375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

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●LIVE体験記(8) 「スコットランドの歌姫」 ニーナ・ネスビット(Nina Nesbitt)の野外ライヴ

2014年04月10日 | LIVE体験記



毎年ニューヨークでは4月上旬の一週間、「タータン・ウイーク」と称してスコットランド関連のイベントがあちこちで行なわれる。
その一環としてNYRR(ニューヨーク・ロード・ランナーズ)の協力を得てセントラルパークで開催されるのが「スコットランド・ラン」という10Kロードレース。今年の開催日は4月5日(土曜日)だった。

この大会はレース後に本場スコットランドから招かれたアーティストによるライヴ・ステージを楽しめるのが呼び物となっているが、今年はメインに登場したロングヘアの美少女シンガー・ソングライターが注目されることになった。

「ニーナ・ネスビット」と紹介された彼女は、スコットランドのエディンバラ出身の19歳。
名前は聞いたことがあるような気がしたものの、事実上、その歌声に触れるのはこの日が始めてだった。

すでに2年くらい前からステージ活動を始め、英国内では注目を集めていたらしい。初のメジャー・デビュー・アルバムとなる『Peroxide』をリリースしたのが今年の2月11日。UKアルバム・チャートで初登場11位を記録したという。

本格的なキャリアはまだまだこれからとはいえ、キュートな笑顔とスタイル抜群な容姿、ハスキーな歌声は非凡なものを感じさせ、遠からず世界的にブレイクするのではないかという期待を抱かせる。スコットランド出身のアーティストとしては1970年代のベイ・シティ・ローラーズやシーナ・イーストン以来の大物かもしれない。

そして、この出会いは1日では終わらなかった。
帰宅後に彼女のfacebookを見ると、なんと翌日にも、セントラルパークで無料ライヴを行なうという情報が出ていたのである。

ということで、予告された午後1時、セントラルパーク72丁目にあるベセスダ・ファウンテン(Bethesda Fountain)に到着。
ほどなく取り巻きの女の子たちを従えて、若き歌姫ニーナ・ネスビットが登場する。
そしてボートを楽しむ人々でにぎわう池のほとりで、40分ほどのミニ・ライヴを行なった。


以下、写真付きで解説。


★多くの人たちでにぎわうセントラルパークの心臓部、ベセスダ・ファウンテン(Bethesda Fountain)。


★昨日とは一味違う大人っぽさを感じさせるヘア・スタイル。日差しが眩しい好天ということもあり、おしゃれなサングラスで登場する。
ボートで遊ぶ人たちも思わず振り向くようなハスキーな美声。


★時おり見せる「100万ドルの笑顔」が素晴らしい。いや、英国人だから「100万ポンド」か?


★ライヴが終わり、ファンと交流のお時間。同世代の女の子のファンが圧倒的に多く、一部男性の音楽マニアが加わるという構図。


★道行く人からサインを求められ、気軽に応じる。身長は自分より1~2cm高い程度(170cmくらい)なのだが、スタイルが抜群にいいので、遠目にはもっと長身に見える(しかもハイヒールではなく、ナイキのシューズ)。


★女の子の取り巻きが多かったので2ショットは半分あきらめかけていたのだが、ラスト・ミニッツのチャンスをモノにした。アメリカには滅多に来ないだろうから、これは貴重である。

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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(4) 『SONGS FROM THE SILVER SCREEN』

2014年03月29日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『SONGS FROM THE SILVER SCREEN
(2012年10月3日発売) SICP-3588

収録曲 01.PURE IMAGINATION (ピュア・イマジネーション ~映画夢のチョコレート工場) 02.THE MUSIC OF THE NIGHT (ミュージック・オブ・ザ・ナイト ~映画オペラ座の怪人) 03.CAN YOU FEEL THE LOVE TONIGHT (愛を感じて ~映画ライオン・キング) 04.REFLECTION (リフレクション ~映画ムーラン) 05.THE SUMMER KNOWS (おもいでの夏 ~映画おもいでの夏) with クリス・ボッティ 06.I SEE THE LIGHT (輝く未来 ~映画塔の上のラプンツェル) with ジェイコブ・エヴァンコ 07.WHAT A WONDERFUL WORLD (この素晴らしき世界 ~映画グッドモーニング、ベトナム)  08.SE (ニュー・シネマ・パラダイス 愛のテーマ ~映画ニュー・シネマ・パラダイス) 09.MY HEART WILL GO ON (マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン ~映画タイタニック) with ジョシュア・ベル 10.COME WHAT MAY (カム・ホワット・メイ ~映画ムーラン・ルージュ) with カナディアン・テナーズ 11.SOME ENCHANTED EVENING (魅惑の宵 ~映画南太平洋) 12.WHEN I FALL IN LOVE (恋に落ちた時 ~映画めぐり逢えたら) 

日本盤ボーナス・トラック 13.荒城の月(THE MOON OVER A RUINED CASTLE )


クラシカル・クロスオーバーの歌手たちが好んで採り上げるレパートリーのひとつに、スクリーン・ミュージック(映画音楽)がある。スクリーン・ミュージックは映画の雰囲気を盛り上げる背景音楽という役割以上に、独立した音楽作品として優れたものが多い。20世紀の中盤以降になると本流のクラシック音楽が極度に実験的な方向に傾き、一般のリスナーには難解になりすぎてしまったこともあり、もっと親しみやすく、万民に愛好される真のスタンダード音楽が求められるようになった。その一つとして脚光を浴びてきたのがスクリーン・ミュージックであり、中でもアカデミー主題歌賞クラスの名曲は、事実上クラシックと同等の音楽と見なされるようになったのである。

ジャッキー・エヴァンコは、世界で最も映画産業が盛んなショー・ビジネスの大国、アメリカで生まれ育った。現在のところ、クラシカル・クロスオーバーの分野で活躍する歌手は、歴史的にクラシック音楽の土壌が豊かな欧州勢が主流であり、ポピュラー音楽が主流のアメリカ勢はやや旗色が悪かったが、ジャッキーの登場によって今後の勢力地図が変化していくかもしれない。アメリカのクラシック・ファンにとっては、まさに期待の星なのである。

アメリカ人としてのジャッキーは、ふつうの子供と同じように、ディズニー映画やハリウッド・ムービーを日常的に楽しんでいる。それだけでも、ごく自然に歌のレパートリーが増えていくという恩恵があるかもしれない。11歳で録音したアルバム『DEAM WITH ME』には、映画『ピノキオ』の主題歌「星に願いを」が収録されているし、同時期に録音したクリスマス・アルバム『HEAVENLY CHRISTMAS』では映画『ポーラー・エクスプレス』の主題歌「BELIEVE」の見事な名演を聴くことができる。

そして12歳になって録音された新しいアルバムでは、いよいよ全曲スクリーン・ミュージックの名曲という願ってもない企画が実現されることになった。

タイトルは『SONGS FROM THE SILVER SCREEN』(日本盤タイトル『SONGS~銀幕を彩る名曲たち』)。ジャケットに使われたモノクロのポートレイトも往年のハリウッド女優さながらの美しさであり、レコード製作者が、今は失われつつあるアメリカン・ドリームの復活を、彼女に賭けているような雰囲気を感じさせる。

ここに収録された12曲(日本盤ではボーナス・トラック「荒城の月」を含む13曲)はいずれ劣らぬ名曲ぞろいだが、個人的によく愛聴するベスト3を選ぶとすれば、『オペラ座の怪人』の主題歌「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」、『ムーラン』の主題歌「リフレクション」、『タイタニック』の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」になるだろうか。次いで、本田美奈子が日本語でカバーしている『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマも欠かすことはできない。

