「自分に正直に生きたい」 介護の仕事と出会った日 「ルポ」LGBTの就職活動
2016年4月7日 (木)配信共同通信社
同性愛や性同一性障害といったLGBT(性的少数者)への差別をなくすための取り組みが共感を呼んでいる。関心が高まる一方、身近に当事者がいない人にとっては、彼や彼女が直面している「生きづらさ」を深く理解する機会は少ない。「社会に出よう」とする当事者の若者と、人手不足の介護事業者を結ぶ就職イベントをのぞいた。
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3月中旬、東京・渋谷の表通りに面するビルの貸会議室。ずらっと並んだテーブルを挟み、求人側の介護施設の人事担当者らと、約60人の若者らが向かい合って座る。緊張した様子もみえるが、話は弾んでいるようだ。
短髪がよく似合う瑞希(みずき)さん(31)=仮名=に、面談が一区切りしたところで声を掛けた。身体と心の性が異なるトランスジェンダー。普段は宇都宮市の会社で、紺のベストとスカートの制服姿で事務をしている。「本当は嫌なんですけど、割り切っています」。職場には自分のセクシュアリティーを明かしていない。
友人から結婚の便りが届き出した30歳を境に「生き方を変えよう」と決意した。性別適合手術を受けて年内に今の仕事を辞め、ホルモン治療をしながら男性として受け入れてくれる新しい職場を見つけるつもりだ。
高校時代に付き合った彼女と、改めて交際している。戸籍を「男」に変更したら結婚し、子どもをもうけて家庭を築きたい。「どっちつかずでいたくない。自分に正直に生きたいんです」
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「ゲイを受け入れてくれる会社を探しても、なかなか情報が表に出ない」。東京都町田市の専門学校生翔太(しょうた)さん(20)=同=は浮かない表情だ。
卒業を控えた友人は就活に走り回るが「波に乗れないんです」と自信なさげ。進路相談の先生にゲイであると打ち明けると、理解は示してくれたものの「手助けは難しい」と言われてしまった。
将来はグラフィックデザインの技能を生かし広告業界で働くのが夢だ。ただ、社会に出る最初の一歩を、「素」の自分を隠して踏み出したくはない。「どうすればいいのか...分からない」
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介護業界の人手不足は深刻だ。低賃金と過酷な勤務が嫌われ、雇ってもすぐ辞める「自転車操業」が常態化している。東京の「マイルドハート高円寺」の担当者に聞くと、運営する施設スタッフ100人弱のうち勤続1年を超えるのは60人ほど。どの事業者も人材獲得に目の色を変えている。
瑞希さんは二つの事業者から職場環境などの説明を受け、介護職のイメージが変わった。「努力次第で務まるかも。受け入れてくれる働き先があるならと前向きな気持ちになれた」。翔太さんは「とても親身になって話を聞いてくれた。LGBTに理解のある業界がどんどん広がってほしい」
社会的な役割が正当に評価されていない介護の仕事と、能力を十分に発揮できていない若者たち。"出会い"の行方に何があるのか、これからも見守っていきたいと思いながら会場を離れた。