サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 07224「サッド・ムービー」★★★★★☆☆☆☆☆

2007年04月29日 | 座布団シネマ:さ行

4組のカップルが織り成す様々な別れのスタイルを描いている。彼らは大切な人のため、それぞれの道を走り出す…。 続き

東京で、日本人の俳優で演じられても、まったく異和感がない、ということ。

たぶん僕が、韓国映画を本気になって見始めたのは、2000年に入ってからだろうと思う。
「冬のソナタ」の日本でのブームは、2003年から2004年にかけてだ。もう、ずいぶん、昔のような気がする。テレビドラマシリーズを別として、韓国での制作年度でいえば(日本での上映やDVD化は1,2年後のケースが多いが)2000年には、ほぼ現在に通じる韓国映画の新しい潮流が、出揃っているような気がする。

任意にいくつかあげてみる。



「イルマーレ」・・・ハリウッドでキアヌ・リーブズとサンドラ・ブロックでリメイクもされたが、純文学的な悲恋とタイムパラドックスを交錯させながら、格調の高い純愛を詩情豊かな美しい映像に定着させている。

「JSA」・・・南北の国境線における緊張を背景に、サスペンスに満ちた政治劇を、「北」の兵士の内面にまで踏み込んだ人間ドラマとしてみせた。

「吠える犬は噛まない」・・・アパート団地内での子犬の失踪事件を、コミカルで現代的なタッチのヒューマン・ドラマにしている。都市的で軽妙な風刺劇の走りともいえる。

「燃ゆる月」・・・数百年の部族の歴史的背景の中で、武侠物語にも通じる歴史ロマンのかたちを確立した。

「リベラ・メ」・・・屈折した放火犯と戦う消防隊員と火災調査員。ハリウッド映画にも負けない特撮映像の原点ともいえる。

「魚と寝る女」・・・芸術派監督キム・ギドク監督の4作目。猟奇的な愛を描いているが、現在の作風につながる原点がすでに出揃っている。

「アナーキスト」・・・
1920年代の上海で,抗日テロ活動の本山<義烈団>に加担した5人の朝鮮人無政府主義者(アナーキスト)を描くアクション・ノワール・フィルム。現代史を題材にしたアクションの走り。

「友引忌」・・・大学時代の7人のメンバーが、わからない秘密によって、次々と惨殺されていく。

純愛、南北問題、風刺劇、半島の伝承(時代)劇、特撮アクション、芸術派、現代ノワール、心理ホラー・・・。
時に映画館で、時にDVDで、それからの7年間でたぶん数百本は、韓国映画を追ってきたように思う。
駄作も多いし、パターン劇もある。
けれども、2000年まで、韓国映画など年間数本ぐらいしか見なかった僕にとって、これは、革命的な転回であることには違いない。



「サッド・ムービー」。8人の男女(ひとりは子供)の4つのペアが織り成す愛と別れの物語だ。微妙にペア同士が時空を共有しているところは、「ラブ・アクチュアリー」を想起させる。
なんということもないオムニバス風の、心温まるあるいは胸をキュンとさせる映画なのだが、僕にとっては、見知った役者が登場するこの映画に、ようやく過去の出演作品などを思い返しながら、それなりに演技を楽しめるという、自分にとってのある種の「土地勘」のようなものを確認できた映画であった。

不器用な消防士ジヌ(チョン・ウソン)と手話通訳アナウンサーのスジョン(イム・スジョン)。
プロポーズのタイミングがとれないまま、ジヌは火災現場で殉職する。
チョン・ウソンは「ユリョン」「MUSA」などの男っぽい役柄や、「私の頭の中の消しゴム」「デイジー」などの純愛路線でファンも多いが、この作品では、少しテンポのずれた朴訥で愚直な男を演じている。
僕の中では、このかっこいい役者の最高の演技は、もっとも格好よくない野良犬のような自立できない不良息子を演じた「トンケの蒼い空」であった。口を間抜けに半開きに開けて、二日酔いのつぶれた中村雅俊みたいな感じで、よだれを垂らしながら、喚いている。格好いいチョン・ウソンにうっとりしているお嬢さん方には目に毒かもしれないが、僕はとても感心したものだ。
相手役のイム・スジョンは名作ホラー映画「箪笥」で、一目ぼれした女優さんだ。