まず『オペラ座の怪人』の「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」 であるが、これは本当にすごい。この曲は、オペラ座の地下深くの隠れ家にヒロインを招いた怪人が扇情的に歌うラブソングで、抑圧された感情を一気に放出するシーンで歌われる。もともと『オペラ座の怪人』は大人向けの文学作品で、幼少の子供には到底理解できそうもない苦味のあるロマンスが展開されているのだが、当時12歳のジャッキーは圧倒的な声量と陰影豊かな感情表現でこともなげに歌ってしまう。曲の終盤近くに訪れる、狂おしいほどのエクスタシーの一撃も、すさまじい迫力だ。これは滅多にお目にかかれない世紀の名演と言えるのではなかろうか。

それにも増して深い感動を呼び起こされるのが、『ムーラン』の主題歌「リフレクション」。この曲は数あるディズニー映画の主題歌の中でも1、2を争う名曲だと思う。しかも、ジャッキーの圧倒的な歌唱はオリジナル歌手の数段上を行き、まさに究極の「リフレクション」を聴かせてくれる。

女性に生まれながら男性として戦地に向かうムーランは、いわば東洋版ジャンヌ・ダルクのような存在だが、もちろん歴史上のジャンヌ同様、好きで闘っているわけではない。運命の神に選ばれてしまったがゆえに、誰にも打ち明けることのできない心の葛藤を秘めながら、与えられた役柄を演じているのである。しかし、自分の心だけはだますことができない。ふと鏡を見ると、自分をまっすぐに見つめ返す、もうひとりの自分がいる。いつになったら鏡に映る自分が、ほんとうの自分になるのだろうか・・・

人間存在の根源を問いかける深遠な歌詞。これだけの哲学的内容を封じ込めているのだから、ディズニー映画も侮れない。おそらく人生の岐路に直面するたびに、この永遠の問いかけを、ジャッキーの歌声とともに思い起こすことになるだろう。

そして『タイタニック』 の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」。世界中で大ヒットしたセリーヌ・ディオンのオリジナルは、愛の強さを前面に打ち出した名演だが、同じ曲をジャッキーが歌うと、愛の強さより、むしろ命の尊さというか、世界最大の海難事故で犠牲になったひとりひとりの魂に呼びかけるような鎮魂歌(レクイエム)の趣きを感じさせる。このような年齢に似合わない包容力の深さはデビュー当時からのジャッキーの特色であり、彼女のステージをショー・ビジネス的なパフォーマンスから、普遍的な芸術表現の次元に高めている大きな要素となっている。

エンニオ・モリコーネの名曲『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマも、大人の歌手顔負けの成熟した表現で聴かせるし、古くからの映画ファンにはお馴染みの『おもいでの夏』や『南太平洋』のような古典的名作も、完全に自分のレパートリーとして消化しているのだから、たいしたものと言うほかはない。

比較的幼少の時期から才能を発揮するアーティストは歴史上数多くいるし、これからも出てくるだろう。しかし、どんな神童と比べても、ジャッキーには特別な輝きがあると思う。 自分が50年以上の人生を歩んできて、ようやく出合った本物の天才という実感があるし、残りの人生を彼女に賭けてもいいという思いもある。無限の可能性を100%開花させるのは、まだまだこれから。今はその成長ぶりを、じっくりと楽しんでいきたいものである。



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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(3) 『HEAVENLY CHRISTMAS』

2014年02月10日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『HEAVENLY CHRISTMAS
(2011年11月29日発売 in USA) SYCO MUSIC/COLUMBIA 88697-97768-2

収録曲 01.I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS(クリスマスはわが家で過ごそう) 02.THE FIRST NOEL(牧人羊を) 03.AWAY IN A MANGER(飼い葉のおけで) 04.BELIEVE(ビリーヴ) 05.WHITE CHRISTMAS(ホワイト・クリスマス) 06.WHAT CHILD IS THIS(御使いうたいて) 07.O COME ALL YE FAITHFUL(神の御子は今宵しも) 08.O LITTLE TOWN OF BETHLEHEM(ベツレヘムの小さな町で) 09.WALKING IN THE AIR(空を歩いて) 10.DING DONG MERRILY ON HIGH(ディンドン空高く)


アメリカでは11月下旬の感謝祭ウイークが終わると、街はクリスマス一色となり、あちこちで毎度お馴染みのクリスマス・ミュージックが流れるようになる。日本でもクリスマスの時期が近づけば似たような状況になるのだが、アメリカの場合はキリスト教国家だけあって、その度合いは遥かに大きく、明けても暮れても定番のクリスマス・ミュージックが耳に飛び込んでくるような毎日になる。実際、同じ曲目を一日中繰り返しているFM放送局もあるので、聴いているほうは、さすがに食傷気味になってしまう・・・というのが正直なところだ。

それだけに、クリスマス・ミュージックの需要は市場的に大きく、一つのジャンルになっている。多少でも一般的な知名度のある歌手であれば、必ずと言っていいほどクリスマス・アルバムの1枚や2枚は出しているし、出せば確実に売り上げが計算できるので、どのレコード会社も、11月のシーズンにクリスマス関連の企画物をリリースするというのは、もはや定石となっている。

そして、2011年11月にアルバム『DREAM WITH ME』をリリースし、ビルボードのクラシカル・チャートで初登場1位となる大ヒットを記録したジャッキー・エヴァンコも例外ではなく、なんと、そのわずか数週間後に10曲入りのクリスマス・アルバム『HEAVENLY CHRISTMAS』を出している。こちらもビルボードのクラシカル・チャートで1位となり、2011年のクリスマス・シーズンはジャッキーの歌声がアメリカ中を席巻することになった。

この2つのアルバムは、おそらく平行して録音が進められたと思われるが、『DREAM WITH ME』 が新たなクラシカル・クロスオーバーの地平を切り開いた本格的力作であるのに対し、『HEAVENLY CHRISTMAS』はもっと肩の力を抜いたカジュアルなアルバムという作りになっている。ところがジャッキーの場合は、たとえ肩の力を抜いていても天使の歌声はいささかも穢れることはなく、芸術的な水準を立派に維持しているのだから、やはりただ者ではない、というべきだろう。

まず、アルバムに選ばれた曲目が魅力的である。 個人的に最も惹かれるのが4曲目の「BELIEVE(ビリーヴ)」。これは2004年に劇場公開されたアニメ映画『ポーラー・エクスプレス』の主題歌で、アカデミー主題歌賞候補にもなっている名曲だ。オリジナルを歌っているジョシュ・グローバンはアメリカ期待の若手クロスオーバー歌手であり、情感あふれるスケールの大きな歌唱は本当に素晴らしい。

・・・が、ジャッキーの歌唱はさらにその上を行く。かすかな鈴の音を伴奏に美しく伸びていく歌声は、どこまでも純粋・透明で、そのクリスタルのような輝きは比類がない。さながら北の大地を照らす北極星のように、俗世間のあらゆる雑事を超越したファンタジーの世界へ誘っていく。

こういう響きは女性の色気があっては出せない。ジャッキーの年齢にあたる少女が真心をこめて歌うか、あるいは最晩年の本田美奈子のように徹底的に訓練して天使の声を自分のものにしたレベルの歌手でなければ不可能な「彼岸の領域」だと思う。このような歌声が聴けるだけでも、このアルバムの価値は無限大に近い。

往年の名優ビング・クロスビーがオリジナルを歌った1曲目の「I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS(クリスマスはわが家で過ごそう)」も素晴らしい。いかにも昔のハリウッド映画特有のノスタルジックな雰囲気を持った名曲で、多くの歌手がカバーする定番になっているが、ジャッキーの表現はゆったりしたテンポで、メロディラインの美しさを十二分に引き出すものとなっている。そこに秘められているのは、もはや死語になっているかもしれない「アメリカン・ドリーム」への新たな憧憬。それは将来への無限の夢を持っている少女だからこそ成しえた奇跡ではあるまいか。これを聴くと、ジャッキーの歌声に忘れかけていた希望を再発見している年配のアメリカ人の気持ちがわかるような気がする。同じビング・クロスビーが歌ったもうひとつの収録曲「ホワイト・クリスマス」にも同じことが言えるだろう。

