会社を悩ます問題社員の対応

会社を悩ます問題社員の対応,訴訟リスクを回避する労務管理

業務上のミスを繰り返して,会社に損害を与える社員の対処法

2022年08月12日 | 事務所のご案内

業務上のミスを繰り返して,会社に損害を与える。

 

1 募集採用活動の重要性
 業務上のミスを繰り返す社員を減らす一番の方法は,採用活動を慎重に行い,応募者の適性・能力等を十分に審査して基準を満たした者のみを採用することです。採用活動の段階で手抜きをして,十分な審査をせずに採用したのでは,業務内容が単純でマニュアルや教育制度がよほど整備されているような会社でない限り,業務上のミスを減らすことは困難です。

2 採用後の対応
 採用後の社員による業務上のミスの対策としては,社員の適性に合った配置,人事異動,注意指導,教育,人事考課,保険加入によるリスク管理等が中心であり,退職勧奨や解雇は能力不足の程度が甚だしく改善の見込みが低い場合に限定して検討するのが原則です。
 ただし,地位や職種が特定されて採用された社員については,基本的には配置転換する義務はありませんし,賃金額が高い場合には能力を向上させるために教育する必要はないと解釈される傾向にあります。当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,退職勧奨や普通解雇を検討するのが原則となります。
 事業主は労働者を使用することにより得られる利益を享受する以上,損失についても事業主が負担すべきとの考え(報償責任の原則)が一般的であり,過失によるうっかりミスについては損害賠償請求はなかなか認められませんし,損害賠償請求が認められる事案であっても,支払が命じられるのは損害額の一部にとどまることも多く,実際の回収作業にも困難を伴うことは珍しくありません。基本的には,業務上のミスによる損害を当該社員に対する損害賠償請求で填補できるものとは考えるべきではありません。

3 退職勧奨
 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,十分に注意指導,教育しても改善の見込みが低い場合には,会社を辞めてもらうほかありませんので,退職勧奨や普通解雇を検討することになります。解雇が有効となる見込みが高い程度に業務上のミスの程度・頻度が著しい事案では,解雇するまでもなく,合意退職が成立することも珍しくありません。
 他方,業務上のミスの程度・頻度がそれほどでもなく解雇が有効とはなりそうもない事案,誠実に勤務する意欲や能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案,本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等で退職届を提出させるのは,難易度が高くなります。
 能力不足により引き起こされる業務上のミスを理由として懲戒解雇を行うことはできませんので,懲戒解雇を示唆して退職届を提出させた場合には,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等の主張が認められて退職が無効となったり,取り消されたりするリスクが高いものと思われます。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となることがあります。

4 解雇
 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが低い場合には,退職勧奨と平行して普通解雇を検討します。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用に当たらないというためには,解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど当該社員の業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じているため,労働契約で求められている能力が欠如していると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に解雇に値すると考えただけでは足りず,単に思ったよりもミスが多く,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているため,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたとしても直ちに労働契約で求められている能力が欠如していることにはならず,解雇は例外的な場合でない限り認められません。一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
 地位や職種が特定されて採用された社員については,当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,労働契約で求められている能力が欠如しているものとして,普通解雇が認められやすくなります。ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,地位や職種が特定されて採用された事実や,当該地位や職種に要求される能力を主張立証する必要がありますので,できる限り労働契約書に明示しておくようにしておいて下さい。
 業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを,業務ミスがあった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えた。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼(女)が業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを主張立証するのには困難を伴うことが多くなります。

5 損害賠償請求
 社員の業務上のミスにより会社が損害を被った場合には,社員に対して損害賠償請求(民法415条・709条)することができる可能性がありますが,社員に軽過失しかない場合(故意重過失がない場合)には免責される傾向にあります。
 社員に損害賠償義務が認められる場合であっても,賠償義務を負う損害額は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度にとどまるため,故意によるものでない限り,社員に対し請求できる損害額は全体の一部にとどまることが多いというのが実情です。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員がミスした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。
 損害賠償金負担の合意が成立した場合は,「書面」で支払を約束させ,会社名義の預金口座に振り込ませるか現金で現実に支払わせて下さい。賃金から天引きすると,賃金全額払の原則(労基法24条1項)に違反するものとして,天引き額分の賃金の支払を余儀なくされる可能性があります。
 損害額が軽微な場合は,賞与額の抑制,昇給の停止等で対処すれば足りる場合もあります。
 月例賃金を減額して実質的に損害賠償金を回収ようとする事案が散見されますが,賃金減額の有効性を争われて差額賃金の請求を受けることが多いですし,退職されてしまった場合には回収が困難となるため,お勧めしません。
 社員に対し損害賠償請求できる場合であっても,身元保証人に対し同額の損害賠償請求できるとは限りません。裁判所は,身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき社員の監督に関する会社の過失の有無,身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いた注意の程度,社員の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌するものとされており(身元保証に関する法律5条),賠償額がさらに減額される可能性があります。身元保証の最長期間は5年であり(身元保証に関する法律2条1項),自動更新の合意は無効と考えるのが一般的です(同法6条参照)。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

