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日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

謎は謎を生む伊藤ハム「シアン問題」

2008-12-30 14:07:34 | 学問・教育・研究
伊藤ハム東京工場で発生した「シアン問題」とは何だったのだろう。

井戸原水と製品製造に用いた井戸処理水のシアンが基準値を最大で3.7倍上回る4件への対応がまずかったばかりに、世間を騒がせ自らの評判を落とし、おまけに安全性に問題のない製品を自己回収する羽目になり、かき入れ時の歳末商戦に参加すら出来ず、業績は一挙に落ちて赤字となり、社長をはじめとする関係者がそれなりの責任を取った形でひとまず落ち着いた。

今となっては後知恵のたぐいになるが、もしシアンの異常値が報告された段階で直ちに行動を起こして、これが水質検査に伴う人為的な混入であることを突き止め、同時にその時点での製品の安全性を確認しておれば、シアン異常値をわざわざ世間に公表することもなければ製品の自主回収もせずに済んだことであろう。

それにしてもなぜ自主回収したのだろう。

12月25日の調査対策委員会報告書が明らかにした新事実の一つが、伊藤ハム「シアン問題」調査対策委員会報告書のあれこれに引用したことであるが、今年の6月から9月にかけて、1,2,3号井戸処理水の全てで基準値(0.6mg-CL03/L)を上回る塩素酸(0.62~0.91mg-CL03/L)を検出していた。それにもかかわらず製造ラインを止めたとか製品の自主回収をした形跡はない。私に言わせると製品の安全性さえ確認されておればこれで何の問題もないのである。そう言う伏線のあったことを先ず念頭に置いておこう。

同じく報告書13~14ページには2号井戸原水に基準値を超える0.037 ㎎/L のシアン化物イオン及び塩化シアンが検出されてからの対応として次の記述がある。

《東京工場長は、かかる報告を受け、基準値を超えるシアン化物イオン及び塩化シアンが検出されている2号井戸及び3号井戸の処理水を、製品の製造において直接製品に混入する用途には使用しない方がよいと考える一方で、製品に直接混入しなければ、使用しても健康への影響がないとも考えた。
 また、東京工場長は、2号井戸処理水をすでに使用してしまった製品については、検出されたシアン化物イオン及び塩化シアンの数値が、WHOの水質基準7では問題のない範囲であり、その水を直接飲んでも人体への影響が考えられない値であること、当該処理水が東京工場内で生産された製品に混入する割合は原材料重量の10~20%程度であることから、健康被害は無いとして、出荷停止までは考えなかった。》(10月15日)

東京工場長のこの判断はきわめてまともであると私は思う。それがなぜ製品の自主回収までエスカレートしたのだろう。

10月22日になって社長は東京工場長からの報告、提案を受けて、《2号井戸の原水から、法令の基準値を超えるシアン化物イオン及び塩化シアンが検出されたことは、伊藤ハム内部の問題に留まらず、柏市全体の環境の問題でもあると考え、柏市保健所に報告することを承認した。》(強調は引用者、以下同じ)

10月23日、《東京工場長は、柏市保健所との相談の結果を生産事業本部に報告し、この報告を受け、社長及び生産事業本部長は、製品の自主回収を実施することを決めた。

なぜ社長及び生産事業本部長がこの段階で自主回収の実施を決めたのか、私には不可解である。仮に柏市保健所から何らかの示唆があったにせよ、判断するのは伊藤ハムである。製造に用いた水が水質基準を満たしていなかったというのがその理由なら、なぜ塩素酸が基準値を超えた時にも自主回収をしなかったのか。塩素酸のことはこの時点で社長の耳に入っていなかったのかも知れない。とすると上の強調部分が一つの答えなのだろうか。ところが10月21日には再検査で2号井戸の原水から基準値を超えるシアン化物イオン及び塩化シアンは検出されず、その他の異常もなかったことが明らかにされたのである。これでは何のための再検査なのか、と言うことになる。この辺りの状況を公表することを躊躇う何らかの理由が調査対策委員会にあったのだろうか。

さらにこの報告書に私にはわからない記述がある。5ページ脚注の次の部分である。

《なお、本報告書では、伊藤ハムに、少なくとも、水道法20 条、4 条1 項2 号、2 項、水質基準に関する省令、食品衛生法50条2項、柏市食品衛生法施行条例別表1(7)ウの違反があったことを前提とする。》

食品の安全性に関して問題になるのはあくまでも食品衛生法である。では50条とはどのようなものか。

《第50条 厚生労働大臣は、食品又は添加物の製造又は加工の過程において有毒な又は有害な物質が当該食品又は添加物に混入することを防止するための措置に関し必要な基準を定めることができる。
2 都道府県は、営業(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第2条第5号に規定する食鳥処理の事業を除く。)の施設の内外の清潔保持、ねずみ、昆虫等の駆除その他公衆衛生上講ずべき措置に関し、条例で、必要な基準を定めることができる。
3 営業者(食烏処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第6条第1項に規定する食鳥処理業者を除く。)は、前2項の基準が定められたときは、これを遵守しなければならない。》

上の強調部分が食品衛生法50条2項であるが、このどこにもシアンをはじめとする化学物質についての記述はない。これを見てさては伊藤ハムの工場ではねずみやゴキブリが走り回っていたのかとは想像しても、水のことなど頭の片隅をもかすめない。まさかねずみやゴキブリが自主回収の隠された理由ではあるまい。私が参照した食品衛生法はhttp://www.houko.com/00/01/S22/233.HTMであるが、私が何かを見間違えているのだろうか。もしそうでなければ何をもって食品衛生法50条2項の違反というのか説明が欲しいところである。

柏市食品衛生法施行条例別表1(7)ウは《ウ イの水質検査の結果, 飲用に適さないこととなったときは, 直ちに適切な措置を講じること。》は確かに水のことである。検査値を疑いまずは再検査を決定するというのも適切な措置になるであろう。

このように報告書はミステリー愛好者にはいろんな疑念を起こさせる格好の材料であるが、やはり最大の謎はシアンの異常値が果たして水質検査に伴う人為的な混入であると断言してよいのかどうなのかである。次に触れてみたいと思う。


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