遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

マリア様の微笑み~カトリック小樽教会 富岡聖堂

2020-12-24 22:22:00 | 100物語【パワースポット物語】

【遊月100物語 その2】カトリック小樽教会 富岡聖堂


「今日の夜、サンタさん来てくれるかな」
妹のまりかが、心配そうにそう聞いてきた。
「昨日もお弁当のにんじん残していたし。まりかのところにサンタさんが来るなんて半分半分だよ」
お姉さんのイゲンをタモつ声でそう言ってやる。




私がまりかに話す態度がいつも偉そうだとママが言ったら、パパが
「違うよ、ゆきなは姉としてのイゲンをタモつためにそんな言い方してんだよな」と庇ってくれた。
「小学二年生の子がそんなこと思うはずないでしょ」とママは呆れていたけど、ママは間違っている。だって私はちゃんと姉としてのイゲンをタモつためにそんな言い方をするのだから。
本当は意味がよくわからないけど、イゲンをタモつって、お姉ちゃんのほうが大人だとわからせてやることだと思っている。

「にんじん残すなんてまりかだけじゃないもん。すみれ組のみんなだって残しているもん」
「あ、出た、みんなシリーズ」
そうからかってやると、ぷっくり頬を膨らませて睨みつけてくる。妹のくせに生意気だ。
「みんなじゃないかもしれないけど、でもみんなだもん」
「はあ? 意味わかんない」
「意味わかんなくないもん。それに去年もまりか、にんじん残していたけど、ちゃんとサンタさん来てくれたもん。シルバニアのおうちをちゃんと届けてくれたもん」
ムキになるとまりかはめんどくさいので、その話には乗らずに無視をした。

まったくまりかは憎たらしい。いちいち口答えしてくることが腹が立つ。
それになんだかんだとサンタさんは甘いのだ。こんなにもわがままなまりかと、いつもママの言いつけを守る私のどちらにも、公平にプレゼントを持って来てくれるのだから。

だからどうせまりかは今年もプレゼントをもらえるって私は知ってるけど、だけどギリギリまで不安にさせてやりたくなる。
そんなふうに思った私は、にんじんを残すだけじゃないでしょと、まりかのダメなところをどんどん並べてやった。

私の言葉を聞くうちに、まりかの不安そうな顔がだんだん崩れて最後は泣き出してしまった。

うわーーーっと大声で泣くから、私たちの部屋にママがやってきた。そして私が叱られる。
「ゆきなはお姉ちゃんなんだから。小さい子にもっと優しくしなさい」
そのセリフを置き去りにママは、ワンワンと泣き喚くまりかを大事そうに抱き上げて居間に連れ去っていく。

ねえ、もしもし。その子もう来年小学生ですよ。赤ちゃんじゃないんですよ。
去っていくママの背中にそう言ってやりたくなる。
でもいい子の私はそんなことを言ったりしない。だけど、だけど…。

唇をかみしめてその場に立っていた私は我慢できなくなり、部屋にかけてあったコートを着ると、そのまま居間を通り過ぎ玄関から外に飛び出した。何も言わずに走って出て行く私の背後から、
「もうすぐ暗くなるわよ、どこに行くの」とママが叫んでいたが、玄関のドアを思い切り音を立てて閉めると、エレベーターにも乗らず、マンションの階段を駆け下りた。

マンションを出て大きな通りに出ると、山の上に大学がある坂道の方へ歩き出す。その坂の途中に、二年前まで通っていた幼稚園があって、その隣に古い教会がある。
少し暗くなってきた外を歩いている私の頭に、その教会の女神様の姿がありありと浮かんできた。
私は地獄坂と呼ばれる急な坂を上り始めた。すぐに教会の門が見えてきた。
門から教会の建物までまっすぐ伸びる坂道を駆け上がると、入り口の左側に、小さな祠がある。
私はそこにいる女神様が好きだった。




