「若者の死因、半数が自殺」はなぜ起きたか
就職できない、生活保護も受けられない若者の孤独 (プレジデント)
年間自殺者が3万人下回る見通しだが…
2012年の日本の自殺者数は、15年ぶりに、年間3万人台を割り込む見通しであることが明らかになった。
内閣府自殺対策推進室が7日に公表した「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移率」をみると、今年1月から11月までの自殺者数は、2万5754人。昨年の同時点と比べて、2800人減少した。
ご存知のように、自殺者は、金融危機による倒産や失業者数の増えた1998年、一気に3万人を突破。以来、昨年まで年間3万人を超え続けていた。
しかし、2006年10月に、自殺対策基本法が施行され、内閣府に「自殺対策総合対策会議」を設置。2010年には「いのちを守る自殺対策緊急プラン」が策定され、ワンストップ相談窓口の整備や早期対応体制強化などの様々な取り組みが、ようやく功を奏してきたのかもしれない。
一方で、気になるデータもある。
「お父さん、眠れてる?」というキャッチコピーの『自殺総合対策パンフレット』(2010年に内閣府自殺対策推進室が発行)によると、2008年における20歳から24歳の死因の50%は自殺だった。
同じように、死因に占める自殺の割合は、25~29歳で47%、30~34歳で40.7%などと、若者世代で40%を超えていた。
また、東京都が行った『自殺に関する意識調査』(平成24年)で「自殺したいと思ったことがある」と答えた該当者に対し、「自殺を考えたとき、誰かに相談したか」という質問をしたところ、「相談したことがない」と答えた人は、73.1%にのぼった。心理的に追い込まれた人たちが、気軽に相談を打ち明けられるような人間関係もなく、社会とつながっていない孤立の実態も浮かび上がる。
◆生活保護申請も窓口で追い返されることも
とくに、なかなか仕事に就くことができず、生真面目で、日々の生活費の支払いにも困窮しているような引きこもり当事者や、その家族にとっては、ますます深刻な事態に陥りつつあるという。
「一昔前までは、小泉構造改革のしわ寄せで、中小企業を経営しているようなお父さんたちが、会社をつぶされて亡くなる人が多かった。でもいまは、若い人たちの仕事がないことが問題なんです」
こうして、自殺には雇用の問題が大きいと指摘するのは、引きこもり当事者支援などを行うある自立支援団体の関係者だ。
親世代がイメージしている高度経済成長の時代と違い、いまは大学を出ても、高学歴であっても、なかなか就職先がない。それに一旦、会社を辞めると、なかなか再就職できなくなるという現実も加わる。
そんな若い世代が、当面の生活費に困窮したとしても、なかなか生活保護を受けさせてもらえないという。
「1人で生活保護の申請に行っても、まず窓口で追い返されますね。“ハローワークへ行きなさい”とか“相談する場所はここではない”“ここは君の来るところではない”などと言われるんです」(前出関係者)
◆生活保護申請の“水際作戦”が強化、さらに追い詰められる若者たち
しかし、これまでの連載でも報じてきたように、ハローワークへ行っても、面接にたどり着けなかったり、やっと採用されたと思ったらブラック企業だったりと、問題がすべて解決するわけではない。セーフティーネットが不備なままであるにもかかわらず、その場しのぎ的な“水際作戦”の強化によって、生活保護のハードルが高くなったことも、若い世代を追いつめるきっかけにつながっているのかもしれない。
しかもここ数ヵ月、その“水際作戦”がとくにひどくなってきているという。
◆親や実家に甘えなくてはいけないのか?
