会社を悩ます問題社員の対応

会社を悩ます問題社員の対応,訴訟リスクを回避する労務管理

行方不明になってしまい,社宅に本人の家財道具等を残したまま,長期間連絡が取れない社員の対処法

2022年07月06日 | 事務所のご案内

行方不明になってしまい,社宅に本人の家財道具等を残したまま,長期間連絡が取れない。

1 社員の行方を捜す努力
  社員が社宅に家財道具等を残したまま行方不明になった場合,まずは,電話,電子メール,社宅訪問,家族・身元保証人等への問い合わせ等により,社員の行方を捜す努力をして下さい。警察に行方不明者届を提出する場合は,親族が提出するのが通常と思われますが,勤務先からの行方不明者届も受理される扱いとなっていることも憶えておくとよいでしょう。
 それなりの期間努力しても社員の行方が分からないときは,退職扱いにし,社宅から出て行ってもらわざるを得ませんが,
 ① 労働契約を終了させる方法
 ② 社宅利用契約を終了させる方法
 ③ 社宅の明渡し方法等が問題となります。

2 労働契約を終了させる方法
(1) 合意退職・辞職
 行方不明になった社員が,退職の挨拶をしてからいなくなった場合や,退職する旨の書き置きを残しているような場合であれば,合意退職の申込ないしは辞職の意思表示があったと評価する余地があります。決裁権限がある上司が退職を承諾している場合には承諾を通知した時点で,承諾の事実がない場合には,辞職の効果が発生する期間として就業規則に定められた期間又は14日のいずれか短い方の期間を経過した時点で,退職の効力が発生したものとして扱えば足りるでしょう。
 他方,何の前触れもなく社員が突然行方不明になったような場合には,合意退職の申込ないしは辞職の意思表示があったと評価することは困難ですので,別の対応が必要となります。
(2) 欠勤が一定日数続き所在不明の場合には当然に退職する旨の就業規則の規定
 行方不明になった社員を退職させる方法としては,就業規則に欠勤が一定日数続き所在不明の場合には当然に退職する旨退職事由として規定しておき,適用することにより対処するのが一般的です。このような規定は,行方不明期間があまりにも短い場合には合理性を欠くものとして無効となる可能性がありますが,行方不明のまま30日~50日程度の欠勤を続けている社員に退職の効果が生じるようなものであれば,通常は合理性を有する規定として有効となるものと考えられます。
 要件を満たす場合には,行方不明の社員に対する意思表示なくして当然に退職の効力が生じることになりますので,行方不明になった社員に対する通知は不要です。解雇予告や解雇予告手当の支払も不要です。
(3) 解雇
 長期間の無断欠勤は,普通解雇事由及び懲戒解雇事由に該当するのが通常です。使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要するとするのがフジ興産事件最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決ですので,就業規則がない会社の場合は,労働組合との労働協約に懲戒の種類及び事由が定められていて当該労働者に労働協約の効力が及んでいるといった特段の事情のない限り懲戒解雇することはできませんが,民法627条に基づき普通解雇することはできます。
 社員が無断欠勤して行方不明になった場合であっても,解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして無効となります(労契法16条,15条)。慎重を期すのであれば,解雇に踏み切るまでの無断欠勤期間については,やや長めに考えた方が無難かと思われます。最低限,会社は,社員の行方を捜す努力をして,記録に残しておく必要があります。
 原則として解雇予告や解雇予告手当の支払が必要なことは通常の解雇と変わりありません。社員は無断欠勤した上に行方不明になっているわけですから,「労働者の責に帰すべき事由」(労基法20条1項ただし書)が存在し,労働基準監督署長の解雇予告除外認定を得て,解雇予告又は解雇予告手当の支払なしに解雇することができるケースが多いものと思われます。しかし,労働基準監督署長の解雇予告除外認定を得るためには,それなりの準備が必要ですし,ある程度の時間がかかりますので,事案によっては解雇予告又は解雇予告手当の支払をして解雇してもいいかもしれません。
 行方不明の社員の居場所が分かった場合は,以上の点を考慮して解雇通知すれば足ります。しかし,いくら捜しても社員が行方不明の場合は,別途,検討が必要となります。
 すなわち,解雇の意思表示は,解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じるため(民法97条1項),有効無効以前の問題として,解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の効力を生じません。社員が自宅で生活しており,単に出社を拒否しているに過ぎないような事案であれば,社員の自宅に解雇通知が届けば社員の支配圏内に置かれたことになりますから,実際に社員が解雇通知を読んでいなくても,解雇の意思表示が到達したことになります。しかし,会社が把握している自宅が引き払われているなど本当の意味での行方不明でどこに住んでいるのか皆目見当がつかない場合は解雇通知を発送すべき宛先が分かりません。会社が把握している社員の自宅が引き払われてはいなくても,長期間にわたり社員が自宅に戻っている形跡が全くないような場合は,社員の自宅に解雇通知が到達したとしても社員の支配圏内に置かれたと評価することはできませんので,解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず,解雇の意思表示は効力を生じません。
 電子メールによる解雇通知は,行方不明の社員からの返信があれば,通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し,解雇の効力が生じていると考えることができるでしょう。ただし,電子メールに返信があるような事案の場合,そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地がありますので,解雇権を濫用したものとして無効(労契法16条)とされないよう,解雇に先立ち,行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くす必要があります。他方,行方不明の社員からメール返信がない場合は,解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが,連絡を取る努力を尽くした上で,リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられます。
 行方不明の社員の家族や身元保証人に対し,行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても,解雇の意思表示が到達したとは評価することができず,解雇の効力は生じないのが原則です。兵庫県社土木事務所事件最高裁平成11年7月15日第一小法廷判決では,行方不明の職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法でなされた懲戒免職処分の効力の発生を認めていますが,兵庫県は従前から所在不明となった職員に対する懲戒免職処分の手続について当該職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県広報に掲載するという方法で行ってきており,兵庫県職員であった行方不明になった県職員は自らの意思により出奔して無断欠勤を続けたものであって,上記の方法によって懲戒免職処分がされることを十分に了知し得た特殊な事案に関する判断であり,射程を広く考えることはできません。通常,家族に解雇通知書を交付し社内報に掲載したといった程度で,解雇の意思表示が到達したと考えるのは困難です。
 完全に行方不明の社員に対し,解雇を通知する場合は,簡易裁判所において公示による意思表示(民法98条)の手続を取る必要があります。公示による意思表示の要件を満たせば,解雇の意思表示が行方不明の社員に到達したものとみなしてもらうことができます。
(4) リスク覚悟の上での退職処理
 行方不明の社員が退職の効力を争うことは稀ですから,厳密な退職の要件を満たさなくても,リスク覚悟の上で退職処理してしまうという方法も考えられます。家族や身元保証人等とよく話し合い,家族等の了解を取ってから退職扱いにすれば,リスクを格段に下げることができます。もっとも,退職の効力を争われた場合は無効と判断される可能性が高いので,後日,行方不明だった社員から連絡があり,社員が復職を強く希望したような場合には,その時点で復職の可否を検討する必要があるものと思われます。