9曲目の「WALKING IN THE AIR(空を歩いて)」は1982年に英国で放映されたTVアニメ「スノーマン」の挿入歌で、これも多くの歌手がカバーするクリスマスの定番になっている。アニメでは雪だるまと少年が空を飛ぶ場面で印象的に使われているが、ジャッキーはここでも幻想的なメロディラインを存分に生かしながら、夢をいっぱいに詰め込んだファンタジーを表現している。目を閉じて聴いていると、ほんとうに雪だるまと空を飛んでいるような感覚になってくるから不思議だ。

それ以外の収録曲は、古くから歌われているトラディショナルなクリスマス・キャロルが中心のラインアップ。2010年に発表したミニ・アルバム『O HOLLY NIGHT』の延長上にあたるような選曲で、ふつうの歌手なら2~3回で飽きてしまうかもしれない。ところが、ジャッキーが歌うと、どの音楽も見違えるようにリフレッシュされて聴こえるのが驚きだ。

すべての名曲を、この人の歌声で聴いてみたい・・・そう思わせるのが真の名歌手の条件だとすれば、ジャッキー・エヴァンコはこの条件に当てはまる稀有な名歌手だと思う。

今まで、いろいろな歌手のクリスマス・アルバムを聴いてきたが、もしかしたら、これが史上最高かもしれない。
 

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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(2) 『DREAM WITH ME』

2014年02月02日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『DREAM WITH ME
(2011年11月12日発売) SICP-3218

収録曲 01.WHEN YOU WISH UPON A STAR (星に願いを) 02.NELLA FANTASIA (ネッラ・ファンタジア) 03.A MOTHER'S PRAYER (祈り) with スーザン・ボイル 04.NESSUN DORMA (誰も寝てはならぬ~歌劇トゥーランドットより) 05.ANGEL (エンジェル) 06.O MIO BABBINO CARO (私のお父さん~歌劇ジャンニ・スキッキより) 07.SOMEWHERE (サムホエア~ミュージカルウエストサイド・ストーリーよりwith バーブラ・ストライサンド 08.ALL I ASK OF YOU (オール・アイ・アスク・オブ・ユー~ミュージカルオペラ座の怪人より) 09.OMBRA MAI FU (オンブラ・マイ・フ~歌劇セルセより) 10.LOVERS (ラヴァーズ) 11.IMAGINER (イマジネ) 12.THE LORD'S PRAYER (主の祈り) 13.TO BELIEVE (トゥ・ビリーヴ) 14.DREAM WITH ME (ドリーム・ウィズ・ミー)


10歳のクリスマス・シーズンに発売されたメジャー・レーベルでの初アルバム『OH HOLLY NIGHT』(4曲+DVD付きのミニ・アルバム)が史上最年少のミリオンセラーを記録し、天才歌姫としての人気を不動のものとしたジャッキー・エヴァンコは、翌11歳のクリスマス・シーズンに向けて、いよいよ2枚目のアルバムを準備することになった。しかも、こちらは14曲収録で初のフル・アルバムである。

11歳となった2011年10月には、新しいアルバムのプロモーションのため初来日し、TV番組で天使の歌声を披露。これがきっかけで、日本でもファン層が拡大することになった。

そして同年11月に待望の新アルバム『DREAM WITH ME』が発売。ビルボード・アルバムチャートで初登場2位、クラシック部門では1位を記録し、前作に続いて瞬く間にミリオンに達する大ヒットとなったのである。

これはほんとうに素晴らしいアルバムだ。何よりも選曲が良く、11歳当時のジャッキーの持ち味である天使のように透明な高音の伸びを十二分に引き出している。もしかしたら、二度とできないような奇跡かもしれない。数あるクラシカル・クロスオーバー系のアルバムの中でも、本田美奈子の『AVE MARIA』や『時』と並ぶのではなかろうか、と思えるような大傑作だと思う。

・・・と、ここまで書いて手が止まった。
いくら天才歌姫とはいえ、11歳の時点で「あの本田美奈子と並ぶ」と書いてしまっていいのだろうか?

そこで、改めて2人の共通する収録曲を聴き比べてみることにした。 
 

(1)NESSUN DORMA (誰も寝てはならぬ~歌劇『トゥーランドット』より)

ジャッキーの表現はイタリア・オペラ独特の巻き舌も巧みに駆使し、実に堂々としたものだ。しかも一般のオペラ歌手にありがちな押しつけがましさは全くなく、どこまでもピュアで、力強さもある。最後の「星は沈む!暁はわれに勝つ!」のあたりなど、すごい迫力で、とても11歳の少女が歌っているとは思えない。それに対して本田美奈子は日本語訳。オペラ的な編曲ではない。しかし、十分にドラマを感じさせる。微妙な息遣いを駆使しての感情表現など、さすがだと思う。このあたりは長年ミュージカルなどの舞台を経験している美奈子のほうに一日の長はありそうだ。力強さにも欠けてはいない。
 

(2)O MIO BABBINO CARO (私のお父さん~歌劇『ジャンニ・スキッキ』より)

ジャッキーの得意とするイタリア・オペラの曲目。恋を経験しているとは思えない11歳の少女が、正攻法で堂々と一途な恋を表現する。聴かせどころで思い切りロングトーンを伸ばすところなど、千両役者の風格さえ感じさせるほどだ。 それに対して本田美奈子はこちらも日本語訳。しかも岩谷時子による作詞が素晴らしく、原曲にはない「お父さんへの感謝といたわり」が加えられている。美奈子の歌唱もそちらの線に沿った繊細な感情表現に比重を置いているので、原曲にはない感動があり、その点は他のいかなるクロスオーバー歌手も及ばないところであろう。


・・・というわけで、やはり現時点ではわずかに本田美奈子のほうに分がありそうだが、ジャッキーがこのまま経験を重ねていけば、遠からず互角のラインに届く潜在能力があるのは間違いないところだ。そもそも「聴き比べてみよう」と思わせること自体が凄い。今まで、そこまで思わせる歌手が現われたことがなかったのだから・・・

ジャッキーは、歌声だけを聴くと、すでに成人に達しているようにも思える。「A MOTHER'S PRAYER (祈り)」は奇跡の歌姫とも呼ばれるスーザン・ボイルとのデュエットだが、録音当時50歳のスーザンよりも11歳のジャッキーのほうが「大人の声」に聴こえてしまう。歌っていない普段着の彼女は決して大人びた少女とは思えないのに、歌い始めると他の魂が入り込んだように声が変わってしまうというのは、ほんとうに不思議である。

この分野を代表すると言ってもいい名盤だけに、収録曲はどれも甲乙付けがたい出来なのだが、個人的にはサラ・マクラクランの「ANGEL (エンジェル)」と、ララ・ファビアンの「IMAGINER (イマジネ)」に強く心を動かされた。特に後者はまるでラフマニノフそのもののピアノ・ソロが効果的に用いられているところが微笑ましい。

あと、アルバムの最後のほうに収録されたオリジナル(?)の2曲も感動的だ。ジャッキー自身の語りも入る「TO BELIEVE (トゥ・ビリーヴ)」の作者はマット・エヴァンコなる無名のアーティストとなっているが、どうやらジャッキーの叔父らしい。そういえばジャッキーの両親もそれぞれ楽器を弾けるし、なかなかの音楽一家のようだ。エヴァンコという苗字から察するにもともとはロシア・東欧系の血筋が流れているようで、そのあたりがクラシカルで情緒のある音楽性に起因しているのかもしれない。

アルバムの最後を飾る「DREAM WITH ME (ドリーム・ウィズ・ミー)」には、ジャッキー自身も作曲者に名を連ねている。これだけの才能の持ち主であれば、ゆくゆくは自作の曲を出しても不思議ではないだろう。最近のインタビュー記事では、将来は大学に進学して哲学を学び、曲作りに役立てたいというようなことも話していた。家庭環境もしっかりしていて問題なさそうだし、未来に向けての具体的な青写真もある。きっと期待通り、世界の歌姫に成長してくれるに違いない。 
 



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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(1) 『O HOLLY NIGHT』

