青天の霹靂…というか、なんというか。
こんなこと(偶然)があるんだ…と、心底びっくりした。
あたしがドアをあけて病室を出たところで、すれ違いざま医師と看護師が病室に入ってきた。
初老の医師の後ろに、あたしがとても好きだった…、彼がいた。
あたしは、思わず、彼を凝視してしまった。
彼もあたしに気づく…。
驚いて、目を見開いていた。
「悠理…」
あたしは呼びかける彼の声にすぐに答えることができなかった。
動揺を抑えるために軽く深呼吸をする。
1回、2回…。
「清四郎…」
あたしが答えると、清四郎は微笑んだ。
「あとで…、手術が終わってから、話しませんか?」
「…うん」
「じゃあ、あとで、連絡します」
「わかった」
初老の医師は既に高橋さんと話している。清四郎は少し慌てた様子で高橋さんのところに行く。
あたしは自然と笑みが、こぼれる。
ずっと…、話したかった。
清四郎と。
本当は。
家…というか、一人暮らしのマンションに帰ってきた。
相変わらず、ごはんは作れないので…、家政婦さんが食事を作ってくれる。
もちろん、掃除も。。。
お昼ごはんを食べて、あたしはDVDを見ようと思った。
あれ…、でも…。
よくよく考えてみれば、あたしは清四郎の連絡先を知らないし…、清四郎も知らないはずだった。
わかった…とは言ってみたものの…、どうやって連絡をとるつもりだったんだろう?
せっかく話のできる機会なのに…と思うといてもたってもいられなかった。
あたしは再び病院に向かった。
考えてみれば、家を出るのが早かった。
いてもたってもいられず、思わず出てきてしまったが、手術も始まらない時間だった。
病院の近くの喫茶店に入る。
コーヒーを注文した。
透明感のある歌が、店内のラジオから流れていた。
ふと耳に止まる歌詞…。
あなたの気持ちを想えば
少しも笑顔がでないと
叶わぬ愛なら夢なら
星へと願いを託すと
あたしはずっと不安だった。
清四郎が、あたしのことを好きだったのかって。
あたしの想いは叶わないものだと思っていた。
君の声を君の夢を
笑い顔を忘れながら
何処かここか今か過去か
光る星を見上げながら
声も笑顔も何もかも、あたしは忘れたかった。
清四郎のことなんて。
大好きだったから。
清四郎にふさわしい女性でありたかった。
違うというのは、わかっていた。
だから、清四郎に合わせるという形で、清四郎に近づきたかった。
いつの間にか、あたしの目からは涙があふれていて、あたしの手に滴り落ちていた。
もっと早く、清四郎とちゃんと向き合えばよかった。
清四郎と一からやり直したい…。
午後5時を過ぎて、あたしは病院に向かった。
清四郎と会うために。
空はすっかり、日が落ちていた。
暗い道に星が光っている。
星を見上げながら、あたしは気持ちが少し落ち込んでいることに気づいた。
清四郎にこんな気持ちで会えるんだろうか?
