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アメリカ合衆国憲法前文の「people」を補助線にして「国民」と「人民」の意味を考える

2024年05月13日 19時24分09秒 | 英米法の英語

⤴️ブログ冒頭の画像:記事内容と関係なさそうな「美人さん系」が少なくないことの理由はなんだろう?

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/c566c210ad11db94fc1d87a5fddcf58e

 

 

The Constitution of the United States of America

Preamble to the United States Constitution

We the People of the United States, in Order to form a more perfect Union, establish Justice, insure domestic Tranquility, provide for the common defence, promote the general Welfare, and secure the Blessings of Liberty to ourselves and our Posterity, do ordain and establish this Constitution for the United States of America.

(1787年9月17日, アメリカ合衆国憲法前文, 強調はKABUによるもの)

前文

われわれ合衆国人民は、より完全な結合体(Union)を形成すること、正義に基づく法秩序を樹立すること、国内の平穏を確保すること、共同の防衛に備えること、一般的福祉を促進すること、そして、われわれ自身とその子孫に自由の恵沢を確保することを目的として、アメリカ合衆国のため、ここにこの憲法を制定し、かつこれを確立する。

(松井茂記「アメリカ憲法入門第8版」の訳による)

https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2540/

 

今年は四年に一度の閏年(a leap year)。ということは、これまた四年に一度のオリンピックとアメリカ大統領選挙の年。そうなると、日本のTVのワイドショーとかでは「識者」さんたちが、ーー例えば、①「アメリカ大統領選挙では【ネバダ州とメイン州を除けばですけれども】人口比で各州に割り当てられた大統領選挙人数を州の選挙人選出投票で1票でも多く獲得した共和党(赤)か民主党(青)の二大政党の大統領候補が総取りする」とか、②「大統領選挙と同時に行われる連邦議会議員選挙では下院は人口比で各州に議席が割りあたえられているものの【100人の上院議員の1/3が2年おきに改選される】上院は州の人口に関わらず各州から2名選出されるとか、いやはや民主主義からみたらいびつなイベントが繰り返されるのですよ」とか述べられたりして、ーーアメリカ合衆国が*「連邦制の国」であることを理解されていないことがこれまた四年に一度露呈するのでしょうか。もしそうなるようなら「識者」さんってなんなんでしょうかね? 🤷‍♀️🤷

而して、本稿は、しかし、「大統領選挙」自体には触れず、表題の通り「アメリカ合衆国憲法前文の「people」を補助線にして日本語の「国民」と「人民」の意味をその無意味さを考えてみた随想記事です。ポイントは、それらは互いに翻訳不可能に近いということ。ただし、この本編の主張に加えて余談的に「翻訳することの面白さと難しさ」について触れたいと思います。

 

*注:アメリカ合衆国は三段階の「革命」を経て

 現在の「連邦制国民国家」に至った。すなわち、

 🐙第一の革命:北米英領13ヵ国が英国から集団脱走して独立 (1776/1777年 - 1781年)

 🐙第二の革命:旧北米英領13ヵ国が単一の連邦制国家に団結 (1788 - 1789年)

 🐙第三の革命:南北戦争を経て➡️連邦国家が国民国家に変態 (1865年)

 

 前二者の主役は初代ワシントン~第七代ジャクソン(将軍)大統領

 第三の革命の主役が第十六代リンカーン大統領

1️⃣アメリカ合衆国政府成立時点、大西洋横断に平均往18日から復40日かかった時代(天候に恵まれず、メイ・フラワー号は66日😢)、1789年の①人口が(英国・フランス・日本の各々、900万人, 2800万人, 3200万人に対して)僅か280万人のときに、②対英独立という共通の目的が一応達成した段階(1783年)以降は、まして、独立によって英国から割譲を受けたアパラチア山脈以西、スペインーフランス領ルイジアナに至る新天地(↖️ネーティブアメリカンの人びとが住んでおられたんですけど❗️)の領有を巡っては利害の対立もあり、現在のEUよりも遥かに希薄な提携関係にあったーー現在のASEAN、または、WTO(世界貿易機関)協定加盟国であること、あるいは、寧ろ、ハンザ同盟に近くさえあったーー13諸国を、現在のEUよりも強固な「一つの連邦国家」にまとめあげた初代ワシントン~第七代ジャクソン(将軍)大統領(1789年~1837年)の指導力

