「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「うつろ庵の密造ワイン」

2014-10-02 13:19:15 | 和歌

 七月の上旬に、「うつろ庵の葡萄棚」とのタイトルで、青葡萄の写真をご紹介した。
一坪ほどの葡萄棚に垂れ下がる房には、紙袋を被せてカナブンの猛攻に備えたが、彼らの好物の葉は気の毒にも好き放題に食い荒らされ、網の目状になった。

 そんな或る日、葡萄棚に雀達が群れて、紙袋を喰い破り中の葡萄をつついていた。
雀に葡萄が収穫期であることを訓えられ、急遽穫り入れた。小粒の種入り葡萄ゆえ生食には適さないが、収量はテラスのテーブル満載だった。



 房から葡萄の粒をもぎ取るのには虚庵夫人も手伝って呉れて、共に愉しんだ。
テラスのテーブルに向き合って座り、葡萄の房を左手に、右手で粒を摘まみ乍ら
お喋りの絶えない楽しいひと時であった。 最近は、何でも愉しむ虚庵夫妻だ。

 ワインの仕込みの第一歩は、使用する食器類の熱湯消毒だ。
器も什器も丁寧に殺菌して、醸造途上の雑菌の混入には万全を期したのは云うまでもない。

 もぎ取った葡萄の粒をつぶし、果実酒用の大瓶二つに仕込んだ。
段ボール箱に大瓶を入れ、陽当りの良い窓際においたら、半日後にはさっそく醗酵が始まり、泡が盛んに出てワインの香りが鼻をくすぐった。
以来、大瓶を揺すって仕込んだ葡萄をかき混ぜ、万遍なく醗酵を促しつつお毒見をするのが、虚庵居士の朝夕のお愉しみになった。

 仕込み中のマル秘の業で、アルコール濃度もかなり高まり、ドライなワインに仕上がりつつある。やがて泡の発生が止まれば醗酵の終わりを迎え、朝夕のお愉しみも終わる。種と皮を搾り取れば、「うつろ庵ワイン」のボジョレヌーボーの出来上がりだ。

 涎を垂らしなら、その日を夢見る虚庵居士である。




           雀らが袋の葡萄を啄ばめば

           穫り入れ頃を教えられにし


           テーブルに山盛りの葡萄を前にして

           夫婦のお喋り粒をもぎつつ


           気が付けば指先染まる二人かな

           葡萄の粒を夢中でもげば


           大瓶に仕込みし葡萄を朝な夕な

           覗く愉しみ香りを嗅ぎつつ


           ぶつぶつとあぶくたつかなおおビンに

           こころのときめき ワインをかもせば


           おぶどうのふしぎなへんかにあさなゆうな

           こころをおどらせゆめみるじじかな