ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第38回 Franz Haas@「キャッチ The 生産者」

2009-05-07 10:02:11 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年9月11日)

第38回  Maria Luisa Manna  <Franz Haas>

今回のゲストは、北イタリアのアルト・アディジェにある
フランツ・ハースのマダム、マリア・ルイザ・マンナさんです。
マリアさんは多忙なフランツ・ハース氏に代わり、同社のセラー・マスターであるアンドレア・モーザーさんとともに来日しました。


<Maria Luisa Manna> (マリア・ルイザ・マンナ)
トレンティーノ・アルト・アディジェ州の州都トレント出身。
1982年、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの試飲会でフランツ・ハース氏と出会い、結婚。
現在は、フランツ・ハースの妻として、またワイナリーの販売マネージャーのアシスタントとしても夫をサポートしている。


イタリア最北部の歴史あるワイナリー   - Franz Haas -
イタリアの最北部に位置するトレンティーノ=アルト・アディジェ州は、第一次世界大戦前まではオーストリアに属していました。現在はオーストリアと国境を接し、南側のトレント自治県、北側のアルト・アディジェ自治県に分かれている特別自治州です。

今回紹介するフランツ・ハースは北側のアルト・アディジェ自治県にあります。アルプス山脈の麓に位置するこの地域は、協同組合のワイナリーが75%を占め、フランツ・ハースのような個人経営のエステート型ワイナリーは少数派です。

アルト・アディジェのDOCは“DOC Alto Adige”(またはSudtirol)で、白、赤、ロゼ、スプマンテ(発泡ワイン)、パッシート(乾燥したブドウからつくる甘口)、ヴェンデンミア・タルディーヴァ(遅摘み)と、さまざまなタイプのワインがつくられています。

ワイン生産比率は、赤が50%超、白が約45%ですが、この地域の白ワインへの注目が集まってきているため、白用品種の作付面積が増えてきています。



<Andrea Moser> (アンドレア・モーザー)
サン・ミケーレ醸造学校卒業後、いくつかのワイナリーを経て、フランツ・ハースに入社。
フランツ・ハースでの経験は4年になり、現在は同ワイナリーのセラー・マスターを務める。



Q.フランツ・ハースについて教えてください
A.(Maria)フランツ・ハースは、1880年に1.5haの畑からスタートしたワイナリーで、トレンティーノ・アルト・アディジェ州の北部都市ボルツァーノ(Bolzano)から車で20~30分のモンターニャ村(Montagna)にあります。
長男が代々名前を継いでいくという伝統がこの地にはあり、現当主であり私の夫が8代目(1986年から)のフランツです。

夫の代で9haの畑を購入し、レンタルの30ha(場所を借りているだけで、畑の面倒は自分たちで見ている)、契約栽培の10haと、合計50haから年間25万本生産しています。


Q.アルト・アディジェとはどんなところですか?
A.(Maria)オーストリアとの国境に近いので、ドイツ語、イタリア語、ラディン語(*1)を話す人が入り混じります。夫のフランツは普段はドイツ語を話します。

小さな地域ですが、ミシュランの2つ星や3つ星のレストランがたくさんあり、美食エリアとしても知られています。レストランの内装は木を使ったウッディな雰囲気の店が多く、イタリアの他のエリアと全く違います。

家庭的な料理も多く、各家庭ではよく料理を作ります。自家製チーズ、カネデルリ(*2)、スペック(*3)、グラーシュ(*4)がよく食べられています。リンゴの産地でもあるので、リンゴを使ったシュトルーデル(*5)、フランボワーズなどの森のフルーツを使ったトルテなどのお菓子も名物です。


Q.ワイン産地としてはどんな特徴がありますか?
A.(Maria)ボルツァーノは盆地ですので、冬は寒くて夏は暑くなります。大陸性気候と地中海性気候の2つの特徴を持ち合わせ、ジメジメしている時もあれば乾燥する時もあります。寒暖の差と湿潤の差が激しく、例えば、午前中にアルプスの麓でスキーをしていたのに、お昼からは湖で泳げてしまう、そんなところです。

このように、昼と夜の寒暖の差が大きく、土地の高低差があるので(標高250~850m)、ブドウの生育には最適な場所といえます。
よって、フランスでいえばボルドーからブルゴーニュ、アルザスetc…といった気候があるので、さまざまな要素を持つワインができます。

特に土地の高低差は、ブドウの熟し方、収穫時期に影響を与え、さまざまな品種のブドウをつくることができるので、バリエーション豊かなワイン生産が可能です。

(Andrea)アルト・アディジェは土壌に多様性があり、他の地域との差別化を図るには最適な場所といえます。エリアの特性をしっかりと見分け、エリアごとにブドウにあった土壌を見極めて植えていくことが大事です。