2014年01月12日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『O HOLLY NIGHT
(2010年12月7日発売 in USA) SYCO MUSIC/COLUMBIA 88697-81151-2

収録曲 01.SILENT NIGHT (きよしこの夜) 02.PANIS ANGELICUS (天使の糧) 03.O HOLLY NIGHT (さやかに星はきらめき) 04.PIE JESU (ピエ・イエズ~アンドリュー・ロイド・ウェーバー:レクイエムより)

[DVD] 01.YouTube Audition: PANIS ANGELICUS (天使の糧) 02.From "America's Got Tarent": O MIO BABBINO CARO (私のお父さん~歌劇ジャンニ・スキッキより) 03.From "America's Got Talent": TIME TO SAY GOODBYE (タイム・トゥ・セイ・グッバイ) 04.From "America's Got Talent": PIE JESU (ピエ・イエズ~アンドリュー・ロイド・ウェーバー:レクイエムより) 05.From "America's Got Talent": AVE MARIA (バッハ~グノー) 06.AN INTERVIEW WITH JACKIE


クラシック音楽といえば、純然たるクラシックの専門教育を受けた音楽家たちが演奏する音楽・・・というイメージが長らく存在し、クラシックの専門教育を受けていない立場の人たちから見れば、少なからず敷居の高い面があった。大衆的なポピュラー音楽のファン層と、高踏的(?)なクラシック音楽のファン層では明らかな違いがあったのである。

しかし、現在はポピュラー音楽からクラシック音楽に移行する境界線が徐々に緩和されつつあるように思える。その傾向に大きな役割りを果たしているのが、1990年代から始まった「クラシカル・クロスオーバー」と呼ばれる新しいサウンドの音楽で、クラシック音楽のようなオーケストラ演奏をベースにしながらも、ポピュラー音楽的な親しみやすいメロディが歌われ、敷居の高さを感じることもない。歌手はクラシックの発声法を用いながらも、ポピュラー歌手のように自在な感情表現で歌う。特定のジャンルを超えた、いわば異種格闘技のような音楽が、現代のミュージックシーンにおけるひとつの流れになりつつある。

この分野の女性歌手で最大の大御所と見られているのが、サラ・ブライトマンであろう。特に1996年に発表された盲目のテノール歌手アンドレア・ボッチェリとのデュエット曲『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』は全世界で爆発的なヒットとなり、人気のスタンダード・ナンバーとして定着することになった。

その後、世界各国でクラシカル・クロスオーバーの分野に挑戦する歌手が続々と登場。日本ではアイドル歌手からミュージカル女優に転身した本田美奈子が、2003年に初のクラシカル・クロスオーバー・アルバム『アヴェ・マリア』をリリースした。「日本のサラ・ブライトマン」を目指していた彼女は『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』を初めとする名曲の数々を日本語訳で歌い、その天使の歌声と形容される澄み切ったソプラノ・ヴォイスは、日本の音楽界に新たな道標を与えるものとして大成を期待された。

しかし2005年11月、本田美奈子は志半ばで天国に召される。それからというものは、同時期にデビューしたキャサリン・ジェンキンズやヘイリー・ウェステンラに期待するほかないだろうな・・・と思っていたのだが、個人的にはやはり本田美奈子がいなくなった穴はあまりにも大きく、彼女と同等の魅力を持つ本当のスーパースター、将来の人生を賭けてもいいと思わせるような真の歌姫の出現を心から待ち望んでいたのである。

そして数年の歳月を経て・・・ついに現われた。
YouTubeで映像を最初に見た瞬間から「もしかしたら彼女が・・・」と思っていたが、もう確信していいだろう。

ジャッキー・エヴァンコ。2000年4月9日生まれ。この記事を書いている時点で13歳。

2010年8月(当時10歳)にTV放映された人気のオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント(America's Got Talent)」で決勝まで勝ち進んだのがきっかけとなり、大人のオペラ歌手顔負けの歌唱力で一躍全米の人気者となった。それ以前に各種のローカル・オーディションには何度も登場しており、10歳の誕生日直前には地元の大リーグ球団ピッツバーグ・パイレーツの開幕戦で国家斉唱の大役を果たしている(YouTubeで映像を見ることができる)。

また、その前年(2009年)の時点で大物プロデューサー、デイヴィッド・フォスターが彼女の才能に目をつけており、同年11月には最初のアルバム『PRELUDE TO A DREAM』を自主制作盤でリリースしている(このアルバムには『アメイジング・グレイス』を含むクラシカル・クロスオーバー系の名曲が14曲収録されているが、翌年の「アメリカズ・ゴット・タレント」でジャッキーが全国的に有名になると、両親は「1年半で段違いに進歩した歌声はこんなものではない」として、このアルバムを引っ込めてしまった。そのため、現在では入手難のコレクターズ・アイテムになっている)。

9歳から10歳までの間に飛躍的に成長したジャッキーは2010年12月、満を持してメジャーレーベルでの初アルバムをリリース。それがここに紹介する『O HOLLY NIGHT』である。CD+DVDの2枚組で、収録曲はCD4曲、DVD5曲というミニ・アルバム。すでに発売時点で全米に名前が知られた人気者になっており、ビルボード初登場2位(クラシック部門では1位)、総売り上げは100万枚を突破。ミリオンセラーの史上最年少記録を打ち立ててしまった。まさに「天才歌姫現わる!」である。

CDに収録された4曲はいずれもクリスマス向けのナンバーなので、誰もが抵抗なく聴けるだろう。あまりにも有名な『SILENT NIGHT(きよしこの夜)』や『O HOLLY NIGHT(さやかに星はきらめき)』 は、ジャッキーの澄み切ったソプラノ・ヴォイスで聴くと、俗世間の荒波から救済されたような気持ちになるし、セザール・フランク作曲の『PANIS ANGELICUS(天使の糧)』は文字通り天使のような美声で身も心もとろけそうになる。アンドリュー・ロイド・ウェーバー作曲の『PIE JESU(ピエ・イエズ)』は前記3曲よりも現代寄りの宗教曲だが、これがまた、言葉が出てこないほど魅力的。まるで別世界から響いてくるようなピュアな歌声だ。

DVDには 『PANIS ANGELICUS(天使の糧)』のYouTube オーディションと、「アメリカズ・ゴット・タレント」で勝ち進んだ4曲のライヴ映像が収録されている。いずれも10歳の少女とは思えない堂々たる歌いっぷりだが、個人的には『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』を歌っている時の映像が、どうしても生前の本田美奈子とダブって見えてしまう。歌い方や声も似ている気がするし、体全体から自然に湧き上がってくる感情表現も「本田美奈子が歌わせている」と想像すれば、なるほどと思ってしまう。インタビューで垣間見える愛嬌たっぷりなキャラも瓜二つだ。

やはり、ジャッキーこそ真の後継者であることは間違いないのではなかろうか・・・
 

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●歌姫たちの名盤(24) デビー・ギブソン 『Ms. VOCALIST -Deluxe Edition-』

2013年12月24日 | 歌姫④ 洋楽・クロスオーバー系


デビー・ギブソン 『Ms. VOCALIST -Deluxe Edition-
(2011年1月26日発売) SICP 3002~3

収録曲 01.TSUNAMI 02.SAY YES 03.I LOVE YOU 04.浪漫飛行 05.Suddenly ~ラブ・ストーリーは突然に~ 06.TRUR LOVE 07.瞳をとじて 08.桜坂 09.HOWEVER 10.ロビンソン 
Bonus Tracks 11.LOST IN YOUR EYES 2010 12.世界の誰よりきっと with Eric Martin 13.LOST IN YOUR EYES 2010 (Japanese Ver.) Bonus Tracks for the Deluxe Edition 14.ONLY IN MY DREAMS 15.SHAKE YOUR LOVE 16.OUT OF THE BLUE 17.FOOLISH BEAT

[DVD] 01.Special Interview Part 1 02.I LOVE YOU (Music Video) 03.Special Interview Part 2 04.「ベストヒット・カバー祭」ダイジェスト 03.Special Interview Part 3


