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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

明日に架ける橋

2007-06-24 18:58:09 | 好きな絵本

 「好きな絵本」のちょうど80冊目(そして、このブログの満2歳の誕生日前最後の絵本)は、
この本になりました。 

 
偶然そうなったのですが、偶然とは思えない偶然を感じてひとりで嬉しくなってます。



  たいようオルガン
           『たいようオルガン』
        荒井良二 作

 

 『たいようオルガン』のキーワードというか、ポイントというか、描きたかったことは
以下の3つだと、青山ブックセンターのトークショーで、荒井良二さんはおっしゃっていました。

 たいよう+オルガン   ゾウバス    橋

 そして、試みのひとつとして、文章の中から助詞を削ること。それによってリズムが妨げられる
ことを防げるかなあと、思ったそうです。


   たいようオルガン たいようオルガン
   たいようがオルガンひいて あさがきた
   ゾウバスはしる みちせまい みちほそい

 確かにそうですよね? ゾウバスがはしる みちはせまい みちはほそい となるよりも
ゾウバスが懸命に走っていく様が、みちせまい みちほそい によく表れていると思います。

 こんな箇所もありますよ。

   たいようオルガン たいようオルガン
   たいようがオルガンひいてる
   くもでてきた くもりのくもでてきた
   ゾウバスはしる いえ ちいさい いえ おおきい あっちこっち

   のりたいひと てをあげて
   どうぞ どうぞ のったり おりたり



 ゾウバスは、こんなふうに、手を挙げている人たちを乗せて、その人たちの行きたい所まで
乗せていってくれるのです。
 ある人は会社へ、ある人たちは大きな街へ。

 ゾウバスのその姿は、なんとも健気で、なんともいえずかわいらしい。

 大きな街へも、海辺の町へも、砂漠の道でも、夕方になっても、ゾウバスはずっとずっと
走り続けます。その姿に、自分自身の毎日を重ねることもできるだろうし、道で手を挙げている
誰かに、自分を重ねることもできるかもしれません。

 ゾウバスが、ただ、てこてこと走り続けることが、この本のストーリーであり、この本の
(もしかして)すべてなのかな、と思います。


 そして、ゾウバスが走って行く道の先が、橋によって、向こう側(向こう岸)へと繋がって
いくことが、ゾウバスにとっても、ゾウバスのストーリーにとっても、読み手の私たちにとっても、
忘れちゃならない大切なことのように、思えました。

 こっち側と、あっち側。

 それを繋いでくれる橋は、目に見える頑丈な建造物であると同時に、絆のようなものでしょうか?

 「すっごく橋を描きたかった」と言っていた荒井さん。目に見えない橋も、画面の中に描き込んだに
ちがいないと思っています。



 気がつかないだけで、太陽が音を出しているとしたら…?
その音に慣れっこになってしまったから聞こえないだけで、ほんとは音が鳴っているとしたら…?
それはどんな楽器だろうと考えて、オルガンにたどり着いたのだそうです。

 

 ゾウバスの存在を知らなくても、ちっとも不便なことはないけれど、でも、ゾウバスが
雨の中も雷の中も、ひとりで、橋のこっち側からあっち側までてこてこ走って、誰かを
乗せたり下したりしている姿を、心の中に思い浮かべることができて、よかったと思います。

 その「よかった」という気持ちは、たとえば、結果的に別れることになってしまったけれど
 あなたに会えてよかった、という気持ちとおんなじところから、出ているような気がします。



    ゾウバス はしのとちゅうで とまりまーす

    たいようオルガン つきオルガン



  



  
  ※『たいようオルガン』の原画展は、丸善丸の内本店で下記の通りに。

   開催期間:2007年7月2日(月)〜7月15日(日)  
   展示場所:丸善・丸の内本店 3F中央エレベーター前

   原画の美しさは格別です。ぜひご覧になってくださいね。7月14日には
   サイン会もあるそうです。


 
  