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会社経営者のための残業代請求対応
会社経営者のための労働審判対応


会社の業績が悪いのに賃金減額に同意しない社員の対処法

2022年08月10日 | 事務所のご案内

会社の業績が悪いのに賃金減額に同意しない。

 

1 はじめに
 会社の業績が悪いため賃金原資を確保することが難しい場合,労働者の賃金を減額したり,辞めてもらう必要があることもあります。しかし,賃金を減額するにしても,辞めてもらうにしても,自由に行うことはできず,一定のルールを守らなければなりません。
 本FAQでは,会社の業績が悪いのに賃金減額に同意してもらえない場合の対処法について解説します。

2 業績が悪いことへの対処法全般の検討
 会社の業績が悪い場合に検討すべき対処法は,賃金減額だけではありません。例えば次のような対処法についても検討した上で,賃金減額が適切と判断される場合に賃金減額を行うことになります。例えば,残業抑制や休業で対処できるのであれば,賃金を減額する必要はないかもしれません。
 ① 残業抑制
 ② 休業
 ③ 配置転換,在籍出向等
 ④ 労働者派遣契約の打ち切り,有期契約労働者の雇止め
 ⑤ 早期退職募集・退職勧奨
 ⑥ 整理解雇

3 賃金を減額しなければならない理由の説明
 賃金を減額することを選択した場合に,最初にしなければならないことは,賃金が減額される労働者に対し,賃金を減額しなければならない理由を説明することです。売上,損益等の金額を記載した資料を交付して会社の財務内容を説明したり,会社が行ってきた他の施策の成果が不十分であることを説明するなどして,賃金を減額しなければならない理由をできるだけ丁寧に説明しましょう。賃金を減額しなければならない十分な理由がある場合は,賃金減額に応じてもらえることも珍しくありません。賃金を減額しなければならない理由について具体的に検討していくうちに,他の手段で対応するのが適切なことに気づくこともあります。
 業績の悪さを労働者や金融機関に知られたくないなどの理由から,売上,損益等の金額を伝えたくないことがあると思います。しかし,売上,損益等の金額を具体的に説明できないのでは,賃金を減額しなければならないほど会社の業績が悪いとは理解してもらえず,賃金減額に同意してもらうことも難しくなります。賃金減額に応じてもらう必要性と売上,損益等の金額を秘密にする必要性とを天秤にかけて,どの程度の説明をするのか決めて下さい。

4 賃金減額の方法
 賃金減額の方法には,次の3つがあります。
 ① 労働協約の締結
 ② 就業規則の変更
 ③ 個別合意
 自社の労働者が労働組合に加入している場合には,労働組合と交渉して労働協約を締結することにより,当該組合員の賃金を減額することができます。労働組合に対し賃金減額の必要性を説明し,減額幅などについて交渉し,労働協約を締結するという手順を踏むことになります。
 就業規則で定められている賃金については,就業規則を変更することにより賃金を減額することも考えられます。就業規則変更による賃金減額が有効となるためには,賃金が減額される労働者の同意があるか,就業規則変更に高度の必要性に基づいた合理性があることが必要です。就業規則を変更することにより賃金を減額する場合は,就業規則変更の同意を取得した上で就業規則を変更するのが原則です。同意のないまま就業規則を変更して賃金を減額するのは,いくら説得しても同意してもらえなかったごく少数の労働者についてのみ例外的に行うのが一般的です。 
 個別の合意により支払うこととされている賃金を減額する場合は,労働者個人と交渉して賃金減額の同意を取得し,賃金を減額します。賃金を減額した結果,就業規則で定められているものよりも労働者に不利になる場合は,就業規則についても変更を行います(就業規則の最低基準効)。
 賃金を減額する就業規則変更に対する同意,賃金減額の個別合意いずれについても,最低限,書面で同意を取得するようにして下さい。口頭での同意しかない場合は,裁判になったら十中八九負ける覚悟が必要です。
 賃金減額(の就業規則変更)に同意する内容の同意書を取得していたとしても,賃金減額の同意があったと認めてもらえないことがあることは理解しておいて下さい。同意書の作成提出により賃金減額に同意したと評価できるかは,様々な事情を考慮して,労働者の自由な意思に基づいて同意書が作成されたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かを考慮して判断されます。労働者が賃金減額により被る不利益の内容を具体的に理解できるだけの情報を提供することが必要です。

