気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

ウィキリークスはなぜヒラリーの電子メールを公開したか-----アサンジ氏の声明

2016年11月12日 | メディア、ジャーナリズム

予定を急遽変更して、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏の声明を今回は訳出しました。

なお、ブログの表題はインパクトを考えて(笑)、
「ウィキリークスはなぜヒラリーの電子メールを公開したか」
にしましたが、原文のタイトルは、
Why We Published What We Have on the US Elections
(なぜわれわれは米大統領選に関わる情報を公開したか)
です。


原文の初出は『カウンターパンチ』誌のようですが、私は例によって、オンライン・マガジンの『Znet』(Zネット)誌で読みました。そのサイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/why-we-published-what-we-have-on-the-us-elections/


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Why We Published What We Have on the US Elections
なぜわれわれは米大統領選に関わる情報を公開したか


By Julian Assange
ジュリアン・アサンジ

初出: 『カウンターパンチ』誌
2016年11月9日


ここ数ヶ月、ウィキリークスは、そして個人的に私自身も、大変なプレッシャーにさらされました。ヒラリー・クリントン陣営の内部でのやり取りを暴露しないように、というプレッシャーです。それは、オバマ政権をふくむヒラリー陣営の同志、および、次代の米国大統領に誰がなるかに関して懸念を抱いているリベラル派からのものでした。

投票を目前にした今、所有している情報をわれわれがなぜこのように公開したかをあらためて述べておくべきでしょう。

真正な情報を受領し、それを流布する権利はウィキリークスの要石です。ウィキリークスは、私一個人をはるかに超えた、他のメンバーおよび組織の使命をになっています。ウィキリークスは一般市民の「知らされる権利」を擁護します。

であるからこそ、2016年米国大統領選の結果いかんにかかわらず、真の勝者と呼べるのは、われわれの活動の結果、より多くの情報を提供された米国の一般市民なのです。

彼らは、ウィキリークスが公開した選挙関連の情報に夢中になりました。それは10万点を超える分量でした。何百万もの米国民が目を皿にしてそれを読み、他の人々に引用して伝え、われわれにも反応が返ってきました。これは開放型のジャーナリズムであり、「門番」たち(訳注: おそらく一般メディアのこと)にとっては愉快ではないとしても、しかし、米国憲法修正第一条とは申し分なく調和しています。

ウィキリークスは、もたらされた情報が政治的、外交的、歴史的あるいは倫理的に重要な性質を持ち、かつ、これまで他のメディアでは提供されていなかった場合に、それを公開します。この基準を満たす情報であれば公開します。今回、われわれは、サンダース氏およびヒラリー・クリントン氏の選挙活動に関し、われわれの編集基準にかなう情報を手にしました(米民主党全国委員会関連の電子メール公開の件)。また、ヒラリー・クリントン氏の政治活動とクリントン財団に関する情報も同様の事情でした(ポデスタ氏の電子メール公開の件)。これらの情報の公開が公共的な重要性を持つことについては誰一人異をとなえませんでした。もしウィキリークスが、選挙期間中だからといって、これら入手済みの情報の公開を差し控えたとすれば、言い訳が立たないことになるでしょう。

一方、われわれは、持っていない情報を公開することはできません。これまでのところ、ウィキリークスは、ドナルド・トランプ氏もしくはジル・スタイン女史、ゲーリー・ジョンソン氏、その他いかなる候補者の選挙運動に関しても、上記の編集基準を満たす情報を入手してはいません。これまでクリントン氏の電信を公開し、その電子メールの索引を作成したことから、ウィキリークスはクリントン関連の保存記録のドメインエキスパート(訳注: 対象業務の専門家)と見られています。ですから、クリントン関連の情報がわれわれの元に集まってくるのはごく自然な流れです。

われわれは、われわれの人的・物的資源が可能なかぎり迅速に、一般市民が受け入れられるかぎり迅速に、情報を公開します。

それは、われわれ自身、われわれの情報源、そして一般市民に対するわれわれの債務です。

それは、選挙結果に影響をおよぼしたいという個人的な願望に発しているわけではありません。民主党、共和党の候補者は双方とも内部告発者に対して敵意をあらわにしています。私は、緑の党の候補者であるジル・スタイン女史の選挙運動開始にあたって、一言述べさせていただきました。女史の政策綱領に内部告発者を保護する必要性について言及があったからです。この問題は自分にとっては常に気がかりでした。われわれの情報源の一人とされるチェルシー・マニング氏がオバマ政権によって非人間的で屈辱的な処遇にさらされていたからです。けれども、ウィキリークスの情報公開は、スタイン女史を当選させようとする試みではないし、マニング氏の処遇に対する意趣返しでもありません。

