録画人間の末路 -

人は記録をしながらじゃないと生きていけない

"日本版"フェアユースは、いったい何を目指して作られたのか

2010-01-20 20:50:12 | B-CAS&規制撤廃運動
非常にしょうもない記事ではあるものの、一応こっち方面でも無関係ではないので、取り上げておきましょう。

「日本版フェアユース」の対象は 報告書まとまる


この手の著作権がらみのものは、上に"日本版"が付いた瞬間に胡散臭くなるのが常ですが、今回も例外ではない・・・と、いうより代表格と言っていいほどの内容となっています。

中身を見ていただきますと、
(1)写真の背景に著作物が写り込んだ場合など、ほかの行為の付随的に著作物が複製され、複製の量や質が軽微で、権利者に不利益はないと考えられるケース
(2)著作者に許諾を得てCDに楽曲を録音する際のマスターテープ作成といった、適法な著作物の利用に不可避的に生じる利用で、質的・量的に軽微なもの
(3)映画や音楽の再生技術の開発時に必要となる複製など、著作物の表現を知覚する(映画を見たり音楽を聴いたりする)目的ではなく、権利者に不利益をもたらさないもの

この3つに分類された、とあります。逆を言えば、この3つしかフェアユース扱いしないということです。お分かりでしょうか? 3項目全てが個人利用に一切当てはまらないのです。
1が写真、2が音楽、3が映像ですが、1はそもそもこれが否定されたら写真など撮影が不可能になります。2と3に関してが主になりますが、これらもわざわざ「著作者に許諾を得てCDに楽曲を録音する際のマスターテープ作成」「再生技術の開発時に必要となる」という極めて利用頻度の低い使い方を例としてあげています。非常に具体化された定義、そのいずれもが個人利用には全く関係ない、というより使いようが無いものです。つまり、日本版フェアユースとは業界内のルールにおいてのみなされるものであり、個人に対しては全ての利用がフェアユースではない、と定義するための報告書と考えることも出来るのです。
ついでに言えば、わざわざ厳格にルール化するほどの項目ですか? この3つとも。業界内で半ば暗黙の了解としておけばいいだけのものでしかありません。結果、「日本版フェアユースの話し合いはこれだけで終了、今後は一切論議しない」という意思表示になりかねません。

津田大介が語る、日本版「フェアユース」とは?

少し前の記事ですが、おなじみ津田大介氏が日本版フェアユースに対して期待を持っていることを伺わせるインタビュー記事となっています。ですが、特に「そうしたサービスの一部は認められる余地が出てくるんじゃないでしょうか」と言っている「ロクラク」型サービス(録画機を、国内で預かって海外出張の人などに日本の番組を転送するサービス)などは、キッパリと「対象外」と定義されました。裁判でサービス側が勝っているにも関わらず、です。個別に対処する、という話ですが、そもそも判例が出ているのですから対処もヘッタクレもないはずなのですが。
つまり、今後"日本版"が頭についたものには何一つ期待するな、むしろ個人で出来ることを叩き潰すための新たなキッカケになる、という主張なのでしょうか。フェアユースの中身より、対象外を決めることの方が重要だったのでしょうか。
国の三大権力の一つであるはずの"司法"、それよりも自称第四の権力の方が強いんだ、そうなるべきだ、という意見の提示が、わざわざ録画転送を対象外と定めたことの裏にあるような気がしてなりません。まして、個人レベルでのダビングなどは、議論する以前の対象外。そういう扱いになってしまったようです。

ボチボチ地上デジタル放送そのものに対してあきらめつつある(規制の解禁だけでなく、質の問題や普及に関しても)わたしとしては、「ああ、結局こんなもんか」という感想しか持てないのですが、果たして著作権業界の勝手な暴走は、どこまで続くのでしょうか。本当に、こんな内容で法律化してしまうのでしょうか。

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12 コメント

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Unknown (emanon)
2010-01-20 23:26:26
 ええ、業界内のみに必要な所のみを規定していますね
私からも同じものですが少し

日本版フェアユースの素案公表、小幅導入を提示――文化審
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20100120/1022296/
「立法的対応が必要と判断するには、導入を根拠づける立法事実があるのか十分検討すべき」

