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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

うつくしいとおもえるこころ

2006-04-07 16:48:23 | 好きな絵本
 『空飛び猫』のシリーズのほかにも、アーシュラ・K・ル=グウィン作の、
短い話があるのかなあと思い、図書館で探してみたら、こんな素敵な本に出会いました。
いちばん美しいクモの巣

『いちばん美しいクモの巣』

アーシュラ・K・ル=グウィン
長田弘 訳
ジェイムズ・ブランスマン 絵




 誰も住んでいないお城に、リーゼ・ウェブスターという名前のクモがいました。
 このリーゼがお話の主人公です。ウェブスター一族は昔からこのお城で、他のクモたちと
ともに、廊下や壁や天井やいたるところに巣をかけ、ハエをとって暮らしてきました。

 巣をかけ始めて3日目の夜、リーゼはつぶやきます。

「ときどきはすこしちがう模様にして、巣をかけてみたっていいんじゃないかしら。やってみよう」

 
はじめはうまくいきませんでしたが、糸の新しい結び方や新しいパターン、新しい形を
考え、試し、工夫して、リーゼは今まで、普通のクモが普通に作っていた巣とは、
まるでちがうデザインを作り出します。
 他のクモたちは、リーゼの行いをすごいと思いつつも、ハエがつかまらなければ意味がないと、
リーゼに言いますし、当のリーゼもそれはよくわかっていました。クモにとって、巣を作る目的は、
ハエを捕まえること。そして、
クモだって、食べなければなりません。どんな生き物も、おなじです。

 
従来のデザインとは違うもの。ハエを捕まえる機能が備わっていること。その上、
王さまの肘掛椅子にあったような、宝石のきらめきを巣の中にも取り入れたいと、
リーゼの思いはふくらみます。
 
 リーゼにとっては、いまひとつ納得できない出来栄えの巣でしたが、壁の絵を真似たデザインは、
まるではじめからそこにあったタペストリーのようで、とても素晴らしいものでした。
 ある日の午後、お城の掃除に来た2人の女性が、それを見つけます。

 
ドアのすきま風でほんのすこしちらちらゆらめいている、みごとなクモの巣をまえに、
2人の女の人は思わず立ちつくしました。
 「ほんと、美しいわ」そうつぶやいたのは、最初の声の人です。

 
お城が美術館として生まれ変わったあとも、巣は取り払わずに、ガラスケースに入れて
保管しよう、ということに決まります。リーゼが作った「クモの巣」は「銀の織物」と
呼ばれるようになりました。しかし、リーゼにとっては大迷惑。
ガラスケースで覆われてしまっては、ハエを捕まえることはもうできませんから。

 でも、最後は、巣を見て「美しい」と最初に言った女性の「ちょっとした気遣い」で、
リーゼは新しい世界へと出て行くことができ、こう思うことができました。

 「これは、いままでにわたしのつくった、いちばん美しいクモの巣だわ」


 
新しいもの。今までにやったことがないもの。心がすこしでも、そっちへ傾いたなら、
こわがらずに前へ踏み出してみよう。
 あ、きれい。心がすこしでも動いたのなら、その動きに従って、大きく目を開いてみよう、
受け入れていみよう。・・・読みながら、私はそんなことを思いました。



 この本は、「詩人が贈る絵本2」というサブタイトルがついていす。
詩人の長田弘さんが選び、訳されたシリーズなのですね。カバー折り返し部分の紹介を
見ると、他にも 『子どもたちに自由を!』 『魔法使いの少年』 など興味をひかれる作品が
続いています。


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6 コメント

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タイトルも (新歌)
2006-04-09 11:15:52
表紙も、気になります!

今まで普通で、最善と思っていたことも

ちょっと踏み出してみたら

もっと素敵な世界が広がっていたということありますね^^

中身もとても見てみたいので探してみます♪
返信する
絵も素敵 (ruca)
2006-04-10 16:25:17
新歌さん、こんにちは。いつもコメント残してくれてありがとうございます。



この本は、リーゼという名前のクモが主人公ですが、クモでなくって、リーゼが人間の女の子だとしても、基本的な考え方はおんなじなんだと思います。



好奇心があるかどうか。

きれいなものを見て、きれいだと素直に思えるか。

などなど共通点はたくさん・・。新歌さんが書いてくれたように「ちょっと踏み出して」みるかどうかで、世界ががらりと変わることもあるし、そういうのも、自分のこころしだいなんだと思います。



本文では触れませんでしたが、挿絵もとても素敵なんです。ぜひ、読んでみてください。
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この方も好き♪ (こもも)
2006-04-10 18:58:53
村上春樹氏も好きですが、この長田弘氏も好きなんです♪

といっても、詩集しか読んだことがないのですが。。。この本、知りませんでした。

それにしても、表紙。なんて、素敵なんでしょう。

表紙が素敵だと、それだけで、嬉しくなってしまいますね。
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こももさんへ (ruca)
2006-04-12 14:13:16
こんにちは。



私は、ジョン・バーニンガムの絵本の訳者として、

長田弘さんのおなまえを知り、そのから気をつけて

みていたら、いろんな絵本を翻訳されていることが

しだいにわかってきました。

詩人としての長田さんの作品は、実はまだきちんと

読んだことがないのです。今度図書館へ行ったら、

この「詩人が贈る絵本」の他の本と、長田さんの

詩集をさがしてこようと思います。
返信する
長田さん (こもも)
2006-04-13 11:02:20
またまた、こももです。

私の好きな詩集は『深呼吸の必要』です。

これも、表紙が素敵ですよ♪

私は、絵本の訳者としての長田氏を知りませんでした。(どこかで出会っているのでしょうね)

私は、絵本の方を探してみようと思います♪
返信する
>長田さん (ruca)
2006-04-14 11:12:24
こももさん、こんにちは。



『深呼吸の必要』。素敵なタイトルですね。

期待が膨らみます。

昨日図書館へ行ったのですが、通いなれた所とは、

レイアウトから何からみんな違っていたため、

探しきれませんでした。

そんな中、ふと目に付いた絵本が『森の絵本』。

荒井良二さんの絵本だということは知っていたし、

原画展でも、その絵を見てきたのですが、

文章が長田さんだということを、初めて認識しました。

きっと、前から何気なく「見て」いたとは思うのですが、

今回ははっきり、長田さんの書いたテキストという

ことを知ったうえで、読んでみました。よかったです。
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