すてきな茶房とこづち柿
知人が営んでいる喫茶店がある。
外観は古びた田舎造り の民家だが、店内は木の温もりを活かした心地好い和の造りである。
中に入ると、右手には囲炉裏のある四畳半ほどの畳部屋を配し、土間のある昔ながらの民家に少し手を加えた喫茶空間が広がっている。
柱木を寄せ合わせてこしらえた、やや歪みのある素朴なテーブルの上には、小さな水槽(或いは金魚鉢)が置いてあり、水草の合間を6~7匹のメダカが可愛らしく泳いでいる。
椅子もまた木材の気持ちよいうねりが、何とも座り心地がいい。
珈琲の香りに包まれて穏やかな時間が流れていく。
お気に入りの空間である。
この喫茶店は、小山を少し堀り崩したようなところに建っていて、駐車場の片側は1~2メートルほど削った崖になっている。
そして、そこからせり出すように1本の柿の木が生えている。
枝葉は当然、駐車場に覆いかぶさるように伸びている。
友人はここを下見した時、この場所や建物を一目で気に入ったが、喫茶店を始める際にはこの木を切ろうと思った。
店を訪れて下さる大切なお客様の車に、万が一、枝や実が落下してキズをつけるとも限らない。
ところが建物の持ち主曰く、柿の木を切らないことが譲渡の条件との事。
この柿の木の名は『小槌柿(こづちがき)』という。
なんでもこの柿の木は明治の時代からあるらしく、かれこれ樹齢も百年位。
決してそれ程の大木には見えないのだが、幹が太くなるというより、むしろ枝葉の方がが密集するタイプなのかも知れない。
そして何よりも、めったに出会えない珍しい品種の柿なのだそうだ。
そういう珍しい柿の木ならばということで、友人はその条件を受け入れて、今に至っている。
柿の木は毎年、それなりに実をつける。
やや小さめの鶏の卵によく似た形の実である。
割ると中には、実の大きさの割りには大きめな、お菓子の柿の種にそっくりな種がしっかり五つ六つ入っている。
友人が店を始めて3年、毎年なる実は残念なことに渋柿ばかりで、秋の日課はただただ、危険な枝掃いと枯葉掃除に暮れた。
ところが今年は違った。
たわわに実った黄色い実は、なんと甘いことか。
足を運んでくれるお客に振る舞い、たまたまこの時季に訪れた私もたくさんお裾分けを頂きました。
柿を平らげてから思い出した……写真撮るのを忘れました。(不覚)