トーマス・ハンプソンのCDに収録されている曲、特にシューマンの歌曲にあらためて刺さっていたところですが、大部前にネット数版最大手のサイトから注文していたCDが海の向こうから届きました。フランス六人組の一人、ダリウス・ミヨーの「歌曲集(悲しみ)」です。全43曲と収録曲数が多いですが、言い換えれば1曲の演奏時間が短いとも言えます。第1曲目は「Prelude」とのタイトルがあるだけで1分45秒の演奏時間の半分ぐらいはピアノの前奏です。これが昨日紹介したシューマンの作品40「母親の夢」と曲想が良く似ています。シューマンの「母親の夢」の方は、ピアノパートの右手はアルペジオを左手はオブリガートをそれぞれ単音で弾いていますが、ミヨーの「Prelude」は右手が重音を弾きつつアルペジオを進行させています。
ペトルッチ(IMSLP)のサイトでミヨーの公開されている楽譜を探してみました。声楽曲らしい作品は全て開いてみましたが、「Prelude」という作品は見当たりませんでした。ネット最大手の動画サイトで検索しても、{Milhaud}×{Prelude}ではヒットしませんでした。と言うことで紹介しておきながらミヨーの「Prelude」を聴いていただくには「Milhaud Melodies Tristesses」というCDを購入していただくしかないようです。このCDは全曲バリトンのJean-Francois Gardeil の歌唱によるもので、甲高い声を好まないフランス人好みの柔らかく倍音に溢れた男声中・低声で、アヴァンギャルドなミヨーの歌曲を耳障り良く聴衆に届けてくれます。ベル・エポック以降のフランス歌曲が嫌いでない方には購入しても決して後悔しないとお奨めできるアルバムです。
ミヨーとシューマンとを比較すると、間違いなく共通する何かがあります。ただしシューマンはやはりロマン派音楽の範疇にいながらロマン派音楽の限界を越えようとしていたという印象ですが、ミヨーは既にロマン派の枠組みから逸脱しているとは言えるでしょう。しかしそのミヨーであっても、少なくともこのCDに収録された範囲では、ロマン派音楽を否定することを第一義に置いていた訳ではなく、ロマン派音楽の技法とは本質的に異なる技法でロマン派音楽に繋がる完成度を追求していたように思います。
暫くはトーマス・ハンプソンのCDが教えてくれたシューマンの歌曲の世界と、Jean-Francois Gardeil が教えてくれたミヨーの歌曲の世界について、その共通点と相違点等に思いをはせつつ、特にミヨーの作品の楽譜が入手できるかどうか、種々検討していこうと思っています。