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日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

「芸術闘争論」の著者、村上隆さんの講演会にて

2010-12-12 18:36:51 | 音楽・美術
承前、私はまだ村上隆さんの生の作品を見たことがない。チャンスがなかったからである。では何故その名前を知っているかと言えば、作品がべらぼうな高値で世界のアート・マーケットで取引されているとか、TIME誌が2008年、世界で最も影響力のある100人の一人としてアーティストの中から選んだとか、最近ではベルサイユ宮殿での作品展に関する話題などによってである。だから私にとって村上さんは「アーティスト」というよりは「話題の人」なのである。その「話題の人」見たさに土曜日の夕刻、神戸から大阪・南の講演会場に駆けつけた。ミーハー丸出しである。

その村上さんと思いがけないかたちで遭遇をした。講演開始は7時からの予定だったのでその10分前、スタンダードブックストアのあるビルの2階トイレに入った。ここしか場所がないのである。用足しを終えたところに、村上さんがもう一人の男性と話しながら入ってきた。狭い空間に三人、一瞬、厚かましくも声をかけようかと思ったが、とっさのことで口走る言葉も浮かんで来ないので出しゃばるのは止して水を手で受けていた。マルセル・デュシャンの作ではないが「便器」に「自画像」ではないが村上隆立像の取り合わせの妙、生きた「現代美術」を目前にする幸運に恵まれた?思いであった。

私の整理番号はほとんど最後の110番台なので、座れたのは後ろの方であった。会場は若い男女で満ちあふれていて、金髪はともかく白髪は私一人ではなかっただろうか。幻冬舎の編集者の司会で講演が始まった。金曜日に買ったばかりの「芸術闘争論」を頑張って読み終えていたので、話はその復習にもなったが、本の白黒写真とは異なり、カラースライドを多用しての解説は視覚的にも分かりやすくなかなかよかった。アーティストの話を聞いたのは実は始めてで、難しいことを言われたら寝てしまうかもと気にしたが、伝えたいのはこういうことであるとのメッセージがきわめて明確で、それが業界用語なしの普通の言葉で語られるので、すんなりと頭に収まってくれた。

面白かった?のは講演のあとの質疑応答である。五、六人質問者がいたが二人は女性、村上さんご本人に直接質問出来るというまたとない機会に、若い人たちが何を問いかけるのだろうかと期待したのに、総じて質問が下手というかつまらないのにがっかりした。何を聞きたいのかそれが理解しづらいうえに、どういう目的でそのようなことを尋ねるのか、その意図が伝わってこない。何人かの質問者と受け答えしているうちに、ついに村上さんが質問の仕方についてのお説教を始めたのである。質問者が現れたこと自体は評価しつつも、「芸術闘争論」の出版記念イベントの趣旨にのっとって、せめてこの本を読んだ上で具体的にその内容に即して問いただしたいことを聞いて欲しいと注文をつけたのである。別の当事者に聞くべきことを村上さんに尋ねるとか、自分の意見をとにかく言い終えるとか、すでに本の中に結論の書かれていることを聞き直すとか、「つぶやき」としか思えない問いかけがほとんどであったと私も感じたので、村上さんにまったく同感した。質疑が思うように成り立たないことに「コミュニケーションの断絶」とまで強い言葉が村上さんの口から出てきた。

私が期待した「獅子吼」が飛び出たのは、「美大に何を期待するか」との質問だ出たときであった。すでに答えは本の中に出ているので、冷ややかに「本を読んで下さい」と返事が戻ってくるかと思ったら、「ゼロです!」との大音声に会場が震撼した。意図していたとしたら見事な挑発で、ここで村上さんは持論を展開、これは面白かった。村上さんはキエフから帰国したばかりで会場に直行されたとのことであるが、7時から始まり9時20分頃までの長時間疲れも見せずに真摯に聴衆に向かわれた姿勢に感銘を受けた。

「芸術闘争論」にも大いに啓発されたので、あらためて触れたいと思う。

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