玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

もし宇宙ステーションにすべての国の人が乗り込んで地球を眺めたら…

2010年01月08日 | 日々思うことなど
「宇宙からの帰還」(立花隆)がベストセラーになったのは1983年だから、四半世紀も前のことだ。
鳩山総理は読んだのだろうか。

「宇宙人」首相が宇宙交信 「地球を眺めれば争いなくなるのでは」 - MSN産経ニュース
 鳩山由紀夫首相は7日夜、首相官邸で、国際宇宙ステーション「きぼう」船内で活動中の宇宙飛行士、野口聡一さんと約20分間、映像モニターを使って交信した。神奈川県茅ケ崎市立浜須賀小学校の児童らも一緒に交信した。

 首相は「私は宇宙人と言われているが実際に行ったことはない。野口飛行士はうらやましくてなりません」と冗談交じりにあいさつ。さらに「もし宇宙ステーションにすべての国の人が乗り込んで地球を眺めたら、争いがなくなるのでは。戦争のない地球にしたいと思いませんか」と「友愛精神」をアピールした。

「もし宇宙ステーションにすべての国の人が乗り込んで地球を眺めたら、争いがなくなるのでは」
こういうアイデアはずっと前からもう何十回となく聞いた。たぶんガガーリンが始めて宇宙を飛んだときから、あるいはもっと前から言われていることだろう。宇宙と人類の未来への美しい夢、信じてみたい理想として永遠の定番というか決まり文句というか、いっそ陳腐というべきか。
私が誰かにこのアイデアを好きか嫌いかと聞かれたら「いい話だね、好きですよ」と答えるだろう。だが2010年にもなって、日本の総理大臣の言葉として聞かされるとちょっと苦笑してしまう。いかにも鳩山さんらしいフワフワした発想だと思う。

「すべての国の」宇宙飛行士は実現していないけれど、国際宇宙ステーション(ISS)には多くの国々が参加している(アメリカ・ロシア・カナダ・日本・ベルギー・デンマーク・フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・ノルウェー・スペイン・スウェーデン・スイス・イギリス・ブラジル)。幸いにしてこれまでISS計画参加国のあいだで武力衝突は起きていない。だがそれは「信頼関係が築かれているから共同で宇宙計画ができる」と見たほうがいい。仮に北朝鮮とかイランの宇宙飛行士がISSに乗り込んだとして、それがきっかけで日本と北朝鮮・アメリカとイランの関係が改善されると期待するのは難しい。
スカイラブ計画でアメリカとソ連の宇宙飛行士が「宇宙ステーションに乗り込んで地球を眺めた」のは1973~74年、そしてレーガン大統領がソ連を「悪の帝国」と決め付けたのは1983年のことだった。冷戦は激化し、1984年に世界終末時計の針は「3分前」に進められた。

「新しい技術がコミュニケーションのレベルを上げて人間の意識を変える」という夢はそれこそ宇宙飛行以前からあった。電信が発明されたとき、電話が使われだしたとき、テレビが、そしてインターネットが普及したとき… 
「これで遠くの人たちと容易にコミュニケーションできる、相互理解が深まり地球はひとつの平和な村になる」と夢見た人は必ずいたはずだ。だがIT技術が発達した現実の世界はみなさんご存知の通りで、怒りと暴力のニュースに事欠かない。平和を夢見るのは素敵なことだけれど、夢と現実を取り違えると失望することになる。


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