3 社宅利用契約を終了させる方法
 労働契約が終了すれば,通常は,社宅利用契約も終了することになります。
 福利厚生施設としての社宅の法律関係は,社宅利用規程によって規律され,通常は,借地借家法は適用されません。社宅の明渡しを請求できるかどうかは,社宅利用規程の明渡事由に該当するかどうかにより決せられることになります。
 社宅利用料が高額であるなどの理由から,社宅契約が借地借家法の予定する賃貸借契約と認定された場合は,契約の解約には6か月前の解約申入れが必要であり(借地借家法27条),解約には正当の事由が必要となります(借地借家法28条)。トラブルを避けるためにも,福利厚生施設としての役割に反しない金額の利用料設定にしておくべきでしょう。

4 社宅の明渡し方法
 行方不明の社員が退職扱いとなり,社宅利用契約が終了したとしても,実際にどうやって部屋の明渡し作業を行うかは別途問題となります。行方不明の社員を相手に訴訟を提起し,公示送達(民事訴訟法110条)の方法により訴状を送達し,勝訴判決を得て強制執行するというのが,法律論的には本筋かもしれませんが,時間,費用,手間がかかります。かといって,勝手に荷物を運び出して処分してしまうわけにもいきません。
 実務上は,行方不明の社員の両親等の協力を得て,明渡しに立ち会ってもらい,荷物を引き取って保管してもらうことが多いのではないでしょうか。完全に適法なやり方と言えるかどうかは微妙なところであり,ある程度のリスクを覚悟した上で行うことになりますが,両親等の協力があれば,トラブルに発展するケースはそれほど多くはありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

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