ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第39回 Champagne M.Maillart@「キャッチ The 生産者」

2009-05-08 09:29:24 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2007年10月11日)

第39回  Nicolas Maillart  <Champagne M.Maillart>

今回のゲストは、フランスのシャンパーニュ生産者
“M.マイヤール”の若き9代目、ニコラ・マイヤールさんです。

日本には初めてというニコラさんに会ったのは、真夏の暑い日。
「日本は暑くて湿度も高くて参っちゃうね・・・」と苦笑するニコラさんでしたが、それでもしっかりとお話を伺わせていただきました。


<Nicolas Maillart> (ニコラ・マイヤール)
1977年6月4日生まれの30歳。姉2人とニコラさんの3人姉弟。
ボルドー、モンペリエの醸造学校を卒業し、エノローグの資格を取得。フランス国内、アメリカ、スペイン、南アのワイナリー等を経て、2003年にM.マイヤールに戻る。


モンターニュ・ド・ランスの家族経営生産者 - M. Maillart -

M.マイヤールは1720年から続く歴史あるドメーヌで、ニコラさんで9代目。
現在の名前になったのは1965年で、ニコラさんの父ミシェルさんが「M. MAILLART」としました。

ドメーヌはエキュイユ村にあります。ちょっと聞きなれない村名ですが、シャンパーニュの中心地、ランスから南西に10数km離れたところに位置しています。
エリアでいえば、モンターニュ・ド・ランスになります。

M.マイヤールでは、本拠地のエキュイユと、その南東のヴィレ・アルラン、さらに南東に行ったブジーの3ヶ所に畑を持っています。

そして、畑はすべてプルミエ・クリュ(エキュイユ、ヴィレ・アルラン)、グラン・クリュ(ブジー)のみというこだわりがあります。




Q.エキュイユはどんな村ですか?
A.人口400人の小さな村ですが、シャンパーニュの畑としては1級になります。
我々の畑は南東向きの斜面にあります。斜面の中ほどは粘土質ですが、下の部分は砂質土壌で、表土は10~15mと非常に深く、その下は白亜質のチョーク層です。
そのため、ピノ・ノワールの栽培に最適で、シャルドネにも適しています。
所有畑はピノ・ノワールが70%で、シャルドネが30%、ブドウ樹の平均樹齢は30年です。


Q.あなたのシャンパーニュづくりの特徴は?
A.リザーヴワイン(*1) が多いことでしょうか。生産量の約50%をリザーヴワインに回しますが、これはかなり多い方だと思います。そのため、リザーヴワインは3~4年分のストックがあります。

リザーヴワインは、スタンダードなブリュットでも35~40%使います。これは、ロットにより大きな品質の差を出さないためです。

また、複雑さ、厚みを与えるために樽発酵を行っています。マロラクティック発酵は、基本的には行いますが、キュヴェによって違います。


Q/栽培についてはいかがですか?
A.農法は特に形にこだわらず、リュット・レゾネ、ビオロジックを考慮してブドウづくりを行っています。
また、畑の下草は残すようにしています。


Q.M.マイヤールのシャンパーニュの特徴は?
A.ファインワインといえると思います。香り高くアロマティックで、土地の個性や風味が現れて、エレガントできれいなシャンパーニュです。


Q.ラベルデザインが少し変わったようですが?
A.昨年から変えています。イメージも大切ですから、おいしそうに見えるようなデザインにしています(笑)。紙質も変えました。というのも、シャンパンクーラーに入れて冷やすことが多いと思いますが、ふやけて取れたり、破れてしまうことが多かったんです。そうしたレストランからの声や要望があったので、特殊加工した紙とシールを使うようにしました。

また、デゴルジュマン(*2) の日付を表のエチケットに入れていましたが、バックラベルの方に移動しました。


デゴルジュマンの日付、生産本数、ドサージュ量等の情報が記載


Q.ラベルが変わっただけですか?
A.いえ、今までの商品を整理して絞り込み、
“クラシック・シリーズ”と“テロワール・シリーズ”に分類することにしました。

“クラシック・シリーズ”は、従来のスダンダートスタイルのものと、10年以上寝かせたヴィンテージものがあります。

“テロワール・シリーズ”は、シャンパーニュにも素晴らしいテロワールがあることを伝えたいと思った新シリーズで、テロワールがよく出る特別なつくりをしています。

クラシック・シリーズ         テロワール・シリーズ
Brut 1er Cru              Les Chaillots Gillis 1er Cru
Brut Blanc de Blancs 1er Cru   Les Francs de Pied 1er Cru
Cuvee Prestige 1er Cru       Brut Rose Grand Gru


Q.テロワール・シリーズについて詳しく教えてください
A.これらに着手したのは私がドメーヌに戻った2003年からで、2007年11月のリリースを予定しています。ラベルもクラシック・シリーズとは全く違います。

“Les Chaillots Gillis 1er Cru 2003” はシャルドネ100%のブラン・ド・ブラン(*3)で、エキュイユの中腹にある畑のブドウを使っています。平均樹齢は40年以上です。樽発酵、樽熟成を行っていますが、マロラクティック発酵は行っていません。無ろ過、無清澄で、熟成期間は平均3年以上です。

“Brut Rose Grand Cru” ですが、以前はグラン・クリュのブジーのブドウとプルミエ・クリュのエキュイユとヴィレ・アルランのブドウをアッサンブラージュして“Brut Rose Premier Cru”としていましたが、ブジーのものだけを使い、“グラン・クリュ”シャンパーニュに格上げしました。
ピノ・ノワール70%、シャルドネが30%で、セニエ(*4)によるロゼです。平均熟成期間は2年以上です。

