすっぽりと腕の中に閉じ込めながら、ぼくはギュウギュウと回した腕に力を入れた。

「瑠璃さん・・」

泣きじゃくる瑠璃さんは小さな子どもみたいだった。

「怖かったんだから・・」

「ごめん」

瑠璃さんは手の平で涙を拭うと、ぼくの顔を見上げてきた。

涙に濡れる瑠璃さんの目はキラキラしていて、じっと見ていると吸い込まれそうになる。

「瑠璃さん」

ぼくは瑠璃さんの両肩に手を置いた。

言え。

言うなら、今しかないぞ。

ひとつ大きく息を整えると、ぼくはゆっくりと口を開いた。

「瑠璃さん。ずっとぼくが一緒にいてあげるから、だから、もう泣かないで」

一言一言ゆっくりと心を込めて言うと、瑠璃さんはハッとしたように目を見開き、じっとぼくを見ていたかと思うと、やがてコクンと頷いた。

そうして

「本当ね?本当にずっと一緒にいてくれるわね。約束ね?」

「うん、約束するよ」

大きく頷くと、瑠璃さんは、ほぉ・・っと大きく肩で息をついた。

「良かった。あたし、方向音痴だから、こう言う広いところって苦手なのよ」

「・・え」

「でも、高彬がずっと一緒にいてくれると言うのなら安心だわ」

「・・・」

「もうはぐれたりしたらイヤよ」

「・・・」

い、いや、ちょっと待って、瑠璃さん・・

ぼくが「ずっと一緒にいる」と言ったのは、何もディズニーランド限定の話じゃなくて、こう、何て言うか、もっと視野の広い話と言うか、2人の未来を語ったと言うか・・・

「あのさ、瑠璃さん」

言い掛けた次の瞬間「ドーン」と大きな音がして、歓声が沸き上がった。

「わぁ・・!」

瑠璃さんが夜空を見上げ、ぼくも釣られて見上げると、パークの上空に大輪の花が咲いている。

花火だった。

パッと咲いた大輪の花は、キラキラと瞬きながらシンデレラ城に振りかかっては消えていく。

「綺麗ね」

瑠璃さんに下から笑顔で言われ

「・・うん。そうだね」

「すごく楽しい!高彬、誘ってくれてありがとう」

「うん」

ぼくも笑って頷き返した。

告白は失敗に終わったけど、でも、瑠璃さんのこの笑顔に免じてヨシとしよう。

また次の機会もあるだろう。

「ねぇ、高彬。スタージェット乗りに行きましょうよ。きっと綺麗よ」

瑠璃さんに言われ、夜のパークを歩き出す。

まだ遊ぶ人の波、出口に向かう人の波で、人が入り乱れている。

「瑠璃さん、手、繋ごうよ」

手を差しだすと、瑠璃さんがじっとぼくの手を見てきた。

「はぐれないようにさ」

「・・うん」

そっと出された手をしっかりと握り、歩き出す。

せっかくの「夢と魔法の国」で、残念ながらミラクルは起きなかったけど、それでも十分に幸せな気分だった。

それにしても───

嬉しそうな顔で隣を歩く瑠璃さんを盗み見ながら、そっとため息をつく。

瑠璃さんに告白するのは、どうやら一筋縄ではいかないみたいだぞ・・

「ぼくは瑠璃さんが好きだ」

例えばそう言ったとしても、瑠璃さんのことだ

「あら。あたしだって高彬が好きよ。だってあたしたち幼馴染だものね」

なんて言いだしかねない。

いや、言いだしかねないどころか、多いにあり得そうだ。

瑠璃さんに間違いなくぼくの気持ちを伝えるには、いくら鈍い瑠璃さんでも勘違いしないくらいにストレートで、他に解釈のしようがない言葉にした方がいいわけで───

そんなウマい言葉があるのだろうか。

ほんと、授業に「恋愛」の科目を作って欲しいくらいだよ。

告白への道のりはなかなかに前途多難のようで、ぼくはまたしてもそっとため息をついたのだった。








<続>


ディズニーデート編はこれにて終わりです。たくさんの情報提供をありがとうございました。
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