ママは「それは女神様じゃないわよ、マリア様よ」と言ったけど、マリアとまりかの名前が似ているので、あえて女神様、と呼んでいる。女神様の名前がゆきな様なら良かったのにとその時思った。

キリスト教の人じゃないけど、祠の前で私は、絵本で見たように両手を胸のあたりで組んで、頭を下げて祈ってみた。

「ママに明日はあなたの子どもの誕生日だって聞きました。だからお祝いを言いにきました」
そう言ってみたものの、次の言葉が出なくて顔を上げると、目の前に雪が降っていた。私は嬉しくて空を見上げた。
見上げた上にイエス様がいた。
教会の壁に貼り付けられたイエス様の像じゃなくて、ひとりの人としてそこに立っていたのだ。

蘭島の砂浜のような淡い色のワンピースのような服を着て、優しそうな茶色い目で私を見ていたので驚いてしまった。

イエス様の顔を見ていたら私の世界がぐるぐる回り始めた。頭の中に見たこともないようないろんな景色が見えてくる。

昔イエス様の近くでお話を聞いていたこととか、ヨーロッパの森の奥で暮らしていたこととか。

突然小さな女の子が眠っているのが見えた。
少し昔の日本だった。ママは着物を着て泣いている。体が弱くて長く生きられなかった妹だとなぜかそう思った。

あれはまりかだ。
そう気が付いた途端に、私の目から涙が溢れる。
「神様仏様、私の寿命を半分あげるから、どうかこの子を生き返らせてください。
それが無理なら今度はうんと元気な子どもにしてください。そして、また妹として生まれてこさせてください」
私は自分がそう神様仏様に祈っていたと思ってしまった。それは私じゃないのに私の思い出みたいで不思議だった。

突然その不思議な風景が消えた。

あれ?
今のはなんだったの?
イエス様はいつの間にか消えていた。
教会の壁にイエス様の像が張り付いているだけで、雪がどんどん上から私に向かって落ちているのが見えた。


でも、少しだけ反省する。
気がついたらずっといたから、まりかが生まれた時のことは覚えてないけど。
でも、こうしてみんな元気にいられることは、本当は奇跡なんだと思った。

祠の女神様に改めて
「私に元気な妹を与えてくれてありがとうございます」と声に出してお礼を言うと、
お姉ちゃん、と呼ぶ声がした。

「ママ、お姉ちゃん、いたよー」
坂の下を見ると門のところにママがいて、坂道を走ってくるまりかの姿が見えた。雪雲のせいで薄暗くなっていた街にはいつの間にか街灯が灯っていた。

走ってきたまりかが、私に抱きつきにっこり笑った。
なんとなく照れくさくて、だけど心から、元気に笑っていることが嬉しいと思えた。

まりかは私から体を離すと祠の前に行き、
「マリア様ー」とまるで友達にするみたいに女神像に手を振った。

「もう、心配したわよ」
マリカに追いついたママはそう言って水色のマフラーを私の首に巻く。

「マリア様にね」
寒さで鼻が赤い妹の顔を見ながら
「まりかにもサンタさんがちゃんと来てくれるようにお願いしておいたよ」
そう伝えると
「ほんとう? 」とまりかの顔中が笑顔になる。

「さすがお姉ちゃんね」
そう言うと、ママは私の頭を撫でてくれた。お姉ちゃんだからそういうのはいらないって思っていたけれど、やっぱり撫でられると嬉しかった。

「さあ、パーティーするんだから忙しいのよ、もう帰りましょう」
とママに促され坂道を降り始める。
バイバーイとマリア様に嬉しそうに手を振ったまりかが、私とママの間に入ってきて、ふたりそれぞれと手を握った。

「お姉ちゃん、姉のイゲンタモっていたよ」
まりかが嬉しそうにそう言った。
「意味わかんないくせに」とつぶやくと、ママが静かに笑っていた。

振り返ると女神様、ではなくてマリア様も笑っていた。
サンタさんはきっと二人ともに来てくれるだろうとそう思った。


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