United States of America は「合衆国」か「合州国」か 

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/0a8d56362d8776e8555e35e4fe83a0ac

書評予告・阿川尚之「憲法改正とは何かーアメリカ改憲史から考える」

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/7eddb6f57b93ed69fbecdd5f75d06f2a

2️⃣幾つかの偶然が重ならなければ「南北戦争」(1861年 - 1865年)自体も起こらず合衆国は二つか三つの連邦国家に分裂することもありえた状況を、憲法違反の連打も敢えてじさず合衆国の統一を維持。もって、アメリカ合衆国を現在のドイツの如き「連邦制の国民国家」にバージョンアップした第十六代リンカーン大統領の入神の指導力。その時、アメリカの人口は日本とほぼ同じ3500万人。ちなみに、英国は大ブリテン島のみで2100万人。大西洋横断は平均15日 - 20日間。

 

アメリカ合衆国憲法の「前文:Preamble」の冒頭の「We the People of the United States」の「the people」はこれから旧北米英領13ヵ国の「有権者たる人々」から承認を受けて批准される憲法案を起草確定した旨を述べているのだから(cf. 同憲法7条:The ratification of the Conventions of nine States, shall be sufficient for the Establishment of this Constitution between the States so ratifying the same., この憲法は9つの邦【国】の憲法【批准 - 制定の】会議で批准された場合に、その批准を行った諸邦【国】の間で確定され効力を発する↖️松井訳引用)、まだこの世に姿形のない「アメリカ合衆国の」人々なり国民なり人民などではなくて、

①独立戦争を戦うために13ヵ国が結んだ同盟条約(Articles of Confederation and Perpetual Union, 連合規約)の加盟国の総称に過ぎない「United States of America」の、②その加盟国個々の人々なり国民なり人民でもない、それらを全体としてみた集合名詞の「people」です。よって、

③この「the United States」もまたーーそれは「the United Nations」が「連合国」でもあり「国連」でもあるように、たまたま、あるいは、アメリカ合衆国憲法起草者の故意によるものか同じ単語列であるにせよーー「前文:Preamble」末尾の「this Constitution for the United States of America」という、これからできるかもしれない「アメリカ合衆国」ではなくて、それは連合規約にいう連合規約加盟国の総称なのです。

 

🍓Articles of Confederation and Perpetual Union:連合規約🍓

Article I. The Stile of this confederacy shall be, “The United States of America.”

Article II. Each state retains its sovereignty, freedom and independence, and every Power, Jurisdiction and right, which is not by this confederation expressly delegated to the United States, in Congress assembled.【↖️関係代名詞「which」の先行詞は「every Power, Jurisdiction and right」だけですよ。「its sovereignty, freedom and independence」の後ろの「,」と「and」はだてに書かれてないのです

(1条:この連合のありさまは「The United States of America」と表象されるものとする

 2条:各国は、その主権、自由、独立を保持し、また、大陸会議において合意されたこの連合によって the United Statesに明示的に委任されていないすべての各国内の統治権限、管轄権および権利を保持するものとする)

⤴️KABU訳, 強調はKABUによるもの

(連合および永遠の連合規約)

https://www.archives.gov/milestone-documents/articles-of-confederation

🍓英文読解 one パラ道場:英語教材として読む安倍談話-余滴-「法と国家」の語源譚的随想🍓

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/b3932ae40ff9b6555e2bb21f7f7286c8

 

*注:集合名詞:Collective Nouns
(1) 可算名詞としての集合名詞
ーfamily タイプ
①(集合体をひとまとめにして考える場合には単数扱い)
↖️よって、集合体が複数の場合には複数扱い
②(集合体の個々の構成要素を意識するときは複数扱い)
↖️このケースを「Noun of Multitude:衆多名詞」と呼びます
Our class is a small one. うちらのホームルームクラスはこじんまりしてます
There are forty-eight classes in our school. うちの学校には48学級あります
Our class are all nice  and healthy.  うちのクラスはみんな大変健康です
 
