気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

TPPを報道自粛するCNNとフォックス・ニュース

2016年10月02日 | メディア、ジャーナリズム

お久しぶりです。
例によって、今年も夏はダウンして、それからなかなか体調が回復しないままでした。
なので、前回と同様、今回も短い、軽めのコラムで勘弁してもらいます。

原文のタイトルは、
CNN and Fox News Are Finally Covering the TPP After Ignoring It for Two Years
(CNNとフォックス・ニュース、2年間の沈黙を経て、ついにTPPを報じる)

書き手は Zaid Jilani(ゼイド・ジラニ)氏。
今回も、調査報道専門のネット・メディア『The Intercept』(インターセプト)に載った文章です。

原文はこちら↓
https://theintercept.com/2016/08/01/cnn-and-fox-news-are-finally-covering-the-tpp-after-ignoring-it-for-two-years/


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CNN and Fox News Are Finally Covering the TPP After Ignoring It for Two Years
CNNとフォックス・ニュース、2年間の沈黙を経て、ついにTPPを報じる


Zaid Jilani
ゼイド・ジラニ

2016年 8月2日 3:12 a.m.


つい最近までケーブル・ニュース各社は、環太平洋経済連携協定(TPP)について、ほぼだんまりを決め込んでいた。TPPは12ヶ国による協定で、企業と投資家の権利を大幅に拡張するが、その一方で廉価な医薬品の普及、環境、労働者の権利に関してはマイナスに働くと見込まれている。

この報道自粛のせいで、TPPがもたらす事態について米国人は明確な判断を下すことができないでいる。
ニューヨーク・タイムズ紙が2015年の6月に実施した調査では、米国人の78パーセントが、TPPについて「ほとんど」か「まったく」聞いたことがないもしくは読んだことがない、と回答した。

だが、今やTPPが大統領選挙の重大な論点として浮上したおかげで、この報道自粛がついに崩れつつある。

非営利組織の米メディア監視団体『メディア・マターズ・フォー・アメリカ』は、TPP交渉に関するケーブル・ニュース各社の報道を精査した。対象期間は2013年8月1日から2015年1月31日までである。
それによると、TPPが取り上げられたのは、CNNとフォックス・ニュースではたったの1回であった。MSNBCでは73回である。ただし、そのうち、2回を除き、すべては『エド・ショー』という一番組の中での言及である。そして、この番組はもうすでに終了してしまった。

(訳注: 元サイトでは、ここに画像が貼られていて、CNNとフォックス・ニュース、MSNBCの3社のTPP報道回数がグラフの形で示されています)

この1年半におよぶ期間の中では、TPP成立に向けての途上における重要な出来事が起こっている。つまり、参加予定国による数度の交渉会合、および、ウィキリークスによる知的財産権分野のTPP草案の公開である。このウィキリークスの暴露によって、TPPが医薬品普及の可能性をいかに制限するかの一端が明らかになった。

大手ニュース・メディアはいったいどうしてこの重要な国際協定について口をつぐむのだろうか?

その理由は、これら巨大メディア複合企業をいったい誰が所有しているのかという問題に一部帰せられるかもしれない。
たとえば、MSNBCのオーナーであるコムキャスト社はTPP推進のロビー活動をおこなっている。同社は昨年、著名なテレビ司会者のエド・シュルツ(訳注: 上記『エド・ショー』の司会者)を解雇した。同氏は、TPPについて、率直に反対の立場を表明していた。

タイム・ワーナー社もTPP推進のロビー活動を展開しているが、その傘下にはターナー・ブロードキャスティング社があり、CNNを所有しているのはほかならぬこのターナー・ブロードキャスティング社である。
21世紀フォックス社も同様だ。TPP成立を働きかけている同社は、ニューズ・コーポレーション社の分社化により誕生したが、フォックス・ニュースを創始したのは、このニューズ・コーポレーション社であり、現在の運営は21世紀フォックス社が引き継いでいる。

しかし、本『インターセプト』は、TVアイズ社の音声文字化サービスを利用し、2016年の7月だけでも、CNN、フォックス・ニュース、MSNBCがTPPについて455回もふれたことを確認した。上記の『メディア・マターズ・フォー・アメリカ』が調査した1年半の期間全体での数のおよそ6倍である。

(訳注: ここでも、元サイトには画像が貼られていて、『メディア・マターズ・フォー・アメリカ』の調査における1年半のTPP報道回数と2016年7月のそれとがグラフの形で示されています)

この報道回数の増加は、TPP反対のために民主党を結束させようとするバーニー・サンダース氏の造反的な努力やドナルド・トランプ氏のTPPに対する辛辣な攻撃が核となって生まれたものだ。

残念なことに、この突然の注目にもかかわらず、TPPをめぐる報道は大部分がポイントをはずれている。この熾烈な競争が展開されている大統領予備選で、TPPをめぐる発言がいかなる影響をおよぼすかに焦点を置いているのが一般で、協定の中身自体はほとんどふれられていない。そのうえ、主流メディアの大半は、TPPの主旨が貿易促進であるというオバマ政権のタテマエ論をしごくあっさりと受け入れている。

実際のところは、米国とTPP参加予定国との間には、関税その他の貿易障壁はすでにほとんど消滅している。TPPは、要するに、企業の権利や特別待遇を拡大することがねらいである-----なかんずく、大手ケーブル・ニュース局を所有する巨大メディア複合企業のそれを。


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[補足と余談など]

■CNNはリベラル派と目されていましたが、最近は右傾化が進んでいると言われています。また、その理由は、右寄りと定評のあるフォックス・ニュースから視聴者を奪い返すためである、と。

■最後の段落の、
「実際のところは、米国とTPP参加予定国との間には、関税その他の貿易障壁はすでにほとんど消滅している」
について。

この点については、識者の間ですでに常識になっていて、貿易障壁はもうほとんど存在しないのだから、TPPは貿易促進とは関係がないと批判されています。

たとえば、ウィキペディアの「TPP」の解説が参考になります↓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A


■今回の文章を読んで、昔、ある音楽バンドのレコード・アルバムが歌詞に原発批判の内容を含んでいたので、レコード会社から販売中止を求められたという事件を思い出しました。
販売中止を決めたレコード会社は東芝EMI。もちろん、同社は、原発メーカーである東芝の子会社です。

(この件については、以下のウィキペディアの記事を参照。

COVERS (RCサクセションのアルバム)
https://ja.wikipedia.org/wiki/COVERS_(RC%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0))

親会社の意向により子会社が自由な言論を封殺する動きに出る例は昔からめずらしくありませんね。

また、上記のウィキペディアのTPPの解説には、TPPを推進する企業による「TPP推進のための米国企業連合」が紹介されていますが、錚々たるメンバーです。
今回の文章で言及されているタイム・ワーナー社のほかに、たとえば、シティグループ、AT&T、ベクテル、キャタピラー、ボーイング、コカ・コーラ、フェデックス、ヒューレット・パッカード、IBM、インテル、マイクロソフト、オラクル、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ウォルマート、カーギル、モンサント、などなど。
これらの巨大企業は、大手メディアに広告を出してくれる大スポンサーでもあります。
莫大な広告料金を払ってくれるスポンサー様の顔色をうかがうのは当然と言えば当然。直接的な指示はなくとも、スポンサー様に都合の悪い話は報道を自粛する方向にかたむくのも不思議ではありません。



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