戦後の日本歌謡曲史を振り返ってみると、常に何らかの形で外国からの影響を受けているのがわかる。エルヴィス・プレスリーがデビューした1956年以降、日本ではロカビリーが流行し、その後の歌謡POPSを形作る基礎となったし、ビートルズが初来日した1964年以降になると、グループサウンズが時代を牽引するようになり、その斬新なリズムが当時の若者の心を捉えていった。

日本人作曲家と作詞家による独自の歌謡曲が確立してくる1970年以降、一時的に外国の影響から遠ざかったように思われた時代もあったが、1980年代初頭に全世界を席巻したディスコ・ブームによって、日本でもディスコ歌謡と言われるジャンルが生まれ、さらにはマイケル・ジャクソンやマドンナの影響もあって、激しい動きを伴う視覚的効果の強い楽曲が増えていったのである。

このように世界的な新しい波を浴びながら、徐々に形を変えて発展してきたのが日本歌謡曲の歴史である。いつまでも昔のままの歌謡曲に固執していると生き残ることができない・・・というのは、ある意味自然な流れでもあり、それはそれで受け入れるしかない宿命であるとも言えるだろう。

そして1990年以降、昭和歌謡曲の全盛期が過ぎ去ると、いよいよ平成「J-POP」の時代となる。この「J-POP」 という音楽は、もともとは1970年代後半から台頭してきた都会派シティポップス(いわゆる「ニュー・ミュージック」)から派生してきたものだが、日本人が作った音楽でありながら、ほとんど外国曲を聴いているのと変わらないような音楽的な心地よさ(平たく言えば「カッコよさ」)を備えているのが特徴だ。単刀直入に言えば、無国籍の音楽なのである。

そのことを明白に物語るのが、英語のフレーズやカタカナによる題名の増加である。しかも、タイトルの付け方が感覚的というのか、よくわからないものが多い。

たとえば、サザンオールスターズの『TSUNAMI』であれば、まだ理解できる。歌詞の中に「津波のような侘しさに・・・」とあるので、そこから来ているのであろうと憶測できるのだが、それではスピッツの『ロビンソン』は? 歌詞をいくら熟読してもロビンソンという人名は出てこない。関連サイトを見る限りでは、一応の由来はあるらしいのだが、それを説明されても歌詞の内容が理解できるわけではない。メロディがあまりにも美しく流れるので、深い意味を考えることもなく、心地よく聴けてしまうのだが・・・

この「感覚的なカッコよさ」。これこそが、平成時代の若い世代には受け入れやすいのだろう。

さて、今回紹介するCDは、1990年以降に生まれたJ-POPの名曲を、なんとアメリカの歌姫デビー・ギブソンが歌うという企画盤である。選ばれた曲目は、いずれも男性J-POPアーティストの代表的なメガ・ヒットばかり。J-POPをあまり聴かない人でも、これなら知っているであろうと思われるほどのポピュラリティにあふれた選曲である。しかも歌詞はすべて英語バージョン。かつて1960年代初頭に外国曲の日本語訳カバー・バージョンが花盛りだった時期があったが、2008年に発売されて話題になったエリック・マーティンによる英語訳のJ-POPカバー・アルバム(こちらは邦人女性歌手のバラード曲)を先駆として、以前とは逆パターンの流れが始まりつつあるようだ。

1.『TSUNAMI』(サザンオールスターズ、2000年)
2.『SAY YES』(チャゲ&飛鳥、1991年)
3.『I LOVE YOU』(尾崎豊、1991年)
4.『浪漫飛行』(米米クラブ、1990年)
5.『ラブ・ストーリーは突然に』(小田和正、1991年)
6.『TRUE LOVE』(藤井フミヤ、1993年)
7.『瞳をとじて』(平井堅、2004年)
8.『桜坂』(福山雅治、2000年)
9.『HOWEVER』(GLAY、1997年)
10.『ロビンソン』 (スピッツ、1995年)

この中のどれが名演か? となると好みの問題になると思うが、やはりデビーの特性として、切ない情感の込められたバラード系で最も真価を発揮するようだ。本人が強くレコーディングを望んだといわれる尾崎豊の『I LOVE YOU』 は、さすがに言葉の隅々までニュアンスが行き届いており、完全に本人のレパートリーとして通用する逸品になっている。それに勝るとも劣らないのがサザンオールスターズの『TSUNAMI』と平井堅の『瞳をとじて』の2曲。どちらも英語バージョンで歌われることによって、曲自体の国際的なレベルでの素晴らしさを改めて実感させてくれる。

20世紀最後のレコード大賞受賞曲となった『TSUNAMI』は、本当の意味でレコード大賞に値する最後の曲であるし、平井堅自身の悲恋体験を音楽化した渾身の一作『瞳をとじて』は、今世紀に入ってから生まれたJ-POPの中では出色の名バラードであると思う。

上記3曲以外ではオリジナルのロック色を排除し、楽しくPOPなアレンジで歌われる『HOWEVER』 が印象的だ。正直言うと、GLAYのようなビジュアル・ロック系にはあまり興味がなかったのだが、少なくとも、これを聴くとなかなか曲作りのセンスがあるのではないか・・・と思えてくる。作品の新たな一面に光を当てていくのが表現者の役割とすれば、その点でデビーは立派に貢献していることになる。

チャゲ&飛鳥の『SAY YES』も完成度の高い名曲だけに、歌詞が英語に変わっても十分サマになっており、デビーの歌声が曲の素晴らしさを助長する。もともと英語の歌詞で作られた曲ではないかと思えるほど、隙のない仕上がりだ。

それにしても、このCDで採り上げられたアーティストたちを見ると、 世代的にはれっきとした昭和生まれであり、昭和歌謡曲の語法を十分熟知している人たちである(ちあきなおみに名曲『伝わりますか』を提供した飛鳥涼などは、むしろ歌謡曲作家であるとも言える)。そういう意味では、まだJ-POPの中でも抵抗なく聴けるほうで、いよいよわからなくなってくるのは、この次に来る世代の人たちということになるだろう。

これらの曲目を歌うデビー・ギブソンも、天才少女と騒がれて最も活躍していたのは1987年から1989年までの3年間、日本で言えば昭和の末期に当たる。その後は活動の場をブロードウェイ・ミュージカルなどに移し、単独のステージで歌う機会は少なくなった。2000年以降は新作アルバムもほとんど出していない状態だったが、今回、J-POPの名曲を英語バージョンで歌う企画を実現するにあたって、久しぶりに歌への情熱を思い出したかのように力を入れている。

J-POPカバー10曲のほかには、デビー自身の最大ヒット作である名バラード『LOST IN YOUR EYES』の新録音も収められ、天才少女から一段階成熟した艶のあるヴォーカルを聴かせてくれるし、Deluxe Editionのみに収録された『ONLY IN MY DREAMS』、『SHAKE YOUR LOVE』、『OUT OF THE BLUE』、『FOOLISH BEAT』も単なる懐メロではなく、ますます美貌に磨きのかかったデビーの新しいメッセージとして、スタイリッシュな躍動感にあふれているところが素晴らしい。

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●歌姫たちの名盤(23) 岩崎宏美&チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 『PRAHA -Deluxe Edition-』

2013年12月09日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


岩崎宏美&チェコフィルハーモニー管弦楽団 『PRAHA -Deluxe Edition-
(2007年9月26日発売) TECI-1161

収録曲 01.聖母たちのララバイ 02.シアワセノカケラ 03.思秋期 04.夢やぶれて I DREAMED A DREAM ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より~ 05.手紙 06.ロマンス 07.好きにならずにいられない 08.シンデレラ・ハネムーン 09.万華鏡 10.すみれ色の涙 11.ただ・愛のためにだけ 12.つばさ ~Dedicated to 本田美奈子.~

