玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「皇室デマ」と「皇室関連デマ」

2010年04月14日 | 政治・外交
昔からそうだと思うが、九重のうちにおわしますやんごとなきかたがたをめぐる怪しきお話、つまり皇室についてのデマに興味をもつ人は少なくない。
いわく、明治天皇はすりかえられた別人である。いわく、秋篠宮の実の母は別にいる。「皇室デマ」の多くは扇情的でおどろおどろしいが、それこそ荒唐無稽な話であり、まともな人が信じこむことはない。

そのものずばりの皇室デマは畏れ多いという気持もあって表で公言されることは少ないけれど、それとは別に「皇室関連デマ」というのもあって、こちらは畏れがブレーキとして働くことがないぶん広がりやすくて厄介である。
「皇室関連デマ」というのは、主に政治家が皇室に対して無礼なことを言った・やった・考えている、というデマである。皇室に仇なす逆賊、朝敵認定、みたいなものだ。今はともかく、明治憲法体制の頃にデマのため「朝敵」と認定された人はさぞひどい目にあったことだろうと想像できる。21世紀の今になっても「皇室関連デマ」はなくならない。このブログで以前にも取り上げたことがある。

「岡田質疑応答メモ」デマの下らなさ
踊る大捏造戦

標的にされたのは岡田外相だ。「天皇陛下の国会開会式でのお言葉は見直すべき」という発言(これは事実)が一部の右翼・保守派のあいだで「不敬」と受け取られ(私はそうは思わないが)、気の毒に岡田外相はデマの餌食にされた。デマを作ったのは誰でどういうつもりだったのか知らないが、喜んで、あるいは怒りに目がくらんでデマを広めた人たちは岡田外相のみならず皇室にも迷惑をかけている。右翼がみだりに不敬だの売国だのと騒ぎたてること自体がわずらわしいのに、デマとなればなおさらのことだ。


小泉元総理も「皇室関連デマ」の標的にされている。

きまぐれな日々 志の低い野合新党「たちあがれ日本」に議席を与えるな
新自由主義者と新保守主義者を分裂させたのは、2005年の「郵政総選挙」における小泉純一郎だった。新自由主義に特化してこの選挙に勝った小泉は、翌年には「皇室は最後の抵抗勢力だ」と発言して、「郵政総選挙」で小泉に自民党から追い出された平沼赳夫の激しい怒りを買ったといわれている。

この話自体は前から知っていたけれど、それこそ怪しい話であり、まともな人はデマとして相手にしないと思っていた。ところが、kojitakenさんのように(私と考え方は違うけれど)議論に対して誠実なブロガーまでが真に受けているのを知ると捨てては置けない。
いや、「kojitakenさんがデマを真に受けた」と書くのはもしかしたら言い過ぎかもしれない。文脈をたどれば、小泉不敬発言(デマ)を真に受けたのは平沼氏で、平沼氏が激しく怒ったという話も「~といわれている」と真偽をぼかして書いてあるから「kojitaken氏自身はデマを信じていない」と読むこともできる。とはいえ、全体的には肯定的で「小泉不敬発言」がデマだと明記していないから、「子ども手当て590人申請」デマを受け売りした人たちとやっていることに変わりはない。

「小泉不敬発言」はデマだと断じてきたけれど、実を言えば「これはデマである」と確認できるはっきりした証拠は持ち合わせていない。あくまでも私の考えだ。だが、「岡田外相不敬発言」や「子ども手当て590人申請」と同じく、常識的に考えればとてもありえない話なので確証がなければデマと決め付けてさしつかえない。立証責任は「デマではない」と主張する側にある。

少し調べてみたところ(といってもgoogleで検索しただけだが)、このデマの火元は旧皇族出身の竹田恒泰氏のようだ。

皇室典範議論の行方4~皇室は最後の抵抗勢力!? - 竹田恒泰日記 - Yahoo!ブログ
いった小泉総理は、皇室に対するどのような思想に基づいて女系天皇を成立させようとしたのでしょうか。
 その答えは、私が懇意にしている自民党のある国会議員から知らされた情報に見出すことができます。
 秋篠宮妃御懐妊が発表される直前の、皇室典範改定問題が最も激しく議論されていた最中の平成18年1月、小泉総理が自民党幹部と会合を持った際に、総理は

「今国会で皇室典範改正案を必ず上程する。典範改正は構造改革の一環だ」

と述べたあと、少し声を潜めて、静かに、しかし力強く

「皇室は最後の抵抗勢力」

と言ったというのです。
 さらに、その場にいた自民党幹部の一人が

「では、皇室典範改正法案が国会で否決されたらまた解散ですか?」

と聞くと、総理はかすかににやけた表情を見せ、大きく片手を挙げ、何も答えずに退席したため、その場に居合わせた自民党の国会議員たちは、「皇室典範改正」を覚悟したといいます。
 小泉総理は平成17年に郵政民営化の是非を問う「郵政解散」を断行し、圧倒的な勝利を収めたばかりでした。
 もし秋篠宮妃御懐妊がなく、国会で皇室典範改定法案が否決されたなら、日本の憲政史上前例のない、女系天皇の是非を問う「皇室解散」が現実のものになっていた可能性があったことになります。