情報の提供こそがわれわれの務めです。情報の提供を選挙が終了するまで控えることは、一般市民の「知る権利」をないがしろにして一人の候補者に恩恵をほどこすことになるでしょう。

それは実際に起こったことです。ニューヨーク・タイムズ紙は、米国民に対する大規模で違法な盗聴活動の証拠を、2004年の大統領選が終了するまで1年間、秘匿しました。当時現職のブッシュ大統領を理解する上で不可欠の情報を一般市民に禁じたのです。おそらくそのおかげで大統領は再選を果たしました。同紙の現編集者は、その当時のような判断を忌避していますが、もっともなことです。

アメリカの一般公衆は言論の自由をひどく熱心に擁護します。けれども、米国憲法修正第一条の生命が持続するのは、それをくり返し援用することによってです。人が自由に意見を言い、情報を提供できる権能を行政府が制限しようとする試みは、修正第一条がはっきりと禁じています。また、修正第一条が、旧来のメディア-----企業広告主のヒモ付きで、時の権力者グループに依存している-----に対して、ウィキリークスのような科学的ジャーナリズム、あるいは、ソーシャル・メディアを通じて自分の友人たちに情報を知らせようとする個人の意思決定などよりももっと恩恵をほどこすということもありません。修正第一条は知識の一般化を臆面もなくはぐくみます。インターネットの登場により、その可能性は最大限に花開きました。

ところが、数週間前、あのマッカーシー上院議員と赤狩りを思い起こさせる術策によって、ウィキリークス、緑の党の候補者スタイン女史、グレン・グリーンウォルド氏、クリントン氏の主な政敵たちは、大きな赤いブラシで塗られました。クリントン陣営は-----いつもは明白な虚偽を広めていますが-----、今回は、匿名の情報源もしくは諜報機関による推測か不得要領の発言を持ち出して、ロシアとの邪悪な結びつきをほのめかしたのです。しかし、クリントン陣営はわれわれの情報公開について何も証拠を提示することができませんでした。なぜなら、そのようなものは存在しないからです。

結局のところ、ここ4ヶ月に渡るわれわれのめざましい仕事を中傷しようとする人々は、一般市民の理解を妨げようとしているのであり、そしておそらくその理由は、それが彼らにとって恥辱だからです。このような理由で言論の自由を抑圧することは、修正第一条が決して許しません。彼らがやれるのは、せいぜいわれわれの公開情報に不正確な点があると主張することぐらいです。

情報の真正性に関するウィキリークスの長年に渡る純白の履歴は、なおも保たれています。われわれの今回の主要な公開情報は、たとえばグーグルのような、それが経由した企業の「暗号化署名」によって、いっそう真正性を保証されています。情報公開がまったく遺漏なく遂行されているかを数学的に証明するなど、頻繁にできることではありません。ですが、今回はそのような例の一つです。

ウィキリークスは、今回の情報公開によって、激しい非難にさらされています-----とりわけ、クリントン支持者から。これまで長い間ウィキリークスを擁護してきた多くの人々は不満をおぼえています。われわれがきちんとしたやり方でこれらの非難に対処しないから、また、ウィキリークスの意図や情報源に関する数々の誤った言説に反駁しないから、です。しかし、結局のところ、もしわれわれが誤った主張のことごとくに対応するとすれば、自分の中核的な活動のためとは別に、人的・物的資源を割かなければならないでしょう。

ウィキリークスが説明責任を負うのは、あらゆる出版者と同様に、究極的には、資金の拠出者です。その拠出者とは皆さんのことです。ウィキリークスの資源はすべて、一般市民からの寄付金およびウィキリークスの刊行書籍売り上げによってまかなわれています。このおかげで、われわれは、他の大手メディア機関には真似できないような、初志一貫した、独立的で、自由な動きができるのです。ですが、それはまた、われわれがCNNやMSNBC、クリントン陣営のような人的・物的資源にめぐまれていないということでもあります。したがって、あらゆる機会をとらえて批判に対処することはできません。

しかし、かりにメディアが、一般市民に情報を提供すること以外の、さまざまな思わくにしたがうとすれば、われわれとしてはもはや言論の自由についてくどくど述べ立てようとは思いません。また、市民が情報をあたえられることの重要性についてもうんぬんする気はしません。

ウィキリークスは、一般市民を啓発する情報を提供することになお真剣に取り組んでいます。たとえ、多くの人々、とりわけ権力者がそれを目にするのを好まないとしても。ウィキリークスは情報を公開しなければなりません。その結果、どんなことを言われようとも、です。


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[補足など]
拙速の翻訳です。誤訳その他問題点があれば指摘をお願い致します。



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