携帯が鳴る。
知らない番号の着信だったが、出た。
「はい」
「悠理ですか?」
…清四郎だった。
「うん」
清四郎があたしの番号を知っていたことに、あたしは驚かなかった。それほど、気持ちが沈んでいた。
「万作さんに、番号を聞いたんですよ」
あたしとは対照的に、清四郎は明るい声で言った。
「悠理、会えますか?」
「…会える、いま、…病院の敷地内だ」
「そうですか」
言いながら、清四郎の声は笑いを含んでいた。
「じゃあ、1階のロビーで待っててください。すぐに行くので」
あたしの様子なんて、全く気づいていないようだった。
あたしはそんな清四郎が少しおかしくて、笑ってしまった。
結局、落ち込んでいたとしても、それは、あたしだけの問題で、清四郎の問題ではない。
1階のロビーは真っ暗だった。受付が終了したので、あたり前だったが。
なんでこんなところで待ち合わせないといけないんだろう…とあたしは不満に思った。
一体、いつまで待たせる気だ…。
清四郎を待って、30分近く経った。
いい加減、待ちくたびれた。
「悠理…、すみませんね。待たせてしまって」
白衣を脱いだ清四郎は…、昔から変わっていなかった。
昔から、あやじくさかったから、そんなもんか…。
「大人になりましたね」
そういって、清四郎は微笑んだ。
「あたり前じゃないか、もう何年経っていると思っているんだ」
「そうですね、確かに」
清四郎がよく微笑(わら)う。
あたしもつられるように笑った。
「これから、食事くらいする時間、ありますよね?」
「うん」
「車できているので、病院を出ましょう」
「了解」
先に歩く清四郎の後ろ姿をみながら、もう一度、高校生のときのように、清四郎と話しができるようになるかもしれないと思った。
何もなかったころのように…。
一緒に建物を出て、駐車場に向かって、歩いた。
星が降ってきそうなくらい、光っていた。
月がなかったから、余計に光って見えているのかもしれない。
君の声を君の夢を
笑い顔を忘れながら
何処かここか今か過去か
光る星を見上げながら
頭の中に、さっきの歌が流れる。
切ない想いが、胸を締め付ける。
「あたしさ…」
誰に言うでもなく、あたしはつぶやいた。
「清四郎のこと、ずっと好きだったんだ」
正面を向いているので、清四郎の顔は見えなかった。
清四郎は何も答えない。
「高校生のころ…、あたし、お前に告白したことがあったよな、覚えているか?」
「覚えていますよ」
「あたしたち、一瞬、つきあったろ?」
「そうですね」
清四郎の声が少し暗くなる。でも、それ以上、何も言わない。
「あたし…、あのとき、清四郎に嫌われたくないって、思っていた。清四郎が、あたしのことを本気で相手にするはずもないって、思ってたんだ…。清四郎のことを好きすぎて、ずっと不安で…。だから、言いたいことも言えなかった。清四郎のことを想えば想うほど何もいえなくなっていた…」
そこまで言って、あたしは立ち止まり空を見上げた。
今にも、星が落ちてきそうだった。
星に願いを託す…か。
あたしの願いは…。
清四郎ともう一度、普通に笑って、話しをしたい。
それだけだった。
でも、せっかく普通に戻るところだったのに、昔のことをこんな風に清四郎に話してしまってどうしたらいいのか、わからなくなってしまった。
星はあたしの気持ちとは関係なく輝いている。
「悠理」
静かな声で清四郎があたしを呼んだ。
「僕も、不安でしたよ」
びっくりして思わず、清四郎のほうを見た。
「どうして?」
「悠理が”清四郎に合わせるよ”しか、言ってくれなくなったから、嫌いなったのかと思っていました。僕も不安で…。こんな風に不安になるんだったら、前の関係に戻ろう…と思って、やめましょうと言った。でも、元の関係にも戻れませんでしたね」
さびしそうに笑う。