[DVD] 01.
聖母たちのララバイ』 ビデオクリップ 02.ドキュメンタリー・イン・プラハ -岩崎宏美ナレーション入り- 03.フォト・ギャラリー


歌謡曲とクラシック音楽。この2つのジャンルは、一見何の接点もなさそうに思える。日常的に歌謡曲を聴いたり歌ったりする人たちの中で、クラシック音楽にも造詣が深いといえる人は多くないし、コンサートに出かけても、両者の客層には明らかな違いがある。歌謡曲ファンから見ればクラシック音楽は敷居が高いように感じられるし、逆にクラシック音楽ファンから見れば歌謡曲はあまりに俗っぽいという感覚がある。それは、両方の立場を経験している筆者自身が率直に思い返すことのできる事実である。

でも、よくよく吟味してみると、歌謡曲とクラシック音楽の距離は、そんなに遠いものではないのである。俗っぽいと思われている歌謡曲の中にも格調の高い内容を歌ったものがあるし、格調が高いイメージのあるクラシック音楽も、実は意外に俗っぽい感情をモチーフにしているものが多いのだ。

クラシック音楽に近い歌謡曲・・・といえば、筆者が真っ先に思い浮かべる楽曲に、今は亡き本田美奈子が1994年に発表した「つばさ」がある。この「つばさ」を作詞した岩谷時子さんも、つい先日、天寿を全うして旅立たれてしまったが、この曲の歌詞には通常の歌謡曲に見られるような俗っぽい言葉やフレーズは一切出てこない。ここに歌われているのは、夢、希望、自由、勇気、未来、そして遥かな大空に向けての飛翔という、ベートーヴェンの第九交響曲もかくやと思われるほど格調の高いメッセージなのである。

あまりにも純粋な歌詞であるせいか、一般的な浸透度はそれほど高くないのだが、真に音楽を愛する人たちにとっては「究極の歌謡曲」ともいうべき次元に到達した数少ない一曲として、忘れることのできない地位を勝ち得ているのである。そういう意味では、歌謡曲とクラシック音楽は決してかけ離れたジャンルではないのだ。

その「つばさ」を最後の12曲目に置き、それに先立つ11曲のセルフカバーをオーケストラの伴奏で歌い、1枚のアルバムとして発表したのが、生前の本田美奈子と親しい間柄にあった岩崎宏美の『PRAHA』である。

岩崎宏美は筆者と同年生まれなので、デビュー当時から学友のような感覚がある。そして出てきた時から、同世代の歌謡曲歌手とは別次元の歌唱力を持っていた。声量が全然違うし、高音がとてつもなく伸びる。マイクなしでも十分会場の隅々にまで声が届くのではなかろうか、と思われた。芥川也寸志や山本直純といったクラシック音楽の関係者が高く評価したのもうなずける。

それだけの声量と歌唱力を持った彼女なので、プロのオーケストラと共演してもまったく聴き劣りすることがない。 ちなみに共演するオーケストラはクラシック音楽ファンにはお馴染みのチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。ドヴォルザークやスメタナなどの東欧系はもちろんのこと、ドイツ・オーストリア系のレパートリーも得意とする。1908年にマーラーの交響曲第7番を作曲者自身の指揮で初演したのもこの楽団であるし、個人的には1960~70年代にマタチッチの指揮で録音したブルックナーの交響曲(特に第5、第7番)が屈指の名演として忘れられない。

さて、このアルバムの1曲目は、岩崎宏美の代表的ナンバー「聖母たちのララバイ」で幕をあける。いきなり60人規模のフル・オーケストラが咆哮! もともと曲自体がシンフォニックでスケールが大きいので、それこそドイツ・オーストリア系の大交響曲を聴いているような充実感がある。岩崎宏美の声量十分な伸びのある歌声も健在。響きのいいドヴォルザーク・ホールでの録音も功を奏し、稀に見る名演となった。

4曲目に収録されたミュージカル「レ・ミゼラブル」からのナンバー、「夢やぶれて」もフル・オーケストラが全開。ここでは岩崎宏美のミュージカル女優ならではの表現力によって、実にドラマチックで感動的なシーンが繰り広げられる。本田美奈子もそうだったが、岩崎宏美もミュージカルに進出してから格段に実力を上げた1人だ。一般的な印象ではヒット曲を連発していた1970年代後半から1980年代前半くらいまでが全盛期のように思われがちだが、それ以降もシンガーとしては成長を続けているのである。

「シアワセノカケラ」、「手紙」、「ただ・愛のためにだけ」の3曲はいずれも2004年以降に発表された比較的最近のオリジナルなので、昔のファンには馴染みが薄いかもしれないが、いずれもしみじみと語りかけるような趣きが印象に残る。

レコード大賞候補にもなった傑作「万華鏡」と「すみれ色の涙」は、小編成のオーケストラの演奏によって、本来持っていたメロディの素晴らしさが浮き彫りになった。こうして聴いてみると、1980年前後の昭和歌謡曲のレベルは、クラシック音楽に負けないほどの高みにまで達していたのではなかったか、とさえ思えてくる。

そして、アルバムのラストを飾るのはフル・オーケストラで演奏される「つばさ」。大空を越えて宇宙に届けとばかりに、万感の思いを込めた熱唱は、言葉では言い尽くすことのできない素晴らしさだ。もはやここには歌謡曲とクラシック音楽の境界線はなく、すべてのジャンルを超越した素晴らしい「音楽」が存在するのみである。

このアルバムが発売されたのは2007年9月。本田美奈子が天国に旅立ってから2年足らずのタイミングでもあり、当然ながら彼女へのメモリアルという意味合いもあったのだろう。「つばさ」のサブタイトルとして「~Dedicated to 本田美奈子.~」というフレーズが添えられている。

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●歌姫たちの名盤(22) 庄野真代&ジャクロタングス 『CINEMATIQUE~シネマティーク~』

2013年11月25日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


庄野真代&ジャクロタングス 『CINEMATIQUE~シネマティーク~
(2013年10月2日発売) OMCA-5035

収録曲 01.夜間飛行の記録 ~instrumental~ 02.飛んでイスタンブール 03.マスカレード 04.モンテカルロで乾杯 05.cinema 06.ウナ・セラ・ディ東京 07.月夜のワルツ 08.アデュー 09.鉄塔の灯を消して ~instrumental~ 10.ファム・ファタル 11.金色の砂


異国の地を舞台にした往年のヒット曲「飛んでイスタンブール」、「モンテカルロで乾杯」、「マスカレード」で知られる庄野真代が、若手タンゴ・ジャズグループのジャクロタングスと組んで新境地を開拓した話題のアルバム『CINEMATIQUE~シネマティーク~』を聴く。経済的な事情もあってCDの新譜購入には慎重な筆者が珍しく発売前に予約したアルバムだったが、期待通りの上質な名盤に仕上がっており、やはり自分の第六感は間違っていなかった・・・と確信することができた。というわけで、さっそく、このアルバムをレヴューしてみることにしよう。

庄野真代といえば筆者と同世代なら説明は不要だろうが、リアルタイムでご存知ない人たちのために簡単に紹介しておくと、一般的に言えば1978年に筒美京平作曲の「飛んでイスタンブール」でブレイクした往年の歌手ということになる。が、本質的には自ら作詞・作曲する都会派シンガーソング・ライターと言ったほうが当たっており、歌謡曲というよりも新しく台頭してきたニューミュージック寄りのアーティストだった(同じ傾向のアーティストとしては渡辺真知子、太田裕美、サーカスなどがいる)。

それ以上に特筆すべきなのは、その行動力の旺盛さである。経歴を見ると、中学生時代は生徒会活動に没頭していたらしく、本格的に音楽活動を始め、メジャーな存在になってからも、突然思いついたように世界一周の旅に出たり、ボランティア活動を組織化して自ら代表になったり、参議院選挙の比例区に出馬したり(結果的には落選だったが・・・)、分野を越えたチャレンジ精神はとどまるところを知らない。そして、なんと2011年からはひょんなきっかけでマラソンを始め、今年(2013年)もイスタンブール・ユーラシア・マラソンの15kmの部に出場。年齢を考えればなかなか優秀なタイムで完走を果たしている。このように破天荒な挑戦を続けていく典型的なB型女性なので、常に「今度は何をやってくれるのか?」という期待感があり、その動向には目が離せなくなるのである。