 

   

 


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13 コメント

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 (くっちゃ寝)
2007-06-26 13:43:41
rucaさんのブログ、満2歳なんですね。
おめでとうございます♪

好きな絵本を80冊も紹介されてきた、というのもすごいことですね!
わたしもrucaさんのおかげで、たくさんの素敵な絵本や作家さんに出会うことができました。
荒井良二さんもそのひとり。

太陽が音を出しているとしたら、という発想や、文章から助詞を削る、という試み、おもしろいですね。

rucaさんのブログ自体が、絵本とわたしを繋いでくれる橋のような存在だなあと思いました。
返信する
くっちゃ寝さんへ (ruca)
2007-06-26 17:15:08
こんにちは。
コメント残してくれてどうもありがとうございます。

こんなにいい本なのに、誰もなんにも
言ってくれないのは、さびしいなあと、いつになく
思っていました(笑)。

もうすぐ2年を迎えるブログ。

そうですね~私にとっても、いろんな方々との
架け橋になってくれてますよね。
そこまでは全然考えが及ばず、この記事書いて
ましたけど。

続けて書いていかれる話題はなんだろう、と
探して見つけた「絵本」だけど、ブログを続けて
いたおかげで、どんどんその楽しさが広がって
います。

ゾウバスに乗ったり降りたりしながら、
いろんな橋を渡っていきたいなあ。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
返信する
こんにちは (こうめ)
2007-06-26 17:36:16
この絵本、ことり文庫にも、やーっとはいってきたんです。

おもったのの、100倍くらい、すてきだった!

rucaさんと同じように思ったところもあったし、
rucaさんの文章をよんで、そうだね~と、おもったことも。
とても自由なかんじがしました。


この絵本
(だけじゃなくて、ほかにも、荒井さんの絵本)
のブックデザインをされている高橋さんが、
何回かお店にきてくれて、ことりのこと、言ってくれるって
言っていたのだけど・・

でも、もしもお会いすることがあっても、
どうすればいいかわからないですね~

いつかのために、イメージトレーニング、がんばらないとです。
返信する
たいようオルガン (jasumin)
2007-06-27 11:49:35
rucaさんのお陰で、あのガーっと塗っている新井さんを見れて
そして、黄色や赤に対する(そんな大仰なものではないけれど)感じを聞くことができて
そして、原画もあわせてこの絵本の絵を見ると
すごく、「あー。」なのです。
(前置きが長い割りに、感想が単純ですみません・語彙不足

毎日、結果も達成感もなしに繰り返していることって多いし、
そういうことに不安や不満や葛藤があったりすることもあるんだけれど
なんだか、そんな毎日でも、繰り返すからつながって
こちら側からあちら側へ、あちら側からもっと向こうへと
進んでいけるのかもしれないなぁって、ちょっとした肯定感を持てそうなところです。

言葉足らずで、どう書いていいのかよくわかりません。
私はとりあえず、バスには乗らず、手も挙げず、
小鳥の高さでゾウバスについていってみたいですけど。
ごろごろテクテクの速さでいいのかなぁって。
どうも変なコメントです、すみません。
返信する
Unknown (jasumin)
2007-06-27 11:50:55
しかも「新井さん」になってるし・・・
荒井さん。です。ごめんなさい。
返信する
こうめさんへ (ruca)
2007-06-27 16:03:58
こんにちは、今日は暑いですね~。

『たいようオルガン』

 おもったのの、100くらい すてきだった~

あ~わかるなあ、その気持ち。
私も、どんなかなあとずっと想像していて、
なまいきだけど、あんな感じかな?とかも思っていて、
でも、原画を見たら、そのあまりのよさに打たれ、
ご本人からお話聞いて、うなり‥

そして、その夜、娘と一緒に声を出して読んでみたら
ほんとうにほんとうに、私の想像のはるか上を
いっていました!! 完全に、あらいスイッチが
入ってる状態ですね、私。