3年間無職のダメ男ハソク(チャ・テヒョン)とスーパーのレジ係の年上の恋人スッキョン(ソン・テヨン)。
チャ・テヒョンはもちろん「猟奇的な彼女」「僕の世界の中心は、君だ」などで三枚目ながら純情を切なく演じた役者さんだ。この作品でも「別れさせ屋」という奇妙な職業を誠実にこなす役柄を好演するとともに、4組のペアに細い連関を暗示させる水先案内人となっている。
ソン・テヨンは「天国からのメッセージ」で主人公の恋人役をやっていた。ミス・コリア出身の美人だ。

キャリア・ウーマンのジュヨン(ヨム・ジュニア)は仕事にかまけて小学校2年生の息子に疎外感を与えているが、病に倒れたことから、急速に息子との濃密な時間を取り戻す。
ヨム・ジュニアは「箪笥」の怜悧な継母や「H」の女刑事役が嵌っていた。



聴覚障害のスゥン(シン・ミナ)は、ぬいぐるみの被り物で王女様のように7人の小人を従えているが、公園で見かけた絵描きのハンギュ(イ・ギウ)に恋心を抱く。
シン・ミナは「甘い人生」で、お嬢さんでありながら、主人公のイ・ビョンホンを狂わせるファムファンタールを演じて印象深かった。イ・ギウは「ラブ・ストーリー」で、主人公チョ・スンウの級友を演じていた。

テレビドラマまで含めた韓流ファンには、まったく追いつかないとしても、ある程度の「土地勘」が出来てくるというのは、嬉しいものだ。

「サッド・ムービー」という映画を見ていると、韓国映画(ドラマ)特有のあざとい運命設定は、かなり抑えられていることにすぐに気づく。この短編連作の原作・脚本を、日本人作家とみなしてもおかしくはないように思える。どのエピソードをとってみても、まずまず上質で、国籍も関係のない、現代的な物語だと思えるからだ。



ちょっとしたドラマ好きなら、「サッド・ムービー」を東京を舞台にして、日本の役者たちに演じさせたとしても、そのキャスティングやロケーションについて、すぐに、自分なりに自由に想定できるということだ。
舞台が、台北であっても香港や上海やシンガポールであっても構わない。
たぶん、アジアの最先端都市であれば、基本的には成立してもおかしくないある種の無国籍性と普遍性をもった物語といってもいい。
逆にいえば、「サッド・ムービー」を受け入れる都市的感性は、音楽やファッションと同じように、国境を超えて、浸潤しあうということである。
ハリウッド映画と各国の映画という対比とは別に、アジアという共通マーケットが確実に存在感を強めていると言い換えることも出来る。



「サッド・ムービー」を制作したのは、チョン・フンタク率いる韓国の総合エンターテイメントの新興企業であるIHQである。2003年に「i film」を立ち上げ、映像に進出した。そして「僕の彼女を紹介します」「デイジー」「僕の世界の中心は、君だ」などをリリースしている。「HERO」「LOVERS」などの香港の大物プロデューサーであるビル・コン氏とも手を握っている。

たぶん僕たちは、あえて「韓流」などといわずに、エンターテイメントを受け入れる時期になってきたということだろう。韓国の結構あざといドラマツルギーが逆に日本のテレビドラマに影響を与え、日本の細やかな心理描写をもとにした小説やコミックが、韓国の監督たちによって、題材として選択されていく。そこに、上海も、台北も、香港も、シンガポールも、きっと、混在してくる。

しばらくは、僕たちがぼんやりとヨーロッパ映画などという形容をするように、アジア映画がひとつの表現手法として、多様なテーマのなかにもある共通の核のようなものをつくっていくのではないか。

2000年以降の韓国映画を見ながら、あるいは「サッド・ムービー」という映画をまったく構えずに淡々と見ている自分に気づきながら、僕はそんなことに思いをめぐらしていたのだった。




 



 



