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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

ハーヴィ=スピリッツ・オブ・ニューヨーク

2006-12-08 15:36:36 | 好きな絵本

 今日は、「出会えた2冊」のうちの、もう1冊の本の話をしようと思います。

 
しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる(リトル・ドッグ・プレス)
『しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる』
 マイラ・カルマン 作
  矢野顕子 訳


 「しょうぼうてい」って聞きなれない言葉ですが、漢字にすると、「消防艇」‥
消火活動をするための船のことですね。題名についている「ニューヨーク」は
イコール「マンハッタン島」のこと。

 1931年にハドソン川へ初出航した、ハーヴィと名づけられたこの船は、桟橋の火事を
いちはやく消し、セレモニーではびゅうと水を噴き上げて(表紙の絵ですね)、ニューヨーカーの
人気ものでした。1931年という年は、ベイブ・ルースがヤンキースタジアムで611本目の
ホームランを打った年であり、スニッカーズというお菓子がお店に並んだ年でもあるそうです。
その頃、一番高いビルといえばエンパイアステイトビルで、まだツインタワーはできていません。

 そう、ハーヴィは実在の船で、このお話は「ほんとうにあったこと」なのです。

 
 ハーヴィには5つのディーゼルエンジンがあって
 時速20マイルで走る。(これってすごい はやさなんだよ。)

 1分間に16,000ガロン(消防車20台分!)
 の水を吹き出すパイプが8つ。

 ハンドルはきれいなまんまるだ。

 真ちゅうでできた吹き出し口は
 ゴールド・ルームに保管されてた。

 火事のしらせをうけたら
 2分以内に消防隊員はあつまる。

 もちろん火をこわがるような人なんか
 ひとりもいないさ。

 それとまぁ火は消せないけど、
 スモウキーっていう名前の犬が乗ってる。


 
大活躍のハーヴィでしたが、時代の流れには逆らえず、1995年には消防艇としての
役目を終え、鉄くずとして売られるまで、ただ川に繋がれていました。

 そんなハーヴィに転機が訪れます。

 フロランというレストランに集まっていた仲間たちが、お金を出しあって、ハーヴィを
買おうということになったのです。
 きれいに修理されたハーヴィは、ついにハドソン川に戻ってきます。2艘だけ残っていた
消防艇とも「友だち」になりトゥー トゥー トゥー トゥー と汽笛で「こんにちは」を
言い合ったり。でも‥

 「ハーヴィは古くてすてきな船だけど、
 まあもう消防の仕事をすることは
 ぜったいないよねえ」
 
 とみんなは言っていました。



 お話は、ここまでで3分の2ほど進んでいます。この後、どこかの桟橋か橋のたもとで
火事が起こり、たまたま近くを通っていたハーヴィが、その火事を消し「ニューヨークの街を
守りましたとさ」で、お話がおしまいになっていたとしても、はたらきもののじょせつしゃ
けいてぃー
や、ちいさいケーブルカーのメーベルのように、「はたらきものの車(船)の
話」で、めでたしめでたしだったと思います。
 役にたたなくなった消防艇を、「おもしろそうだから」という理由で復活させてしまう
試みそれ自体が、ニューヨーカーの遊び心そのものだと思うし。

 しかし。
 これ以上劇的なことは、生きている間にはもう2度と起こらないのではないか
(起こって欲しくない)ということが、ニューヨークの街に、ニューヨークに住む人たちの身に、
起こってしまいました。

 2001年9月11日朝8時45分の出来事です。

 本文では、こう記されています。

 あの高くそびえていたツインタワービルに
 飛行機が2機
 ものすごい力で 突っこんでいった。

 
庭の木の手入れをしていたボブ・レイも、キッチンでお茶を飲んでいたトムも、犬の
レイダーと散歩中だったチェイスも、小説を書いていたジェシカも、溶接工事中だった
アンドリューも、新聞を読んでいたティムも、『デイヴィッド・カッパーフィールド』を読んでいた
ハントリーも、仕事にでていたジョンも、みんなニュースを聞いてハーヴィのところに集まりました。
 そして、消火栓ががれきに埋り困っていた消防士たちは、すぐにハーヴィにホースを
繋ぎ、それから4日4晩、交代での消火作業は続きました。