ー police タイプ (常に複数扱い)
Police are looking into the case. 警察はその事案を捜査中。
The police have started investigating the people involved.警察が事件関係者の調査を開始した
 
(2) 不可算名詞としての集合名詞
要は、物質名詞 (furniture, jewellery)あるいは抽象名詞 (scenery, clothing)類似の集合名詞
They have much furniture. 彼等は家具をたくさん持っている
A settee is a piece of furniture. ソファーは家具の一種です
 
(注意1) fish↖️family タイプながら単数複数が同形
Shimanto River is rich in fish. 四万十川は魚影濃厚
We caught forty-eight fish yesterday. 昨日の戦果は48匹
The aquarium keeps various fishes. その水族館にはいろいろな種類の魚がいる
 
(注意2) people
ー「人びと」の意味では family タイプの、かつ、常に複数扱いの②の衆多名詞
この意味の「people」はーー語源的にではなく用法的にーー「person」の複数形なのです
ー「国民」「民族」「部族」「ある宗教の信徒さんたち」の意味では可算の普通名詞
 
Forty-eight people were injured in the accident. 48人が事故で負傷
Many Japanese people eat raw fish. 魚を生でいただく日本人も少なくありません
The Taiwanese are a polite people. 台湾の人びとは礼儀正しい国民です
The European peoples are closely connected with one another. 欧州の諸国民は互いに密接な関係にある
 
(注意3) the +国名・ 地名固有形容詞(/+s)=国民・地域民全体を表す複数名詞♥️
the Taiwanese, the Japanese, the English, the British, the Irish, the French, the Chinese, the Spanish, 
the Germans, the Greeks, the  Americans, the Russians, the Scots, the Italians, the Swiss, the Turks
(台湾国民, 日本国民, イングランド人, 英国民, アイルランド国民, フランス国民, 支那国民, スペイン国民,
 ドイツ国民, ギリシア国民, アメリカ国民, ロシア国民, スコットランド人, イタリア国民, スイス国民, トルコ国民)
 
The British are a conservative people. 英国の人びとは保守主義を奉ずるまっとうな国民です
The Taiwanese are a polite people. 台湾の人びとは礼儀正しい国民です(↖️再録❗️)
要は、この表現は「the +国名・ 地名固有形容詞+people」の「people」が省略されているのです。
⤴️ ⤴️ ⤴️
ちなみに、個々の国民(単数・複数)を表す英単語は、
a Japanese - Japanese, a Chinese - Chinese, an American - Americans, a Russian - Russians, a Turk - Turks, 
an Englishman - Englishmen, a British person - some British people(🔺persons), a Swiss - Swiss,
a Spaniard - Spaniards, a Frenchman - Frenchmen, a Irishman - Irishmen, a German - Germans
⤴️ ⤴️ ⤴️
加之、法的とか正式に「ある国の国籍保有者/有権者」という場合には、
a Japanese national, Japanese nationals (日本人) the citizen of Japan (有権者たる日本国民)
the nation (政治的な全体としての国民↖️familyタイプの語彙、但し、「民族・部族」の意味もあります)
 
 
 
(注意4) 人間・人なるもの・男

「man」の意味

① man (不可算名詞:人間・人類・男性)

② men (可算名詞:人々・男たち)

③ a man (可算名詞:不特定か任意の人または男、一般に人間)

④ the man / the men (可算名詞:特定のその人や男 / 特定のその人たちや男たち)

cf. ①Man is mortal.人はいつか死ぬものです。

②men and women 男と女,  All men must die. (すべての)人は死を免れない.  