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25 コメント

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トンケの蒼い空 (chikat)
2007-04-29 20:46:53
こんばんは
チョン・ウソンの最高の演技は「トンケ…」ですか。
たしかに「MUD BOY」は諸外国では相当高い評価をうけたようですね。
たしかにちょっと間の抜けた青年は良かったですが、高校生に見えなかったのと、ストーリーに面白みがなかったのが日本で当たらなかった原因かと思いました。
韓国映画は30過ぎても高校生とか無理しますよね。
そこが面白かったりして…(笑)
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TBありがとうございました。 (hyoutan2005)
2007-04-29 22:02:06
お久しぶりです。
「トンケの青い空」、私も好きな作品です。
ウソンさんは、ドラマに出ないせいか、いまひとつ日本での評価が上がらないみたいですが、実力のある俳優だと思っています。
キムタクの映画にビョンホンが出たり、朝の連続ドラマにリュ・シウォンが登場したり、また他のドラマにもヨンさまが出演したりと、最近新しい動きも出てきていますが、ただ視聴率や話題性を高めるだけの目的だけに終わらぬよう、願っています。

日本のコミック「花より男子」が台湾で素晴らしいエンターテインメント作品に生まれ変わったことも、日本のドラマにとっては、良い刺激になったのではないでしょうか。
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chicatさん (kimion20002000)
2007-04-30 04:14:39
こんにちは。
「トンケ」は荒削りで、決して質の高い作品ではないですけどね。なんか、チョン・ウソンの役者魂のようなものをみた想いでした。まあ、日本では、絶対受けないですね(笑)
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hyoutan2005さん (kimion20002000)
2007-04-30 04:17:44
こんにちは。
今度の「フライ・ダディ」も楽しみです。
まあ、腹たつ商業主義でうんざりすることもあるだろうけど、どんどん交流することの方が先だと思いますね。
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TBありがとうございました (sakurai)
2007-04-30 09:25:07
そうですね。ちょっと前じゃ考えられないくらい、普通に韓国映画がかかっているということ。10年前くらいの人が、今にタイムトラベルしたら、ビックリしたりして。
ブームになる前の「春香伝」とか、「西便制」とかもとっても好きでした。味わいがあったなあ。
今は何でも来るので、いいも悪いもごった煮状態ですので、こっちも見る目をきちんと養って行かねばならないのでしょうね。
あたしゃ、この映画はいまいちでした。あんまり人殺すなよ、みたいな。
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sakurai (kimion20002000)
2007-04-30 12:42:45
こんにちは。
10年ぐらい前は、レンタルショップに行っても、韓国なんかの作品は独立したコーナーになってなかったような記憶があります。いmかは、とても玉石混交ではありますけど、邦画もそうだと思えば、いいかな、と。
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TBありがとうございました (サラ)
2007-05-01 23:36:39
韓国映画、よく見られてますね。
ワタシは、紹介されている9本のうち7本だけクリアでした。
劇場で初めて見たのは、「シュリ」でした。
その後、TBSで、深キョンとウォンビンの「フレンズ」を見てから、韓国映画をよく見るようになったんです。

この映画は、洗練されてて、韓国映画も変わってきたな~と思います。
今まで見た韓国映画の中で、一番衝撃を受けたのは、ギドク監督の「悪い男」です。見終わった後、しばらくボーゼンとしてました。
自分から、他のブログさんを訪問する時間がないので、またぜひTBお願いします。
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サラさん (kimion20002000)
2007-05-02 10:56:18
こんにちは。
「悪い男」は衝撃を受けますね。
昨日は、ギドク・マンダラのなか、処女作の「鰐」を観にいってきました。主人公の男優もいっしょだけど、すでに、原型があちこちにあって、面白かったですね。
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こんにちは (韓流スターだーいすき)
2007-05-03 14:21:30
韓流スターかっこい~


韓流スターの情報を集めていて自分でもサイトを作ってしまいました


もしよろしければ遊びに来てみてくださいね
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TBありがとうございました (hoppen)
2007-05-04 22:55:37
韓国映画では、「土地勘」によく遭遇しますよね。
韓国の俳優は、1本の映画に集中するためか、それぞれの役にはまっている方が多くて、
あの映画に出ていたあの人か~!と気づくと、なぜだか、とってもうれしくなってしまいます。
私は2年ほど前から韓国映画を見るようになりましたが、
韓国映画の勢いが衰えることなく、新しい映画も定番の映画も生まれているので、楽しませてもらっています。
この『サッド・ムービー』も、大好きです。
ありがちなラブストーリーですが、音楽と映像に載せて折り重ねていて、さらりと描いているのが、とってもいいな~と思いました。
今年は、韓流ブームの反動か、韓国映画の日本での買い付けが数本に減ってしまったようです。
韓流とは別の次元で、kimion20002000さんのように、韓国映画を楽しんでいる方も多いと思うのですが・・・・。
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