歌舞伎蔵(かぶきぐら)

歌舞伎を題材にした小説、歴史的時代背景を主に、観劇記録、読書ノート、随想などを適宜、掲載する。

麦秋18

2020-06-11 13:07:05 | 時雨傘

「それはそうと、もうひとつ話がある。お俊坊の兄者から手紙が参った」
 三次のお役は探索ゆえ、やむを得ぬが、お俊坊も三次を亭主にするなら覚悟しておかねばなりませぬぞ」
「そうだすか・・・けど、兄さんはお尋ね者なんかとちゃいます」
「手紙には居場所も名も書いてはおらん。ただ「ちもり」と奥付にある。「ちもり」というのは代筆した男、いや女かもしれぬが、その名ではないかな?名も明かせぬぐらい警戒しておる」
「やっぱり兄者は・・・」お俊の顔が曇った。
「そうよのう」正三も正朔もそれ以上、言うことはできない。この先、どのような展開になるか、このまま何事もなく兄が大坂に戻って来ることができるか、確かなことは今は何一つない。
「そうよのう」正朔がまた、つぶやいた。
「親方、ちがうと言うんだすか?やっぱ兄さんは何か悪事を働いて逃げてると思うてはるんだすか?」
「そんなことない、が、そなたの兄者と話ができれば、何かが分かるかもしれん」
「何かって何だす?お二人の心中に何か隠れたことでもあるんだすか?」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