また、広いDOCですので、畑での人の関わり方(仕事)がワインに影響を与えます。畑は山の中腹にあって作業がしにくいので、仕事量が多く、非常に手がかかりますが、当ワイナリーでは、オーナーのフランツが中心となって、スタッフ全員で畑作業にあたっています。



Q.フランツ・ハースの哲学は?
A.(Maria)「栽培技術の発達で可能になったこともありますが、自然を重視し、自然に近づき、最小限の薬剤しか使わない、そんなワインづくりを行っています。

また、長熟タイプのワインを楽しんでもらいたいと思ってつくっています。
白ワインならブルゴーニュのモンラッシェやムルソー、赤ワインのピノ・ノワールならブルゴーニュのイメージを持つもの、カベルネやメルロ系ならボルドーやポムロルをイメージしたものをと考えています。

(Andrea)この土地でつくったすべてのブドウで、いかにエレガントさと個性を出していけるかがフランツの考えるところで、当ワイナリーの命題ともいえます。
つまり、良いブドウをつくり、土壌とミクロクリマをブドウの中に閉じ込めていこうという考えです。


Q.ワインづくりで大事なことは?
A.(Andrea)良い香りを持たせ、しっかりした酸味をいかにワインに落とし込むかが大事です。また、先に述べたワインのエレガントさを出すには気候によるものが大きいので、このところの地球温暖化は非常に問題です。8年くらい前から北イタリア全体でもその影響を感じています。そのため、標高850mのところまで畑を広げ、酸味をしっかり出す畑を確保しました。

次に大事なのは樹の仕立て方です。1987年からフランツは仕立て方を変え、ペルゴラ(棚式)をやめてコルドンやグイヨにし、収穫量を抑えています。

今まで1haあたり3000~4000本だったものを1万~1万2000本に密植し、ブドウ樹1本あたり2~3kgの収穫量が0.4~0.6kgになりました。これにより、凝縮感のあるブドウを得ることができるようになりました。

しかし、ペルゴラで古い樹齢のミュラー・トゥルガウやラグレインがあります。ラグレインは仕立て方で大きく差が出る品種ですが、古木からはクオリティの高いブドウが得られるので、ここ2~3年はペルゴラと新式の2つのシステムで行っていきたいと思います。


Q.国内と海外のシェアは?
A.(Maria)「60%がイタリア国内のトップマーケット向けで、輸出は40%です。輸出先のトップはドイツで、日本やアメリカも大きな割合を占めています。


(*1) ラディン語:
この地域のローカル言語。ボルツァーノ周辺はイタリア語で“アルト・アディジェ(Alto Adige)と呼ばれているが、ラディン語では“ズュートチロル(Sudtirol)”(=南チロル)という。(ドイツ語もSudtirol)

(*2) カネデルリ:
固くなったパン、チーズ、ハム(スペック)などを練り込んだニョッキ風の団子。この地方の名物。

(*3) スペック:
この地方名物の生ハムの燻製

(*4) グラーシュ:
肉と野菜にワインを加えてつくる、シチューのような煮込み料理

(*5) シュトルーデル:
リンゴなどのフルーツを薄く伸ばしたパイ生地で包み込んで焼いたお菓子。リンゴを使ったものは“アップル・シュトルーデル”と呼ばれ、オーストリアやドイツ、スイスなどでもよくつくられる。


<テイスティングしたワイン>


Alto Adige DOC Muller Thrugau 2006
桃のコンポートのような華やかな香りがありますが、口にするとクリーンでキレがあり、フレッシュで爽やかなワインです。ピュアで酸がしっかりとし、ミネラル感もあります。

「モンターニャ村のグレーノ畑からのブドウを使っています。土壌は斑岩を含む砂質です。ミュラー・トゥルガウはフレッシュで親しみやすいブドウですので、我々もフレッシュさ、酸と果実味のバランスの良さを出し、口の中で果実味を楽しめるワインをつくろうとしています。ステンレスタンクのみを使い、スキンコンタクトで香りをうまく移し、酸を引き出します。酵母も、多糖類を旨く引き出せるような種類を選んでいます」(アンドレアさん)


Alto Adige DOC Traminer Aromatico 2006
グリーンがかった外観で、香りは花、白い果肉の若い果実、洋梨。ボディはしっかりとして厚みがありますが、酸がベースになっているので、バランスが取れています。

「ピノ・ビアンコは制約が大きいブドウのひとつで、良いものを探すのが難しい品種です。しかし、エレガントで、土壌をよく反映する可能性のあるブドウです。このワインにはモンターニャ村とアルディーニャ村のブドウを使っていますが、土壌は砂質が多く、ミネラル感を引き出します。発酵はステンレスタンクですが、一部小樽を使います。少しだけマロラクティック発酵を行い、フレッシュさとミネラル感を与えています」(アンドレアさん)


Alto Adige DOC Pinot Bianco 2006
ライチやマスカットのフレーバーがあり、アロマティック。香りは甘く、口にすると果実の甘さがあるものの、酸がキリリとし、柑橘の皮のほろ苦いニュアンスも。余韻は長め。