“Les Francs de Pied 1er Cru 2003” は、エキュイユ村のピノ・ノワール100%からつくったブラン・ド・ノワール(*5)で、樽発酵、樽熟成は行いますが、これもマロラクティック発酵は行わず、無ろ過、無清澄です。熟成期間は平均3年以上です。


Q.“Les Chaillots Gillis 1er Cru”と“Les Francs de Pied 1er Cru”は“Extra Brut”ということですが、ドサージュ(*6)の量はゼロですか?
A.どちらも2g/リットルで、ゼロにはしません。というのも、料理でもちょっとの調味料で味が引き立つように、シャンパーニュもドサージュで味が丸くなるからです。試飲しながら最適の量を決めました。




Q.“Les Francs de Pied 1er Cru”は特別なシャンパーニュということですが?
A.これは、接ぎ木していない自根のブドウ樹です。父の頃から(1973年に植樹)あることがわかっていました。エキュイユ村に1パーセル(区画)だけあるピノ・ノワールです。
この畑は砂質土壌ですが、土壌と樹の相性が良かったのでしょうか、フィロキセラを寄せ付けることなく成長しました。特別な環境(畑のまわりは樫の木の森)にあるのかもしれませんし、土壌とブドウが極めて稀な組み合わせだった、といえるのかもしれません。


Q.クラシカル・シリーズの古いヴィンテージものは、どういうシャンパーニュですか?
A.現在市場に出ている古いものは“Champagne Cuvee Prestige Premier Cru 1989”と“Champagne Cuvee Reserve Premier Cru 1989 Magnum”です。
古いものを飲み慣れていない消費者に熟成したおいしいシャンパーニュを飲んでほしい、という思いからつくっています。

偉大な年のみの生産で、近年では1985、1988、1989、1995、1997年につくっています。10年以上熟成させてから出荷しますが、この1989年は15年熟成させています。


(*1) リザーヴ・ワイン:
各生産者の個性を表現するため、将来に備えてストックしておくワインのこと

(*2) デゴルジュマン:
出荷前に行うオリ抜き

(*3) ブラン・ド・ブラン:
白ブドウからつくられる白いシャンパーニュ

(*4) セニエ:
「血抜き」の意味で、黒ブドウのかもしの途中で、ほどよく色付いた果汁部分だけを抜き取り、白ワインのように醸造する手法

(*5) ブラン・ド・ノワール:
黒ブドウからつくられる白いシャンパーニュ

(*6) ドサージュ:
オリ抜きした後に加える糖分(門出のリキュール)のこと

(*7) グラヴィティ・システム:
ポンプ等を使わず、ワインの移動を重力によって行うこと


<テイスティングしたシャンパーニュ>
新シリーズになる前の現行の2アイテムをブラインドでテイスティングしました


Brut Premier Cru NV
色はやや濃い目のイエロー。酸がしっかりとし、コクがあり、ボディがしっかりとし、やや甘さを感じるタイプ。どちらかというとスティルワインに近い印象があり、ピノ・ノワールが多いかも?

オープンしてみると、ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%で、ドサージュは9g/リットル。1998~2002年のワインをアッサンブラージュ。マロラクティック発酵していないワインを10%ブレンドしていました。



Brut Blanc de Blancs Premier Cru 2000

1本目よりは色調が淡く、味わいもスッキリ。ミネラル感があり、口にチリチリと当たる感じは爽やかなエスプリ系のシャンパーニュでは?

オープンしてみると、シャルドネ100%のブラン・ド・ブランで、ドサージュは3g/リットルと、やはり1本目よりも辛口。こちらはマロラクティック発酵していないワインを35%ブレンドしているということで、これもより爽やかに感じた要因のひとつでしょう。


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インタビューを終えて

「小さい頃からシャンパーニュの味見はしていたけれど、初めからドメーヌを継ごうとは思ってなかったんです。意識し始めたきっかけは、15、16歳くらいのときに行ったヴーヴ・クリコ社の研修でした。といっても、1週間くらいのミニ体験コースでしたけどね。

この時の研修でシャンパーニュづくりの雰囲気がわかり、醸造学校に行ってみようかなと思いました。ですが、家が畑を持っていなかったら、自分はワインの仕事には進まなかったかもしれないですね。スペインや南アフリカとか、美人が多い土地にいたかったかも(笑)」

と、冗談交じりに語るニコラさんですが、この日に話を聞いた限りでは、もうすっかりシャンパーニュづくりにのめり込んでいるようでした。

ニコラさんがドメーヌに戻ってきた2003年には醸造設備を一新し、テロワールごとに醸造できるよう、多くのステンレスタンクを購入し、グラヴィティ・システム(*7)も導入しました

準備はすっかり整い、これからは思う存分、持てる力を発揮するだけです。

ニコラさんの父ミシェルさんはまだ引退するような年ではなく、しっかり元気ですが(1943年生まれの64歳)、早々にニコラさんにドメーヌを譲ったのは、安心して任せられると判断したからなのでしょう。

ミッシェルさんは、時々は収穫等の手伝いもしているということですが、今は悠々自適に過ごし、ニコラさんを蔭から見守っています。



M.マイヤールでは、いよいよこの11月に新シリーズをリリースしますが、さらに今後の目標は?と尋ねると、

「最終的には品質を良くしていくことに努めたいと思います。いい樽を選んだり、いい焦がし方を研究したりする等、やることはまだまだありますよ!」
とニコラさん。

まだまだ進化しそうなM.マイヤールは、今後も目が離せそうにありません。




取材協力: 豊通食料株式会社

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