「2010年3月ころをめどに法制小委の中間報告として策定し、一般からの意見募集(パブリックコメント)を行う見込み」

必要に応じて個別規定の改正や創設により対応することを提案している。パロディーとしての利用も「パロディーの概念、表現の自由との関係、同一性保持権との関係などを慎重に検討する必要がある」と慎重な見解を示した。

というところが気になりますが同人系も規制しようというのでしょうかねw 同一性保持権てBLのこと?
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Unknown (通りすがりm)
2010-01-21 00:13:59
清々しいぐらいに無視されてますね。
触れてない部分に関しては「好きにやっていいよ」という風に理解したいぐらいです。
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Unknown (Teru)
2010-01-21 09:24:40
端的に、「誰が意思決定コストを払えるか」の反映でしょう。

北米のフェアユース規定にしても、具体化したければ個別に「新規事業者なりエンドユーザー側から」民事訴訟なり行政訴訟を行って、商慣習により「札束でモノを言う」既得権者相手に「訴訟を通じて総則という解釈論を具体化」してきました。

あくまで自力で訴訟を争う事を、法定で後押ししてくれる条項(国内現行法なら、憲法13条の個人の尊重条項のようなもの)であり「自由は何でも出切る事じゃない。自由とは、自分に由る」ことを後押しする条項であることを再認識すべきです。

これが国内だと、「立法コストに私人が人生を費やすなど、狂気の沙汰」と意思決定コストは軽んじられており、「法律は大人すなわち、行政と既得権者と政治業者が、他人の金で運用する道具」になっている実態がありますから、それこそ廃業や死者でも出ない限り、エンドユーザから「下克上するコストに人生を捧げる」のは商慣習的に「大人のすることじゃない」現状です。

例えば、レコードレンタル業者などが一例で、当初は民事訴訟と立法のコンボで圧殺を狙われ、民事と立法のロビイング(国内用語で言うところの陳情を、北米まで行って行う等)を経て「産業認知を受けた」ものの、それ以降は商慣習で既得権者に譲歩を続けています。

これに限らず参政権ですら、選挙によっては1/2から1/3を総体として「棄権」し続けているようでは、総則が追加されようとされまいと残りの「大人」が大人の都合で運用するのは自明な事です。
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Unknown (emanon)
2010-01-21 18:27:35
 ………、結局は最大限のエコを行使するしかないわけですか
まあ、最近ではラジオのほうが楽しいのも実感として感じはするのですが、、、
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Unknown (Unknown)
2010-01-21 21:42:38
> ………、結局は最大限のエコを行使するしかないわけですか
買わないという選択だということであっていますか?

消費者側からの抵抗ってそういうことぐらいしか無いのかなの思います。
いくらブログで書いたってパブコメ書いたって、読んで欲しい人(行政とか権利者)に読まれなければそれまでですからね・・・
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Unknown (emanon)
2010-01-21 22:34:51
 基本的にそうなのですがここに来るような人たちは何かしらで受信できるでしょうから
再生支援や動画補正はPCパーツなどに任せてテレビを買わない・買い換えないでしょうかw
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Unknown (krmmk3)
2010-01-22 21:59:18
>emanonさん
他の項目から考えると個人レベルで行うパロディはそもそも想定外、と言いたいところですが、地デジカのパロディを否定した連中の考えでは、同人誌なんかも「許可をとってから」程度には成りかねないかも。


>通りすがりmさん
そうならいいんですけどね。少なくとも「いわゆるフェアユースで対応出来ないか」という意見は全て潰されますね。

>Teruさん
残念ながら今回の内容では真逆となっています。少なくとも「ロクラク」に関しては、間違いなく裁判で勝ち取った権利ですが、今回のフェアユースの草案ではそれを"ちゃぶ台返し"にすることを明確にしています。自由を勝ち取るどころか、一度勝ち取ったものを談合で逆が正義であることを創りだすのが、本当に「大人のやること」なのでしょうか。