「新しく提出する書類の様式が変わってきて、履歴書のように自分の経歴を細かく書きなさいという紙が付いたんです」
経歴に空白期間のある「引きこもり」経験者は、ありのまま引きこもっていたと明かすしかない。しかし、彼らにとっては、ここでも敷居が高くなっていて、プレッシャーやストレスになる可能性もある。
そうすると結局、「親や実家に甘えなくてはいけないのか?」という話になってしまう。生活保護を受けるにあたっては、親に照会が行く。そこで、親に知られたくないからという理由で、申請しないで我慢している人たちも少なくない。このように一生懸命頑張ってきた人たちが、誰にも相談できないまま追い込まれていくこともあるという。
「ある30歳代の男性当事者は、(障害や特性などのために)仕事に就けず、実家で年金生活の親とともに生活に困っていました。(障害者が地域で自立した生活を送るための)グループホームの入居手続きに行ったら、役所にいる保健師から、グループホームに入れてあげる代わりに生活保護を受けないようにと言われました。いかにこっちが正当であっても、一連の水際作戦によって、根拠もなく、このような嫌がらせを受けるようになったんです」(前出関係者)
このように、家賃の補助は受けられても、今後の光熱費や食費などには困窮してしまうケースも最近、複数出ているというのだ。
「1人でも頑張れる人なら、大丈夫なんです。でも、対応のひどさによって、頑張れなくなってしまうのが、引きこもりなどの当事者の特性でもあるんです」
◆このままでは生存権さえ危うい?、1人ひとりの投票が今こそ重要
夢も希望もなく、将来の目標も立てづらいという状況では、もはや絶望しかない。しかし、こうした仕組みを変えられるのは、政治家の政治力であり、彼らを選ぶのは、私たち有権者である。
◆候補者や政党の政策や訴えを注意深く見て投票を
多党化で注目されている今回の選挙では、「生活保護基準の引き下げ」や「最低賃金制度の廃止」の是非なども争点になっている。選挙の結果次第では、基本的な生存権すらも見捨てられるような政策も行われかねない。
一方で、今春「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できる」という考え方で問題になった「親学」の教育を推進しようとしている議員連盟や団体を背景にした候補者や政党もあり、発達障害の当事者は「特性であることも理解せずに、当事者に精神論やトレーニングを課すのは筋違い」と心配する。
党派を超えて、日頃から「引きこもり」当事者や家族などに寄り添いながら、問題の解決へ向けて、行政に働きかける取り組みを熱心に行ってきた候補者も少なくない。
気がついたら、引きこもる高齢者や障害者などを想定したような「生産性の低い人はいらない」という世の中になっていた…などということにさせないためにも、衆院選候補者や政党の政策、あるいは訴えを注意深く見て投票していくことがいま、私たち1人ひとりに問いかけられている。
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若者の雇用 「金の卵」は育ててこそ
若者たちの雇用が細っている。十二月に主な企業の会社説明会が解禁され大学三年生の就職活動が始まったが、状況は依然厳しい。社会を支える世代への雇用支援は大きな政策課題だ。
若者たちの就活は厳しい。来春卒業予定の大学生の就職内定率(十月一日現在)は63・1%、高校生(十月末現在)は60・9%で、いずれもリーマン・ショック以前の水準に戻っていない。就活中の四年生約十五万七千人が内定を得ていない中で、三年生の就活が始まった。
無職のまま卒業する若者もいる。今春、大学を卒業した五十六万人のうち、約八万七千人が就職や進学をしていない。非正規職など安定的な仕事に就いていない人は二割強いる。若者の失業率は今夏で7~8%と全世代の倍近い。
正社員の職を得ても使い捨てにする「ブラック企業」がある。辞めた後は非正規になりやすい。
就職できない状況は改善したいが、就職できても非正規では技術や経験を積み、職業人として成長する機会が限られる。不安定で低収入のため結婚も難しく、少子化に拍車をかける。
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厚生労働省調査では、パートの若者で「正社員になりたい」人は二十~二十四歳で約六割、二十~三十四歳でも四割を超える。その理由に収入や雇用の安定とともに「より経験を深め、視野を広げたい」ことも挙げている。
自分を磨き自立したい若者を支える雇用環境こそ必要だろう。
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職場での非正規の職業訓練機会は、正社員の半分しかない。これでは人は育たない。企業は正社員化や能力開発など待遇改善と人材育成に努めるべきだ。
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