片や庄野真代とコラボを実現することになったジャクロタングスであるが、実は筆者もよく知らなかったのでCDのブックレットやオフィシャル・サイトを調べながら勉強してみた。メンバーはいずれも1980年代生まれの男性3人で、ピアノ担当の加畑嶺、コントラバス担当の木田浩卓、バンドネオン担当の平田耕治のトリオから成り、いずれもクラシック音楽の基礎を持ちながら、ジャズやタンゴの分野で活躍できる高い音楽性を備えたミュージシャンたちである、ということだ。

木田浩卓は今回のアルバムでほとんどの収録曲をアレンジし、4つの楽曲においては作曲も担当している。「夜間飛行の記録」はその名の通りサン・テグジュペリの小説『夜間飛行』から発想を得た作品、「鉄塔の灯りを消して」は鉄塔=東京タワーの灯が消える黄昏時をイメージした作品、「ファム・ファタル」はPOPSとタンゴの融合というテーマのもとで書かれた作品、「金色の砂」は何よりも庄野真代が素晴らしい歌詞をつけてくれたことで特別な作品に仕上がったという(この楽曲のみ加畑嶺がアレンジ)。このように世代を越えて実現したコラボなので、どの楽曲も単なるノスタルジーでは終わらない新鮮味を帯びてくる。

筆者のような往年のファンが注目するのは、やはり代表曲の「飛んでイスタンブール」、「モンテカルロで乾杯」、「マスカレード」だろう。
特に「マスカレード」 には思い入れがあるので、どんなアレンジになるのか興味深々だったが、いい意味で予想外だった。原曲はラテン的な華やかさを前面に出し、いかにも色彩感豊かなメキシコの街という舞台設定だが、今回のアルバムでは、まるでジプシーの手回しオルガン弾きが19世紀のヨーロッパの街をさまよい歩くような、退廃的な雰囲気が色濃くなっている。それはそれで、タンゴの源流として納得のいくイメージであるところが面白い。

最大ヒット曲の「飛んでイスタンブール」 は原曲のアレンジが優秀なので、それを崩すのがなかなか難しいが、これも新しい録音では見事なタンゴ・バージョンを作り上げることに成功した。随所で聴かせるダイナミックなピアノの名技が素晴らしい。

もう一つのメガ・ヒット曲「モンテカルロで乾杯」は、もともと映画的イメージが豊富な名作。編曲者・木田浩卓の解説によればバンドネオンを男性役、ヴォーカルを女性役に想定したということだが、まさにこの両者がスクリーンの中で粋なセリフを交わしているような趣に仕上がった。アルバム・タイトル『CINEMATIQUE』そのままの上質なアレンジといえよう。

3大ヒット曲に続いて収録されているのは、このアルバムのイメージ・プロデューサーでもある及川眠子作詞の「cinema」。そのものズバリのタイトル曲で、悲恋に終わる一夜限りの愛と知りつつ男の胸に抱かれていく女性の妖しい心を映し出すように、変幻自在なサウンドが展開される。

そして往年の大ヒット曲、ザ・ピーナッツの「ウナ・セラ・デイ東京」 が何の違和感もなく登場する。いかにもタンゴっぽい退廃的な雰囲気がこのアルバムにぴったりな選曲だ。続く庄野真代作曲の「月夜のワルツ」と「アデュー」も素晴らしい。前者の幻想的なイメージ、後者のどうしようもないほどに孤独な雰囲気こそ彼女の真骨頂ではないだろうか。こういう暗さに徹した楽曲を聴くと、あらためて、すごい人だなと思ってしまう(このアルバムにはもちろん収録されていないが、あの悲惨な「相生橋にて」の作曲者だけのことはある)。

残念ながら、筆者はまだ庄野真代のライヴは見たことがない。海外在住でもあるし、自由の身ではない家庭持ちのサラリーマンなのでスケジュールが合わせにくいのだが、機会があればぜひ一度お目にかかりたい本物のアーティストの1人だと思っている。その日が来るまでは、この最新アルバムを繰り返し聴きながら、渇きを癒すことにしたい。

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●歌姫たちの名盤(21) 藤圭子 『新宿の女 演歌の星/藤圭子のすべて』

2013年10月07日 | 歌姫③ ENKA・裏街道系


藤圭子 『新宿の女 演歌の星/藤圭子のすべて
(2013年4月10日発売) MHCL 30048 *オリジナル盤発売日:1970年3月5日 

収録曲 01.新宿の女 02.星の流れに 03.あなたのブルース 04.カスバの女 05.命かれても 06.逢わずに愛して 07.夢は夜ひらく 08.柳ヶ瀬ブルース 09.東京流れもの 10.花と蝶 11.長崎ブルース 12.生命ぎりぎり


1970年3月に発売されて以来、オリコン20週連続1位というとてつもないセールスを記録した伝説のアルバム。黒のベルベットに身を包み、白いギターをかかえた少女のジャケットが、文字通り、日本を制覇してしまったのである。

このレコードの素晴らしさを語るのに、言葉はもはや必要ない。レコードの盤面に針を乗せた瞬間から(どうしても、こういう古い表現になってしまうが)、出てくる音すべてに鮮明な躍動感がある。そのドスの効いた凄まじいまでの歌声はもちろん、バックに流れる各楽器がこれほどまでに精彩に富んだ音を出しているレコードは稀有であろう。

藤圭子が「演歌の星」 というキャッチフレーズでデビューした頃(この「○○の星」という表現は当時の流行だったわけだが)、当時小学校6年だった自分が真っ先に連想したのは、いうまでもなく「巨人の星」だった。現代の人たちが見たら実に泥臭いと思われるであろうこのアニメドラマが、当時は国民的な大ヒットを勝ち得ていたのである。

この作品のどこがそれほど魅力的なのだろうか。
実は主人公・星飛雄馬の姿からは、野球を楽しんでいる様子が、ほとんど伝わって来ない。
彼は本当に野球が好きなのだろうか? 自分の意思で「巨人の星」 を目指しているのだろうか? 
どうも、そうではないように見えて仕方がない。

思い当たる理由はただ一つ。
きっと、あの執念深い父親の息子として生まれたから、好むと好まざるとに関係なく、「巨人の星」を目指さなくてはいけない羽目になってしまったのだ。

自分の意思に反して、いと高き目標を与えられ、それに向かって狂おしいまでの努力を重ねる毎日。
やめたいと言えば、ちゃぶ台をひっくり返され、ライバルに負けたら、根性なしと怒られる。
そのような泥沼のスパイラルに陥った状態を、人は「宿命」 と呼ぶ。

そんな宿命に支配された人生の中で、必死に闘い続ける主人公こそが、時代のヒーロー/ヒロインだったのである。

そういう意味で、藤圭子の登場はタイムリーだった。
まるで劇画の世界から飛び出してきたかのような、暗い影を背負った美少女。幼少の頃から浪曲師の父母とともにドサ回りの生活を続け、あまりの苦難の中で盲目になってしまった母の手を取り、冷たい夜風に身をさらし、来る日も来る日も24時間ぶっ続けの”流し”を行なう毎日。生活の糧を得るために、好むと好まざるとに関係なく、歌っていかなければならなかった。

歌が好きという次元ではなかった。歌わなければならない「宿命」のもとで、歌い続けた。
そういう暗い過去の中に、まさに当時の人たちが心の底からシビれた「ド根性」があった。
「宿命」と「ド根性」
これこそが、星飛雄馬と藤圭子に共通するキーワードだったのである。

しかし、藤圭子自身は決して悲劇のヒロインを好んだわけではなかった。
むしろ、不幸な衣を着せようという周囲の流れに反発して、過分な幸福を求めようとしたのではなかろうか。
今、あらためて彼女の歌声を聴いてみると、決して悲壮感一本槍でなかったことがわかる。