>2010-01-21 21:42:38さん
ブログはともかく、パブコメはダウンロード違法化の時に「無視する」ことを明言されちゃいましたからねぇ。もう個人レベルでうつ手は、どれほど残っているのでしょうか。

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Unknown (Teru)
2010-01-22 22:37:30
残念ながら「ロクラクが裁判で勝った」と言ってもそれは知財「高裁」であって、最高裁ではありません(現在係争中)。

まだ法的にも争っている最中ですから、それこそ下級審で敗訴した事を背景に立法化作業を早めた上で、「立法化の流れは我にある」と最高裁で主張しても(批判はあれども)成立しますし、その位のことはします。

レコードにおける「いわゆる原盤権」等が実例で、戦前ですが流行歌の類似歌にオリジナル性は無いとして敗訴したレコード会社側が、「なら、レコード会社の録音に対し特別に権利性を創造してしまえばよい」として立法化した経緯があります。

また、仮にサービス提供側が最高裁で勝ったとしても、専門用語で言うと「既判力」と言いますが直接効力が及ぶ事がはっきりしているのは、当該事件だけです。

この点の具体例を挙げれば、最高裁まで行って新規事業者側が勝った「中古ゲーム訴訟」が挙げられます。最高裁が中古ゲーム販売を容認する結論を出した後も、ゲームのパッケージ(いわゆる使用許諾契約の類)には今でも「中古販売禁止」の文字が書かれており、関連団体も主張自体を止めたわけではありません。

あくまで、ゲームソフト会社側に言わせれば、以前の様に毎回訴訟に訴えても「勝てない公算が高いので、民事上の権利を留保している」だけだという立場です。

そもそも、ロクラク側とて以前からTV局以外によるTV配信系サービスが訴訟で負けてきた事は承知の上で、自社のサービスを「会社による機器操作を避けるなど、過去の裁判例の要件から外れるように設定」して、更なる争いに備えたと見られます。
少なくとも、高裁で勝ち負けが出たから、一方が引き下がるほど、この種の訴訟は簡単ではありません。

なお、「大人」というのは前回の書込みも含め、悪代官と越後屋に例えられるような、(丁度今国会において検察込みで、双方繰り広げているような)がめつく汚い手も使うという意味での「大人」です。倫理性が高く、他を尊重すると言う意味の表現ではありません。
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Unknown (krmmk3)
2010-01-23 02:04:08
>Teruさん
係争中であるのならば、なお悪質と言わざるを得ません。司法の場に委ねればいいところを、その結果でなく、別の委員会で決めてしまい、まつ「間接侵害」として処理することを最初から決めているのですから。そもそもこのビジネス自体現状のままの規制だらけのデジタル放送が残るのならば成り立たなくなり、自然消滅するわけですから。少なくとも現在のフェアユースは、後に本来の形で登場する余地を残すため、通すべきではなさそうですね。
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Unknown (Teru)
2010-01-23 08:34:41
なお、「間接侵害」とは元々特許法の概念であり、著作権法では「刑法における幇助概念のプログラム提供者への適用」の如く、最近用いられるようになった手のようです。

この点、弁理士の解説blogの一例です。
http://d.hatena.ne.jp/mkuji/20091206/1260092332
今回の話に通じる要点は
「特許法と比較して、「間接侵害」という言葉がかなり広い意味で使われるような気がした」

「「間接侵害」とは、明確な定義はないが、直接的侵害行為以外の行為態様による著作権侵害事象(特に直接的な著作権侵害を援助・助長・惹起し又はこれに加担・寄与する行為)というような意味に使用されているようです。」

「著作権法には特許法101条のような間接侵害の規定がないので、文部科学省の審議会でそのような規定を創設することに向けての議論がなされていたようです。」

総じてまとめるなら、「今回の日本版フェアユース条文案」とは「既存権利者には間接侵害規定のような適用範囲の広い汎用条文を用意する一方で、新規事業者などには直接権利保護に繋がる条文とはならず使いづらい」恐れが高いと言えるでしょう。
かつての著作権法30条改定が「コピーガード付与者の優越」をはっきりさせ、TV機器開発の萎縮の連鎖を生んだような法律構造を予定しているのかもしれません。
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