私の場合
伸子の考えはもうわかったので、彼女の意識から出ることにした。
よいしょ……と。
もう慣れた闇の中。疫幽家の人間達だけがぽつぽつと見える。
伸子は、貞子が夢を見ていただけなのだと結論づけた。
それも無理もない話だった。
さて。
貞子が混乱しているのは明らかだし、好男(すきお)はまだ寝ているし、霊(たま)もさっき眠ったばかりだ。
眠っている状態の意識に入っても何も . . . 本文を読む
伸子の場合
儚の意識に入り込めないので、最初に目を覚ました伸子に入って様子を伺うことにした。
よいしょ……と。
…………。
まだ眠い目を擦り、視界が安定するまでに時間を要した。
朝食の準備など朝の日課をあらかた済ませた伸子ははたと気づく。
「儚がいなくなって今日で十日だねえ……」
一人ごちる。
そろそろ掃除をしないとほこりっぽくなるわ。
そう言って、孫の部屋へ向かった . . . 本文を読む
十日目
がら、がら、がら……と。
霊(たま)に意識を落としていた私は、玄関の戸が開くのを目の当たりにした。
そこにいたのは……
――疫幽儚(えきゆらはかな)!!
どう見ても、疫幽儚だった。
質素な白い服に、長い黒髪。透けるような青白い肌に、細長い手足。
白い靴を脱いで家に上がり、ゆったりとした足どりで歩いてゆく。
ゆらゆらと、どこか危なっかしい動きだった。
死体が見つ . . . 本文を読む
好男(すきお)の場合
今度は儚の父、好男の意識に入り込み、あの時のことを思い出してみた。
私の力では過去を十日までの範囲で遡(さかのぼ)って見ることができるのだ。
いつもの時間になっても、貞子の「夕飯の支度ができましたよ、ご飯にしましょう」の声がなかった。
不思議に思い台所に行くと、料理はちゃんとできていた。あとは盛り付けるだけ、といったところだ。
そういえばさっき、呼び鈴 . . . 本文を読む
最初の記憶
気がつくと、ここにいた。
ここ……どこ?
知らない。
ただ、暗かった。
夜……? ではない。
だんだんと、闇が揺らいでゆく。
最初に見たのは、そう。
死体だった。
眼前。
目の前に、青白く美しい少女が倒れていた。
質素な服装の、黒い髪の女の子。長い黒が、無造作に乱れていた。
「はかな!」
疫幽(えきゆら)貞子が言った。
そう。少女の名前は、
― . . . 本文を読む
貞子の場合
リンリンとベルが鳴った。
貞子が昨日電話で話していた相手だろう。
では、貞子に意識をもっていこう。
よいしょっと。
…………。
「あぁ、健介くんだわ」
そう言って、貞子は長い黒髪を前に垂らしてから玄関に向かった。
ほとんど前が見えない。
が。それが来客を出迎える時の基本スタイルだった。
なぜなら彼女は人と目を合わすことが極端にニガテだったからだ。
廊下で . . . 本文を読む
霊(たま)の場合
霊に意識を移した時、言いようのない雰囲気に呑(の)まれることになる。
それでは、よいしょっと。
…………。
家の中、人間で言うところの静寂の中にあって、しかし色々な音が聞こえてくるし、様々な匂いも立ち込めている。
空気感、とでも言えばいいのだろうか。たくさんの音と匂いはないまぜとなり、一つの世界を構築している。
振り子のついた大きな柱時計の秒針が、金切り声 . . . 本文を読む
--めくるめくはかないひびはこんな--
気がつくと、ここにいた。
どこなのかはわからない、黒の世界。闇の中。
ただ、自分には複数の人間が、見てとれた。
複数人を同時に眺めることも、一人だけに意識を集中することもできた。
小説で言うところの神の視点とかいうやつか。
私にはそれができた。
一人の人に意識を集中させてやると、その人のステータスがわかった。
たとえば疫幽伸子(えきゆ . . . 本文を読む
お泊りデートのあとに、彼女から呼び出しがあった。
▼メール
件名:ちょっと
本文:金曜日会いましょう
な、なんだ……?
親に内緒でお泊りデートをしてしまった直後である。
この素っ気ない文面。
顔文字もない。句読点すらない。
真面目に殺風景。
なにか。
なにかあったのに違いない。
そう覚(さと)る。
そして金曜日。今日。
待ち合わせ場所で待っていると、能面のように表情の死 . . . 本文を読む
このあいだ、遊のうちに泊まった。
夢は家族と暮らしているが、その家族がたまたま旅行に出て家が無人になるので、内緒でお邪魔した。
バレたら大変、リスキーだった。
なのに僕たちといったらかんなりくつろいでしまった。
遊「本当言うとこれ、バレたらシャレにならないんだからね?」
僕「それくらいわかってますよ僕だって」
遊「だよね……でもなんなんだろーね、アンタといる、この安心感は」
僕「本当です . . . 本文を読む
遊「あんたさぁ、道路の反対ってわかる?」
唐突に、遊が言い出した。
道路の反対? 道路の反対は……
僕「道向かい、ですか――」
遊「ぶぶっ(笑)、ブッブー、ハっズレー」
反対、つまり対義語のことか?
僕「道路に反対もなにも……建物ですか?」
遊「アンタぶぁかああ?」
僕「……いや、遊さんの問題の出し方に問題があるのでは」
遊「アンタうまいこと言って逃げるつもり?」
僕「逃げるつもりも . . . 本文を読む
どうも。囿です。
特に面白いこともないのですが、
遊「いいから書け、とにかく書け、書き続けろ」
と脅迫を受けているので、まぁ……
彼女について、少し書きたいと思います。
正直に言うと、僕の彼女は腐女子ではありません。
ただ少しオタクなだけです。僕と同程度かそれ以上の、まぁなんですか、マニアなんです。
あ、それよりも見た目、ですか?
えぇ、それはもう、なかなか、本当に、
フツーで . . . 本文を読む
これは2日前の話になる。
遊「そろそろあんたの誕生日ね、セバス」
僕「誕生日が近いのは正解正解大正解なんですが、
僕の名前はセバスチャンでもクリスチャンでもありません!!」
遊「ほうほう、セバスよりクリスがよいか、なるほどぅ」
ちっ。余計な情報を与えてしまった!
――不覚。
僕「あぁもう、クリスでもセバスでもいいから、何がなるほどぅ、なんですか?」
遊「なんだ、どっちでもいいのか。 . . . 本文を読む
最近、父の様子が変です。
いや、見た感じたいして変わっていないのですが……
あれは1年半くらい前。
わかりやすい文体で描いたわかりやすい小説を印刷した物を、父に渡したことがありました。
僕の短編小説の中で1番わかりやすい内容のはずで、少し前に遊に読ませても「おもしろかった」と言われた代物です。
なのに、それを渡した時の父の反応……
ともかく読みます、めくったりしています。
そして . . . 本文を読む
僕は普通じゃないところでリハビリを受けている身です。
そのリハビリで、絵手紙を書こうというプログラムがあるのです。
そこでこの間なんとなく描いたものを載せます。
この日記『腐足り』のテーマみたいな絵になったので。
右上の字は、
「腐」
です。
あはは。 . . . 本文を読む