日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

国立国際美術館は大阪大学理学部跡にあった

2005-07-07 17:44:31 | Weblog
前日からつづく

この大阪大学理学部跡に関西電力が資金を提供して出来たのが大阪市立科学館であるとのこと。その地下階が国立国際美術館になっていて地下三階が今回の『ゴッホ展』の会場になっていたのである。

私は昭和30年代のはじめの7年間をこの理学部で過ごした。正面から眺めると南北に建物が広がり、その両端と中央から三棟が西側に伸びていて、私が居住していた研究室は中央棟の地下にあった。田蓑橋から南下して筑前橋に向かう通りから少し高所にある正面玄関には車寄せが通じていた。さらに正面階段をを上り右手に守衛室のあるホールを通り過ぎ数階段上ると廊下が南北に走る。すこし左(南方向)に折れると入り口方向に戻るかたちで階段の降り口があり、踊り場で折り返して地下廊下に達する。やや右に折れると西側に延びる長い廊下がありその突き当たり左側に研究室があった。ここが4年生の卒業実験から大学院の博士課程を終えるまで私の生活の拠点であった。

想い出を辿るとキリがない。

正面の北端には門衛所のような小さな建物があってそこは理容室になっていた。私の恩師も愛用なさっていたようである。洗髪の際には電熱かガスコンロで暖めたのであろうかアルマイトのヤカンから頭に湯を注いでいる光景を目にしたものである。ヤカンに恐れをなしたわけではなく、そういう偉い先生方が順番待ちをされているようなので、学生の分際では恐れ多いとばかり敬遠していた。

私たちの研究室から中庭を隔てて見える南棟には化学系の研究室が入っていた。時々人が慌ただしくバタバタと走り回る一幕がある。アミノ酸の合成か青酸を使う実験をしていて洩れた青酸ガスを吸った研究者がバタッと倒れる。その救出作戦を「またやった」と私たちは高見の見物をしていた。「ドタッと音がした」とか言って臨場感を掻き立ててくれる人もいた。死者が出ることは無かったと思う。さすがベテランの研究者、青酸ガスの吸い加減を心がけていたのだろうか。

化学系の研究室の並びに私の所属する研究室のほかの実験室があった。一つの研究室に全部で五つ六つの実験室が割り当てられていたそのうちの一つである。何かあらたまった会合の後であろうか一張羅を着込んでストーブを囲んで先輩たちと雑談をしていた時のことである。ストーブといってもガスの大きめのリングバーナーの上に、空気抜きの穴を適当に開けた石油缶を裏返しに乗っけただけの物である。「おい、臭いぞ」と言われて下を見ると私のズボンが燻っている。灼熱した石油缶の横壁に接触したらしい。初めて誂えた一張羅を台無しにして母親の目から隠すのに往生したことがあった。

理学部と田蓑橋の架かっている堂島川のの間に医学部があった。
その一郭にある建物の一階が食堂になっており、昼食を摂りに出かけることもあった。この建物にはなにか名称が付いていたと思うが今は思い出せない。その三階かが講堂になっていて全学の卒業式などがそこで執り行われた。記憶がはっきりしているのは巡り合わせで私が在学生総代として卒業生に「はなむけの言葉」を送ったことがあるからである。遠い昔のこと、これで卒業式に出たことにして自分の卒業式には実験多忙を口実に出なかったことを覚えている。

この食堂で「すげい」が献立に上ることがままあった。別にスゲ~わけでもなんでもない。漢字で書くと「酢鯨」になる。豚より鯨の安かった時代、豚の代わりに鯨を使っただけのことであるが、けっこういけたので「すげい」が献立にあるときはいつも注文したものである。

この建物に行くには正面玄関を出て田蓑橋に向けてしばらく北行して左手に入る。しかし私の研究室から裏をまわって医学部の構内を通り裏口から入ることも出来る。あるとき通りすがりの建物の木枠の窓が空いているので何気なく中を覗き込んでギョッとした。台に人体が横たわって頭部が窓の方を向いている。頭部といっても普通の頭ではない。頭の天辺がぱくっと開いて脳が露出しているのである。頭蓋骨の上部をのこぎりで輪切りにしてちょうどお椀の蓋を開けた状態になっていた。法医の部屋だったがお昼時で解剖担当者が席を外していたのかも知れない。

理学部正面玄関を出て通りの向かい側に以前ブログに書いた炭屋兼氷屋があったのである。実験の合間に仲間とよく屯した喫茶店も通りを隔てて二軒あり、その一つはたしか「ボア」という名前であったと思う。この想い出に残る建物は綺麗さっぱりと消え去っていて関電の建物に取って代わられていた。

昭和36年9月の第二室戸台風で堂島川が氾濫、大洪水になり地下の部屋はほぼ完全に水没して研究を中断することになったが、このことはまたあらためて述べることにする。回想から離れてまずは『ゴッホ展』に戻らないといけない。

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