「そうだな…、あたし…というか、あたしか。清四郎のことを避けていた。どうにもならないと思っていたから」
「僕も悠理に会うのが怖かった。また話しができないのかと思って。悠理がいつもどおりに笑って、好き放題やって…というのが、僕は好きでしたから」
クスリとわたしは笑った。
「自分勝手の極みみたいだな、あたし」
「そうですよ」
清四郎はあたしの手を取った。
「何?」
びっくりして、あたしは清四郎を見た。
「寒いから…、早く、おいしいものを食べにいきましょう」
「そだな」
あたしは返事をした。
手をつないだまま、駐車場に向かう。
清四郎の手は、温かかった。
******
じんじゃーさま、冬フェス、お疲れ様でした。
ところどころ出てきてた歌詞は、STARS という曲からです。
http://www.youtube.com/watch?v=5BprzEzJPfU
クリスマス前までに・・と思っていたので、イヴ設定で昔話の告白予定だったんですけど、イヴが過ぎてしまったので、やめました・・。
こんなこと(偶然)があるんだ…と、心底びっくりした。
あたしがドアをあけて病室を出たところで、すれ違いざま医師と看護師が病室に入ってきた。
初老の医師の後ろに、あたしがとても好きだった…、彼がいた。
あたしは、思わず、彼を凝視してしまった。
彼もあたしに気づく…。
驚いて、目を見開いていた。
「悠理…」
あたしは呼びかける彼の声にすぐに答えることができなかった。
動揺を抑えるために軽く深呼吸をする。
1回、2回…。
「清四郎…」
あたしが答えると、清四郎は微笑んだ。
「あとで…、手術が終わってから、話しませんか?」
「…うん」
「じゃあ、あとで、連絡します」
「わかった」
初老の医師は既に高橋さんと話している。清四郎は少し慌てた様子で高橋さんのところに行く。
あたしは自然と笑みが、こぼれる。
ずっと…、話したかった。
清四郎と。
本当は。
家…というか、一人暮らしのマンションに帰ってきた。
相変わらず、ごはんは作れないので…、家政婦さんが食事を作ってくれる。
もちろん、掃除も。。。
お昼ごはんを食べて、あたしはDVDを見ようと思った。
あれ…、でも…。
よくよく考えてみれば、あたしは清四郎の連絡先を知らないし…、清四郎も知らないはずだった。
わかった…とは言ってみたものの…、どうやって連絡をとるつもりだったんだろう?
せっかく話のできる機会なのに…と思うといてもたってもいられなかった。
あたしは再び病院に向かった。
考えてみれば、家を出るのが早かった。
いてもたってもいられず、思わず出てきてしまったが、手術も始まらない時間だった。
病院の近くの喫茶店に入る。
コーヒーを注文した。
透明感のある歌が、店内のラジオから流れていた。
ふと耳に止まる歌詞…。
あなたの気持ちを想えば
少しも笑顔がでないと
叶わぬ愛なら夢なら
星へと願いを託すと
あたしはずっと不安だった。
清四郎が、あたしのことを好きだったのかって。
あたしの想いは叶わないものだと思っていた。
君の声を君の夢を
笑い顔を忘れながら
何処かここか今か過去か
光る星を見上げながら
声も笑顔も何もかも、あたしは忘れたかった。
清四郎のことなんて。
大好きだったから。
清四郎にふさわしい女性でありたかった。
違うというのは、わかっていた。
だから、清四郎に合わせるという形で、清四郎に近づきたかった。
いつの間にか、あたしの目からは涙があふれていて、あたしの手に滴り落ちていた。
もっと早く、清四郎とちゃんと向き合えばよかった。
清四郎と一からやり直したい…。
午後5時を過ぎて、あたしは病院に向かった。
清四郎と会うために。
空はすっかり、日が落ちていた。
暗い道に星が光っている。
星を見上げながら、あたしは気持ちが少し落ち込んでいることに気づいた。
清四郎にこんな気持ちで会えるんだろうか?