この本は、今までの延長線上にあるように見えて、
実は全然違うのかなあとも思っています。


トークの時に質問コーナーがあって。
私そのときに「梅ヶ丘にある『ことり文庫』を知って
ますか?」って書けばよかった、と帰宅してから
思いついたのです‥ごめんね、こうめさん。
もしも、次回があったら、今度は必ず、ことり文庫の
こと口にしてみます。

もしも、ある日荒井さんが、ことりにお見えになったら
ともだちが、娘の名前を誉めてもらって喜んでましたよ
と、ぜひお伝えください。
返信する
jasuminさんへ (ruca)
2007-06-27 16:16:16
こんにちは。

コメントありがとうございます。

あんなにステキな本なのに、うまくそのよさを
伝えられなくって残念です。

もしかして、ご存知かもしれませんが、わたし、
村上春樹氏の20年来のファンでして‥
わりと最近の小説に『海辺のカフカ』があって、
その中で、橋を渡って四国へ行く場面があるのです。

うろおぼえですが、春樹氏も、橋を渡っていくという
ことに意味があるとどこかでおっしゃっていて‥
荒井さんが、橋を描きたかった、っていうのを聞いた
時に、すぐにそれと結びついてしまったのです。

いちばん長く、いちばん遠いところまで行っている橋は、この世からあの世へと続く橋ですよね‥

「スイッチが入った状態」なので、たいようオルガン
で、いろんなこと想ってしまいます。
(全然、jasuminさんのコメントの返事になってない
ですね、すいません。でも、jasuminさんが書いてくれた
こと、伝わってきています)
返信する
再び・・・あ、三度! (jasumin)
2007-06-27 16:51:37
rucaさん、スイッチ、しっかり目に入ってますね(笑)
素敵~。

「海辺のカフカ」読みました、わかります。
でも、私にはちょっと難しくて、「ねじまき鳥」から進めていない感じなのです。
最近、クレタ島のテレビを見て、ちょうどフツフツしていました。(笑)

rucaさんは、この本のことやトークショーのことも、
お近くに方にはお話されないですか?
荒井さんにお会いしたこと、ワークショップのこと、本のこと、サインのこと、
どうやら私のお近くさんには伝わらないみたいで・・・
ふしぎー!!(笑)

あ、ちょっとぼやいてしまいました。失礼しました。
返信する
jasuminさんへ (ruca)
2007-06-28 15:35:17
こんにちは。

三度でも、四度でも大歓迎ですよ~。

>お近くの方にはお話されないんですか?

はい、全然ちっとも話しません(笑)。
読み聞かせにかかわっている方でも、いろんな考えの人がいるので、過去3年の経験から、みんながみんな絵本好きなわけではない、ということも知ってるし、絵本は好きでも、絵本作家まではね‥という方もいるし。

でも、中には、気持ちが合って、気心も知れて、一緒にことり文庫さんへ行ったりする人や、このブログを読んでくれている方も居るので、もしも、聞かれれば答えるし、サイン本も見せびらかすつもりでいます(笑)。
返信する
早く読みたいな (はらぺーにょ)
2007-06-29 00:08:45
rucaさん、またまたコメント遅くなってしまいましたが、
「たいようオルガン」のご紹介ありがとうございます。
予約のチラシはもらっていたのですが、結局はまだ手に
とってない状態です。
おもったののと、100倍もステキと知り、早く読みたくて
ウズウズしてますよ~
青山ブックセンターでの荒井さんのトークショーに行かなかったのが
本当に残念!
でも、rucaさんに教えて頂いた丸善での原画展、会社帰りに
絶対行って来ます!
rucaさん、荒井さんとは偶然ではなく必然のご縁という感じがしますね。

そうそう、トムズボックスさんでも『たいようオルガン』の
展覧会が開催されるようですよ~

http://www.tomsbox.co.jp/gallery/next.html
返信する

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