 いろんな人たちが いろんなものを持ってきてくれた。
 船の燃料とか セーターとか手袋とか ピッツァとか
 サンドイッチとか コーヒーとかを。
 みんないっしょにはたらいた。
 みんな いっしょに泣いた。
 火がおさまるまで ずっとそうだった。


 
 
私は、政治的な背景とか、策略とか共和党とか、ヒロイズムとか、その他もろもろの
そういう話をしようとは思っていません。
 ただそういう場面に(そういう時代にかな)、居合わせたしまったハーヴィの不思議を
思い、ハーヴィとともに消火活動に携わった多くの人たちが、顔を大きくゆがめて泣いたり、
励ましあったり、呆然としたり、また静かに涙を流したりしている姿を、思い浮かべるだけです。
誰もが、自分にできる何かを懸命にしようとしているその姿を。

 スピリッツ・オブ・ニューヨークは、働くハーヴィと「イコール」で結ばれます。


 さてさて。
 私の「細い糸」はどこから繋がってきたのかというと‥。

 この絵本の作者であるマイラ・カルマンさんの絵。買った時からどこかで見たような‥と
気にはなりつつも思い出せずにいたところ、ある日家の本棚(夫の仕事部屋の奥にあって
普段は見にくい状態)で、別の本を探していて、↓の絵本を見つけたのでした。

 Ooh LA LA (Max in Love)
    Ooh LA LA (Max in Love)

 これこそがマイラさんの絵本。1992年4月から1993年8月まで、夫と二人でニューヨークに
住んでいた時に、唯一私が買った絵本だったのですね~。

 私たちが住んで居たアパートメントは14丁目にあり、南を向いた10階の窓からは、
右手に少しだけハドソン川が見え、ツインタワーがそれはきれいに見えたのでした。
ほんのちょっとの、語るのもオコガマシイ「ニューヨーカー生活」が、それまでの私と、
それからの私を、大きく変えてしまいました。
 3日で恋に落ちることがあるように、街に恋してしまうこともあるのです。

 

 2004年に「ハーヴィ」が出版された時、ほぼ日のサイトで、購入することができたようですね。
当時はまったく何も知りませんでした。
 最近になって、毎日のようにほぼ日を訪れるようになり、今「矢野顕子について
アッコちゃんと語ろう」という糸井さんと矢野さんの対談があって。それを読んでいたら、
過去記事の中に、「矢野さんの語る しょうぼうていハーヴィ」というのを見つけました。
こういうのを偶然見つけた時も「繋がってる」と思えて、嬉しいです。



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2 コメント

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Unknown (まつかぜ)
2006-12-09 10:01:01
おはようございます。
『しょうぼうていハーヴィ…』とても興味をそそられました。ぜひ一度見てみたい。
それにしても
色んな時間、情景、出来事・…繋がって…繋がって…出会えるものがありますね。
不思議なめぐりあいなのか、運命でもあったような。
いずれにしても、それを見つけたのはrucaさんが心持を大切にされながら、歩みを前に進めて来たからなのでしょう。強くそれを感じました。
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まつかぜさんへ (ruca)
2006-12-11 16:06:35
こんにちは。コメントどうもありがとう。そして返事が遅くなってすいません。

私の仕事の机があるところの窓からは、小さな公園が見えて、その公園の木の後ろの方に14階建てくらいのマンションが見えます。今の時期だと、晴れている日の午後3時45分から55分くらいまで、太陽がそのマンションの窓に当たってそれはそれはきれいなんです。(今日もすごくきれいでした)

今読んでいる本の中に「借景」という言葉について、書かれているところがあって、いつも見ている窓からの風景は、自分のものではないけれど、とても大切というような内容で‥そんなことをとりとめなく思い出しました。

非常に個人的な思い出だと思っていた「借景のツインタワー」。公表するつもりなんかなかったのですが、ひとつひとつ、ほんとうのことを書いていかないと、全体がまとまらないことに気がつきました。
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