5 減額する賃金項目の検討
(1) 賞与
 業績が悪い場合,月例賃金の減額に先立ち,賞与の不支給または支給額の抑制を行って下さい。基本給や諸手当を減額をするのは,賞与を不支給とするか,労働契約上支払うこととされている最低額としてからにしましょう。
 賞与として具体的な金額を支払うこととされている場合は,原則としてその額を支払わなければならないため,減額するためには同意の取得等が必要です。他方,賞与を支給することとされてはいるものの,具体的な支給額が算定できない場合は,賞与を不支給にしたとしても,不足額の請求は認められません。一定額の賞与支給が労使慣行となっているとの主張がなされることがありますが,認められることはそれほど多くありません。
(2) 基本給
 業績が悪いことを理由に基本給を減額することは,法律上も事実上も困難なのが一般的です。基本給の減額は,最後の選択肢とするのが妥当なケースがほとんどです。どうしても基本給の減額が必要な場合は,少なくとも大部分の労働者からは同意を取得するようにして下さい。
 一方的に基本給を減額する場合は,基本給減額の権限(減額できることを定めた就業規則上の根拠条文等)があり,減額が濫用に当たらないことが必要です。「10%までなら基本給を減額できますか。」との質問を受けることがありますが,これは減額が濫用に当たらないかどうかを判断する際に参考とする目安に過ぎず,必ずしも基本給の10%までなら減額できるというものではありません。
 定期昇給凍結は,具体的な定期昇給の合意や就業規則の定め等がある場合には,同意の取得,就業規則変更等の対応が必要となります。合意や定めがない場合は,定期昇給を凍結しても違法ではありません。具体性を欠く定期昇給の合意や定めがあるに過ぎない場合は,定期昇給を凍結することは合意や定めに違反するかもしれませんが,不足額を算定できないため,不足額を請求する根拠となるものではありません。
 ベースアップを凍結できるかどうかは,基本的には労使交渉の問題であり,賃金減額の問題ではありません。ただし,いったん合意したベースアップをなかったことにするためには,労働組合との再交渉等が必要となります。
(3) 諸手当
 諸手当の不支給や減額は,難易度が高めです。諸手当の減額は,基本給と比べれば労働者の理解を得られやすい面がありますが,諸手当であれば,不支給としたり減額したりできるわけではないことは,理解しておいて下さい。
(4) 退職金
 退職金の減額は,基本的には労働者の同意を得て行うべきものです。同意があったといえるようにするためには,同意書を取得するだけでなく,退職金の減額に同意しない場合の金額,同意した場合の金額,減額幅等,被る不利益の内容を記載した書面を交付して説明を行うべきでしょう。
(5) 年俸
 年度の途中に年俸を減額する場合は,労働者の同意が必要となるケースがほとんどです。最低限,書面で減額後の金額について合意するようにして下さい。
 無期契約の年俸制社員に対し,新年度の年俸額引下げを提案したところ断られた場合に,新年度の年俸額が何円になるのかは労働契約を解釈して決められることになります。予め,新年度の年俸額について合意が成立しない場合には,暫定的に前年度の年俸額とするとか,前年度の年俸額の80%の金額とするといった合意を年俸契約書に盛り込むなどしておくとよいでしょう。
 1年契約の有期契約社員の年額賃金のことを年俸と呼んでいるケースもあります。更新後の有期契約の年額賃金について合意が成立しない場合は,有期労働契約は更新されずに,期間満了で終了となるのが原則です。契約期間満了までに年額賃金について合意できていないにもかかわらず,新年度の契約書を取り交わさずに契約期間満了後も働かせているケースが散見されますが,年額賃金についての合意ができなかった場合にも契約を更新することになってしまい,トラブルの元です。契約期間満了の1か月程度前までには,更新後の労働契約書の取り交わしを終えるようにして下さい。
(6) 定額残業代(固定残業代)の新設・廃止
 従来の賃金に上乗せする形で定額残業代(固定残業代)を新設するのであれば,賃金減額ではありません。従来,基本給25万円を支給してきたのに対し,基本給25万円,定額残業代(固定残業代)5万円とするような場合がこれに当たります。ただ,このやり方は,業績が悪いことへの対応にはなりません。
 他方,従来の賃金の一部を定額残業代(固定残業代)に振り替える場合は,定額残業代(固定残業代)に振り替えられた従来の賃金が減額されることになりますので,労働条件の不利益変更となります。従来,基本給25万円を支給してきたのに対し,基本給20万円,定額残業代(固定残業代)5万円とするような場合がこれに当たります。この場合は,同意書を取得する等の対応が必要となります。「従来も,基本給20万円,定額残業代(固定残業代)5万円を,基本給名目で25万円支給していただけなので,それを分けて内訳を明確化したとしても,賃金減額とか労働条件の不利益変更には当たらない。」といった主張は,理論的にはつじつまが合っているようにも見えますが,実際にはほとんど認められない主張です。
 業績が悪くなると残業が減って,定額残業代(固定残業代)が必要なくなったり,金額が実際に計算した残業代の額と乖離するようになることがあります。例えば,従来,基本給20万円,定額残業代(固定残業代)5万円としていたものの,業績が悪くて仕事が減り,残業がほとんどなくなったので基本給20万円だけにしたいというケースがこれに当たります。定額残業代(固定残業代)が本当の意味で残業代の実質を有しているといえるのであれば,残業がほとんどなくなった以上,定額残業代(固定残業代)を廃止するのは合理的なことといえるでしょう。他方,定額残業代(固定残業代)5万円が形だけのもので,実際には月給25万円,残業代なしというのが実態の場合は,25万円の基本給を20万円に減額する場合と同様の手続が必要となるかもしれません。

