東京 DOWNTOWN STREET 1980's

東京ダウンタウンストリート1980's
1980年代初頭に撮影した東京の町並み、そして消え去った過去へと思いを馳せる。

北区王子、十条、赤羽を歩く

2012-12-19 20:29:21 | 北区
北区の王子辺りから石神井川の北側の十条台、さらに北上して埼京線の十条駅付近、その西側の十条銀座商店街、環七を越えて稲付、赤羽台という地域は歩いてみると、中々面白い。うちから近いこともあるのだが、何度も歩いているとその魅力に気が付いてきた。

この武蔵野台地の外れに当たる地域は、近世の歩みで見ると江戸郊外の農村であったところだが、人が暮らし始めた歴史は非常に古く、旧石器時代からの遺跡があるらしい。この崖線の延長線上には、上中里駅近くの豊島郡衙跡もあって、これは七世紀中頃まで辿れるかもしれないという、一般に歴史が浅いと言われる関東の中では、かなり古い年代からの蓄積を感じさせるところでもある。
その後は、豊島氏の支配した時代があり、上杉支配下の太田道灌の時代があり、その後に徳川家康によって江戸が大規模開発されていくことになり、今日の東京への道が開かれていく。

各時代の遺跡もあり、恐らくは太古の時代からの道筋であった岩槻街道が崖線沿いを走っている。この道は、日光御成道ともいう。将軍家が日光参拝の際に通行する道筋であった。街道の面影もどことなく残っているところも、見所の一つ。

そして、明治維新以後になると、板橋や滝野川についてのエントリで触れてきたように、陸軍の軍需工場ができる。最初は板橋の旧加賀藩下屋敷跡に火薬製造所が出来た所から始まり、現在の東京ドームのところにあった砲兵工廠が移転するに辺り、一部がこの地へとやって来た。既存の工場とも連携し、さらには王子駅東側にも工場が設けられ、赤羽台にも弾薬庫が作られたり、被服敞が両国横網町から移転してきたりと、長閑な農村は一転して陸軍の施設によって発展していくことになった。

そして、関東大震災後には旧市街から溢れた人々のための住宅地としての開発が行われていき、それまでは茶畑であったところや、水の流れで台地の端が浸食されて谷合の景勝地になっていたところが、いつしか宅地化されていった。その足跡は今でも辿りやすい面があって、これも面白い。

そんな興味から、しばらく王子、十条、赤羽台を歩き回りながら、色々な視点で見ていこうと思う。街道筋の景色、農村の面影、巨大軍需工場の痕跡、新興住宅地の八十年後などなど、色々と切り口が豊富なところが面白い。都心部の旧市街が文学や落語や文化的な豊かさを持ち得ているとするのなら、このエリアの面白さはそれぞれの痕跡が今に至っても感じ取れる位には残されているところと言えるように思う。

まずは、北区の刊行した「北区の古い道とみちしるべ」に掲載されていた地図を見て頂こうと思う。これは明治の頃の地図をベースに書き込みをされているもので、太い赤線が中山道である。細い赤線は日光御成道、岩槻街道になる。荒川放水路はまだ存在していない時代の地図で、隅田川を青く塗ってみた。黒の実線で書かれているのが、古くからの道筋と云うことになる。以前、「豊島郡衙への道を歩く」というエントリを書いたことがあり、その時に調べた資料だが、改めて見てみると面白い。こうしてみると、中山道に平行して岩槻街道が走り、その間を結ぶ道筋が伸びている。岩槻街道は台地の端に近いところの尾根筋を行く道で、この道の東側は隅田川の氾濫原と云うことになる。荒川放水路が開削されるまでは、この川に近い低地は度々の水害に見舞われてきた歴史を持つところでもある。


近代のこの地域の発展に大きな影響を及ぼしたのが、陸軍の造兵敞である。当初は、板橋区内の加賀藩下屋敷跡に板橋火薬製造所が作られたのを皮切りに、数々の軍需工場が建設されていき、そこで働く人々のための町として周辺は大きく発展していくことになった。それまでは、十条周辺でも茶畑などがあって、その栽培が盛んに行われていたそうだが、畑を潰して貸家を建てるようになっていき、農業は廃れていった。まずは、台地上のエリアを歩き回っているのだが、この周辺地域でどれほどの規模の軍需工場があったのか、地図上で示してみた。道路や鉄道は現在の地図によるが、赤く塗ったところが軍需工場と軍関係の施設があったところで、これだけのエリアの中で広大な面積を占めていることが分かる。これでも、赤羽台の被服敞などは含まれていない。


現在の町を歩きながら、その町の過去を振り返って重ねていくと言うことで、この辺りの面白さを伝えられればと思っている。次回より、北区を巡っていく。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東京・遠く近きを読む(30... | トップ | 開通50周年記念 首都高展 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

北区」カテゴリの最新記事