レオパレス２１と大東建託

『週刊新潮』が最新号で「レオパレス２１の違法経営」を特集しています。元従業員の内部告発をもとにしているようですが、ざっと立ち読みした限りでは、さもありなんというか今更ジローの内容でしたね。

①顧客の積み立て４８億円を使い込んで退任したはずの社長がまだ出社してる

②在籍しない社員を宅建主任者登録してる

③建築と不動産をごっちゃにしてる

主に上記の３つでしたが、①は東証一部上場企業といっても、その実態は「深山商店」だというのは知る人ぞ知る。②は、人の出入りが激しすぎて（すぐ辞めるので）登録変更が追いつかなかっただけ（笑）なんせ平均年齢30.1歳、平均勤続年数４年１ヶ月の会社ですから。③これは昔から。同社は東証の業種分類では不動産業に属していますが（建設業ではない）、まさに「ごっちゃにしてる」のが高収益のミソなんです。まあ、もともとコンプライアンスなんて無いも同然の糞会社ですから、この程度の内容は驚くに値しないし、２月に発覚した手抜き建築の方がよほど深刻です。

今年の２月に「レオパレス２１の高笑い」という地味な長文エントリーをＵＰしました。マニアックな内容にもかかわらず、検索でたどって来るのか、未だに訪問者が絶えずにコメントもぽちぽち入っています。全国で同社の営業攻勢に直面している地主さんが多いことの証拠だと思います。

ここにきて、「地主にアパート建てさせて転貸する」という業態のもう一方の雄、大東建託（東証一部：1878）が身売りするのではないかという記事が、昨日の日経朝刊に出ていました。創業者でもある多田会長が、個人の資産管理会社と自身の持分の合計約３割の株式を手放す意向だといいます。落札した外資系金融機関はＴＯＢによる全株取得と非公開化を目指すと記事にはあります。

８期連続の増収増益に４期連続最高益更新中で、株主資本比率も61.8％と財務体質も良好とくれば、なぜ？と訝る向きもあるでしょう。現に社長以下経営陣の多くが、この身売り→上場廃止の構想には消極的だといいます。

これは私の推測ですが、多田会長は見切ったんでしょう。自分で興した会社だけに、このビジネスモデルの限界がわかっていて、業績が良いうちにさっさとプレミア付きで買ってもらおうとしたのではないかと。

レオパレス２１と大東建託の有価証券報告書を見比べてみました。両社とも売り上げや経常利益などは同規模ですが、利益率は大東建託が高いです。これはレオパレス２１がグァム島のリゾートホテル事業の赤字に喰われている分なんでしょう。大東建託はいかにも名古屋発祥の会社らしく堅実です。有利子負債はゼロの無借金経営で、株主持分比率も６０％超ですから、この辺がレオとの違いです。気になったのは、より堅牢な工法や免震、環境や街並みの配慮など、デベや建築業には不断の技術革新が必要だと思われますが、大東が研究開発費に７００億円以上を投じているのに対して、レオはゼロです。

両社の経営スタンスの違いは、【事業等のリスク】の記述にも現れています。レオは海外のホテルリゾート事業に関する為替変動、会員権預託金、有形固定資産といった、いかにも表層的な事象に紙幅のほとんどを費やし、本業である賃貸事業が内包するリスクや、その将来性の評価については全くと言っていいほど言及していません。かなり不真面目ですよ、この会社は。

それに対して、大東の方がまだ本質的な部分に向き合っているような印象を受けました。

（１）原材料高騰による原価上昇、利益率低下
（２）入居率の低下による受注低迷・経費増
（３）相続税及び土地関連税制の変更による業績低下
（４）金利の急上昇における受注キャンセル
（５）法施行・法改正に伴う経費増
（６）個人情報の漏洩等のリスク

以上を経営上のリスク要因として挙げていますが、これらのほとんどが、まさに現在押し寄せてきているか（１や５）、近い将来かなりの確率でそうなるだろうと思われるものばかりなのです。

人が少なくなっていく・・・。日本は縮小の過程に入っています。

人口減社会だからなんでもかんでも斜陽になるといったら身も蓋もない話で、そんなに単純ではありません。でも、レオや大東のビジネスモデルは、日本の国土と税制だから通用するわけで、そのノウハウを海外に持ってはいけないという意味でドメスティック産業です。それに今後は我が国の賃貸需要は確実に減っていくでしょう。これは自分が３人兄弟だったので感覚的にわかるんですが、家族に人が多いと独立のモチベーションがアップするもんです。１人あたりのスペースが狭いですから、早く出て行きたいと考えるようになる。少子化時代はどうでしょう。一人っ子だとそうでもないんではないかと。中には親の視線の集中がウザイという、精神的な圧迫感を持つ人もいるかもしれませんが、なんとなく居場所が確保されていてラクだから、一人暮らしのインセンティブが働かない。それに兄弟がいないと、親の家を争いなくすんなり継承できるので、賃貸を借りる必要もなくなります。

レオや大東がずーっと増収増益だったというのは、需要の先食いをしてきたからです。というかそもそも入居者などとっくにいなくなっているのに、人海戦術（両社とも営業力強化という名目でここ数年大量採用を続けている）によって、素人のお百姓さんを騙してじゃんじゃんアパート建てさせてきたわけで、既にもう供給過多なのです。したがってこれから先、面倒くさいことが起きてくるのが自明なのを大東建託の多田会長は知悉するからこそ、とっとと店仕舞いしてトンズラしたいんでしょうね。建設で儲け、管理で儲け、修繕で儲けと地主を骨の髄までしゃぶり尽くす商売の旨みを存分に味わって、ハイ、さようならということですか。

仮にゴールドマンサックスが同社の全株を取得したらどうするつもりなんでしょうかね。一連のゴルフ場再生でみせたようないわゆる「面展開」を考えているのか、受注拡大路線ではなく、豊富なストックを生かしたネットワークで稼ごうというのかもしれません。

それよりも、政府はそろそろ土地関連税制の抜本改正を考えた方がいいんじゃないでしょうか？

たしかに現行税制では、結果的に賃貸住宅建設が最高の税金対策になってしまっています。地主の不動産活用のバリエーションがそれくらいしかない。だからレオや大東などの転貸業者が跋扈して、社会的には必要でもない安普請のアパートがどんどん建てられているというわけです。

そこで土地の売却税をぐんと下げたらどうだろうかと思うのです。そうすれば無駄に相続税対策のアパート建てずに、地主が土地をリリースするようになる。市場に宅地が大量に供給されれば地価が下がって、遊休地が安く買えるからエンドユーザーにマイホームが行き渡りやすくなる。

売って都心のマンションに引っ越すオーナーや高齢者の空き家が賃貸市場に流通するケースも増えるでしょう。レオや大東のような一部特定業者の絨毯爆撃営業によって、市場性のない立地にまで粗悪なアパートが乱立するよりは、良質な賃貸住宅が出て来る可能性が広がるので、いわゆる賃貸派の人にとっても朗報でしょう。