デビューシングルとなった「新宿の女」は、愛人に捨てられてネオン街に彷徨う女の心情を歌いながらも、明日もまた頑張っていこうという前向きな気概を感じさせるし、愛人の待つ宿を点々としながらさすらいの旅を続ける女を歌った「星の流れに」も、落胆を越えた希望が根底にある。

一方では、いったん悲壮な世界に落ち込んだら、徹底的に悲しみの地獄となる危険も孕んでいる。
圧巻は「あなたのブルース」 。あなた、あなた、あなたと連呼し、ラールルラ、ルルラ、ルラーと慟哭するあたり、とても10代の少女の声とは思えない迫力だ。

アルバムの発売後にシングルカットとなり、藤圭子の代名詞的な傑作として知られる「夢は夜ひらく」 は、オリジナルを歌ったのは別の歌手だった。筆者もごく最近までこれが園まりのカバー曲であることを知らずにいたのだが、それほどまでに藤圭子以外には考えられないほど、彼女の色に染め上げられていたのである。

この曲は歌声ばかりではなく、伴奏するベースのアルペジオ、さびれたサックスの音色がいい味を出しており、演歌というよりは上質なジャズとして聴けるアレンジも魅力的だ。

他のカバー曲、「柳ヶ瀬ブルース」 (美川憲一)や「長崎ブルース」(青江三奈)なども、藤圭子独特のハスキー・ヴォイスによる節回しがカッコよく、まさにブルースの真髄ここにあり、と呼びたいような仕上がりになっている。

今回の2013年盤は、最新技術でオリジナルの音質を再現するBlu-spec CD2での再発売であり、一段と音が良くなったようだ。今後も昭和歌謡曲の黄金時代を伝える記念碑的な名盤として、時代を越えて聴かれ続けることになるだろう。
 
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●復活待望!河合奈保子特集(3) 『nahoko 音』を聴く

2013年09月08日 | 河合奈保子


河合奈保子 『nahoko 音
(2006年11月28日発売) RMRCD-001

収録曲 01.face to face 02.in any case 03.if you think so 04.to the best of my knowledge 05.thanks 06.in my opinion 07.in real life 08.as soon as possible 09. for your amusement 10.in other words 11.it's a possibility 12.bye bye for now 13.keep it short and simple 14.as a matter of fact 15.tears running down my cheeks 16.what do you think? 17.significant other 18.just smile


長らく歌謡曲の歴史を見ていると、そこには明らかに、時代を反映した栄枯盛衰の波のようなものが存在している。1年に四季があるように、活動するアーティストそれぞれにも春夏秋冬の季節があり、それらの人生模様が複雑に絡み合い、さまざまなドラマを映し出しているのが芸能界の現実だ。

どんなに才能や実力のある歌手でも、完全な順風満帆はありえない。ブレイクするまでに長い下積みを経験する人も多いし、人気が出てもそれが長続きするという保障はない。ただ、程度の差こそあれ、そこにはある一定のプロセスを見出すことができる。

第1期:ブレイクするまでの下積み期間(冬に当たる時期)。
第2期:ブレイクして、人気が上昇する期間(春に当たる時期)。 
第3期:人気が安定している全盛期(夏に当たる時期)。
第4期:人気が落ち目になっていく低迷期(秋に当たる時期) 。
第5期:活動停止したり、他分野に活動の場を移していく期間(冬に当たる時期)。
第6期:復活して再ブレイクする期間(春に当たる時期)。

ごく稀なケースとして全盛期(夏に当たる時期)に突然引退を表明した山口百恵やキャンディーズの例もあるが、ほとんどの人は春夏秋冬の四季を通過しながら(人によっては何サイクルも繰り返しながら)キャリアを築いていると見ていいだろう。

それでは、河合奈保子は今どの時期にいるのだろうか、と考えてみると、いうまでもなく第5期、つまり芸能活動を停止し、他分野(=主婦業)に活動の場を移している期間と見ることができる。具体的には第1子出産の1997年から数えて、2013年現在で17年間、歌手としての活動は行なっていない。

この17年という年数は長い期間のようにも思えるが、活動停止の理由が子育てに専念することにある以上、これだけの年数は最低限必要であるし、そろそろ長子のハイスクール卒業が近いことを考えれば、芸能活動を再開するのはそう遠い先の話でもないという希望が出てくる。そのように言える根拠は「時間的余裕」も大切な要素ではあるのだが、何よりも決め手になるのが「音楽に対する情熱」である。これがないと、どんなに余暇があっても歌手復帰に関しては悲観的に考えざるをえない。

たとえば、山口百恵の歌手復帰がなぜありえないか、というと、引退時に芸能界から完全に決別する区切りの儀式(=引退コンサート)を行なっており、それ以降は音楽に対する情熱をまったく見せる素振りがないという事実が根拠となる。同じ理由でちあきなおみの復帰も難しいかもしれない。彼女の場合は引退宣言したわけではないのだが、ある意味、引退宣言すらできないほどの精神的打撃を受けてしまったことが歌手復帰への道を困難にしているように思われるのである。おそらく、夫の死とともに、音楽に対する情熱も醒めてしまったのではないだろうか。もしも音楽に対する情熱が残っているならば、子供がいるわけではないし、時間的余裕はいくらでもある。復帰する気があるのなら、とっくに復帰しているはずなのだ。

それに対して、河合奈保子の場合は、音楽に対する情熱を確実に持ち続けているという確かな証拠がある。活動停止から10年目の2006年に発売された『nahoko 音』というアルバムがそれである。

『nahoko 音』は、現在オーストラリアのゴールドコーストに在住しているといわれる河合奈保子が自宅のリビング・ルームで録音した自作のピアノ曲集で、当初はインターネット音楽配信限定という形で発表。そして反響の大きさから、あらためてCDでリリースしたものである。収録された18曲にはすべて英語のタイトルが付けられており、それぞれの曲の内容を暗示している。あくまでインストのみなので奈保子自身の声を聴くことはできないが、そこには確かに、声を封じ込めたメッセージが秘められているようだ。何を感じるかは、あくまで聴く人の感性にゆだねられる。いわば、奈保子流「無言歌」とでもいうべきものだろう。

ブックレットの最終ページに書かれたクレジットには「Piano by Naoko Kawai」、「All tracks written by Nahoko Kawai」と印刷されている。つまり表現者としては芸名の「Naoko」、作曲家としては本名の「Nahoko」を使い分けているところに、彼女ならではのこだわりが感じられて興味深い。

奈保子がこの作品を発表した背景には、将来の本格的な音楽活動復帰を視野に入れながら、ファンの反応を手探りする意図もあったのではないだろうか。ホームページにも語られているように、「自分はもう忘れられている存在かもしれない」という不安を持つのは、10年も表舞台から遠ざかっていれば当然であるからだ。しかしながら、予想以上の反響によって、その不安は解消されたようである。もともと控えめで内向的な人なので、無理にスポットライトを浴びようという気は毛頭ないだろうが、マイペースで活動できる環境が与えられるなら、歌手復帰の可能性は大いにあるだろうし、それも決して遠い未来ではないだろうという期待もできる。

第8曲目のタイトルが「as soon as possible」というのも暗示的だ。諸事情さえ許せば「できるだけ早い時期に」実現させたい・・・という気持ちを表わしているようにも受け取れる。

あえて大胆に予測するなら、活動停止から20年目に当たる2016年には、「デビュー ~Fly Me To Love」の歌詞にもあるように、夏空のステージで再び河合奈保子の歌声が聴けるのではないだろうか。その頃ならまだ50代前半であるし、ジャス・テイストの新しい大人のラブソングを歌うにはちょうどいい年齢であるはずだ。

いかにもオーストラリアの海辺の風景を感じさせるような、癒しのメロディの数々。
自分の耳には、こう語っているように聴こえる。

必ず戻ってきますから、待っていてくださいね・・・

そこに込められているのは、間違いなく、ファンのひとりひとりに向けた親密なメッセージなのである。

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