「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「姫檜扇水仙」

2013-07-07 00:33:33 | 和歌

 空き地に「姫檜扇水仙」が咲いていた。

 この花は、随分とご大層な名前を頂いたものだ。勝手な憶測で恐縮だが、根元から伸びる葉の配列が、檜扇に似ていることから「檜扇」を頂き、比較的小ぶりな花ゆえに「姫」を頂き、等など人々の思いが重ねられて「姫檜扇水仙」になったのであろう。

 現代社会では「檜扇」はとんとお目に掛れなくなった。せいぜいお雛様のお道具に見られる程度だが、平安時代の衣冠束帯には無くてはならぬ服飾品であった。檜の薄板をつづり合わせた板扇だが、位階や男女により薄板の枚数も決められていたというから、当時はおろそかに出来ない品であったろう。

 扇とは言え、現代の紙と竹骨の扇子のように、携帯に便利な涼をとる手段ではなかった。笏(しゃく)の代用にも用いられたり、特に女性用には表に金銀箔を散らし彩絵して、長い五色の打紐が結ばれた檜扇は、平安宮中の公の儀式の際の持ち物であったようだ。

 名前に檜扇を頂く花の種類は、虚庵居士が知るだけでも数種あるが、庶民の抱く平安貴族への憧れの象徴として、「檜扇」が使われたものかもしれない。
野に咲く「姫檜扇水仙」を愛でながら、あれこれ思いを巡らせる虚庵居士であった。

 


           もじゃもじゃと絡む草ぐさ意にもせず

           姫檜扇水仙さくかな


           宮中の檜扇の名前を頂きて

           みやびに咲くかも草叢にても


           人々の思ひをその名に受け止めて

           嫋やかな姫 紅に咲くかな


           世の民の憧れならめや檜扇は

           手に持たざれば花に名づけて