携帯が鳴る。
知らない番号の着信だったが、出た。
「はい」
「悠理ですか?」
…清四郎だった。
「うん」
清四郎があたしの番号を知っていたことに、あたしは驚かなかった。それほど、気持ちが沈んでいた。
「万作さんに、番号を聞いたんですよ」
あたしとは対照的に、清四郎は明るい声で言った。
「悠理、会えますか?」
「…会える、いま、…病院の敷地内だ」
「そうですか」
言いながら、清四郎の声は笑いを含んでいた。
「じゃあ、1階のロビーで待っててください。すぐに行くので」
あたしの様子なんて、全く気づいていないようだった。
あたしはそんな清四郎が少しおかしくて、笑ってしまった。
結局、落ち込んでいたとしても、それは、あたしだけの問題で、清四郎の問題ではない。
1階のロビーは真っ暗だった。受付が終了したので、あたり前だったが。
なんでこんなところで待ち合わせないといけないんだろう…とあたしは不満に思った。
一体、いつまで待たせる気だ…。
清四郎を待って、30分近く経った。
いい加減、待ちくたびれた。
「悠理…、すみませんね。待たせてしまって」
白衣を脱いだ清四郎は…、昔から変わっていなかった。
昔から、あやじくさかったから、そんなもんか…。
「大人になりましたね」
そういって、清四郎は微笑んだ。
「あたり前じゃないか、もう何年経っていると思っているんだ」
「そうですね、確かに」
清四郎がよく微笑(わら)う。
あたしもつられるように笑った。
「これから、食事くらいする時間、ありますよね?」
「うん」
「車できているので、病院を出ましょう」
「了解」
先に歩く清四郎の後ろ姿をみながら、もう一度、高校生のときのように、清四郎と話しができるようになるかもしれないと思った。
何もなかったころのように…。
一緒に建物を出て、駐車場に向かって、歩いた。
星が降ってきそうなくらい、光っていた。
月がなかったから、余計に光って見えているのかもしれない。
君の声を君の夢を
笑い顔を忘れながら
何処かここか今か過去か
光る星を見上げながら
頭の中に、さっきの歌が流れる。
切ない想いが、胸を締め付ける。
「あたしさ…」
誰に言うでもなく、あたしはつぶやいた。
「清四郎のこと、ずっと好きだったんだ」
正面を向いているので、清四郎の顔は見えなかった。
清四郎は何も答えない。
「高校生のころ…、あたし、お前に告白したことがあったよな、覚えているか?」
「覚えていますよ」
「あたしたち、一瞬、つきあったろ?」
「そうですね」
清四郎の声が少し暗くなる。でも、それ以上、何も言わない。
「あたし…、あのとき、清四郎に嫌われたくないって、思っていた。清四郎が、あたしのことを本気で相手にするはずもないって、思ってたんだ…。清四郎のことを好きすぎて、ずっと不安で…。だから、言いたいことも言えなかった。清四郎のことを想えば想うほど何もいえなくなっていた…」
そこまで言って、あたしは立ち止まり空を見上げた。
今にも、星が落ちてきそうだった。
星に願いを託す…か。
あたしの願いは…。
清四郎ともう一度、普通に笑って、話しをしたい。
それだけだった。
でも、せっかく普通に戻るところだったのに、昔のことをこんな風に清四郎に話してしまってどうしたらいいのか、わからなくなってしまった。
星はあたしの気持ちとは関係なく輝いている。
「悠理」
静かな声で清四郎があたしを呼んだ。
「僕も、不安でしたよ」
びっくりして思わず、清四郎のほうを見た。
「どうして?」
「悠理が”清四郎に合わせるよ”しか、言ってくれなくなったから、嫌いなったのかと思っていました。僕も不安で…。こんな風に不安になるんだったら、前の関係に戻ろう…と思って、やめましょうと言った。でも、元の関係にも戻れませんでしたね」
さびしそうに笑う。
「そうだな…、あたし…というか、あたしか。清四郎のことを避けていた。どうにもならないと思っていたから」
「僕も悠理に会うのが怖かった。また話しができないのかと思って。悠理がいつもどおりに笑って、好き放題やって…というのが、僕は好きでしたから」
クスリとわたしは笑った。
「自分勝手の極みみたいだな、あたし」
「そうですよ」
清四郎はあたしの手を取った。
「何?」
びっくりして、あたしは清四郎を見た。
「寒いから…、早く、おいしいものを食べにいきましょう」
「そだな」
あたしは返事をした。
手をつないだまま、駐車場に向かう。
清四郎の手は、温かかった。
******
じんじゃーさま、冬フェス、お疲れ様でした。
ところどころ出てきてた歌詞は、STARS という曲からです。
http://www.youtube.com/watch?v=5BprzEzJPfU
クリスマス前までに・・と思っていたので、イヴ設定で昔話の告白予定だったんですけど、イヴが過ぎてしまったので、やめました・・。