 
*名詞の「冠詞」の付け外しに関しては⤵️この記事末尾の「おまけコラム」をご参照ください

「食事」と「料理」で英語名詞の性質と役割分担を考える

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/56aaad6b64fecdd660ace8ae0904fda6

 

こうして制定されたアメリカ合衆国憲法とこの世に出現したアメリカ合衆国はそれ自体、直接その「people」を抱える「中央政府」ではなくて、【1】外交と貿易と安全保障、【2】各州間の経済活動の調整と方向性と政策の推奨、【3】連邦全体で共有されるべき憲法的の市民的権利に関する準拠枠の維持確保のみを行う、制限列挙式の限られた権限しか持たない単なる政治的と行政的の制度に過ぎないのです。

逆に言えば、アメリカにおける連邦政府と州の関係は日本の「中央政府と都道府県」の関係ではなくて、ーー都道府県の日本国民を中央と地方の政府が重層的に統治する/ケアする日本とは金輪際違ってーー極論すればアメリカには「Police Power:当該管轄領域(within the jurisdiction)の社会に福祉と安寧秩序を提供する義務と統治権限」を帯びるものは州政府のみなのです

こう見てくれば、アメリカ大統領選挙における「選挙人総取り方式」なり「人口比無視の各州連邦上院議員数」が別に不思議とは必ずしも言えないことが識者さんにも理解いただける、鴨。

州の主権をーー憲法起草時にフェデラリスト側がした約束を反古にして、「the various states had formed themselves into a single nation for national purposes, Georgia had relinquished her sovereignty so far as her relations to the Union were concerned., アメリカ合衆国の連邦を構成する個々の州はかってその各々のもくろみと目的のために単一の国家に自己を組み入れたのだから、連邦と関わる案件に関する限り【被上告人の】ジョージア州は自己の主権をすでに放棄しているのであります」と強弁してーー侵害した Chisholm vs. Georgia(1793)の連邦最高裁判決に対して同判決を無効にする憲法修正11条が速攻で成立発効(1798)した理由もご理解いただける、鴨。無理かな?

 

取り扱い注意❗ 混ぜるな危険? ❤アメリカ合衆国憲法❤の目次的紹介(↖海馬之玄関ブログ内限定)

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/c4ebce035be3e025d326ba8924485f33

 

 

さて、本稿の主張の結論に入ります。

要は、「people」に「国民」や「人民」や「人々」という語義があるのでなくて、「people」をそれらに訳しているのは、あくまでも、日本語母語話者のする「説明的日本語訳」に過ぎないということ。

定義集-「国家」

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/11e73438ed3c960be96ce179877bd1a7

定義の定義-戦後民主主義と国粋馬鹿右翼を葬る保守主義の定義論-
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/0fb85611be79e7a89d274a907c2c51ac

そして、少なくとも英米法制史や憲法論のテクストに関しては、日本語の「国民」「人民」「人々」に明瞭な意味があるとは思えないことです。まして、「民主主義」や「人権」や「法の支配」なるものにおいておや。

このことは、例えば、ネットで見かけた事例で説明させていただくと、


>「雑煮」って英語でて言うのでしょうか?

https://nativecamp.net/blog/20231230-ozoni_

 

日本固有の言葉なため、人によって表現はさまざまです。

今回は、簡単な言い回しとして2つご紹介します。

 

A Japanese traditional New Year’s soup dish

A Japanese soup dish for New Year


 

 

わかりますか? 「A Japanese traditional New Year’s soup dish」も「A Japanese soup dish for New Year」もアメリカ人やイギリス人が日頃から「雑煮」をそう言っているのではなくて、日本語母語話者のあなたがアメリカ人やイギリス人に「雑煮」とは何かを説明するために使った英単語列なのです。

🍎ネットで見かける「食パンは英語でなんと言う?」類いの記事

↖️面白いけどちょびっと迷惑かも

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/5fc098f9884e1ac07f0c697584644f81

而して、アメリカ合衆国憲法とかアメリカ独立宣言とか読んでいるときに「people」を機械的に「国民」「人民」「人々」と理解していては、実は、なにも理解できていないかもしれないのです。拳拳服膺。異文化理解は、蓋し難しい。けれど、だからこそ面白い。わたしはそう思っています。

おそまつさまでした。

 

🍎関西弁はなぜ強靭なのか? 

世界の共通語としての英語の現状を理解する補助線として+改訂あり

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/b6b246bc05470fe6bdf3a504544172aa

 

以上

 

今日も朝ごはん食べて英語頑張りましょう❗️


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