「ゲヴュルツトラミネルのイタリア名がトラミネール・アロマティコで、名前の由来となったトラメーノ村を中心に栽培されている伝統品種で、最重要白品種でもあります。安定した水分の供給が必要なので、石灰質や粘土質の土壌を好みます。このワインは、モンターニャ村とエーニャ村からのブドウを使っています。アロマティックさを出すために、低温でマセラシオンを行います。発酵はステンレスタンクですが、発酵期間は短すぎても長すぎてもだめで、長いと皮からタンニン分が出て苦くなります。このバランスを取るのが大変です」(アンドレアさん)



Alto Adige DOC Pinot Nero 2005
若々しくきれいなルビー色。香ばしいナッツの香りがあり、口にするとハッとする鮮やかな果実味で、酸もしっかりしています、余韻も長めで、ほどよいビターさを感じます。

「当主フランツが最も心血を注いでいる品種がピノ・ネロ(=ピノ・ノワール)です。良いワインをつくるのが難しいブドウのひとつですが、石灰質や粘土を含む砂質土壌の35の畑(モンターニャ村とエーニャ村)に植え、バランスの取れたブドウを得られるようにしています。ブドウ樹は1haあたり12500本に密植し、良いストラクチャーを持つブドウが得られるように努力しています。ピノ・ネロはフレッシュさがあり、独特の果実の香りが身上ですから、35の畑別に少しずつ変えて仕込み、最後にアッサンブラージュを行います」(アンドレアさん)

「アルト・アディジェは涼しいので、フレッシュさが出せ、イタリアのピノ・ネロの中で最も良いものができる地域です」(マリアさん)



Alto Adige DOC Lagrein 2005
野生的な豊かな香りで、煮詰めたフルーツを思わせます。タンニンはたっぷりとしていますが、ザラつきがなく、なめらかです。なめし革のような野性味があり、旨味もたっぷり。

「ラグレインは地元では“ラグライン”と呼んでいます。これも地元で親しまれてきた伝統品種です。エーニャ村のブドウを使っていますが、標高が低く(250m)、土壌は熱を逃しにくい沖積土ですので、夜間も温度をキープし、ブドウの完熟に寄与します。攻撃的なタンニンがあるためマセラシオンが難しく、パワフルで構成がしっかりしているので、エレガントさを出すのが難しい品種ですが、うまく出せるように努力しています」(アンドレアさん)



Alto Adige DOC Moscato Rosa 2005
濃厚な色のロゼワイン。バラやマスカットのような華やかな香りが素晴らしく、口にすると非常にチャーミング。甘さと酸のバランスが良く、ピュアで可憐な、幸せな甘さです。

「モスカート・ローザはアルト・アディジェ特有のブドウで、アロマが素晴らしく、色もきれいなワインになります。しかし、栽培面積はアルト・アディジェ全体でも12haしかなく、我々も3.5ha(エーニャ村)しか栽培していません。というのも、結実が非常に難しく、バラバラにしか粒が付かないからです。でも、付いたブドウはしっかりしているので、パッシート(乾燥)させることも可能です。このワインは低温でスキンコンタクトを行い、香りと残糖分高めに残しています。なお、土壌は斑岩、粘土・石灰・砂質の混成です」(アンドレアさん)

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インタビューを終えて

フランツ・ハースのワインをテイスティングして感じたのは、どのワインも非常にエレガントだということ。過剰な抽出はせず、濁りがなくピュアで、しかも芯がしっかりとしてメリハリがあります。

また、充分な酸がボディを支え、きれいな果実味とのバランスが取れ、1杯飲んだらまた1杯・・・とグラスを重ねたくなるタイプのワインです。

これはアルト・アディジェという冷涼な気候によるものが大きいかもしれませんが、アンドレアさんが言っていたように、収量をきっちり抑え、ていねいに手をかけて育てたブドウでないと、ここまでのクオリティは出せません。

「フランツがピノ・ノワールに狂っていることは、知り合う前から有名だったわ。彼は今も、寝る間を惜しんでピノ・ノワールに心血を注いでいますけど(笑)」

とマリアさんは言いますが、フランツ・ハースのワインを飲めば、ピノ・ノワールだけでなく、どのブドウにも愛情が注がれていることがわかります。



現在はフランツさんとアンドレアさん、そして若い研修生の3人が中心となって現場にあたっています。そこに販売マネージャーと、典型的なイタリアのマンマである陽気なマリアさんが加わり、スタッフ一丸となって高品質で国内外の評価の高いワインを生み出しています。

そんなチームワークバッチリのフランツ・ハースは、エレガントでフィネスを備えるワインを求める人にとって、絶対にハズせないワイナリーでしょう。


取材協力: 株式会社ワインウェイヴ

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