6 おわりに
 有効に賃金減額を行うことは,容易ではありません。賃金減額は,基本的には労働者の同意を得て行うべきものだと考えるのが適切だと思います。
 また,賃金減額について労働者の同意を得ることができたとしても,減額後の賃金水準次第では,有能な労働者の勤労意欲が減退し,退職してしまうかもしれません。意欲的に働いてもらうためにはどうすればいいかといった観点からの手段選択も必要です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

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虚偽の内部告発をして,会社の名誉・信用を毀損する社員の対処法

2022年08月08日 | 事務所のご案内

虚偽の内部告発をして,会社の名誉・信用を毀損する。

 

 労働契約上,社員は,会社の名誉信用等を害して職場秩序に悪影響を与え,業務の正常な運営を妨げるような行為をしない義務を負っていると考えられますが,それを明確にするために,その旨,就業規則に規定しておくべきです。

 虚偽の内部告発については,その程度に応じて,注意,指導,懲戒処分を検討することになりますが,公益通報者保護法,言論表現の自由との関係を検討する必要があります。

 公益通報者保護法との関係では,
① 公益通報をしたことを理由とする解雇の無効(3条)
② 公益通報をしたことを理由とする労働者派遣契約の解除の無効(4条)
③ 公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止(5条)
が問題となります。
 これらは,公益通報をしたことを理由とする解雇,労働者派遣契約の解除,不利益取扱いを禁止するものに過ぎず,公益通報をしたからといって,公益通報をしたこと以外の事実を理由とする解雇,労働者派遣契約の解除,不利益処分ができなくなるわけではありません。

 「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的」を有する内部告発は「公益通報」(2条)に該当しないため,公益通報者保護法では保護されません。

 公益通報者保護法が保護の対象とする同法2条3項所定の「通報対象事実」とは,刑法,食品衛生法,証券取引法,個人情報保護法等の同法2条別表に掲記の通報対象法律において犯罪行為として規定されている事実と犯罪行為と関連する法令違反行為として規定されている事実に限定されており,通報対象法律以外の法律に規定された犯罪行為やその犯罪行為と関連する法令違反行為の事実,通報対象法律において最終的にその実効性が刑罰により担保されていない規定に違反する行為の事実は該当しません。
 公益通報者保護法の保護を受けようとする社員は,その法令違反行為が,いかなる通報対象法律において犯罪行為として規定される事実と関連する法令違反行為であるのかを明らかにする必要があります。