なんというか、その、えーと。
率直に感想を言えば「ゲンダイかよ」みたいな、あからさまに怪しい「お話」である。竹田氏が嘘をついているとは言わないが、又聞きを鵜呑みにして触れ回るのはうかつとしか思えない。竹田氏がどれほど「懇意にしている自民党のある国会議員」を信じていたとしても、読者にとっては正体不明のミスターXにすぎない。周知のように小泉元総理は平沼氏を初めとする「真性保守」の政治家からは憎まれている。竹田氏と懇意にしているのはおそらく皇統護持(男系維持)を望む「真正保守」の政治家だろう。ミスターX氏が小泉憎さのあまり話を作ったり歪曲した可能性は高い。

話の構造としては「岡田外相不敬発言」(デマ)と変わらない。「天皇は植木職人になるべき」と「皇室は最後の抵抗勢力」はショッキングさとありえなさで同レベルだ。こんな話を真に受けるほうがどうかしている。
どちらの話も「完全な密室での内輪話」ではなく「記者懇談会」「党の会議」での発言とされている。気心の知れた少人数の同志ならともかく、記者やら政敵のいる場で皇室をことさらに敵視するような発言をする保守政治家がいたらよほどの馬鹿か頭がおかしい。岡田外相や小泉元総理を憎む人には「天皇は植木職人になるべき」や「皇室は最後の抵抗勢力」という言葉も「いかにも言いそうだ」と思えるのかもしれないが、私はそんなことを鵜呑みにするほうがどうかしていると思う。

仮に小泉元総理が自民党の会合で「真性保守」から不敬とみなされるようなことを言ったとして、私がありそうに思えるシナリオはこうだ。

小泉
悠久の昔から続く皇室はこれまで何度も大きな変革をとげてきた。明治維新では肉食など洋式の生活を取り入れ、戦後には「人間宣言」や皇太子殿下ご成婚で国民との距離を縮めている。新憲法制定からすでに60年、皇位継承問題が行き詰らないうちに勇気を持って皇室典範改正に取り組むときだ。


議員X
女帝・女系を認める皇室典範改正には保守派からの批判が強い。あせって強行すれば皇室に傷を付けることになりかねない。


小泉
もたもたして時期を失えばそれこそ必要な改革もできなくなる。選挙で大勝した今こそ千載一遇の好機だ。やみくもに皇室の改革に反対する人たちは郵政民営化に反対した抵抗勢力と同じで、世論と時代の流れに逆らっている。

こういう話ならいかにも「小泉なら言いそうだ」と思えるし、政敵の「真性保守」が「小泉は『皇室は抵抗勢力』と言った」と歪曲するのもありうる話である。もちろん、これは単に私の想像であって、実際にそんなことがあったのかどうか何も知らないけれど。
ついでに言っておくと、竹田氏のブログから引用した最後の部分、「女系天皇の是非を問う『皇室解散』が現実のものになっていた可能性」というのはまさに噴飯ものである。郵政選挙でさえ「国民の生活と関係があるのか、小泉の道楽だ」みたいな反発もあったのに、皇室典範改正というそれこそイデオロギー的な問題で政治空白を作り選挙に打って出ても勝てるわけがない。「抵抗勢力」を仕立て上げて血祭りにする小泉劇場は桶狭間の合戦のようなもので、同じ手が二度と使えないのは勝った本人がいちばんよく知っている。


さて、ここまでは「皇室関連デマ」で政治家を批判するくだらなさについて書いてきたけれど、ある一人の政治家がデマがどうのという次元を超えてしまった。もちろん、民主党の小沢幹事長のことだ。
小沢氏が「天皇の外国要人接遇における一ヶ月ルール」破りの元凶と目されていたとき、小泉元総理や岡田外相のように「皇室関連デマ」の槍玉に挙げられる可能性は高かった。もしも小沢氏が「一ヶ月ルール破り」について弁明しなければ「小沢幹事長が『天皇は権威のシンボルでしかない、言うことを聞かなければ木像に取り替えてしまえ』と言った」みたいなデマが流れ、私は「ベテランの保守政治家がそんなこと公言するはずないだろ」と否定したはずだ。ちなみに、「天皇を木像に替えろ」というのは太平記に描かれている高師直(足利尊氏の家臣)の言葉である。
ところが小沢氏はデマが流れる前に機先を制して(?)会見を行い「一ヶ月ルール破り」について釈明した。そのときの態度と言葉は私の想像をはるかに超えていた。絵に書いたような傲慢無礼逆ギレである。あまりにも凄かったので記事を6本も書いてしまったほどだ。

宝剣で大根を切る
「仕分け」と「一視同仁」
自縄自「爆」の鳩山政権
政治主導という名の「政治無能」
天皇陛下の政治利用を危惧する
卑劣で傲慢な小沢一郎

小沢氏自らこれほどの醜態を見せてくれたら、デマが流れる余地はなくなる。画期的なデマ予防法というか、見事すぎるオウンゴールというか。時として現実は想像をはるかに超える。


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