哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

池田晶子さんの「国家」

2010-06-15 01:12:21 | 哲学
 池田晶子さんがプラトンの「国家」に触れている文章はいくつもあったと思うが、極めつけは『帰ってきたソクラテス』の「理想をもたずに生きてみろ」だろう。

 プラトンに「哲人王によって、かく教育された全国民の曇りなき精神の眼が、一糸乱れず彼方の「善(イデア)」を望見している国家、これが私の理想国です。」と言わせている。あの分厚い書物の内容を、池田さんらしく一気にまとめ上げてしまっている。

 それから、ソクラテスのこの言葉「この世には最初からココロしかないのに、何だって皆モノのことなんかでココロ乱して右往左往しているのだか、モノゴコロついた頃から僕は不思議でね。」は、もちろんソクラテスというよりは池田晶子さん自身の言葉であることは明らかだ。

 そして、この章の最後の方の会話では、純粋精神を登場させ、価値を知っているということと、その価値を信じているということとは違うと言う。「いちばんよい」を知ってしまっている彼は、何かを信じるものがもうない、とソクラテス。結局、生きることを欲望しない人間ばかりにこの世がなれば、放っておいても国家なんて消滅すると言う。これこそもちろん、池田晶子さんの謂いである。

プラトン『国家』(岩波文庫)

2010-06-12 00:03:03 | 哲学
 これまで読み通していなかった、プラトンの『国家』を思い立って一通り読んでみた。正義、指導者、国家体制について、緻密な論理対話を続けていくソクラテスの話しぶりは、悪く言うと餅をついたようにねちっこい。池田晶子さんのソクラテスシリーズは、池田さんの性格を反映してか、竹を割るような爽快さがあるが、これはもう書き手の性格によるとしか言いようがないのだろう。

 ここにいるソクラテスは、質問ばかりして自らの考えを簡単には明かさず、読んでいても「意地が悪いなあ」と思ってしまうほどだ。多くの人間の恨みを買いそうな態度に思える。しかし、論理は明快で徹底しているし、隙が無い。本当に真実を知りたいという知識欲を持つ者には、まさに師と仰ぎたくなる気持ちになるのがわかる。


 正義とは何か、善く生きるとはどういうことか、について、根本から問い直すことの意義を感じずにはいられない作品だ。