 「当該労務提供先等に対する公益通報」(勤務先,派遣先等に対する公益通報)が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合」であれば足ります。
 「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報」が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」である必要があります。
 「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」(マスコミ等に対する公益通報)が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり,かつ,次のいずれかに該当する場合」であることが必要となります。
① 労務提供先等,行政機関等に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
② 労務提供先等に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され,偽造され,又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
③ 労務提供先等から労務提供先等,行政機関等に対する公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
④ 書面により勤務先等に対する公益通報をした日から20日を経過しても,当該通報対象事実について,当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
⑤ 個人の生命又は身体に危害が発生し,又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

 公益通報者保護法が保護の対象とならない内部告発についても,言論表現の自由との関係で保護されることがあります。
① 内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしは原告が真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か(「真実ないし真実相当性」)
② その目的が公益性を有している否か(「目的の公益性」)
③ 労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否か(「手段・態様の相当性」)
を総合考慮して,当該内部告発が正当と認められる場合には,仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても,その違法性は阻却されるとする裁判例があります(学校法人田中千代学園事件東京地裁平成23年1月28日判決)。

 公益通報者保護法の適用がない場合であっても,正当な内部告発を理由とする懲戒処分等は無効となり,正当な内部告発に対する注意・指導については不当なものと評価されることになります。
 場合によっては,これらが不法行為法上において違法と評価されるリスクも生じかねません。

 内部告発が正当なものとはいえなかったとしても,出向命令権濫用法理(労働契約法14条),懲戒権濫用法理(同法15条),解雇権濫用法理(同法16条)が適用されるため,直ちに出向命令,懲戒処分,解雇が有効となるわけではないことには注意が必要です。
 原則どおり,これらの法理の有効要件を満たすか検討する必要があります。

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代表弁護士 藤田 進太郎

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裁量労働制 好事例セミナー

2022年08月08日 | 事務所のご案内

代表弁護士藤田進太郎が「裁量労働制 好事例セミナー」と題する講演を行いました。(日本経済団体連合会)

主催:日本経済団体連合会
日時:2022年8月5日(金)10:00~12:00
場所:東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館
内容
1.講演
 裁量労働制における課題
 ~厚労省「これからの労働時間制度に関する検討会報告書」を踏まえて~
2.パネルディスカッション 司会

 

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派手な化粧・露出度の高い服装で出社する社員の対処法

2022年08月05日 | 事務所のご案内

派手な化粧・露出度の高い服装で出社する。

 

 化粧・服装等の身だしなみは,本来,私的領域に属する問題ですが,職場では労働契約上の制約を受けます。
 使用者は,化粧・服装等の身だしなみに関し規律を定めることができ,それが職種や業務内容に照らし必要かつ合理的なものである場合には,社員はその規律に従う義務を負うことになります。

 化粧・服装等の身だしなみの問題は,基本的には注意,指導して改善させるべき問題です。
 業務遂行にどのような支障が生じるのか,よく説明して指導する必要があります。

 長期間,派手な化粧・露出度の高い服装での出社を認めてきた職場で注意しても,素直に指示に従ってもらえないことが多いというのが実情です。
 問題を把握したら,早期かつ平等に対処することが重要です。

 どのように指導するかということだけでなく,誰が指導するかということも重要です。
 あの上司の言うことなら聞くが,この上司の言うことは聞きたくないということもあり得ます。
 直属の上司の指導力が不足している場合は,直属の上司に任せきりにせず,組織として対応すべきです。

 男性の上司が女性の身だしなみについて指導する場合,指導をセクハラだと言われることがありますが,職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はセクハラではありません。
 ただし,普段,性的な事柄に関しふざけた発言を繰り返しているような上司が指導しても,納得してもらいにくいという事実上の問題はあるかもしれません。
 一概には言えませんが,女性の上司・先輩が指導した方がうまくいくこともあります。
 上司の指導をパワハラと言い出す社員もいますが,職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はパワハラではありません。

 口頭で注意,指導しても改善しない場合は,書面で注意,指導することになります。
 書面で注意指導しても改善しない場合には,懲戒処分を検討せざるを得ませんが,職場秩序を乱した程度と懲戒処分の重さのバランスに気をつける必要があります。
 特に解雇は慎重に行うようにして下さい。
 余程の事情がない限り,解雇は無効とされるリスクが高いというのが実情です。

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代表弁護士 藤田 進太郎

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