ホリスティックな学びとケアへの誘い

あらゆるひと・もの・こととのつながりとつりあい、つつみこみ、つぎ/つづけられるでしょうか❤️

波からの問いかけと応答

2014年06月27日 | ホリスティック教育研究

波からの問いかけと応答

寺澤満春

 波は風と潮の流れに乗ってやって来る

 きょうも静かな浜や岬に

 寄せては引いてのくり返し

 波はときに地の震えとともにやって来る

 あの波は「ひと」「もの」「こと」のすべてを呑み込んだ

 あの波につながりかかわる人々の数知れぬ記憶をも呑み込んだ


   この「波」はいったいどこから来るのだろう

 この「波」は十年ごとにやって来る

 この「波」につなががりかかわる人々の数知れぬ記憶をたぐり寄せ、

 今ここで、この「波」とは何か、と問いかける

 どこから来て、どこへゆく「波」なのか、

 喜びは、この「波」超える新たな「波」になれるのか、

 今ここで、この「波」のもたらす問いへの応答、試みる

 

 日本ホリスティック教育協会は、二〇〇〇年三月から二〇一〇年三月まで刊行を続けてきたホリスティック教育ライブラリー全十巻+別冊をもって、ライブラリー・シリーズにピリオドを打ちました。

 しかし、二〇一一年、Post3.11の教育・社会は、東日本大震災・原発問題をはじめ、国内外の政治・経済・社会・文化をめぐる混迷・混沌の中にあり、また、我が国は他国に先駆けて前人未踏の少子高齢化が進み、超高齢人口減少社会を迎え、益々ホリスティック教育への期待が高まる状況が生まれつつあります。

そのような状況のもとで、まさに今まで以上に実践と研究とをつなぐ試みとしてホリスティック教育叢書を刊行することにいたしました。あらゆる立場や異なる世代の人々が手に取りやすく、広く読まれることをめざし、ブックレット・スタイルを採用することにいたしました。

そして、「ホリスティック教育叢書1」として『「いじめ」を超える実践を求めて:ホリスティックなアプローチの可能性』をせせらぎ出版より刊行することになりました。

 幾度となく押し寄せてきたこの「いじめ」という名の波。

 一九八〇年代から「いじめ」や「不登校」が社会問題化しはじめ、一九九六年三月、季刊誌『季刊ホリスティック教育』(創刊準備0号から第15号まで全16号)が刊行され、同年四月には『喜びはいじめを超える:ホリスティックとアドラーの合流』(春秋社)を世に問い、一九九七年六月、日本ホリスティック教育協会が発足されました。

 そして、持続可能な開発のための教育ESDの10年が始まる二〇〇〇年代半ばには、「いじめ」自殺・予告が問題になり、二〇一一年三月一一日、東日本大震災と原発事故が起こりました。まさにPost3.11、文字通りESDが求められる中、「いじめ」による「自殺」や「体罰」、子どもの「貧困」がマスコミを賑わし、二〇一三年六月二八日には「いじめ防止対策推進法」が制定されました。

 教育と政治・経済・社会・文化とが連動する現在、わたくしたちは、「いじめ」とそれにつながりかかわる教育的社会的な課題にどう向き合うのか、一九九〇年代の半ばに「喜びはいじめを超える」という概念を共有し始めましたが、果たして今もそれは有効なのか、ホリスティックなアプローチの可能性はどこにあるのかという問いかけに応答したいと考えました。

 本書の主な構成は、以下のとおりです。

一章   「いじめ」を超えるためのホリスティックなアプローチ

 この章では、現在、小学校に勤務する教員と学校司書、元中学校教員・現大学教員によって具体的な学校現場で行われた「いじめ」を超える実践とホリスティックなアプローチの可能性について述べられています。小学校の教室、中学校の学級・学年における取り組みだけではなく、学校図書館という本来ホリスティックな空間における実践を取り上げました。

二章    ホリスティックなアプローチの理論と方法

 この章では、長年、日本のホリスティック教育研究をリードして来た研究者の二人が、わが国の「いじめ」とそれに対する取り組みや実践について、国際的な視野に立った理論的、哲学的な意味づけ行い、クリティカルな視点や発想の転換を呼びかけています。深い喜びが「いじめ」を超える可能性、集団意識から「独り」になることの意味、「師」となる存在との出会いについて述べています。

三章   教師のライフヒストリーの中の「いじめ」:ホリスティックなアプローチへの道

 この章は、一九七〇年代末から二〇〇〇年代初頭を中学校教員として過ごした「ライフヒストリー」に投影された「いじめ」を中心に、光と陰とその狭間の中でいかにホリスティックなアプローチへの道に向かったのか、「オートエスノグラフィー」(自らの記憶と多様な記録をもとに自らの実践を自らのメタ認知=主観の主観による客観化を通して意味づけていく質的研究法)を試みました。

 以上のように、本書『「いじめ」を超える実践を求めて:ホリスティックなアプローチの可能性』では、実践者と研究者とがそれぞれの専門性をもとに執筆し合い、また、実践と研究とをつなぐ新しい方法(ライフヒストリーやエスノグラフィーなど)を試みた書籍となりました。

 本書が、立場や世代、専門性を超えて広く多くの方々に読んでいただけることを切望してやみません。

 なお、本書刊行まで粘り強く執筆・編集作業を支えてくださったせせらぎ出版のみなさん、とりわけ原知子さんに心より感謝の気持ちをお伝えしたと思います。

 

      二〇一三年八月八日 広島・長崎被爆の日の狭間にて

 

編著者 日本ホリスティック教育協会 成田喜一郎・西田千寿子


日本ホリスティック教育協会 成田喜一郎・西田千寿子編『いじめを超える実践を求めて:ホリスティックなアプローチの可能性』せせらぎ出版 http://www.seseragi-s.com/shopping/?pid=1380594763-762628