MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

表記にも願いが

2013-12-17 00:00:00 | その他の音楽記事

12/17         表記にも願いが



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                 表記にも願いが
                   河に託して
                   証し人たち




 並んでいるのは、チェコ語で表記された人名で、
すべて音楽家。 ご存じの名前も多いでしょう。

 今回は、出来るだけ原語の発音に近く読んで
みましょう。 どうなるでしょうか?



     František Benda

     Jan Ladislav Dussek

     Bedřich Smetana

     Antonín Leopold Dvořák

     Zdeněk Fibich

     Vítezslav Novák

     Otakar Ševčík

     Leoš Janáček

     Julius Arnošt Vilém Fučík

     Josef Suk

     Bohuslav Martinů

     Zuzana Růžičková

     Jan Horák





 それでは、日本語で表記した一例です。



 František Benda

 フランティシェク・ベンダ


    (1709年11月22日 - 1786年3月7日)



 Jan Ladislav Dussek

 ヤン・ラディスラフ・ドゥシー


    (1760 - 1812年)



 Bedřich Smetana

 ベドジフ・スメタナ


    (1824年3月2日 - 1884年5月12日)



 Antonín Leopold Dvořák

 アントニーン・レオポルト・ドヴォジャーク


    (1841年9月8日 - 1904年5月1日)



 Zdeněk Fibich

 ズデニェク・フィビ


    (1850年12月21日 - 1900年10月15日)



 Vítezslav Novák

 ヴィーチェスラフ・ノヴァーク


    (1870年 - 1949年)



 Otakar Ševčík

 オタカール・シェフチー


    (1852年3月22日 - 1934年1月18日)



 Leoš Janáček

 レオシュ・ヤナーェク


    (1854年7月3日 - 1928年8月12日)



 Julius Arnošt Vilém Fučík

 ユリウス・アルノシュト・ヴィレーム・フーク


    (1872年6月18日 - 1916年9月15日)



 Josef Suk

 ヨフ・


    (1874年1月4日 - 1935年5月29日)



 Bohuslav Martinů

 ボフスラフ・マルティヌー


    (1890年12月8日 - 1959年8月28日)



 Zuzana Růžičková

 ズザナ・ルージコヴァ


    (1927年1月14日 - )



 Jan Horák

 ヤン・ホラーク


    (1943年8月2日 - 2009年1月18日)




 「初めて見る読み方だ。」

 そんな名前も、幾つかあったのではないでしょうか。



 私たちにとって特に難しいのが、子音ですね。 同じ字体
でも、言語によっては極めて大きな差が生じます。



 “ch” は、強いて書けば “”。 “チ” でも “ヒ” でも
ありません。

 “č” は “”。 “ス” ではなくて。

 “še” は “シェ”。




 そして大問題なのが “ř” でしょう。

 上には “ベドフ” (Bedřich Smetana)、そして
“ドヴォャーク” (Dvořák) と書いてあります。



 通称の “ドヴォルザーク” に、まったく根拠が無い
ことは、この場でも以前から触れてきました。

 それに、“アントン” では、ドイツ語かロシア語に
なってしまう。 かつての “支配側言語” です。




 それでは、前々回ご紹介したムジカ・ボヘミカ
は、どう書いてあるか?

 2002年以来のライブラリーページには、“ドヴォ
ジャーク”。 しかし、最新のチラシの表記では “ドヴォ
ジャーク” です。



   

        (表)               (裏)




 この ř” の音。 解説を見ただけでは、私には
解りません。

 wikipediaの音源]で何度聴いても駄目でした。
解るのは、「“ル” が聞こえない」…ことだけ…。



 そこで、ホラークさんのご家族に尋ねてみました。

 なんでも、「巻き舌の “r” を発音するつもりで、歯
の間から、強く息を押し出す」…のだそうです。



 でも私がやってみると、「それは喉の音。 違いますよ!」

 必死になればなるほど、うまく行かない。



 これ、チェコでもお子さんたちには難しいそうです。 じゃあ、
私が出来なくてもしょうがないか…。

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 実は、[ムジカ・ボヘミカ]が、チラシに “ドヴォジャーク”
と表記したのは、今回が初めてなのだそうです。

 それはなぜ?



 ホラークさんにとっては、元々 “ドヴォジャーク” だったの
ですから、「急にそうしたくなった」…とは考えられません。

 ひょっとすると、そうしたくても出来なかった、裏の事情が
あるのではないでしょうか。



 「何年かかっても、いつかは実現したい。」

 その願いの途上で、ホラ―クさんは5年前に旅立たれました。



 そもそも “ドヴォルザーク” と表記し始めたのは、誰なのか?

 今となっては、もちろん解りませんが、最初に表記する人間
の責任は重大です。 これは、訳語でも、また音韻に関しても
同じです。

 もちろんチェコのかたがたは、赦してくれるでしょう。 我々
が正確に発音できなくても。 なにしろ難しい音ですから。



 でも、「“ř” とあるから、どうせ “r” と似たようなものだろう」
…と考えてしまうと、それは違うようです。

 ご家族も言っておられました。 「“r” に見えても、“r” の
音はまったく鳴りません。」



 “少しでも近い発音を。 出来ないなりに。” そう努力する
ことが、その言語に対する敬意でしょう。 ましてや固有名詞、
それも人名ですから。

 こんなに親しまれている作曲家なのに…。 せめて表記に
携わる人間だけでも…。



 そしてそれは、その言葉を使うかたがたに
対する敬意でもあります。

 おおげさに言えば、相互理解を深めるため
の “一歩” ではないでしょうか。




 スメタナの、あのわが祖国。 2曲目の題名
が『ヴルタヴァ』となったのは、喜ばしい限りです。

 私が幼年時代から親しんだのは、『モルダウ』
…。 しかし、ドイツ語ですから。



 「お願いですから、皆さん。 “モルダウ” とは
言わないでください。」



 指揮者のヴァーツラフ・ノイマンが来日し、日本フィルの
リハーサルで “懇願” してから、40年ほどかかりました。

 “ヴルタヴァ” が、インターネットで市民権を得るまでに。



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         ただし、この “ター” はそれほど長くありません。
          「軽いアクセントがある」程度に考えてください。





 ドヴォルザークのページでも、改善の兆しが見られない
わけではありませんね。 先ほどの正確な発音も、ここに
ありましたし。

 しかし、その肖像画の下には、出生地が “ミュールハウゼン・
アン・デア・モルダウ” と書いてあります。 立派なドイツ語で。



 もっとも、当時はオーストリア領だったから、仕方が無いね。

 チェコ語のページでは、ちゃんと “Nelahozeves” って記載
があるから、まあいいか…。




 でも、この地名、何て読むの?

 これじゃ “藪蛇” だな。



 最後になって墓穴を掘った私でした…。



 後日、ムジカ・ボヘミカの演奏会プログラムには、

「プラハ近郊のネラホゼヴェス」…とありました。